農林水産省は、土地改良法(昭和24年法律第195号)等に基づき、農業の生産性の向上等に資することなどを目的として、農業用用排水施設、農業用道路その他農用地の保全又は利用上必要な施設の新設等の土地改良事業を、自ら事業主体となって実施している。また、同省は、都道府県、市町村等(以下「都道府県等」という。)が事業主体となって同事業を実施する場合に、事業の実施に要する経費の一部を補助している。
農林水産省は、土地改良事業における請負工事の積算の適正を期することなどを目的として、「土地改良事業等請負工事の価格積算要綱」(昭和52年52構改D第24号農林水産事務次官)、「土地改良工事数量算出要領(案)」(農村振興局整備部設計課施工企画調整室)等(以下、これらを合わせて「要綱等」という。)を定めている。また、同省は、都道府県に対して要綱等を送付するなどしており、都道府県は、管内の市町村等に対して要綱等を送付するなどしている。そして、同省は、自ら事業主体となって同事業を実施する場合、請負工事の積算を要綱等に基づいて行うこととしており、また、都道府県等は、自ら事業主体となって同事業を実施する場合、当該積算を要綱等を準用するなどして行っている。
各事業主体は、土地改良事業の実施に当たり、河川の仮締切り、仮設道路の設置等の仮設工等に多くの大型土のうを使用している。
要綱等によれば、土砂の体積(以下「土量」という。)については、土砂の状態に応じて変化するため、地山の状態の土量(以下「地山土量」という。)、地山を掘りゆるめた状態の土量(以下「ほぐした土量」という。)等に区分して考えることとされている。そして、土量の算出に当たっては、必要に応じて土砂の状態に応じた土量変化率(注1)を用いて異なる状態の土量に換算することになっている(参考図参照)。
(参考図)
土砂の状態の変化に応じた土量の変化の概念図(土量変化率が1.2の場合)
ア 土砂運搬費の算定の際に用いる運搬土量
要綱等によれば、土砂の運搬費の算定に当たり、運搬土量は、地山土量で算出することとされている。一方、大型土のう1袋を製作する際は、ほぐした土量で1㎥の土砂を詰めることを標準とするとされている。このため、大型土のうの製作及び撤去に係る土砂の運搬費(以下「土砂運搬費」という。)の算定に当たっては、ほぐした土量を土量変化率で除するなどして地山土量に換算して、運搬土量を算出する必要がある。
イ 購入費等の算定の際に用いる購入等土量
各事業主体が大型土のうを使用する際には、製作に当たって土砂を購入する必要や、撤去に当たって製作時に詰めた土砂を他の建設工事現場ではなく残土処分場等に搬出して有料で処理する必要が生ずる場合がある(以下、当該購入又は処理に要する費用を「購入費等」といい、当該購入又は処理を行う土量を「購入等土量」という。)。各事業主体は、購入費等の算定に用いる単価について、土砂の状態に係る条件(以下「土砂条件」という。)を定めて単価を決定している。このため、購入費等の算定に当たっては、実際に取り扱う土量を土砂条件に応じた状態の土量に換算するなどして購入等土量を算出する必要がある。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、大型土のうの製作及び撤去に係る運搬土量及び購入等土量の算出は適切に行われているかなどに着眼して、8農政局等(注2)管内の35事業所等、17道府県(注3)及び12道府県(注4)管内の43市町村等の計95事業主体が、令和3、4両年度に完了した土地改良事業の請負工事(契約年度は元年度から4年度まで)のうち、大型土のうを100袋以上使用し、かつ、土砂運搬費又は購入費等を計上している請負工事計323工事(直轄事業111工事(工事費計279億4633万余円、土砂運搬費及び購入費等計1億0535万余円)、補助事業212工事(工事費計140億1647万余円、土砂運搬費及び購入費等計1億6264万余円(国庫補助金等相当額計1億0615万余円))を対象として検査を実施した。
検査に当たっては、農林水産本省、8農政局等、8農政局等管内の4事業所等及び17道府県において、設計書、工事図面等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、対象とした95事業主体から調書の提出を受けてその内容を分析するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、運搬土量及び土砂条件が地山の状態となっている場合の購入等土量について、ほぐした土量を地山土量に換算する必要があったのに、ほぐした土量のまま算出していたものが、95事業主体の323工事のうち、70事業主体の219工事(直轄事業29事業主体84工事(土砂運搬費及び購入費等計8494万余円)、補助事業41事業主体135工事(土砂運搬費及び購入費等計1億0686万余円(国庫補助金等相当額計6909万余円)))において見受けられた。そして、当該219工事について、ほぐした土量を地山土量に換算するなどして運搬土量及び購入等土量を算出し、これにより改めて土砂運搬費及び購入費等を算定したところ、直轄事業で計7627万余円、補助事業で計9240万余円となり、それぞれ866万余円及び1445万余円(国庫補助金等相当額953万余円)が過大に算定されていたと認められた。
このように、土砂運搬費等の算定に当たり、運搬土量等について、要綱等及び土砂条件に基づいてほぐした土量を地山土量に換算する必要があったのに、多くの事業主体において、ほぐした土量のまま算出していたため、運搬土量等が過大に算出されていて、土砂運搬費及び購入費等が過大に算定されていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、事業主体において、運搬土量等について、地山土量に換算するなどして適切に算出することについての認識が欠けていたことにもよるが、農林水産本省において、運搬土量等についてほぐした土量を地山土量に換算するなどして算出することについて、農政局等及び都道府県等に対する周知が十分でなかったことなどによると認められた。
本院の指摘に基づき、農林水産本省は、運搬土量等の算出が適切に行われるよう、6年7月に農政局等に対して事務連絡を発するなどして、運搬土量等について要綱等及び土砂条件に基づいてほぐした土量を地山土量に換算するなどして算出することについて、農政局等及び都道府県等に対して周知するなどの処置を講じた。