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労働者災害補償保険の保険給付に要した費用のうち事業主から徴収すべき額を徴収していなかったもの[長野労働局](184)


会計名及び科目
労働保険特別会計(労災勘定) (款)雑収入 (項)雑収入
部局等
長野労働局
費用徴収の根拠
労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)
費用徴収の概要
労働者災害補償保険に係る保険関係の成立に係る届出を行っていない期間中に生じた事故等について、労働者災害補償保険法の規定により保険給付に要した費用の全部又は一部を事業主から徴収するもの
費用徴収を行っていなかった件数及び金額
7件 4,304,985円(平成30年度~令和4年度)

1 費用徴収の概要

(1) 費用徴収

労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「労災保険法」という。)等に基づき、労働者の業務上の事由又は通勤による負傷、疾病等に対して療養の給付等の保険給付等を行うものである。

このうち、保険給付が、事業主が故意又は重大な過失により労災保険に係る保険関係の成立に係る届出を行っていない期間中に生じた事故や、事業主が故意又は重大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故等について行われた場合には、労災保険法の規定により、都道府県労働局(以下「労働局」という。)はその保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を同事業主から徴収すること(以下「費用徴収」という。)ができることとなっている。

(2) 費用徴収の手続

費用徴収は、「未手続事業主に対する費用徴収制度の運用の見直しについて」(平成17年基発第0922001号厚生労働省労働基準局長通達。以下「通達」という。)等に基づき、次のとおり行うこととなっている(参照)。

図 費用徴収の手続(概要)

費用徴収の手続(概要)

ア 労働基準監督署長は、事業主が保険関係が成立した日から1年を経過してもなお労災保険に係る保険関係の成立に係る届出を行っていない期間中に生じた事故であるなど、通達等で定めた費用徴収の対象となる事案について保険給付を行った場合、療養を開始した日(即死の場合は事故発生の日)の翌日から起算して3年以内の期間において、支給事由の生じた当該事故に係る休業補償給付、障害補償給付等の保険給付が行われる都度、都道府県労働局長に対してその旨の保険給付通知書(以下「通知書」という。)を送付する。

イ 都道府県労働局長は、通知書の送付を受けた後、その内容等を踏まえて速やかに費用徴収の必要性の有無の判断を行い、費用徴収を行うべきと判断した事案については通知書の送付を受ける都度、費用徴収の決定(以下「徴収決定」という。)を行い、事業主に対して保険給付の額に厚生労働省で定めた割合を乗じて得た額(以下「徴収金」という。)を徴収する旨を通知するとともに、納入告知書を送付する。そして、これらの手続を行うに当たっては、費用徴収の必要性の有無の判断や徴収金の徴収決定等を行った日付等を記載する管理表(以下「進行管理表」という。)を用いて進捗状況を管理する。

また、労災保険法において準用する「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」(昭和44年法律第84号)の規定により、徴収金を徴収する権利は保険給付から2年を経過したときは、時効によって消滅することとなっている。

2 検査の結果

本院は、合規性等の観点から、労災保険法等に基づき費用徴収が適正に行われているかなどに着眼して、平成30年度から令和3年度までの間に生じた業務上の事由等による事故について行った保険給付を対象として、全国47労働局のうち20労働局及び20労働局管内の116労働基準監督署(以下、労働基準監督署を「監督署」という。)において会計実地検査を行い、通知書等の関係書類を確認するなどの方法により検査した。

検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。

長野労働局管内の5監督署(注1)は、平成30年5月から令和4年2月までの間に生じた業務上の事由による事故により労働者が負傷するなどした事案7件について、平成30年8月から令和4年12月までの間に休業補償給付、障害補償年金等計16,441,248円の給付を行っていた。そして、5監督署は、これらの業務災害の原因となった事故について、事業主が保険関係が成立した日から1年を経過してもなお労災保険に係る保険関係の成立に係る届出を行っていない期間中に生じた事故等であったことから、保険給付を行った後、同労働局へ通知書を送付していた。

(注1)
5監督署  松本、長野、上田、中野、大町各監督署

しかし、同労働局は、5監督署から通知書が送付されているのに、進行管理表を用いて手続の進捗状況を管理しておらず、費用徴収の必要性の有無の判断を行っていないなどしていた。このため、当該7件の休業補償給付、障害補償年金等16,441,248円に係る徴収金計5,810,046円のうち、本来、事業主が重大な過失により労災保険に係る保険関係の成立に係る届出を行っていない期間中に生じた事故等によるものとして費用徴収を行うべきであった計4,304,985円について、徴収決定等を行っておらず、徴収していなかった。そして、このうちの5件(注2)、計1,905,888円については、既に時効が成立しているため、徴収することができない状況となっていた。

(注2)
5件  徴収金の一部について時効が成立した事案4件を含む。

このように、費用徴収を行うべき事案7件の保険給付に係る徴収金計4,304,985円については、徴収されておらず、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同労働局において、費用徴収を行うことの必要性についての認識が欠けていたことなどによると認められる。

なお、時効が成立しているものを除いた徴収金については、本院の指摘により全て徴収決定の処置が執られた。