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  • 令和5年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 第9 国土交通省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(4) 承認を得ずに公営住宅を増築している入居者を的確に把握して、原状回復等を行うように指導するなどの措置を講ずることにより、公営住宅の管理を適切に行うよう改めて周知徹底を図るとともに、無断増築物の除却に係る費用については原則として交付金等の交付対象とならないことなどを明確化して事業主体に対して周知することにより、公営住宅の除却事業に対する交付金等の交付が適切に行われるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)社会資本総合整備事業費 等
部局等
国土交通本省
補助の根拠
公営住宅法(昭和26年法律第193号)等
補助事業者
(事業主体)
府1、県13、市92、町31、村1、計138事業主体
補助事業等
公営住宅等整備事業等
事業の概要
公営住宅の建設、除却等の事業を行うもの
検査の対象とした公営住宅の除却工事の件数、住戸数及び交付対象事業費
643件18,934戸 343億6115万余円(平成30年度~令和4年度)
上記に対する交付金等交付額
170億0512万余円
無断増築物の除却に係る費用を交付金等の交付対象事業費に含めていた除却工事の件数並びに無断増築物の除却に係る住戸数及び交付対象事業費相当額
97件805戸1億2824万余円(平成30年度~令和4年度)
上記に対する交付金等相当額
5910万円

【改善の処置を要求したものの全文】

公営住宅の除却事業における無断増築物の取扱いについて

(令和6年9月30日付け 国土交通大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 公営住宅における無断増築物の概要等

(1) 公営住宅の除却事業の概要

貴省は、住宅施策の一環として、公営住宅法(昭和26年法律第193号。以下「法」という。)等に基づき、公営住宅の建設、除却等の事業を実施する地方公共団体に対して、社会資本整備総合交付金等(以下「交付金等」という。)を交付している。

公営住宅は、国及び地方公共団体が協力して、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することなどにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的として整備されている。そして、地方公共団体が管理する公営住宅は令和3年度末において約213万戸に上り、このうち建設後30年以上を経過しているものは約7割を占めている(以下、公営住宅を整備して管理する地方公共団体を「事業主体」という。)。また、「公営住宅等長寿命化計画策定指針(改定)」(平成28年8月国土交通省住宅局住宅総合整備課策定)によれば、公営住宅等の分野については、厳しい財政状況下において、更新期を迎えつつある老朽化した大量の公営住宅等の効率的かつ円滑な更新を行い、公営住宅等の需要に的確に対応することが地方公共団体の課題とされている。

事業主体は、公営住宅を更新する際等に、既存の公営住宅を除却するなどしている。そして、公営住宅等整備事業対象要綱(平成17年8月住宅局長通知。以下「要綱」という。)等によれば、既設の公営住宅を除却してこれに代わる新たな公営住宅を建設するなどの場合には、公営住宅の除却に係る事業(以下「除却事業」という。)を交付金等の交付対象とすることができるとされている。

(2) 公営住宅の管理及び無断増築物の概要

法によれば、事業主体は、常に公営住宅の状況に留意し、その管理を適正かつ合理的に行うように努めなければならず、公営住宅の管理について必要な事項を条例で定めなければならないこととされている。また、貴省は、事業主体の条例制定上参考となるべき「公営住宅管理標準条例(案)」(以下「標準条例」という。)を作成し、「公営住宅管理標準条例(案)について」(平成8年10月建設省住宅局長通達)を発するなどして事業主体に周知している。そして、各事業主体が制定した条例には、標準条例に準じた規定が設けられるなどしている。

法によれば、公営住宅の入居者は、事業主体の承認を得たときを除き、公営住宅を増築してはならないとされている。また、標準条例によれば、入居者が事業主体の承認を得ずに公営住宅を増築したときは、自己の費用で原状回復等を行わなければならないこととされている(以下、事業主体の承認を得ずに増築された建築物を「無断増築物」という。)。そして、貴省は、昭和29年11月、44年6月、46年4月、58年4月、平成2年6月及び8年8月に通知を発するなどして、事業主体に対して、承認を得ずに公営住宅を増築している入居者を的確に把握して、原状回復等を行うように指導するなどの措置を講ずることにより、公営住宅の管理を適切に行うよう周知徹底を図っているが、8年に事業主体に対して通知を発して以降は通知を発していない。

また、貴省は、入居者が原状回復等を行っておらず、事業主体が公営住宅の除却事業の一環として無断増築物の除却を実施する場合に、無断増築物の除却に係る費用を交付金等の交付対象とすることができるかどうかについては、明確に示していない。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

近年、公営住宅の老朽化に伴って公営住宅の除却事業が多数実施されており、これに係る交付金等の交付額も多額に上っている。

そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、公営住宅の除却事業に対する交付金等の交付は適切に行われているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、30年度から令和4年度までの間に17府県(注1)の138事業主体が実施した公営住宅の除却工事643件(交付対象事業費計343億6115万余円、交付金等交付額計170億0512万余円。これらの公営住宅の住戸数は18,934戸)を対象とした。そして、138事業主体のうち103事業主体において、公営住宅の除却工事に係る設計図面、工事写真及び工事費内訳書、公営住宅の増築に係る承認申請書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。また、138事業主体から公営住宅の除却事業の実施状況等に係る調書等の提出を受けてその内容を確認するなどして検査した。

(注1)
17府県  大阪府、宮城、茨城、群馬、山梨、長野、岐阜、兵庫、奈良、島根、岡山、広島、山口、愛媛、佐賀、長崎、宮崎各県

(検査の結果)

138事業主体が実施した公営住宅の除却工事643件に係る18,934戸について、設計図面等により増築物の有無を確認し、増築物があったと認められる場合には、公営住宅の増築に係る承認申請書等により事業主体の承認の有無を確認したところ、49事業主体の除却工事168件に係る1,032戸において、入居者が事業主体の承認を得ずに増築した居室等の無断増築物が見受けられた。

そして、このうち32事業主体(注2)の除却工事97件に係る805戸については、事業主体が、無断増築物の除却に係る費用を交付金等の交付対象事業費に含めて、これに係る交付金等の交付を受けていた(無断増築物の除却に係る交付対象事業費相当額は計1億2824万余円、交付金等相当額は計5910万余円)。当該32事業主体は、無断増築物の除却に係る費用を交付金等の交付対象事業費に含めた理由について、無断増築物の除却に係る費用が交付金等の交付対象とならないことが、要綱等に明記されていないためなどとしていた。

しかし、これらの無断増築物は、入居者が法に反して事業主体の承認を得ずに増築したものであり、本来、入居者が自己の費用で原状回復等を行わなければならないものである。また、事業主体において、原状回復等を行うように指導するなどの措置が必ずしも十分に講じられていないことにより、入居者が原状回復等を行わなかったものなどである。

したがって、事業主体が公営住宅の除却事業の一環として無断増築物の除却を実施する場合であっても、無断増築物の除却に係る費用に対して交付金等が交付されることは適切ではないと認められる。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

大阪府貝塚市は、令和2、3両年度に、公営住宅21棟(住戸数35戸)の除却工事5件を計3683万余円で実施して、社会資本整備総合交付金計1324万余円の交付を受けている。

同市は、公営住宅の管理に当たり、多数の入居者が同市の承認を得ずに公営住宅を増築していることは認識しているものの、住戸ごとの無断増築物の状況は把握できておらず、原状回復等を行うように指導するなどの措置は講じていないとしていた。

そして、同市は、除却工事5件に先立って実施した現地調査により、除却する公営住宅の住戸全35戸のうち34戸において、入居者が同市の承認を得ずに居室等を増築していた状況を把握したものの、原状回復等を行うように指導するなどの措置を講じていなかった。

その後、同市は、公営住宅の除却工事の一環としてこれらの無断増築物を除却して、その費用を同交付金の交付対象事業費に含めて、これに係る同交付金の交付を受けていた(無断増築物の面積は1戸当たり平均35.4㎡、無断増築物の除却に係る交付対象事業費相当額は計1737万余円、交付金相当額は計612万余円)。

(注2)
32事業主体  大阪府、兵庫、奈良両県、栗原、水戸、下妻、北茨城、牛久、ひたちなか、行方、桐生、富士吉田、南アルプス、多治見、岸和田、貝塚、和泉、高砂、岡山、広島、福山、三次、庄原、大竹、唐津、対馬各市、伊具郡丸森、加美郡加美、遠田郡美里、東茨城郡城里、南巨摩郡身延、三養基郡みやき各町

(改善を必要とする事態)

無断増築物は、本来、入居者が自己の費用で原状回復等を行わなければならないものであることなどから、無断増築物の除却に係る費用に対して交付金等が交付されている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 事業主体において、承認を得ずに公営住宅を増築している入居者を的確に把握して、原状回復等を行うように指導するなどの措置を講ずることにより、公営住宅の管理を適切に行うことの重要性に対する理解が十分でないこと

イ 貴省において、無断増築物の除却に係る費用については交付金等の交付対象とならないことを事業主体に対して明確に示していないこと

3 本院が要求する改善の処置

公営住宅については、更新期を迎えつつある老朽化した大量の公営住宅等の効率的かつ円滑な更新を行うことが課題となっており、今後も公営住宅の除却事業が多数実施されることが見込まれている。

ついては、貴省において、公営住宅の除却事業に対する交付金等の交付が適切に行われるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

ア 事業主体に対して、承認を得ずに公営住宅を増築している入居者を的確に把握して、原状回復等を行うように指導するなどの措置を講ずることにより、公営住宅の管理を適切に行うよう改めて周知徹底を図ること

イ 事業主体が公営住宅の除却事業の一環として無断増築物の除却を実施する場合であっても、無断増築物の除却に係る費用については原則として交付金等の交付対象とならないことなどを明確化して事業主体に対して周知すること