(1件 不当と認める国庫補助金 73,328,483円)
部局等
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補助事業者等
(事業主体) |
補助事業等
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年度
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事業費
国庫補助対象事業費
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左に対する国庫補助金等交付額
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不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
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不当と認める国庫補助金等相当額
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千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||
(226) |
長野県
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長野県
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道路メンテナンス
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2、3 | 140,536 (140,536) |
77,294 | 133,324 (133,324) |
73,328 |
長野県は、下伊那郡下條村において、地震時における緊急輸送道路に指定されている国道151号に架かる吉岡城南大橋(昭和52年築造。橋長300.0ⅿ、6径間)について、橋脚の基礎の形式が直接基礎となっている第4橋脚(橋脚高さ17.0ⅿ)及び第5橋脚(橋脚高さ25.1ⅿ)に係る耐震補強等を実施している。
このうち耐震補強について、同県は、第4、第5両橋脚の柱部に鉄筋コンクリートを巻き立てる方法(以下「鉄筋コンクリート巻立て工」という。)により実施している。
同県は、本件耐震補強の設計を「道路橋示方書・同解説」(平成24年版。社団法人日本道路協会編)、「既設道路橋の耐震補強に関する参考資料」(平成9年版。社団法人日本道路協会編)等(以下、これらを合わせて「示方書等」という。)に基づいて行うこととしている。
示方書等によれば、橋りょうの耐震設計に当たっては、橋りょうを構成する各部材及び橋りょう全体が必要な耐震性を有するように配慮しなければならないとされており、部材ごとに耐震性能の照査方法が定められている。橋脚の耐震設計のうち基礎部分については、部材に生ずる断面力(曲げモーメント(注1)及びせん断力(注2))が、当該部材の耐力(降伏曲げモーメント(注1)及びせん断耐力(注2))以下となることなどを照査しなければならないとされ、レベル2地震動(注3)を考慮してフーチング(注4)の照査を行う必要があるとされている。そして、既設の橋脚に係る耐震補強の設計に当たっては、柱部における耐震補強の方法(鉄筋コンクリート巻立て工等)を決定して照査を行った上で、その方法に応じたフーチングの照査を行い、フーチングを含めた橋脚全体について、設計計算上安全なものとなるよう検討する必要があるとされている。
同県は、本件工事の設計業務の委託に当たり、平成7年兵庫県南部地震において橋りょうの橋脚の柱部に多数の被害が生じていたことから、第4、第5両橋脚に係る耐震補強の設計の範囲を橋脚の柱部に限定し、直接基礎となっているフーチングを含めた橋脚全体について耐震性を有するように設計することを指示していなかった。そして、第4、第5両橋脚の柱部に係る耐震補強を鉄筋コンクリート巻立て工により実施することとし、橋脚の柱部に作用する慣性力(注5)が地震時保有水平耐力を下回ることなどから設計計算上安全であるとして、耐震補強を実施していた。
しかし、示方書等では、柱部における耐震補強の方法に応じたフーチングの照査を行い、フーチングを含めた橋脚全体について、設計計算上安全であることを確認する必要があることとされている。そこで、橋脚の柱部に鉄筋コンクリート巻立て工による耐震補強を行った第4、第5両橋脚のフーチングについて、レベル2地震動が作用した場合に設計計算上安全であるか確認したところ、表のとおり第4、第5両橋脚のフーチングに生ずる断面力である最大の曲げモーメント及び最大のせん断力は、フーチングの耐力である最大の降伏曲げモーメント及び最大のせん断耐力をいずれも大幅に上回るなどして、安全とされる範囲に収まっていなかった(参考図参照)。
表 第4、第5両橋脚のフーチングに生ずる断面力と耐力の照査結果(抜粋)
橋脚名 | 断面力 | 耐力 | ||
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曲げモーメント (kN・ⅿ/ⅿ) |
せん断力 (kN) |
降伏曲げモーメント (kN・ⅿ/ⅿ) |
せん断力 (kN) |
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第4橋脚 | 5,364.8 | 2,150.2 | 3,239.5 | 1,498.6 |
第5橋脚 | 7,583.9 | 2,666.9 | 4,132.9 | 1,893.9 |
したがって、第4、第5両橋脚の耐震補強(工事費相当額133,324,515円(国庫補助対象事業費同額))は、設計が適切でなかったため、地震時に所要の安全度が確保されていない状態になっていて、橋脚全体として耐震性を有していないことから工事の目的を達しておらず、これに係る国庫補助金相当額73,328,483円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、同県において、橋脚の耐震補強を実施する際に、フーチングを含めた橋脚全体において耐震補強が必要であることの認識が欠けていたことなどによると認められる。
(参考図)
橋りょうの橋脚及び耐震補強工事の概念図