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  • 令和5年度|
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  • (2) 工事の設計が適切でなかったもの

覆式落石防護網工の設計が適切でなかったもの[林野庁](200)


(1件 不当と認める国庫補助金 2,697,541円)

 
部局等
補助事業者等
間接補助事業者等
補助事業等
年度
事業費
国庫補助対象事業費
左に対する国庫補助金等交付額
不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
不当と認める国庫補助金等相当額
            千円 千円 千円 千円
(200)
林野庁
長崎県
平戸市
(事業主体)
地方創生道整備推進交付金
4 35,007
(35,007)
10,500 8,993
(8,993)
2,697

平戸市は、平戸市大石脇町地内の林道宇戸線において、山側の切土法面からの落石を予防するために、覆式落石防護網工、モルタル吹付工等の落石対策工を実施している。このうち覆式落石防護網工は、地山との結合力を失った岩石を金網と地山の摩擦及び金網の張力によって拘束するもので、同地内の2工区の延長計117.5ⅿにわたり、径12㎜のワイヤーロープを縦方向に計36本、横方向に計6本配置(以下、縦方向のワイヤーロープを「縦ロープ」といい、横方向のワイヤーロープを「横ロープ」という。)し、それらと金網とを結合コイルで連結させた落石防護網計1,427.2㎡を、アンカーで地山に固定するものである(参考図1参照)。

同市は、本件法面の落石対策を「長崎県林道事業設計積算資料」(令和3年4月長崎県農林部森林整備室作成。以下「設計資料」という。)に基づき行っており、設計資料によれば、切土法面で、落石の発生や、表層の部分的な滑落のおそれがある場合には、落石防護網工等により対策を行うこととされており、落石防護網工の設計等の詳細は、落石対策便覧(公益社団法人日本道路協会編。以下「便覧」という。)を参照することとされている。

そして、便覧によれば、落石対策の実施に当たっては、現地調査により浮石や転石の位置、規模、安定性等の調査(以下、これらの調査を合わせて「安定性等の調査」という。)を行うなどして、落石対策工の工法を選定するなどとされている。また、覆式落石防護網工に使用する縦ロープ、横ロープ等の各部材の設計については、所定の範囲の斜面内で発生し得る落石の重量等による荷重から、縦ロープ及び横ロープに作用する張力をそれぞれ算出して、これらの張力でワイヤーロープの破断荷重を除した値である安全率を2以上とすることなどとされている(参考図2参照)。

しかし、同市は、安定性等の調査を行うことなく、落石防護網の製造メーカーのカタログを参考にして、落石防護網工の工法の一つである覆式落石防護網工により施工することとしていた。そして、事前に行った現地調査において、林道上に落下していた岩石が小規模なものであったことから、上記のカタログ等に記載されている最小規格の部材を用いるなどすれば、落石を防止することができると判断して、覆式落石防護網工に用いる各部材の設計計算を実施しないまま、縦ロープ及び横ロープの径を12㎜と決定していた。

このように、同市において、安定性等の調査及び各部材の設計計算が実施されていなかったことから、本件覆式落石防護網工は、設計上、便覧に基づく所要の安全度が確保されているかを確認できない状況となっていた。

そこで、本件法面について安定性等の調査を実施したところ、地山から完全に分離しているなど、便覧において最も低い安定状態とされている「近い将来必ず滑落すると考えられるもの」に該当する岩石が、2工区計29個(重量0.1t~11.1t)存在した。そして、上記岩石の滑落を想定して、便覧に基づき、本件覆式落石防護網工に用いる各部材について改めて設計計算を行ったところ、縦ロープは2工区計36本のうち11本の安全率が0.97から1.90まで、横ロープは2工区計6本のうち4本の安全率が0.72から1.89までとなっていて、必要とされる安全率2を大幅に下回るなどしていた。

したがって、本件覆式落石防護網工1,427.2㎡(工事費相当額計8,993,732円)は、設計が適切でなかったため、落石を防止するための所要の安全度が確保されていない状態となっていて、工事の目的を達しておらず、これに係る交付金相当額計2,697,541円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同市において、安定性等の調査や、各部材の設計計算が必要であることの認識が欠けていたことなどによると認められる。

(参考図1)

覆式落石防護網工の概念図

覆式落石防護網工の概念図

(参考図2)

ワイヤーロープに作用する張力等の概念図

ワイヤーロープに作用する張力等の概念図