ページトップ
  • 令和5年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第6 厚生労働省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(2) 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金等の特例貸付の実施に当たり、フォローアップ支援について、都道府県社会福祉協議会と市町村社会福祉協議会等との役割や役割に応じた実施方法を整理し、明確にして、委託等によりフォローアップ支援を実施する場合には、役割に応じた実施方法を委託契約書、仕様書等に明示するよう都道府県社会福祉協議会を指導するとともに、フォローアップ支援等の事業を適切に実施していくことができるよう、都道府県等において、適時適切に債権管理積立額の状況等を確認し、検証するなどの体制を整備するよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)生活保護等対策費
部局等
厚生労働本省、17都府県
補助の根拠
予算補助
補助事業者
17都府県
間接補助事業者(事業主体)
17都府県社会福祉協議会
補助事業
生活福祉資金の貸付け
補助事業の概要
生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金及び総合支援資金に特別の措置を設けて、新型コロナウイルス感染症の影響により収入が減少し生活に困窮している世帯に対し当面の生活費について貸付けを行うなどする事業に対し、国が補助するもの
生活困窮者就労準備支援事業費等補助金(コロナ特例貸付に係る分)交付額
47都道府県2兆0090億8991万円
(令和元年度~4年度)
17都府県社会福祉協議会における前記の補助事業に係る貸付件数及び貸付金額(1)
2,194,526件8242億6092万余円
(令和元年度~4年度)
17都府県社会福祉協議会における前記補助事業の債権管理等事務費に係る国庫補助金交付額(2)
2060億7830万余円
(令和2年度~4年度)
(1)のうち、償還免除者に対するフォローアップ支援の実施体制が整備されておらず、フォローアップ支援が十分に実施されていない事業主体数、償還免除件数及び償還免除額
14都府県社会福祉協議会712,403件2528億5906万円(背景金額)
(令和6年5月末時点)
(1)のうち、滞納者に対するフォローアップ支援の実施体制が整備されておらず、フォローアップ支援が十分に実施されていない事業主体数、滞納件数及び滞納額
10都府県社会福祉協議会631,348件492億7927万円(背景金額)
(令和6年5月末時点)
(2)のうち、債権管理積立額の状況等を確認し、検証するなどの体制が整備されておらず、債権管理積立額が適切に管理されていない事業主体数及び債権管理積立額
13都府県社会福祉協議会1767億7246万円(背景金額)
(令和4年度末時点)
(1)のうち、借入申込者等が生活保護受給者かどうかについての確認体制が整備されておらず、貸付対象とならない生活保護受給者に貸付けが行われていた事業主体数、貸付件数及び貸付金額
16都府県社会福祉協議会4,428件14億3620万円
(令和元年度~4年度)

【意見を表示したものの全文】

新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金等の特例貸付に係るフォローアップ支援の体制整備等の状況について

(令和6年10月22日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 制度の概要

(1) 生活福祉資金貸付制度の概要

貴省は、都道府県の社会福祉協議会(以下「社協」という。)が実施する生活福祉資金貸付事業(以下「貸付事業」という。)の貸付原資や貸付事業の貸付事務の運営費として都道府県が補助金を交付する場合に、都道府県に対して、原則として当該補助金の交付額の一部について、生活困窮者就労準備支援事業費等補助金(以下「国庫補助金」という。)を交付している。

 「生活福祉資金の貸付けについて」(平成21年厚生労働省発社援0728第9号。以下「制度要綱」という。)によれば、貸付事業は、低所得者等の世帯に対して、その経済的自立の助長促進等を図り、安定した生活を送れるようにすることを目的として、都道府県の社協が低所得者等に対して、緊急小口資金、総合支援資金等を貸し付けるとともに、必要な相談支援を行うものとされている。

そして、上記のうち緊急小口資金及び総合支援資金の貸付けに際して、借受人は、制度要綱に基づき、原則として生活困窮者自立支援法(平成25年法律第105号)に基づく自立相談支援事業等による支援を受けることとなっている。また、借受人が都道府県及び市町村(特別区を含む。以下同じ。)の社協(以下、それぞれ「都道府県社協」及び「市町村社協」という。また、所在する都道府県名等を付して「〇〇社協」等ということがある。)や自立相談支援機関(注1)等の関係機関から貸付後の継続的な支援を受けることに同意していることが要件となっている。さらに、「生活困窮者自立相談支援事業等の実施について」(平成27年社援発0727第2号厚生労働省社会・援護局長通知)等によれば、同法に基づく支援として、自立相談支援機関等は、借受人に対する支援の種類及び内容等を記載した自立支援計画を策定することとされている。

(注1)
自立相談支援機関  生活困窮者自立支援法に基づき、自立相談支援事業を実施する都道府県等の機関

(2) 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金等の特例貸付の概要

ア 貸付けの概要

制度要綱等によれば、厚生労働大臣が特に必要と認めるときは、貸付限度額、貸付金の据置期間等について、特別の措置(以下、この措置に基づく貸付けを「特例貸付」といい、通常の貸付けを「通常貸付」という。)を講ずることができることとされている。

そして、貴省は、新型コロナウイルス感染症の影響による休業等から収入が減少し生活に困窮している世帯に貸付けを行い、その生活を支援するために、緊急小口資金及び総合支援資金について、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金等の特例貸付(以下「コロナ特例貸付」という。)を都道府県社協に実施させている。コロナ特例貸付は、令和2年3月から4年9月末までの受付期間に貸付件数382万余件、貸付決定額計1兆4431億3046万余円の貸付決定が行われ、貸付けや償還免除の要件等の緩和や拡大を始めとして、通常貸付で行われる借入申請に際しての面接相談や自立支援計画の策定を不要とするなどの特別の措置が行われている。

イ コロナ特例貸付に関する財源措置

貴省は、コロナ特例貸付の実施に当たり、元年度から4年度までの間に、「生活困窮者就労準備支援事業費等補助金交付要綱」(平成30年厚生労働省発社援1017第4号厚生労働事務次官通知)、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金等の特例貸付の実施について(周知)」(令和2年厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室事務連絡)等に基づき、都道府県社協にコロナ特例貸付の貸付原資として補助金を交付する都道府県に対して、国庫補助金計2兆0090億8991万円(コロナ特例貸付に係る補助率10分の10)を交付している(その後、5年度までに貸付原資の不用額計1365億7042万余円を都道府県社協から返還を受けた都道府県に返還させている。)。

また、上記の貸付原資については、貸付事務の実施に当たり必要な費用や貸付後の長期にわたる償還期間(緊急小口資金2年、総合支援資金10年。以下同じ。)の債権管理等に係る事務の実施に当たり必要と見込まれる費用(以下「債権管理等事務費」という。)に充てることができることになっている。

さらに、都道府県社協は、「生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金等の特例貸付の会計処理について」(令和5年厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室事務連絡。以下「会計処理通知」という。)に基づき、前記の貸付原資から、5年度以降に債権管理等事務費として必要と見込まれる額を一括して4年度末に積み立て(以下、積み立てた額を「債権管理積立額」という。)、5年度以降に債権管理等事務費を支弁する場合には、債権管理積立額から必要な額を支弁することとなっている。

そして、会計処理通知によれば、コロナ特例貸付の財源は、通常貸付とは異なる財源であることなどから適切に管理する必要があるとされており、貸借対照表、資金収支計算書、事業活動計算書の計算書類において、コロナ特例貸付に係る経理と通常貸付に係る経理とを明確に区分することとされている。

一方、貴省は、債権管理積立額の状況等について毎年度報告を求めることなどを交付の条件として付していない。

ウ コロナ特例貸付における貸付審査等

貴省は、生活保護制度において保護を受けている者(以下「生活保護受給者」という。)は既に最低限度の生活が保障されていることから、「生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金等の特例貸付の実施について」(令和2年社援発0311第8号厚生労働省社会・援護局長通知)等により、コロナ特例貸付の貸付けに際しての要件として、生活保護を現に受けることができず、生活費を賄うことができないことなどを定めている。

また、貴省は、コロナ特例貸付を必要とする世帯に対して、必要な額を迅速に貸し付けることが一層重要として、コロナ特例貸付においては、借入申請書類の記載事項や添付書類を削減するなどの借入申請書類の簡素化、借入申請に際しての面接相談や自立支援計画の策定を不要とすることなど、貸付けを行う際の審査等(以下「事前審査」という。)を通常貸付と比べて簡素化している。このため、通常貸付では、借入申請に際しての面接相談、自立支援計画の策定、自立支援計画に基づいた支援の過程等において借入申込者が生活保護受給者かどうかについて把握できていたのに対して、コロナ特例貸付では把握が困難になると見込まれた。これを踏まえて、貴省は、都道府県社協が必要に応じて借入申込者等が生活保護受給者かどうかを確認できるよう、都道府県等に対して、都道府県社協から照会があった場合には適切に協力すること、コロナ特例貸付に係る収入について福祉事務所への未申告等が判明した場合には、生活保護法(昭和25年法律第144号)に基づき適切に対応することを依頼している。ただし、貴省は都道府県等に対して、具体的な確認方法及び対応方針については示していない。

エ 償還免除

コロナ特例貸付では、償還時になお所得の減少が続く住民税非課税世帯の償還を免除することとしており、償還免除を判定する年度において、借受人及び同一の住民票に記載されている世帯主の住民税が非課税となっている場合等に、償還が免除されることとなっている。そして、6年3月末時点において、償還免除となっている貸付けは計131万余件と多数に上っており、償還免除額は計4684億8959万余円となっている。

(3) コロナ特例貸付における借受人に対する対応

貴省は、現に生活に困窮している借受人を早期に支援することが重要であるとして、都道府県社協等に対して、特に支援が必要と考えられる借受人に対する対応として、次のア及びイの支援等を行うことなどを定めた「緊急小口資金等の特例貸付の借受人へのフォローアップ支援について」(令和4年厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室長事務連絡)等(以下「フォローアップ支援通知」という。)を発出している。

ア 償還免除者及び滞納者に対する支援

償還免除を行った借受人(以下「償還免除者」という。)並びに償還の案内等に応答がない借受人及び償還が遅延している借受人(以下、これらを合わせて「滞納者」という。)に対して、可能な限り訪問等のアウトリーチによる積極的なフォローアップ支援(以下「フォローアップ支援」という。)により、その生活状況を把握し、必要に応じて自立相談支援機関等の関係機関につなぐ(情報共有等を行うことをいう。以下同じ。)などの対応を行う。

イ フォローアップ支援の実施体制の整備

アの実施に当たっては、都道府県社協の主導により、地域の実情に応じて、関係機関との連携体制づくりを行う。また、連携体制づくりに当たっては、都道府県社協と市町村社協との役割の整理並びに円滑な相談支援の仕組み及び相互に情報共有できる仕組みの構築の検討を行う。

このほか、フォローアップ支援通知において、償還を猶予することが認められている者(以下「償還猶予者」という。)に対する償還猶予期間中の支援の取扱いが示されており、都道府県社協又は市町村社協は、償還猶予者の生活状況を把握し、必要に応じて自立相談支援機関等の関係機関につなぐなどの対応を行うこととなっている。

そして、前記のとおり、貸付金に係る償還期間は長期にわたることから、今後フォローアップ支援についても長期にわたって実施されることになり、その実施に当たって必要な費用は、債権管理等事務費に含まれている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

コロナ特例貸付においては、償還免除件数が前記のとおり多数に上っていて、現に生活に困窮している借受人への早期の支援が求められている一方で、通常貸付で行われる借入申請に際しての面接相談や自立支援計画の策定は不要とされ、自立支援計画に基づく支援も行われないこととなっている。特に、償還の案内等が不要となるなどの償還免除者や償還の案内等に応答がないなどの借受人は、償還猶予者と比べて生活状況の把握が難しく、これらの者を早期に支援するためには、都道府県社協等によるフォローアップ支援の実施が一層重要になる。そして、長期にわたって実施されることになるフォローアップ支援等のために債権管理積立額が適切に管理されることが重要である。また、事前審査が簡素化された中でコロナ特例貸付の貸付対象とならない者に貸付けが行われていないか検証するとともに、貸付対象とならない者に対する貸付けが継続することのないよう、貸付後における確認(以下「事後確認」という。)が重要である。

そこで、本院は、有効性等の観点から、コロナ特例貸付について、フォローアップ支援の実施体制が整備されフォローアップ支援が実施されているか、フォローアップ支援の財源となる債権管理積立額が適切に管理等されているか、借入申込者等が生活保護受給者かどうかについての確認体制が整備され貸付対象とならない者に貸付けが行われていないかなどに着眼して、17都府県(注2)社協において、元年度から4年度までにコロナ特例貸付として貸付決定された計2,194,526件に係る貸付決定額計8242億6092万余円及び2年度から4年度までの債権管理等事務費計2060億7830万余円を対象として検査した。

検査に当たっては、17都府県社協において、フォローアップ支援に関する関係書類、計算書類等を確認するとともに、貴省及び17都府県において、債権管理積立額の管理の状況等を聴取するなどして会計実地検査を行った。また、17都府県社協及び17都府県から上記に関する調書の提出を受けるなどして検査した。

(注2)
17都府県  東京都、大阪府、宮城、栃木、神奈川、福井、長野、静岡、愛知、三重、滋賀、和歌山、広島、徳島、福岡、長崎、鹿児島各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) フォローアップ支援の実施体制が整備されておらず、フォローアップ支援が十分に実施されていない事態

17都府県社協における償還免除者(6年5月末時点における償還免除件数計750,266件、償還免除額計2667億5653万余円)及び滞納者(同滞納件数計775,299件、滞納額計598億8497万余円)に対するフォローアップ支援の実施体制や実施状況等を確認したところ、次のような状況となっていた。

ア 償還免除者に対するフォローアップ支援

滋賀県社協は、自ら訪問等を行うことにより借受人の生活状況を把握して、当該借受人に必要となる支援に応じて自立相談支援機関等の関係機関につなぐなどの対応を実施するため、関係機関と調整の上で役割に応じた実施方法を明示した事業計画を策定するなどして実施体制を整備し、償還免除者に対するフォローアップ支援を実施していた。滋賀県社協を除く16都府県(注3)社協のうち、11都府県(注4)社協は、償還免除者に対するフォローアップ支援の実施を市町村社協等に委託するなどしていた。しかし、このうち9都府県(注5)社協は、委託契約書、仕様書等において、償還免除者に対する都府県社協と市町村社協等との役割を整理し、明確にして、役割に応じた実施方法を明示するなどの実施体制を整備していなかった。このため、9都府県社協がフォローアップ支援の実施を委託するなどしていた市町村社協等の中には、役割に応じた実施方法が分からないなどとして償還免除者に対するフォローアップ支援を一切実施していない市町村社協等が見受けられた。

一方、残りの5県(注6)社協では、償還猶予者に対する支援を優先していたことなどから、償還免除者に対するフォローアップ支援を実施することとしておらず、実施体制を整備していなかった。

このように、上記5県社協と前記9都府県社協の計14都府県(注7)社協(6年5月末時点における償還免除件数計712,403件、償還免除額計2528億5906万余円)においては、償還免除者に対するフォローアップ支援の実施体制が整備されておらず、フォローアップ支援が十分に実施されていなかった。

(注3)
16都府県  東京都、大阪府、宮城、栃木、神奈川、福井、長野、静岡、愛知、三重、和歌山、広島、徳島、福岡、長崎、鹿児島各県
(注4)
11都府県  東京都、大阪府、福井、長野、静岡、愛知、和歌山、広島、徳島、長崎、鹿児島各県
(注5)
9都府県  東京都、大阪府、福井、長野、静岡、愛知、広島、長崎、鹿児島各県
(注6)
5県  宮城、栃木、神奈川、三重、福岡各県
(注7)
14都府県  東京都、大阪府、宮城、栃木、神奈川、福井、長野、静岡、愛知、三重、広島、福岡、長崎、鹿児島各県

イ 滞納者に対するフォローアップ支援

滋賀、福岡両県社協は、自ら訪問等を行うことにより借受人の生活状況を把握して、当該借受人に必要となる支援に応じて自立相談支援機関等の関係機関につなぐなどの対応を実施するため、関係機関と調整の上で役割に応じた実施方法を明示した事業計画を策定するなどして実施体制を整備し、滞納者に対するフォローアップ支援を実施していた。滋賀、福岡両県社協を除く15都府県(注8)社協のうち12都府県(注9)社協は、滞納者に対するフォローアップ支援の実施を市町村社協等に委託するなどしていた。しかし、このうち9都府県(注10)社協は、委託契約書、仕様書等において、滞納者に対する都府県社協と市町村社協等との役割を整理し、明確にして、役割に応じた実施方法を明示するなどの実施体制を整備していなかった。

そして、上記9都府県社協のうち、7都府県(注11)社協がフォローアップ支援の実施を委託するなどしていた市町村社協等の中には、役割に応じた実施方法が分からないなどとして滞納者に対するフォローアップ支援を一切実施していない市町村社協等が見受けられた。なお、9都府県社協のうち福井、静岡両県社協では、通常貸付において役割に応じた実施方法を明示していたことや市町社協等にフォローアップ支援通知に関する説明を実施していたことなどから、全ての市町社協等において訪問等によるフォローアップ支援が実施されていた。

一方、残りの宮城、栃木、神奈川各県社協では、償還猶予者に対する支援を優先していたことなどから、滞納者に対するフォローアップ支援を実施することとしておらず、実施体制を整備していなかった。

このように、宮城、栃木、神奈川各県社協と前記7都府県社協の計10都府県(注12)社協(6年5月末時点における滞納件数計631,348件、滞納額計492億7927万余円)においては、滞納者に対するフォローアップ支援の実施体制が整備されておらず、フォローアップ支援が十分に実施されていなかった。

(注8)
15都府県  東京都、大阪府、宮城、栃木、神奈川、福井、長野、静岡、愛知、三重、和歌山、広島、徳島、長崎、鹿児島各県
(注9)
12都府県  東京都、大阪府、福井、長野、静岡、愛知、三重、和歌山、広島、徳島、長崎、鹿児島各県
(注10)
9都府県  東京都、大阪府、福井、長野、静岡、愛知、三重、長崎、鹿児島各県
(注11)
7都府県  東京都、大阪府、長野、愛知、三重、長崎、鹿児島各県
(注12)
10都府県  東京都、大阪府、宮城、栃木、神奈川、長野、愛知、三重、長崎、鹿児島各県

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

三重県社協では、償還免除者に対するフォローアップ支援について、償還猶予者等に対するフォローアップ支援と比較して優先度を相対的に低く考えていたとして、償還免除者に対して実施することとせず、実施体制を整備していなかった。

また、滞納者に対するフォローアップ支援について、借受人が居住する市町の県内29市町社協に業務を委託することにより実施することとしていたが、三重県社協は、通常貸付で使用している委託契約書をそのまま使用し、フォローアップ支援に係る業務を新たに書き加えることや別途仕様書を作成することなどをしておらず、委託契約書、仕様書等において、三重県社協と市町社協等との役割を整理し、明確にして、役割に応じた実施方法を明示するなどの実施体制を整備していなかった。

そこで、委託先の29市町社協における滞納者に対するフォローアップ支援の実施状況等を確認したところ、14市町社協では、実施方法が分からなかったことなどから滞納者に対するフォローアップ支援を一切実施していなかった。そのうち5市町社協では、三重県社協から滞納者に関する情報提供も受けておらず、フォローアップ支援の対象者すら把握していなかった。

ア及びイのとおり、14都府県(注13)社協において、フォローアップ支援通知を踏まえた実施方法を委託契約書、仕様書等に明示するなどして実施体制を整備しておらず、償還免除者や滞納者に対するフォローアップ支援が十分に実施されていなかった。

(注13)
14都府県  東京都、大阪府、宮城、栃木、神奈川、福井、長野、静岡、愛知、三重、広島、福岡、長崎、鹿児島各県

(2) 債権管理積立額の状況等を確認し、検証するなどの体制が整備されておらず、債権管理積立額が適切に管理されていない事態

前記のとおり、都道府県社協にコロナ特例貸付の貸付原資として補助金を交付する都道府県に対して、貴省から国庫補助金(補助率10分の10)が交付されており、5年度以降に必要と見込まれる債権管理等事務費については、コロナ特例貸付の貸付原資から債権管理積立額として積み立てられることとなっている。そして、貴省は、債権管理積立額の状況等について毎年度報告を求めることなどを交付の条件として付しておらず、債権管理積立額の状況等について確認し、検証するなどしていない。

そこで、17都府県における債権管理積立額の管理の状況等について検査したところ、広島県を除く16都府県(注14)では、16都府県社協に対して4年度に補助金を交付したことをもって事業が完了したとしていたこと、貴省から特段の指示がなかったことなどから、債権管理積立額の状況等を確認し、検証するなどしていなかった。

さらに、17都府県社協の4年度末時点の債権管理積立額を計算書類で確認するなどしたところ、会計処理の方法についての理解が十分でなかったことなどから、13都府県(注15)社協において、コロナ特例貸付に係る経理と通常貸付等に係る経理とが明確に区分されておらず、5年度以降に必要と見込まれる債権管理等事務費の一部が債権管理積立額として積み立てられていないなど債権管理積立額が適切に管理されていなかった。

このため、13都府県社協(4年度末時点における債権管理積立額1767億7246万余円)については、債権管理積立額が適切に管理されていないことなどから、今後、長期にわたり実施されるフォローアップ支援の実施等に支障を来すおそれがあると認められる。したがって、貴省や都道府県において、適時適切に債権管理積立額の状況等を確認し、検証するなどの体制を整備する必要がある。

(注14)
16都府県  東京都、大阪府、宮城、栃木、神奈川、福井、長野、静岡、愛知、三重、滋賀、和歌山、徳島、福岡、長崎、鹿児島各県
(注15)
13都府県  東京都、大阪府、宮城、栃木、神奈川、福井、長野、静岡、愛知、三重、滋賀、和歌山、鹿児島各県

(3) 借入申込者等が生活保護受給者かどうかについての確認体制が整備されておらず、貸付対象とならない生活保護受給者に貸付けが行われていた事態

貴省は、前記のとおり、事前審査を簡素化することにより、貸付けの迅速化を図っている。その一方で、都道府県社協が必要に応じて借入申込者等が生活保護受給者かどうか確認できるよう都道府県等に対して協力依頼をしていたものの、具体的な確認方法及び対応方針については示していない。

そこで、17都府県社協に対して、借入申込者等が生活保護受給者かどうかに関して事前審査や事後確認を行う体制を整備しているかなどについて検査したところ、徳島県社協を除く16都府県(注16)社協は、貴省からの指示がなかったことなどから、そのような体制を整備しておらず、外部からの通報等により不正が疑われる場合等を除いて、生活保護受給者かどうかを十分に確認していなかった。

このため、16都府県社協において、16都府県社協が保有する借受人の情報と16都府県等が保有する生活保護受給者の情報とを突合するなどして確認したところ、貸付けを受けた際に既に生活保護受給者であったものが、貸付件数計4,428件、貸付金額計14億3620万余円見受けられた。なお、外部からの通報等により不正が疑われたことなどにより、16都府県社協が確認して、把握していたものが、貸付件数計1,392件、貸付金額計4億5534万余円あった。

したがって、事前審査が簡素化されたコロナ特例貸付について、貸付対象とならない者に貸付けが行われていないか検証するとともに、貸付対象とならない者に対する貸付けが継続することのないよう、事後確認を行う体制を整備する必要がある。

(注16)
16都府県  東京都、大阪府、宮城、栃木、神奈川、福井、長野、静岡、愛知、三重、滋賀、和歌山、広島、福岡、長崎、鹿児島各県

(改善を必要とする事態)

フォローアップ支援の実施体制が整備されておらず、フォローアップ支援が十分に実施されていない事態、債権管理積立額の状況等を確認し、検証するなどの体制が整備されておらず、債権管理積立額が適切に管理されていない事態及び借入申込者等が生活保護受給者かどうかについての確認体制が整備されておらず、貸付対象とならない生活保護受給者に貸付けが行われていた事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。

ア 都道府県社協に対して、フォローアップ支援について、都道府県社協と市町村社協等との役割を整理し、明確にして、委託等によりフォローアップ支援を実施する場合には、役割に応じた実施方法を委託契約書、仕様書等に明示するよう指導していなかったこと

イ 都道府県社協が適切にフォローアップ支援等の事業を実施していくことができるよう、貴省又は都道府県において、適時適切に債権管理積立額の状況等を確認し、検証するなどの体制を整備することの必要性についての認識が欠けていたこと

ウ 事前審査を簡素化するなどしたコロナ特例貸付において、貸付対象とならない生活保護受給者が借受人となっていないかについて事後確認を行うことの必要性に関する検討が十分でなく、都道府県社協等に対して、指導を十分していなかったこと

3 本院が表示する意見

都道府県社協によるコロナ特例貸付の新規の貸付けは既に終えているが、生活に困窮している借受人を支援するため、貴省は、フォローアップ支援を引き続き適切に実施していくとともに、フォローアップ支援等の財源となる債権管理等事務費が適切に執行されているかなどを適時適切に確認し、検証するなどしていく必要がある。また、迅速な貸付けのために、事前審査の簡素化が行われるなどしていることから貸付対象とならない者に貸付けが行われていないか検証するとともに、貸付対象とならない者に対する貸付けが継続することのないよう、事後確認等を適切に行うことが求められる。

貴省は、これらの事態に係る本院の指摘を受けて、事前審査を簡素化するなどしたコロナ特例貸付について、貸付対象とならない生活保護受給者に対する事後確認を行う体制を整備することとして、6年9月に都道府県等及び都道府県を通じて都道府県社協に対して、事後確認等を実施する旨の事務連絡を発出し、その方法を明示するなどして事後確認等を行える体制を整備させるとともに、コロナ特例貸付に係る収入について福祉事務所への未申告等が判明した場合には、生活保護法に基づき適切に対応するための具体的な対応方針を周知した。

ついては、貴省において、上記に加えて、今後、フォローアップ支援の実施、債権管理積立額の管理等が適切に行われるよう、次のとおり意見を表示する。

ア 都道府県社協に対して、都道府県社協と市町村社協等との役割や役割に応じた実施方法を整理し、明確にして、委託等によりフォローアップ支援を実施する場合には、役割に応じた実施方法を委託契約書、仕様書等に明示するよう指導すること

イ 都道府県社協が適切にフォローアップ支援等の事業を実施していくことができるよう、貴省又は都道府県において、適時適切に債権管理積立額の状況等を確認し、検証するなどの体制を整備すること