【是正改善の処置を求めたものの全文】
ICT(情報通信技術)活用工事の積算について
(令和6年10月8日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴省は、平成28年4月以降、土工、舗装工、地盤改良工等の工種別に、ICT施工技術を全面的に活用する工事(以下「ICT活用工事」という。)の実施要領及び積算要領を順次策定して、直轄事業に適用している(以下、工種別のICT活用工事の実施要領を「実施要領」、同積算要領を「積算要領」という。)。ICT活用工事については、その導入により、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいて3次元データを一貫して使用することで建設現場における生産性及び安全性を向上させることが期待されている。
また、貴省は、29年6月に、地方公共団体においてもICT活用工事に取り組めるよう、都道府県等に対して実施要領、積算要領等を参考送付している。都道府県等は、これらを準用するなどしてICT活用工事に取り組んでいる(以下、ICT活用工事を実施している国道事務所等、都道府県等を「事業主体」という。)。
実施要領によれば、ICT活用工事においては、原則として、施工プロセスにおける①3次元起工測量、②3次元設計データ作成、③ICT建設機械(注1)による施工、④3次元出来形管理等の施工管理、⑤3次元データの納品の各段階において3次元データを活用することとされている。
また、実施要領によれば、ICT活用工事については、受注者が、契約後にICT活用の具体的内容及び対象範囲について発注者又は監督職員へ協議(注2)を行い、協議が整った場合、工種ごとに定められた積算要領に基づき計上した経費によるなどして契約変更を行うことなどとされている。
土木工事標準積算基準書等によれば、工事費は、図表1のとおり、直接工事費と間接工事費を合算した工事原価に一般管理費等を加算した工事価格に、消費税等相当額を加算して算定することとされている。
図表1 工事費の積算体系図
間接工事費のうち共通仮設費は、直接工事費を基に算出した対象額に所定の共通仮設費率を乗ずるなどして算定することとされている。また、現場管理費は、直接工事費に共通仮設費を加えた純工事費を基に算出した対象額に所定の現場管理費率を乗ずるなどして算定することとされている。そして、事業主体の積算担当職員は、土木工事標準積算基準書等を基に積算を行っている。
貴省は、ICT活用工事を推進するためには、直接工事費についてだけではなく、共通仮設費等の間接工事費についても、ICT活用工事による費用の増加分を見込んだ適切なものとする必要があるとしている。そして、令和2年4月以降に入札契約手続を開始するICT活用工事については、土工等に係る積算要領によれば、3次元出来形管理・3次元データ納品の費用、外注経費等の費用(以下、これらの費用を「出来形管理等経費」という。)を次のとおり計上することとされている。
すなわち、空中写真測量(無人航空機等によるもの)、地上型レーザースキャナー、これらに類似するその他の3次元計測技術により3次元座標値を面的に取得する機器を用いた出来形管理及び3次元データ納品(以下、これらを「3次元出来形管理等」という。)を行った場合は、補正係数として、共通仮設費率に1.2、現場管理費率に1.1をそれぞれ乗ずるなどして計上する(以下、共通仮設費率及び現場管理費率を「共通仮設費率等」といい、それぞれ補正係数を乗ずることを「ICT補正」という。)。
一方で、3次元出来形管理等以外の、従来手法による出来形管理等(以下、これらを「従来型出来形管理等」という。)やICT建設機械の施工履歴データを用いた出来形管理等を行う場合は、それらの出来形管理等経費は補正係数を乗じない共通仮設費率等に含まれるため、ICT補正は行わないこととなっている。
そして、土工、舗装工等の実施要領には、出来形管理手法として複数の手法が示されているが、これらの中には、積算要領上、ICT補正の対象となる手法と対象とならない手法がある(図表2参照)。
図表2 土工の場合における出来形管理手法の記載(概念図)
実施要領(令和4年度)
(出来形管理手法)
積算要領(令和4年度)
(ICT補正が適用となる出来形管理手法)
(注) 実施要領のうち、3)~5)のTS等を用いた出来形管理は、従来手法による出来形管理となっている(3次元座標値を面的に取得することにより3次元出来形管理と評価できる場合もある。)。
また、地盤改良工のように、実施要領に記載された出来形管理手法が施工履歴データを用いた出来形管理のみとなっていることなどにより、ICT補正の対象とならない工種もある。
貴省は、2年2月に、「令和2年度国土交通省土木工事・業務の積算基準等の改定」(以下「改定資料」という。)を公表している。改定資料の周知事項のうち、「ICT施工における積算基準の拡充」には、ICT施工に伴う出来形管理及びデータ納品に要する費用について、ICT補正を新たに実施することが記載されている。一方で、改定資料は、積算基準の改定項目の概要を端的に周知するための記載となっており、ICT補正を行わない出来形管理手法や工種があることまでは記載されていない。また、改定資料は、新年度の積算要領等の変更点を周知するために、地方整備局等が実施する国道事務所等への説明会資料としても利用されるなどしている。
土木工事標準積算基準書等によれば、施工箇所が複数あり、施工箇所が1㎞程度を超えて点在する工事(以下「点在型工事」という。)では、共通仮設費率等の補正について、施工箇所ごとに設定することなどとされている。一方で、積算要領には点在型工事の場合にICT補正の要否を施工箇所ごとに判断する必要があることについては示されていない。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、ICT補正が適切に行われているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、貴省本省、10地方整備局等(注3)管内の15国道事務所等(注4)及び14都県(注5)において、15国道事務所等、13都県(注6)及び9市町(注7)の計37事業主体が2年度以降に契約を締結してICT活用工事として4年度末までに完了した計837契約、契約金額計1613億4619万余円(直轄事業417契約、契約金額計1130億4032万余円、国庫補助事業等420契約、契約金額計483億0586万余円、国庫補助金等交付額計267億1932万余円)のうち、ICT補正が行われていた32事業主体の511契約(直轄事業300契約、契約金額計860億4993万余円、国庫補助事業等211契約、契約金額計231億4558万余円、国庫補助金等交付額計124億2919万余円)を対象として、設計図書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、調書の提出を受けてその内容を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
14事業主体の31契約については、ICT活用工事の実施に当たり、受注者との協議に基づき、出来形管理等について、従来型出来形管理等や施工履歴データを用いた出来形管理等を実施することなどとしていたのに、ICT補正を行い、工事価格を過大に積算していた。
このうち、延べ9事業主体は、22契約について、改定資料を利用した説明会資料にICT補正を行わない出来形管理手法や工種があることが記載されていないことなどもあって、ICT活用工事であればICT補正を行うことができると誤認していた。
また、延べ6事業主体は、9契約について、積算要領でICT補正を行うこととされている「5) 上記1)~4)に類似する、その他の3次元計測技術を用いた出来形管理」の範囲が明確でないこと、積算要領におけるICT補正の対象となる出来形管理手法と実施要領における出来形管理手法との関係性が明確でないことなどによりICT補正の対象が分かりづらかったことから、9契約に係る出来形管理手法が3次元出来形管理等に含まれると誤認していた。
上記の事態について事例を示すと次のとおりである。
<事例>
中部地方整備局高山国道事務所(以下「事務所」という。)は、令和2、3両年度に、「令和2年度中部縦貫中切上切地区道路建設工事」を契約金額3億6300万円で実施している。事務所は、受注者から土工について、ICT活用の具体的な工事内容及び対象範囲についての協議を受けて、ICT活用工事として工事を実施しており、出来形管理等についてはTS等光波方式を用いたいとする口頭協議を受けて、事務所はこれにより実施させていた。そして、工事費の積算については、同方式が積算要領記載の「5) 上記1)~4)に類似する、その他の3次元計測技術を用いた出来形管理」に含まれると誤認して、ICT補正を行って工事価格を3億3000万円と積算していた。
しかし、事務所が実施させた同方式は、従来型出来形管理等であり、ICT補正の対象とならないものであった。
したがって、出来形管理等経費の積算に当たり、ICT補正を行わないこととして工事価格を修正計算すると3億1900万円となり、工事価格3億3000万円との差額1100万円が過大に積算されていた。
ICT補正が行われていた点在型工事(13事業主体の61契約)のうち、2事業主体の2契約については、一部の施工箇所でICT活用工事を実施することとしていた。このため、実際に3次元出来形管理等を行う施工箇所に限定してICT補正を行う必要があるのに、2事業主体は、積算要領に点在型工事の場合にICT補正を行うことの要否を施工箇所ごとに判断する必要があることについて示されていなかったことなどから、全ての施工箇所を対象としてICT補正を行うことができると誤認してICT補正を行い、工事価格を過大に積算していた。
以上のとおり、ICT補正を誤った計33契約の工事価格の積算額直轄事業計56億8078万円、国庫補助事業等計5億1689万余円(国庫補助金等相当額計2億5765万余円)について、ICT補正を行わないこととするなどして修正計算すると直轄事業計55億0651万円、国庫補助事業等計4億9375万余円(国庫補助金等相当額計2億4606万余円)となり、直轄事業約1億7420万円、国庫補助事業等約2310万円(国庫補助金等相当額1159万余円)をそれぞれ低減できたと認められる(図表3参照)。
図表3 低減できた工事価格(積算額)等
事態 |
ICT補正ができるとして過大に積算していた理由
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区分 | 事業 主体数 (注) |
事業主体名 | 契約数 | 低減できた工事価格(積算額) (うち国庫補助金等相当額) (千円) |
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(1) |
改定資料を利用した説明会資料にICT補正を行わない出来形管理手法や工種があることが記載されていないことなどによるもの
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直轄事業
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9 | 8 |
相武、新潟、奈良各国道事務所、岩手、金沢、倉吉各河川国道事務所、札幌、釧路両開発建設部
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22 | 21 | 132,280 | |
補助事業等
|
1 |
奈良県香芝市
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1 | 3,450 (1,723) |
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積算要領でICT補正を行うこととされている出来形管理の範囲が明確でないことなどによりICT補正の対象が分かりづらかったことによるもの
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直轄事業
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6 | 3 |
新潟、岐阜、高山各国道事務所
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9 | 5 | 37,240 | ||
補助事業等
|
3 |
岩手、栃木、長野各県
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4 | 19,694 (9,872) |
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計 | 14 | 31 |
直轄事業
|
169,520 | |||||
補助事業等
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23,144 (11,595) |
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(2) | 積算要領に点在型工事の場合にICT補正を行う要否を施工箇所ごとに判断する必要があることについて示されていなかったことなどによるもの |
直轄事業
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2 | 松山河川国道事務所、札幌開発建設部 | 2 | 4,750 | |||
合計 | 15 | 33 |
直轄事業
|
174,270 | |||||
補助事業等
|
23,144 (11,595) |
(是正改善を必要とする事態)
ICT活用工事における出来形管理等経費の積算に当たり、従来型出来形管理等や施工履歴データを用いた出来形管理等を実施することなどとしているのに、誤ってICT補正を行っていて工事価格が過大に積算されている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、事業主体において、積算要領等についての理解が十分でないことなどにもよるが、貴省において、ICT活用工事における出来形管理等経費の積算に当たって、ICT補正の対象となる出来形管理手法や工種、点在型工事におけるICT補正の取扱いが明確化されていないなど、積算要領等がICT補正の対象について十分な理解を得られるものとなっていなかったこと、改定資料を利用した説明会資料による周知内容が十分でなかったことなどによると認められる。
ICT活用工事は、建設現場における生産性及び安全性の向上のため、今後も多数実施されることが見込まれる。
ついては、貴省において、ICT活用工事における出来形管理等経費の積算が適切に行われるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。
ア ICT補正の対象となる出来形管理手法、工種等を明確にした上で、ICT補正を行う対象について十分な理解を得られるよう積算要領等に反映するなどすること
イ 監督職員、積算担当職員等の関係担当者間でICT補正を行うことの要否の確認等が容易となるチェックリスト等を作成すること
ウ ア及びイの内容を地方整備局等に周知徹底するとともに、地方整備局等を通じて地方公共団体に対しても同様に助言すること