(2件 不当と認める国庫補助金 19,382,449円)
部局等
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補助事業者等
(事業主体) |
補助事業等
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年度
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事業費
国庫補助対象事業費
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左に対する国庫補助金等交付額
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不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
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不当と認める国庫補助金等相当額
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千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||
(220) |
千葉県
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千葉県
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事業間連携砂防等
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4 | 41,281 (39,217) |
19,608 | 38,537 (36,610) |
18,305 |
(221) |
鹿児島県
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鹿児島県
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防災・安全交付金(急傾斜地崩壊対策)
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4、5 | 25,498 (20,398) |
10,199 | 2,693 (2,154) |
1,077 |
(220)(221)の計 | 66,779 (59,616) |
29,808 | 41,230 (38,764) |
19,382 |
2県は、鴨川市天津地内及び曽於市財部(たからべ)町片平地内において、急傾斜地で発生する崩壊土砂から人家等を保全するために、擁壁工、落石防護柵工等を実施している。
このうち、擁壁工は、急傾斜地からの崩壊土砂を待ち受けて捕捉するための擁壁(以下「待受式擁壁」という。)を築造するものである。
2県は、本件待受式擁壁の設計を「道路土工 擁壁工指針」(社団法人日本道路協会編。以下「指針」という。)等に基づいて行うこととしている。そして、本件工事の設計業務を設計コンサルタントに委託し、設計図面、設計計算書等の成果品を検査して受領した上で、この成果品に基づき施工することとしていた。
指針等によれば、待受式擁壁の設計に当たっては、待受式擁壁に作用する力を考慮して、滑動、転倒等に対する安定性の検討を行い、所定の安全率を確保するなどしなければならないこととされており、待受式擁壁に作用する力は、自重、裏込め土圧等の通常の荷重に加えて、崩壊土砂による衝撃力(以下「衝撃力」という。)等を考慮することとされている。このうち、衝撃力については、崩壊土砂の先頭部が擁壁に作用するものとして、急傾斜地の高さ、急傾斜地の下端から擁壁背面までの水平距離(以下「水平距離」という。)等を基にするなどして算定することとされている。そして、急傾斜地の高さは斜面全体の高さとされており、急傾斜地の高さが高く、水平距離が短いほど衝撃力が大きくなり、擁壁を転倒させようとする力も大きくなる(参考図1参照)。
しかし、千葉県は、待受式擁壁の設計に当たり、衝撃力の算定において、急傾斜地の高さについて、誤って斜面途中の傾斜が変化する地点までの高さとするとともに、水平距離について、誤って擁壁背後の切土の法肩から擁壁背面までの距離としていたため、衝撃力作用時において待受式擁壁に作用する力を過小に算定していた。また、鹿児島県は、待受式擁壁の設計に当たり、衝撃力の算定において、急傾斜地の高さについて、誤って斜面対策工を行っている高さとしていたため、衝撃力作用時において待受式擁壁に作用する力を過小に算定していた。
そこで、本件待受式擁壁について、現地の状況を踏まえて、指針等に基づき、改めて安定計算を行ったところ、衝撃力作用時において、滑動に対する安定については鹿児島県において安全率が許容値を大幅に下回り、転倒に対する安定については2県において擁壁に作用する衝撃力等による水平荷重及び擁壁の自重等による鉛直荷重の合力の作用位置(以下「合力の作用位置」という。)が転倒に対して安全であるとされる範囲を大幅に逸脱するなどしていた。
したがって、本件待受式擁壁(工事費相当額計41,230,433円、国庫補助対象事業費計38,764,900円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態となっており、これらに係る国庫補助金等相当額計19,382,449円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、2県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのにこれに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
千葉県は、鴨川市天津地内において、令和4年度に、急傾斜地で発生する崩壊土砂から人家等を保全するために、待受式擁壁(延長計37.7ⅿ、高さ6.0ⅿ、擁壁底面幅2.0ⅿ)の築造等を実施していた。
同県は、待受式擁壁の設計に当たり、現地調査等により設定した5か所の測点のうち、1か所を代表となる断面に設定して、衝撃力を算定していた。しかし、急傾斜地の高さについて、誤って斜面途中の傾斜が変化する地点までの高さ(14.4ⅿ)とするとともに、水平距離について、誤って擁壁背後の切土の法肩から擁壁背面までの距離(2.0ⅿ)としていた(参考図2参照)。
そこで、同県が設定した5か所の測点において測定した斜面全体の高さ15.5ⅿから43.5ⅿまで並びに水平距離0.8ⅿ及び1.5ⅿを用いて、指針等に基づき改めて安定計算を行ったところ、衝撃力作用時において、転倒に対する安定については合力の作用位置が擁壁底面のつま先より擁壁前面側に0.03ⅿの位置から同じく擁壁背面側に0.60ⅿの位置までとなり転倒に対して安全であるとされる範囲(擁壁底面のつま先から擁壁背面側に0.66ⅿの位置より後方)を大幅に逸脱するなどしていた(参考図2参照)。
したがって、本件待受式擁壁(工事費相当額38,537,029円、国庫補助対象事業費36,610,177円、国庫補助金相当額18,305,088円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態となっていた。
(参考図1)
待受式擁壁の概念図
(参考図2)
適切な安定計算による待受式擁壁の概念図