雇用保険は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、常時雇用される労働者等を被保険者として、被保険者が失業した場合、被保険者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合等に、その生活及び雇用の安定を図るなどのために失業等給付金の支給を行うほか、雇用安定事業等を行う保険である。
失業等給付金には、次の求職者給付のほか、就職促進給付、教育訓練給付及び雇用継続給付の4種がある。
求職者給付には基本手当等7種の手当等があり、このうち基本手当は、失業等給付金の支給額の大きな部分を占めており、失業者の生活の安定を図る上で基本的な役割を担うもので、受給資格者(注1)が失業している日について所定給付日数を限度として支給される。
失業等給付金は、公共職業安定所(以下「安定所」という。)が支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省等が支給することとなっている。
そして、安定所は基本手当について、受給資格者から提出された失業認定申告書に記載されている就職又は就労(臨時的に短期間仕事に就くこと)の有無等について調査し確認して、失業の認定を行った上で、支給決定を行う。
また、偽りその他不正の行為により基本手当の支給を受け、又は受けようとした者に対しては、その支給を受け、又は受けようとした日以後、当該手当等を支給しないことなどとなっており、安定所は、既に支給した手当等の返還等を命ずることができることとなっている。
本院は、合規性等の観点から、失業等給付金の支給を受けた者(以下「受給者」という。)に対する失業等給付金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、全国47都道府県労働局(以下、都道府県労働局を「労働局」という。)の436安定所(令和6年3月末現在)のうち、8労働局(注2)の44安定所において会計実地検査を行い、3年度から5年度までの間における受給者から1,550人を選定して、失業等給付金の支給の適否について検査した。
検査に当たっては、受給者から提出された失業認定申告書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、他の年度分も含めて更に当該安定所に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査の結果、2労働局の4安定所管内における3年度から5年度までの間の受給者6人については、就職等していながらその事実を失業認定申告書等に記載せずに基本手当の支給を受けるなどしており、これらに対する失業等給付金の支給額計4,134,359円のうち計1,836,344円は、支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、受給者が誠実でなかったなどのため、失業認定申告書等の記載内容が事実と相違していたのに、4安定所において、これらに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたことによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
川崎北安定所は、令和4年2月28日に会社Aを退職した受給者Bから、同年3月22日から同年9月17日までの180日間に係る失業認定申告書の提出を受けて、これに基づき、基本手当867,564円の支給決定を行っていた。
しかし、実際には、受給者Bは会社Aを退職する以前から会社Cにも雇用されており、少なくとも上記の180日間については同会社に就職していたのに、当該事実を隠匿して申告していた。このため、受給者Bに対する基本手当867,564円の全額が支給の要件を満たしていなかった。
なお、これらの適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。
これらの適正でなかった支給額を労働局ごとに示すと次のとおりである。
労働局名
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安定所
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本院の調査に係る受給者数
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不適正受給者数
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左の受給者に支給した失業等給付金
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左のうち不当と認める失業等給付金
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人 | 人 | 千円 | 千円 | ||
神奈川
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横浜等3
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115 | 5 | 3,555 | 1,289 |
岐阜
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大垣
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34 | 1 | 579 | 546 |
計
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4か所
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149 | 6 | 4,134 | 1,836 |