厚生労働本省(以下「本省」という。)は、新型コロナウイルス感染症の全国的な感染拡大への対応として、令和2年5月に、株式会社電通テック(4年4月1日以降は株式会社電通プロモーションプラス。以下「電通テック」という。)との間で、新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(Gathering Medical Information System。以下「G―MIS」という。)の構築、運用等一式に係る契約(以下「本体契約」という。)を契約額405,201,957円で締結している。
G―MISは、医療機関の稼働状況、病床や医療スタッフの状況、医療機器(人工呼吸器等)や医療資材(マスクや防護服等)の確保状況等について、医療機関が入力した情報を一元的に地方公共団体に提供する機能等を有しているシステムである。本体契約は、G―MISの構築、運用等を行うものであり、その一環として、医療機関等からの問合せに対応するためのコールセンターの運営に係る業務や、医療機関等に対するライセンスの付与(注)に係る業務等の各種の業務を行うものである。
本省は、本体契約の締結時には、G―MISに情報を入力する医療機関数を約8,000か所と想定していた。しかし、G―MISの運用開始後に新型コロナウイルス感染症の患者が増加して、情報を入力する医療機関数の大幅な増加が見込まれる状況となった。このため、本省は、G―MISではこの状況に対応することが困難になるとして、本体契約で構築したG―MISの運用を停止することとした上で、同種の機能を有する新たなG―MISの構築、運用等を電通テックとは別の業者に行わせている。これに伴い、本省は、新たなG―MISの運用が安定するまでの間の暫定的な対応として、2年7月及び3年2月に、本体契約の変更契約を締結しており、本体契約の最終的な契約額は665,767,207円となっている。また、ライセンスに関して、情報を入力する医療機関数の大幅な増加が見込まれてライセンスを追加調達する必要が生じたことなどから、本省は、2年7月の本体契約の変更契約において、同年8月分以降のライセンスの調達費用等については電通テックが実際に支払った費用に応じて最終的な契約額とは別に電通テックに支払うこととしている。そして、これに係る支出額は198,593,205円となっている。
本体契約のほかに、本省は、2年12月に、随意契約により、電通テックとの間で、2年から3年にかけての年末年始期間に対応する業務を委託する契約を契約額570,900円で締結している(以下、この契約を「別途契約」といい、本体契約と別途契約を合わせて「本件契約」という。)。
これらにより、本件契約の支払額は計864,931,312円となっている(表参照)。
表 本件契約の支払額の内訳
(単位:円)
契約 | 契約期間 | 契約内容 | 支払額 |
---|---|---|---|
本体契約 | 令和2年5月1日~3年3月12日 | G―MISの構築、コールセンターの運営、2年7月までのライセンスの調達費用等 | 665,767,207 |
2年8月分以降のライセンスの調達費用等 | 198,593,205 | ||
小計 | 864,360,412 | ||
別途契約 | 2年12月29日~3年1月1日 | 年末年始期間に対応するための業務 | 570,900 |
計 | 864,931,312 |
本院は、合規性等の観点から、本件契約の支払額が適正なものとなっているかなどに着眼して、本件契約を対象として、本省及び電通テックにおいて、契約書、請求書等の書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
本省及び電通テックは、電通テックが業務の一部を第三者に再委託するなどした場合の人件費等については、実際に業務に要した額とすることなどとしていた。そして、電通テックは、コールセンターの運営等の業務を株式会社電通カスタマーアクセスセンター(4年4月1日以降は株式会社電通プロモーションエグゼ。以下「再委託先」という。)に再委託していた。さらに、再委託先は、業務の一部を第三者に再々委託していた。
コールセンターの運営に係る人件費等について、電通テックは、スーパーバイザーやオペレーターといった職種に応じた人件費単価に従事日数を乗ずるなどして算定していた。
しかし、勤務記録等を確認したところ、電通テックによる請求において、業務に従事した実態のない人数等に係る金額が計上されており、また、電通テック及び再委託先による請求において、再々委託先から再委託先に対して請求のあった人件費単価に根拠のない金額が上乗せされているなど、実際に業務に要した額を上回る金額が計上されていた。
本省は、2年8月分以降のライセンスの調達費用については、電通テックが実際に支払った費用に応じて、最終的な契約額とは別に電通テックに支払うこととしており、電通テックは、ライセンスを販売代理店から購入して医療機関等に付与していた。
しかし、電通テックから販売代理店に対する実際の支払状況を確認したところ、2年10月分及び11月分のうち計13,000ライセンスについては、本体契約の変更契約締結段階では調達することを想定していたものの、実際には販売代理店から購入していない分を電通テックが誤って請求していたものであった。
このように、コールセンターの運営に係る人件費等について業務に従事した実態のない人数等に係る金額が請求されるなどしていたこと及びライセンスの調達費用について実際には購入していない分が請求されていたことにより、電通テックからの請求額が適正なものとなっていなかったのに、本省は、確認を十分に行わないまま電通テックからの請求のとおりに支払っていた。
したがって、業務に従事した実態のない人数等に係る金額及び購入していないライセンスの調達費用を除くなどして適正な支払額を算定すると748,234,034円となることから、前記の支払額864,931,312円との差額116,697,278円が過大に支払われていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、電通テックにおいて実績に基づき適正な費用を請求することについての認識が欠けていたこと及びライセンスの調達費用の請求に当たり確認が十分でなかったことなどにもよるが、本省において電通テックから提出された請求書等の関係書類の確認が十分でなかったことなどによると認められる。