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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

政府開発援助の実施に当たり、技術の進展等の早い分野で事業の遅延等が生ずる場合、事業実施期間中において当該事業が置かれている状況を確認して、事業実施上の条件の見直しなどの対応を検討するなどして、援助の効果が十分に発現されるなどするよう意見を表示したもの


会計名及び科目
(1) 独立行政法人国際協力機構 有償資金協力勘定(平成20年9月30日以前は国際協力銀行 海外経済協力勘定)
(2) 一般会計 (組織)外務本省 (項)経済協力費
独立行政法人国際協力機構 一般勘定
部局等
(1) 独立行政法人国際協力機構(平成20年9月30日以前は国際協力銀行)
(2) 外務本省、独立行政法人国際協力機構
政府開発援助の内容
(1) 有償資金協力
(2) 無償資金協力
検査及び調査対象とした事業数並びにこれらの事業に係る貸付実行累計額又は贈与額計
(1) 15事業 2524億1642万余円(平成16年度~令和5年度)
(2) 131事業  704億4139万余円(平成17年度~令和5年度)
計  146事業
援助の効果が十分に発現していないと認められる事業数及び貸付実行累計額又は贈与額計
(1) 1事業 29億7355万円(背景金額)
(平成18~28年度)

(2) 4事業 11億5496万円(背景金額)
(平成17年度、20年度、26年度、令和元年度)
贈与額の一部が事業完了後も長期間滞留していた事業数及び贈与額計
(2) 39事業 4900万円
(平成30年度~令和3年度)

【意見を表示したものの全文】

政府開発援助の実施状況について

(令和6年10月23日付け 外務大臣独立行政法人国際協力機構理事長宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 政府開発援助の概要

開発協力大綱(令和5年6月閣議決定)によれば、我が国は、開発途上国との対等なパートナーシップに基づき、開発途上国の開発課題や人類共通の地球規模課題の解決に共に対処し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の下、平和で安定し、繁栄した国際社会の形成に一層積極的に貢献することなどを目的として、開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動を一層戦略的、効果的かつ持続的に実施していくこととされている。そして、政府開発援助について、その他公的資金や民間資金との連携を強化し、開発のための相乗効果を高めていくこととされている。

外務省は、援助政策の企画立案や政策全体の調整等を実施するとともに、自らも、無償の資金供与による協力(以下「無償資金協力」という。)等を実施している。また、独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)は、無償資金協力、技術協力、有償の資金供与による協力(以下「有償資金協力」という。)等を実施している。

このうち、無償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、返済の義務を課さないで資金を贈与することにより実施されるものである。無償資金協力は、平成20年9月までは外務省が実施し、機構がその一部の実施の促進に必要な業務を実施していたが、同年10月以降は、外務省が実施する一部の無償資金協力を除き、機構が実施することとなっている。外務省が実施することとなっている無償資金協力の中には、在外公館が資金を贈与する草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下「草の根無償」という。)等がある。草の根無償は、開発途上国で活動するNGO、地方公共団体、教育機関等の非営利団体を対象とし、事業の実施期間が贈与契約締結日から1年以内に完了することとされている比較的小規模なプロジェクト(原則1000万円以下)である。

有償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、資金供与の条件が開発途上地域にとって重い負担にならないように金利、償還期間等について緩やかな条件が付されている資金を供与することなどにより実施されるもので、機構(20年9月30日以前は国際協力銀行)が実施することとなっている。

機構が実施する無償資金協力、技術協力及び有償資金協力においては、独立行政法人国際協力機構法(平成14年法律第136号)等に基づき、事業実施前に事前評価を、事業完了後に第三者による事後評価をそれぞれ実施することなどとなっている。

令和5年度に外務省又は機構が実施した無償資金協力の実績は1847億6753万余円、機構が実施した有償資金協力の実績は2兆1728億5317万余円となっている。

2 本院の検査及び調査の結果

(検査及び調査の観点及び着眼点)

本院は、外務省又は機構が実施する無償資金協力及び機構が実施する有償資金協力(以下、これらを合わせて「援助」という。)を対象として、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から次の点に着眼して検査及び調査を実施した。

① 外務省及び機構は、事前の調査、審査等において、援助の対象となる事業が、援助の相手となる国又は地域(以下「相手国」という。)の実情に適応したものであることを十分に検討しているか、また、交換公文、贈与契約等に則して援助を実施しているか、さらに、援助を実施した後に、事業全体の状況を的確に把握、評価して、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。

② 相手国等において、援助の対象となった施設、機材等は当初計画したとおりに十分に利用されているか、また、事業は援助実施後においても相手国等によって順調に運営されているか、さらに、援助の対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合に、その関連事業の実施に当たり、事業間のずれ、重複等が生じないよう調整されているか。

③ 外務省及び機構は、事業実施機関に供与した資金を適切に管理しているか。

(検査及び調査の対象及び方法)

本院は、9か国(注1)において平成16年度から令和5年度までに実施された無償資金協力131事業(贈与額計704億4139万余円、うち草の根無償97事業に係る贈与額計13億4616万余円)及び有償資金協力15事業(貸付実行累計額2524億1642万余円)を対象として、外務本省及び機構本部において協力準備調査報告書等を確認し、説明を聴取するなどして会計実地検査を行うとともに、7か国(注2)に所在する在外公館及び機構の在外事務所において事業の実施状況について説明を聴取するなどし、2か国(注3)に所在する在外公館及び機構の在外事務所から事業に係る資料等や現地の画像の提出を求めてその内容を確認したほか、情報通信システムを活用して事業の実施状況等について説明を聴取するなどして検査した。

また、外務省又は機構の職員の立会いの下に相手国等の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から直接説明を受けて事業現場の状況を確認するなどして現地調査を実施し、相手国の事業実施責任者等から情報通信システムを活用して説明を受けるなどして調査した。さらに、相手国等の保有している資料等で調査上必要なものがある場合は、外務省又は機構を通じて入手した。

(注1) 9か国  カンボジア王国、ジブチ共和国、エクアドル共和国、ガーナ共和国、ケニア共和国、メキシコ合衆国、モンゴル国、ネパール、タンザニア連合共和国
(注2) 7か国  カンボジア王国、ジブチ共和国、エクアドル共和国、ガーナ共和国、ケニア共和国、メキシコ合衆国、タンザニア連合共和国
(注3) 2か国  モンゴル国、ネパール

(検査及び調査の結果)

検査及び調査を実施したところ、次のとおり、事業の目的が十分に達成されていない状況となっていて援助の効果が十分に発現していない事態、及び贈与額の一部が事業完了後も長期間滞留していた事態が見受けられた。

(1) 事業の目的が十分に達成されていない状況となっていて援助の効果が十分に発現していない事態

ア 有償資金協力:メコン地域通信基幹ネットワーク整備事業(カンボジア王国)

(貸付実行累計額29億7355万余円)

(ア) 事業の概要

この事業は、カンボジア王国のコンポンチャムからプノンペンを経てシハヌークビルに至る成長回廊地域において、総延長約400㎞の光ファイバーケーブル、関連施設等(以下、これらを合わせて「光ケーブル等」という。)を整備することにより、同地域の通信能力の向上を図ることなどを目的とするものである。

外務省は、平成17年3月にカンボジア王国政府との間で交換公文を取り交わしている。機構は、これに基づき、カンボジア王国政府との間で同月に30億2900万円を貸付限度額とする貸付契約を締結している。事業実施機関であるテレコムカンボジアは、事業期間を17年3月から21年9月までの4年7か月間としたメコン地域通信基幹ネットワーク整備計画を作成して本事業を実施している。

機構は、16年度に実施した事前評価において、事業実施機関が同地域で整備した固定電話サービスの利用率を評価指標として、23年における目標値を61%と設定するなどしている。そして、機構は、18年度から28年度までの間にカンボジア王国政府に対して、本事業に必要な資金として29億7355万余円を貸し付けている。

(イ) 検査及び調査の結果

検査及び調査を実施したところ、次のような事態が見受けられた。

本事業の進捗状況について確認したところ、通信セクター改革に関して機構とカンボジア王国政府との間で合意した行動計画において、カンボジア電気通信規制庁の設立後に本事業の施工業者の選定を開始することが事業実施上の条件とされていた。しかし、17年に予定していた同庁の設立が24年になったことから、本事業は遅延し、事業実施期間は、前記の計画における4年7か月間から、28年4月に貸付けが完了するまでの11年2か月間(計画比244%)となっていた。

また、機構は、事前評価において、23年における本事業の固定電話サービスの利用率の目標値を61%としていたが、同庁の設立に大幅な遅延が生ずるなどしている間に他国の事業者に顧客基盤を奪われたことや、カンボジア王国全土での固定電話の普及率が低迷したことなどから、本事業の固定電話サービスの利用率は低下し、第三者に委託して実施した本事業に係る事後評価「2018年度 外部事後評価報告書」では1.1%、令和4年時点では0.16%と、目標値を大きく下回るなどしていた。

このように、本事業で整備した光ケーブル等を利用した固定電話サービスの利用率が低調となっているなどしており、光ケーブル等を整備することにより同地域の通信能力の向上を図るという事業の目的が十分に達成されていない状況となっていた。

イ 無償資金協力:西部地域小水力発電所改善計画(ネパール)

(贈与額11億2930万円)

(ア) 事業の概要

この事業は、ネパールの西部地域に位置するバジャン郡及びルクム西郡(以下「両地域」という。)において、老朽化した既存の小水力発電所2か所(以下「両発電所」という。)を改修することにより、両地域のひっ迫した電力需要への対応を図り、もって地域経済の発展、民生の向上に寄与することを目的とするものである。

外務省は、平成26年4月にネパール政府との間で交換公文を取り交わしている。機構は、これに基づき、本事業に必要な資金として11億2930万円をネパール政府に贈与している。

ネパール政府は、25年に「国家戦略三ヵ年計画(2013/14~2015/16年度)」を策定し、小水力発電所を含む電源開発を実施するなどとしている。

機構が26年に作成した準備調査報告書によると、事業実施機関であるネパール電力公社は、両地域のような独立電力網を有する村落地域の電力需給バランスを改善する方策として、基幹送配電系統への接続を基本方針としているとされている。両地域については基幹送配電系統へ接続する計画があるが、数年内に基幹送配電系統へ接続する見通しはなく、今後も両発電所が地域唯一の電源であるとされている。そして、両地域のピーク時の電力需要は既存の両発電所の発電設備容量(各200kW)を超え、バジャン郡は400kW、ルクム西郡は500kWに達する状況とされている。

また、機構が26年に実施した事前評価では、事業完了2年後の目標値として、1か所当たり平均発電出力を200kW、年間発電電力量を1,704,000kWh/年等と設定している。

(イ) 検査及び調査の結果

検査及び調査を実施したところ、次のような事態が見受けられた。

a 両発電所の運転実績等

準備調査報告書によると、両地域が数年内に基幹送配電系統へ接続される見通しはないとされていたが、事業実施機関は、ルクム西郡では28年12月に、バジャン郡では30年11月に、住民の要望等を受けて両地域に基幹送配電系統を接続させていた。このため、本事業による両発電所の改修は29年1月に完了していたものの、両発電所の電力供給地域は当初予定していた地域から変更され、契約者数等が減少するなどしていた。このようなことから、表1のとおり、両発電所に対するピーク時の電力需要は計画を大幅に下回っていた。また、バジャン郡の小水力発電所では、基幹送配電系統への接続前に土砂崩れにより導水路が損壊するなどして、発電に必要な流量が十分得られていなかった。

表1 両発電所のピーク時の電力需要

(単位:kW)
発電所名 平成25年
(計画時)
令和2年
(事業完了3年後)
5年
(事業完了6年後)
バジャン郡 400 20 35
ルクム西郡 500 180 180

そして、表2のとおり、両発電所の運転実績は、平均発電出力、年間発電電力量ともに事業完了年(29年)以降、目標値に達しておらず、令和元年以降は改修前の基準値も下回っていた。

表2 両発電所の運転実績等

発電所名等 基準値 目標値 実績値
平成24年 令和元年
(事業完了2年後)
平成29年
(事業完了年)
30年
(事業完了1年後)
令和元年
(事業完了2年後)
5年
(事業完了6年後)
目標値に
対する割合
指標1 平均発電出力(kW)
バジャン郡 100 200 130 127 33 55 27.5%
ルクム西郡 100 200 65 70 76 77.33 38.6%
指標2 年間発電電力量(kWh/年)
バジャン郡 810,000 1,704,000 759,200 603,010 276,705 374,165 21.9%
ルクム西郡 780,000 1,704,000 560,000 603,120 659,986 493,720 28.9%

b 機構のモニタリングの状況等

両発電所の運転実績が低調になっていたことから、機構のモニタリングの状況等をみると、機構は、平成29年11月に現地に赴いて両発電所の瑕疵(かし)検査を実施していた。機構によると、それまでの間は、事業実施機関及び本事業の設計、施工管理等を行うコンサルタントから基幹送配電系統へのルクム西郡の接続及びバジャン郡の接続計画を知らされていなかったとのことであった。また、機構によると、コンサルタントは、同年1月の両発電所の完工検査時に、ルクム西郡が基幹送配電系統に接続等されたことを把握していたが、両発電所は設計どおりに稼働しており、事業実施機関からも基幹送配電系統に接続していない地域に対する電力供給は継続されるとの見解を得ていたため、機構への報告は行っていなかったとのことであった。そして、機構は、同年11月に瑕疵検査を実施した際に、基幹送配電系統へのルクム西郡の接続等を把握していたが、電力需要の見込みなどは再確認していなかった。さらに、事業実施機関から、両発電所は問題なく稼働しているとの説明を受けたとのことであったが、この説明内容について、両発電所の運転実績等に関するデータ等を用いて事実関係の確認を十分に行っていなかった。

機構は、第三者に委託して実施した本事業に係る事後評価「2019年度 外部事後評価報告書」を令和3年に公表している。同報告書では、同国の慢性的な電力不足の下、事業実施機関においては、技術的な接続可能性を検討した上で両発電所を有効に活用できるよう基幹送配電系統に同期(注4)等させること、また、機構においては、コンサルタント等と協議して事業実施機関に専門的な助言をすることなどが提言されていた。

上記の提言された内容について機構が事業実施機関に対して行った働きかけの状況等を本院が確認したところ、機構によると、事業実施機関から、技術的に可能であるとされた基幹送配電系統への同期等の予算確保について、ネパール政府の財政悪化により困難であるとの説明を受けたとのことであった。そして、コロナ禍での退避や外出禁止等の制約により、事業実施機関の幹部等に対する機構からの積極的な働きかけなどを行うことは困難であったとのことであった。

しかし、事後評価における提言等への上記の機構の対応について、資料等で確認することはできなかった。

このように、基幹送配電系統へ同期することなどにより両発電所が有効活用されるが、事業実施機関による同期等は行われておらず、表2のとおり、両発電所は、5年においても年間発電電力量が改修前の基準値も下回っており、両発電所を改修することによりひっ迫した電力需要への対応を図るという事業の目的が十分に達成されていない状況となっていた。

なお、本院が検査及び調査を実施した後、機構は、事業実施機関の幹部等に対して同期等の予算確保について申入れを行った。その結果、事業実施機関は予算を確保し、同期等の工事が進められている。

(注4) 同期  両発電所により発電される電力の周波数、電圧等を基幹送配電系統の規格とそろえて、基幹送配電系統に送電できるようにすること

ウ 草の根無償:キゴマ州キゴマ県ミャタゾ・ニャルバンダ中学校女子寮建設計画等2事業(タンザニア連合共和国)

(贈与額計1566万余円)

(ア) 事業の概要

キゴマ州キゴマ県ミャタゾ・ニャルバンダ中学校女子寮建設計画は、タンザニア連合共和国キゴマ州にあるミャタゾ中学校及びニャルバンダ中学校に女子寮各1棟を建設することで、通学に時間を要するなどしている生徒に安全な学習環境を提供することを目的とするものである。

在タンザニア日本国大使館(以下「タンザニア大使館」という。)は、平成17年11月に事業実施機関であるキゴマ開発促進協会との間で贈与契約を締結し、本事業に必要な資金として、53,212米ドル(邦貨換算額569万余円)を贈与している。

外務省が公表した「ODAのあり方に関する検討(戦略的・効果的な援助の実施)を受けた「見える化」の徹底(2019年10月)」において、女子寮は外壁の左官工事等を残した段階で発生した事業実施機関の資金不足等の影響により完成していない状況であるとされている。

(イ) 検査の結果

検査したところ、キゴマ開発促進協会は、18年1月にミャタゾ中学校の女子寮1棟、同年2月にニャルバンダ中学校の女子寮1棟の建設に着工したものの、女子寮建設工事に当たり受けられることになっていた地域住民の協力を受けられず、キゴマ開発促進協会が単独で事業を実施することとなったことから、工事開始が遅延していた。その後も事業の進捗が見られない状況が継続していたことから、23年にキゴマ県が事業実施機関となり本事業を引き継いでいた。その後、タンザニア大使館は同県に対して、予算確保に向けた働きかけを行い、同県は建設に必要な予算の一部を確保し、トイレを除きミャタゾ中学校の女子寮を完成させていた。

しかし、ニャルバンダ中学校の女子寮及びミャタゾ中学校の女子寮の一部について、タンザニア大使館は、その後も同県や州政府に完成に向けた予算確保の働きかけを行っていたものの、予算が確保されていない状況となっていた。このため、贈与契約締結後18年以上経過した令和6年5月においても、ニャルバンダ中学校の女子寮等は完成しておらず、女子寮計2棟を建設することにより通学に時間を要するなどしている生徒に安全な学習環境を提供するという事業の目的が十分に達成されていない状況となっていた。

また、タンザニア大使館が平成20年11月にハンデニ県との間で贈与契約を締結したタンガ州ハンデニ県ミシマ中学校学生寮建設計画(贈与額88,247米ドル(邦貨換算額997万余円))においても、学生寮1棟が完成しておらず、学生寮2棟を建設することにより通学に時間を要するなどしている生徒に安全な学習環境を提供するという事業の目的が十分に達成されていない状況となっていた。

エ 草の根無償:ンクワンクワヌア地区保健センター建設計画(ガーナ共和国)

(贈与額999万余円)

(ア) 事業の概要

この事業は、ガーナ共和国アシャンティ州セチレ・イースト郡ンクワンクワヌア地区において、保健センター、スタッフ宿舎及び深井戸を建設して、同地区住民及び近隣地区住民に良好な保健サービスを提供するための衛生的な環境を整備することを目的とするものである。

在ガーナ日本国大使館(以下「ガーナ大使館」という。)は、令和2年2月に、事業実施機関であるセチレ・イースト郡保健局との間で贈与契約を締結し、同年3月に、本事業に必要な資金として、90,866米ドル(邦貨換算額999万余円)を贈与している。

外務省が定めた「草の根・人間の安全保障無償資金協力ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)によると、草の根無償においては、在外公館は、事業実施機関による資金の引出しについては銀行特約方式(注5)を原則として採用することとなっている。そして、銀行特約方式においては、在外公館は、事業実施機関による資金の引出しの都度、事業の進捗を確認した上で、事業実施機関が資金を引き出すことに同意することとなっている。

また、外務省によると、事業の実施中に贈与資金の範囲内で事業が完了しないなどの状況を認識した場合には、在外公館は、事業実施機関に対して資金計画等の見直しを含む対処方法を検討させるなどの働きかけを行うとしている。

ガーナ大使館は、ガイドライン等に基づき、本事業の事業計画等において、銀行特約方式を採用しており、建設工事に4段階の工程を設けて、その工程ごとに進捗を確認した上で事業実施機関による資金の引出しに同意することにしている。また、本事業においては、ガーナ大使館と事業実施機関との間で、建設工事の完了後に建物等に瑕疵がないことを確認した後に、全体額の10%相当額について事業実施機関による資金の引出しに同意することにしている。

(注5) 銀行特約方式  事業実施機関が草の根無償により支援を受ける案件のために専用に銀行口座を開設し、銀行側と事前に取決めを行った上で、事業実施機関が施設・機材等の調達先(供給、施工業者)等に対して当該専用口座からの支払を行う際に、在外公館からの書面の同意を必要とする方式

(イ) 検査及び調査の結果

検査及び調査を実施したところ、事業実施機関は、2年2月に施工業者等と契約を締結して保健センター等の建設工事を開始したが、3年3月に新型コロナウイルス感染症拡大の影響を理由として、同年7月までの事業期間の延長の申請書をガーナ大使館に提出していた。ガーナ大使館は、同年3月に現地視察を実施して、工事の進捗状況を現地で確認し、銀行特約方式により把握していた贈与資金の範囲内では工事が完了できない状況を認識していたが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い建築資材等が高騰している状況であったため、同年4月に4段階目の建設工事に係る資金の引出しに同意し、同年7月には、建設工事が完了していないにもかかわらず、全体額の10%相当額に係る資金の引出しについても同意していた。

このように、ガーナ大使館は贈与資金の範囲内では工事が完了できない状況であったのに、事業実施機関に対して資金計画等の見直しを速やかに検討させるなどの働きかけを十分に行っていなかった。

そして、6年5月の現地調査実施時点において、スタッフ宿舎及び深井戸は完成していたものの、保健センターは完成していなかった。

このため、保健センター等を建設して同地区住民及び近隣地区住民に良好な保健サービスを提供するための衛生的な環境を整備するという事業の目的が十分に達成されていない状況となっていた。

(2) 贈与額の一部が事業完了後も長期間滞留していた事態

<草の根無償:ザブハン県バヤンハイルハン郡病院改修計画等39事業(モンゴル国)>

(滞留していた贈与額計4900万余円)

ア 事業の概要

ザブハン県バヤンハイルハン郡病院改修計画は、モンゴル国ザブハン県バヤンハイルハン郡において、郡病院の院舎の改修を行い、同病院の医療環境を改善することを目的とするものである。

在モンゴル日本国大使館(以下「モンゴル大使館」という。)は、平成31年3月に、事業実施機関であるザブハン県との間で贈与契約を締結し、この事業に必要な資金として、78,443米ドル(邦貨換算額878万余円)を贈与している。

ガイドラインによると、草の根無償の各事業に供与された資金の管理については銀行特約方式を原則として採用することとなっており、実施すべき事業が全て完了し、なお残額となった資金(以下「供与済み未使用資金」という。)が発生した場合には、速やかに対処方針について外務本省に指示を求め、国庫に返納等することとなっている。

そして、外務省によると、在外公館における事業完了後の返納手続の流れはおおむね次のとおりとなっている。

① 事業実施機関は、施工業者等に対する支払完了後、事業費の精算状況等を記載した事業完了報告書を作成し、在外公館に提出する。

② 在外公館は、事業実施機関から事業完了報告書の提出を受けるなどして、残額がある場合は供与済み未使用資金の発生を確認する。

③ 在外公館は、事業実施機関に対して供与済み未使用資金の返納、事業専用共同口座の解約等を明記した書簡の提出を依頼する。

④ 在外公館は、書簡の提出を受けた後、同書簡等を添付して外務本省に速やかに国庫返納方針について指示を求める。

⑤ 外務本省は、在外公館に対して、国庫返納の承認等について伝達する。

⑥ 在外公館は、外務本省からの承認を受け、銀行に対して事業専用共同口座から在外公館口座に供与済み未使用資金を送金するよう依頼し、供与済み未使用資金が在外公館口座に返納され、事業専用共同口座が解約される。

イ 検査の結果

検査したところ、事業実施機関は、令和元年10月に事業を完了して、同年11月にモンゴル大使館に対して事業費の精算状況等を記載した事業完了報告書を提出していた。モンゴル大使館は、同報告書の提出を受けて、供与済み未使用資金が発生したことを確認していた。しかし、モンゴル大使館が事業実施機関に対して供与済み未使用資金の返納、事業専用共同口座の解約等を明記した書簡の提出を依頼したのは、3年3か月後の5年3月であった。これにより、同年12月に返納されるまで供与済み未使用資金21,634,228トグログ(邦貨換算額93万余円)が4年1か月事業専用共同口座に滞留していた。そして、返納手続の遅延理由等を確認したところ、モンゴル大使館によると、締切りが設けられている新規の草の根無償事業等に係るその他の業務を優先して、供与済み未使用資金の返納が後回しになってしまったとのことであった。

また、本事業のほかモンゴル大使館が平成30年度から令和4年度までに実施した草の根無償70事業についても検査したところ、54事業においても、事業実施機関と施工業者等との間の契約金額が供与金額を下回ったことなどにより供与済み未使用資金が発生していた。このうち、表3のとおり、モンゴル大使館の口座に返納されるまでに12か月以上滞留していたものが本事業を含め平成30年度から令和3年度までに実施した39事業に係る贈与額計1,143,032,862トグログ(邦貨換算額4900万余円)あり、供与済み未使用資金が事業専用共同口座に長期間滞留する状況となっていた。

表3 モンゴル大使館の口座に返納されるまでに12か月以上滞留していたもの

滞留期間 12か月以上
24か月未満
24か月以上
36か月未満
36か月以上
48か月未満
48か月以上
草の根無償の事業数 10 8 19 2

そして、在外公館における供与済み未使用資金の返納手続や外務本省における返納状況等の把握方法についてみたところ、ガイドラインでは在外公館が外務本省に速やかに国庫返納方針について指示を求めるなどとなっているものの、返納手続の作業期限の目安が定められておらず、また、外務本省においても供与済み未使用資金の返納手続の進捗状況等を把握する体制が整備されていない状況となっていた。

(改善を必要とする事態)

このように、事業の目的が十分に達成されていない状況となっていて援助の効果が十分に発現していない事態、及び贈与額の一部が事業完了後も長期間滞留していた事態は適切ではなく、外務省及び機構において必要な措置を講じて効果の発現に努めるなどの改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア カンボジア王国のメコン地域通信基幹ネットワーク整備事業については、同国内における通信需要の変化等の事情にもよるが、機構において、光ケーブル等の活用を図るために当該事業が円滑に進捗するよう事業実施期間中に当該事業が置かれている状況を確認して、事業実施上の条件の見直しなどの対応を検討することが十分でなかったこと

イ ネパールの西部地域小水力発電所改善計画については、機構において、基幹送配電系統の拡大による影響を十分に検討していなかったこと。また、ネパール政府の予算確保等に時間を要したという事情にもよるが、両地域が基幹送配電系統に接続されたことを把握した後に、事業実施機関に対して両発電所を基幹送配電系統に同期等させるための働きかけが十分でなかったこと

ウ タンザニア連合共和国のキゴマ州キゴマ県ミャタゾ・ニャルバンダ中学校女子寮建設計画及びタンガ州ハンデニ県ミシマ中学校学生寮建設計画については、外務省において、両事業が中断し長期化する中で、寮の完成に向けて事業実施機関等に対して働きかけを行ってきたものの、中央政府機関に対する草の根無償の重要性の理解を求めることや状況改善に向けた協力要請等、長期化する状況を踏まえた働きかけが十分でなかったこと

エ ガーナ共和国のンクワンクワヌア地区保健センター建設計画については、外務省において、贈与資金の範囲内では工事が完了できない状況を認識していたにもかかわらず資金計画等を見直させるなどの働きかけが十分でなかったこと

オ モンゴル国のザブハン県バヤンハイルハン郡病院改修計画等39事業については、外務省において、供与済み未使用資金を速やかに返納する必要性についての理解が十分でなかったこと。また、供与済み未使用資金の返納手続について、作業期限の目安を定めていなかったこと、供与済み未使用資金の返納手続の進捗状況等を確認する体制が整備されていなかったこと

3 本院が表示する意見

援助の効果が十分に発現されるなどするよう、次のとおり意見を表示する。

ア カンボジア王国のメコン地域通信基幹ネットワーク整備事業については、機構において、事業実施機関に対して、同国内における通信需要の変化等を踏まえて、低調となっている光ケーブル等の活用を検討するよう働きかけるとともに、当該事業における事態を踏まえて、今後、技術の進展等の早い分野で事業の遅延等が生ずる場合、事業実施期間中において当該事業が置かれている状況を確認して、事業実施上の条件の見直しなどの対応を検討すること

イ ネパールの西部地域小水力発電所改善計画については、機構において、事業実施機関に対して、両発電所を有効に活用できるよう基幹送配電系統への同期工事を着実に行うよう働きかけるとともに、当該計画における事態を踏まえて、今後、無償資金協力で基幹送配電系統に接続されていない地域における小水力発電所の改修等を実施するに当たり、基幹送配電系統の拡大の状況を把握した場合、必要な対応を迅速に執ることができるよう、事業実施前や事業実施期間中のみならず、事業期間終了後に問題が確認された場合においても事業に影響を与える周辺事情の変化等の把握に努めること

ウ タンザニア連合共和国のキゴマ州キゴマ県ミャタゾ・ニャルバンダ中学校女子寮建設計画及びタンガ州ハンデニ県ミシマ中学校学生寮建設計画については、外務省において、両事業が進捗するよう事業実施機関等のみならず中央政府機関に対しても草の根無償の重要性の理解を求めることや状況改善に向けた協力を要請することなどを含め引き続き働きかけを行うこと、当該計画における事態を踏まえて、今後、草の根無償を実施するに当たり、学生寮の建設において両事業のような長期間進捗が見られない場合、在外公館に対して事業進捗に向けた取組等をより一層行うよう指導すること

エ ガーナ共和国のンクワンクワヌア地区保健センター建設計画については、外務省において、事業実施機関等に対して、速やかに工事を再開するなどして施設を完成させるよう働きかけるなどすること、当該計画における事態を踏まえて、今後、草の根無償を実施するに当たり、保健センター等の建設工事を実施する際に、贈与資金の範囲内では工事が完了できない状況を認識した場合、事業実施機関等に対して資金計画等を速やかに見直させるなどの働きかけを行うこと

オ モンゴル国のザブハン県バヤンハイルハン郡病院改修計画等39事業については、外務省において、当該計画における事態を踏まえて、今後、草の根無償を実施するに当たり、供与済み未使用資金の返納手続の作業期限の目安をガイドライン等に定めて在外公館に周知徹底するとともに、草の根無償の各事業における供与済み未使用資金の返納手続の進捗状況等を適切に確認できるような体制を整備すること