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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(2) GIGAスクール構想の一環として公立学校情報機器購入事業等により高校に整備された学習者用コンピュータについて、生徒への貸与を促進するための方策を検討し、その結果を踏まえ、事業主体に対して、参考となる情報を提供するとともに、高校の学校現場等において有効活用を図るための用途等を検討し、その結果を踏まえ、事業主体に対して、活用方法について情報を提供することにより、貸与の促進や有効活用が図られるなどするよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)文部科学本省 (項)初等中等教育振興費
部局等
文部科学本省
補助の根拠
予算補助
補助事業者
(事業主体)
38事業主体
補助事業
公立学校情報機器購入事業、公立学校情報機器リース事業
補助事業のうち公立の高等学校等を対象とするものの概要
公立の高等学校等の生徒のうち、高校生等奨学給付金を受給しているなどの世帯の生徒に貸与等するための学習者用コンピュータを整備するもの
検査の対象とした同事業による学習者用コンピュータの整備台数及び整備に係る国庫補助金交付額
95,554台38億1309万余円(令和3年度)
上記のうち最大貸与率が50%未満の事業主体における学習者用コンピュータの整備台数と最大貸与台数との開差及びこれに係る国庫補助金相当額
26,262台9億9803万円(令和3年度)

【意見を表示したものの全文】

GIGAスクール構想の一環として公立学校情報機器購入事業等により高校に整備された学習者用コンピュータの貸与状況等について

(令和6年10月15日付け 文部科学大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 公立学校情報機器購入事業及び公立学校情報機器リース事業の概要等

貴省は、「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」(令和元年12月閣議決定)等を踏まえて、GIGAスクール構想の一環として、公立学校情報機器整備費補助金交付要綱(令和2年文部科学大臣決定。以下「要綱」という。)等に基づき、公立の小学校、中学校、高等学校等において学習者用コンピュータ(以下「端末」という。)等の情報機器を整備するために必要とする経費を補助することにより、公正に個別最適化された学びを全国の学校現場で実現させることなどを目的として、地方公共団体等に対して公立学校情報機器整備費補助金(以下「補助金」という。)を交付している。

補助金の交付対象事業のうち、「公立学校情報機器購入事業」及び「公立学校情報機器リース事業」は、都道府県、市町村等(注1)(以下、これらを合わせて「事業主体」という。)が購入又はリースにより端末を整備するものである。

(注1)
都道府県、市町村等  特別区、市町村の組合及び広域連合を含む。また、公立学校情報機器リース事業については、地方公共団体のリース契約の相手方である民間団体を含む。

そして、要綱等によれば、公立の高等学校、中等教育学校の後期課程及び特別支援学校の高等部(以下、これらを合わせて「高校」という。)を対象とするもの(以下「補助事業」という。)の補助対象経費は、生徒の学びの保証と教育の機会均等の観点から、事業主体が奨学給付金等受給世帯(注2)の生徒に貸与等するための端末の新規整備又は更新に要する経費とされている。また、補助金の交付額は、事業主体における奨学給付金等受給世帯の生徒数を基本としつつ、地域や学校の実情に応じた整備に必要な台数に、端末1台当たりの補助金の交付上限額である45,000円を乗じた額等と、実際の端末の整備費のうち補助の対象となる額とを比較して、いずれか少ない額とすることとされている。

(注2)
奨学給付金等受給世帯  高等学校及び中等教育学校の後期課程の生徒のうち、高校生等奨学給付金を受給している(見込みを含む。)世帯(生活保護の生業扶助のみを受給している世帯を含む。)並びに特別支援学校の高等部の生徒のうち、特別支援教育就学奨励費(第1段階の支弁区分に限る。)を受給している(見込みを含む。)世帯

貴省は、補助金の交付に先立ち、事業主体に対して「令和2年度第3次補正予算案への対応について」(令和2年事務連絡)及び「公立学校情報機器整備費補助金に関する交付申請希望調査(3次補正関係事業)について」(令和3年事務連絡。以下、これらを合わせて「事務連絡」という。)を発出している。そして、事務連絡において、補助事業により整備した端末(以下「補助端末」という。)の貸与については、学校現場では様々な理由により奨学給付金等受給世帯以外の生徒にも補助端末を貸与する必要性が生じてくる場合も考えられるとして、補助事業の趣旨を踏まえ、実情に応じた適切な運用をするよう事業主体に対して周知している。また、補助端末の活用については、事業主体や学校のICTの活用に関する計画等に沿って判断するよう事業主体に対して周知している。

一方で、高校における端末については、地方公共団体では補助事業とは別に、一般財源等による整備や、生徒が私物の端末を学校に持参し利用する方式(Bring Your Own Device)、学校等に指定された機種の端末を生徒が購入して、学校に持参し利用する方式(Bring Your Assigned Device)(以下、両方式を合わせて「BYOD方式等」という。)を導入するなどの多様な取組が開始されている。当該取組も含め、貴省は、令和6年度末までに全学年の1人1台端末環境の整備が完了する予定としている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、効率性、有効性等の観点から、補助端末は生徒に効率的に貸与されているか、また、生徒への貸与が見込まれない補助端末の活用が図られているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、3年度に19道府県(注3)の38事業主体が調達した補助端末計95,554台に係る補助金交付額計38億1309万余円を対象に、貴省本省及び17道府県(注4)の30事業主体において、契約書、実績報告書、補助端末の貸与状況が記録された台帳(以下「管理台帳」という。)等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、3道県(注5)の8事業主体については、3道県から補助端末の貸与状況に係る調書等の提出を受けて、その内容を分析するなどして検査した。

(注3)
19道府県  北海道、京都、大阪両府、宮城、秋田、山形、茨城、埼玉、福井、山梨、岐阜、静岡、三重、奈良、広島、山口、高知、熊本、沖縄各県
(注4)
17道府県  北海道、京都、大阪両府、宮城、秋田、山形、茨城、埼玉、福井、山梨、静岡、奈良、広島、山口、高知、熊本、沖縄各県
(注5)
3道県  北海道、岐阜、三重両県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 補助端末の貸与状況

補助端末95,554台(補助金交付額計38億1309万余円)の6年4月末までの貸与状況についてみたところ、生徒に貸与されていたと管理台帳等で確認できるピーク時点での台数(以下「最大貸与台数」という。)は、表1のとおり、62,752台となっていて、補助端末95,554台と最大貸与台数62,752台との間には32,802台(補助金相当額計12億7048万余円)の開差が生じていた。

そこで、6年4月末までにおける38事業主体それぞれの補助端末の台数に占める最大貸与台数の割合(以下「最大貸与率」という。)をみたところ、表1のとおり、14事業主体において50%未満と低調となっており、14事業主体の補助端末33,809台と最大貸与台数7,547台との間には26,262台(補助金相当額計9億9803万余円)の開差が生じていた。

表1 補助端末の最大貸与率の状況等

令和6年4月末までの補助端末の最大貸与率 うち最大貸与率が50%未満の事業主体注(4)の計
75%以上 50%以上
75%未満
25%以上
50%未満
25%未満 A+B+C+D C+D
A B C D
①事業主体数
(全体に対する割合)
注(2)
20
(52.6%)
4
(10.5%)
6
(15.7%)
8
(21.0%)
38
(100%)
14
(36.8%)
②整備台数(台) 47,842 13,903 16,542 17,267 95,554 33,809
③最大貸与台数(台) 46,615 8,590 5,576 1,971 62,752 7,547
④整備台数と最大貸与台数との開差(台) 1,227 5,313 10,966 15,296 32,802 26,262
⑤上記④の台数に係る補助金相当額(千円)
注(3)
50,193 222,257 418,505 579,531 1,270,488 998,037
  • 注(1) ②~⑤の各欄は、①の事業主体数に係るそれぞれの計
  • 注(2) 全体に対する割合は、小数点第2位以下を切り捨てているため、合計しても計欄とは一致しない。
  • 注(3) 補助金相当額は、千円未満を切り捨てているため、合計しても計欄とは一致しない。
  • 注(4) 京都府、茨城、静岡、三重、奈良、沖縄各県、札幌、帯広、岩見沢、さいたま、甲府、静岡、富士、広島各市

(2) 補助端末の最大貸与率が低調となっている主な理由等

最大貸与率が50%未満と低調となっていた14事業主体にその主な理由を確認したところ、BYOD方式等を導入しており各生徒が自ら端末を準備する必要があることなどから、端末を所有しておらず自ら購入することも困難な奨学給付金等受給世帯等の生徒に補助端末を貸与することなどを想定していたものの、補助端末の貸与希望者が調達時の想定よりも少なかったためなどとしていた。

また、補助端末の調達台数の決定に当たっては、生徒の端末の所有状況や購入の意向を考慮することなどが望ましかったものの、14事業主体は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を背景とした失業による家計の急変等により、奨学給付金等受給世帯等の数が更に増加する可能性もあったなどとして、調達台数を決定する時点における奨学給付金等受給世帯等の生徒に対して端末の所有状況等の調査をしていなかった。そして、一定数の余裕を見込んだ上で、調達の前年度の奨学給付金等受給世帯数を用いるなどして決定したとしている。

(3) 補助端末の貸与の促進及び活用を図るための検討状況等

ア 補助端末の貸与の促進の状況

貴省は、補助端末の貸与については、事務連絡により、補助端末を奨学給付金等受給世帯以外の生徒に貸与することも可能であることを、事業主体に周知したとしている。しかし、事務連絡では、補助事業の趣旨を踏まえつつ、実情に応じ適切な運用をするなどと記載されているのみで、貸与が可能な生徒として奨学給付金等受給世帯以外の生徒が具体的に示されておらず、事業主体において、補助端末の貸与状況に応じて貸与の対象等を見直すことなどを検討するに当たって十分な情報提供とはなっていなかった。そして、事業主体における貸与の促進についての検討状況を確認したところ、奨学給付金等受給世帯以外の生徒への補助端末の貸与が可能であることが貴省から明確に示されていないとして、補助端末の貸与の対象等を見直していないとする事業主体も見受けられた。

イ 補助端末の貸与見込み及び活用を図るための検討状況

(1)のとおり、最大貸与率が50%未満の14事業主体では、補助端末33,809台のうち最大貸与台数は7,547台となっている。そこで、14事業主体がそれぞれの状況を踏まえて独自に試算した今後の奨学給付金等受給世帯等の生徒への貸与の見込みを徴取したところ、表2のとおり12,698台となっていて、最大貸与台数にこれらの台数を加えても、13,564台は今後の貸与が見込まれないとしていた。

表2 最大貸与率が50%未満の14事業主体が試算した今後の貸与見込台数等

(単位:台)

整備台数 最大貸与台数 今後の貸与見込台数 今後、貸与が見込まれないと試算された台数
A B C D=A-B-C
14事業主体の計 33,809 7,547 12,698 13,564

貴省は、事務連絡により、補助端末を奨学給付金等受給世帯等の生徒への貸与以外で活用することについて、事業主体に対して周知したとしている。しかし、事務連絡では、それぞれの事業主体や学校のICT活用計画等に沿って判断することと記載されているのみで、貸与されていない補助端末の取扱いが明確にされておらず、補助端末の具体的な活用方法等も特段示されていないため、事業主体において補助端末の活用等を検討するに当たって十分な情報提供とはなっていなかった。そして、事業主体における活用についての検討状況を確認したところ、生徒への貸与以外にも、オンライン授業時の配信用端末等での活用が考えられるとしつつも、貸与されていない補助端末の取扱いや活用方法等が貴省から明確にされていないとして、実際に活用を行うことが困難であるとする事業主体も見受けられた。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

事例

茨城県は、BYOD方式等を導入した上で、補助端末を高校生等奨学給付金を受給している世帯(相当する世帯等を含む。)の生徒に貸与するために、令和3年度に補助端末計4,671台(補助金交付額1億7147万余円)を調達して貸与を開始していた。しかし、端末を自ら購入する生徒が多く、補助端末の貸与希望者が少なかったことなどにより、6年4月末までの補助端末の最大貸与台数は1,392台(最大貸与率29.8%)と、貸与が低調となっていた。

このように、同県は、補助端末の貸与が低調となっていたものの、事務連絡の内容からは上記世帯以外の生徒への貸与は認められないとして、貸与の対象等の見直しを行っていなかった。

また、同県は、貸与されていない補助端末について、生徒への貸与のほか、オンライン授業時の配信作業や校務での活用が考えられるとしていたものの、事務連絡では補助端末の活用方法が明確にされていないなどのため、補助端末をこれらの用途に活用することは困難であるとしていた。

事業主体における補助端末の調達台数の決定に当たっては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中で行われたことなどを踏まえると、奨学給付金等受給世帯等の増加を見込み、ある程度の余裕をもたせざるを得ない状況もあったと考えられる。他方、事業主体において、補助端末の貸与が低調となっている場合や整備後の状況の変化により貸与が見込まれない場合には、貴省において、事業主体が生徒への補助端末の貸与の促進や貸与されていない補助端末の活用を図ることを十分に検討することができるように情報提供を行う必要があると認められる。

(改善を必要とする事態)

補助端末について、事業主体において、奨学給付金等受給世帯等の生徒への貸与が低調となっていて、今後も貸与が見込まれないものも多数ある事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中で先行きが予見し難い状況にあったことなどにもよるが、貴省において、次のことなどによると認められる。

ア 実情に応じて補助端末の生徒への貸与を促進するための方策を事業主体に検討させるための情報提供が十分でないこと

イ 生徒への補助端末の貸与が見込まれない場合の取扱いや活用を図るための用途や方法の検討及び当該検討結果の事業主体に対する情報提供が十分でないこと

3 本院が表示する意見

貴省は、高校における1人1台端末環境の整備については、学習指導要領で目指す情報活用能力等の基盤的な能力を育成するために必要不可欠であること、オンライン授業等の活用推進が重要とされていることから、今後も高校において端末の活用が進むことが見込まれるとしている。

ついては、貴省において、補助端末が、今後、補助端末の貸与を必要とする生徒に効率的に貸与され、また、有効に活用されるなどするよう、次のとおり意見を表示する。

ア 奨学給付金等受給世帯等の生徒への貸与の妨げとならない範囲で補助端末の生徒への貸与を促進するために、貸与の対象等を見直すなどの方策について検討し、その結果を踏まえ、事業主体に対して、参考となる情報を提供すること

イ 高校の学校現場等において補助端末の有効活用を図るための用途や方法を検討し、その結果を踏まえ、事業主体に対して、生徒への貸与が見込まれない補助端末の適切な活用方法について情報を提供すること。また、これによっても活用することが困難な場合は、適宜貴省と相談の上、その取扱いを検討するよう事業主体に周知すること