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  • 令和5年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(1) 港湾業務艇の運航に当たり、大型艇が故障により運航不能になった場合に速やかに休止に移行する手続を定めること、施設の確認結果の記録を作成するとともに港湾管理者に共有できる体制を整備すること、修理作業に係る契約の円滑な履行や品質確保に寄与しない臨場は実施しないこととするとともに実施した内容を適切に記録させることなどにより、委託契約による運航が経済的かつ効率的に行われるよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)港湾事業費 等
部局等
国土交通本省、9地方整備局等
運航委託契約の概要
国が所有する港湾業務艇の運航に係る委託契約を民間会社と締結し、受託者に操船及び管理を行わせるもの
検査の対象とした運航委託契約の件数及び支払額
99件24億7452万余円(令和3、4両年度)
運航不能時における運航費の支払が経済的でなかった件数及び支払額
12件815万円(令和3、4両年度)
施設の確認結果の記録が作成されていないなどしていた件数及び支払額
73件7億1101万円(背景金額)(令和3、4両年度)
臨場の必要性を確認することができないなどしていた件数及び支払額
44件4227万円(背景金額)(令和3、4両年度)

1 港湾業務艇の運航等の概要

(1) 港湾業務艇の運航委託契約の概要

国土交通省は、「港湾業務艇の配置及び運用に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)に基づき、国が所有する船舶(以下「港湾業務艇」という。)を港湾事務所等に配置している。基本方針によれば、港湾業務艇は、港湾整備事業等に伴う工事監督・検査、測量・調査等の実施に加え、国有港湾施設(以下「施設」という。)の劣化状況確認等(以下「施設の確認」という。)の港湾の保全に係る調査等に用いることとされている。そして、港湾事務所等は、民間会社と運航委託契約を締結し、受託者に港湾業務艇の操船及び管理を行わせている。

港湾事務所等は、運航委託契約の実施に当たり、国土交通省が定めた「港湾業務艇運航にかかる仕様書」(以下「標準仕様書」という。)を受けて、各港湾業務艇の運航期間、運航時の乗組員数等を記載するなどして仕様書を作成している。

標準仕様書によれば、港湾業務艇の運航区分は、表1のとおり、運航、運休、休止、臨場等とされている。

表1 港湾業務艇の運航区分

運航区分 状態
運航 港湾業務艇を運転している状態
運休 小型艇
発注者の都合等により運転していない状態
(30日未満で運航状態に復帰できる程度)
発注者の都合等により運転していない状態
(運航予定日の前日又は当日に運航を取りやめた場合の運休当初の2日間)
大型艇 発注者の都合等により運転していない状態
(30日未満で運航状態に復帰できる程度)
休止 港湾業務艇を30日以上運航する見込みがなく、係留施設に係留し、保守・点検整備や故障等により港湾業務艇を管理する必要がある状態
臨場 港湾業務艇の修理作業(別途契約の他業務)について乗組員を修理内容の確認及び試運転時の状態の確認のため、作業に立ち会わせている状態
  • 注(1) 「小型艇」とは総トン数20トン未満、「大型艇」とは同20トン以上の港湾業務艇をいい、大型艇の運休には①及び②のような区分は設けられていない。
  • 注(2) 港湾業務艇が運航不能の場合の運航区分には、運休と休止がある。

また、表2のとおり、運航区分ごとに必要な乗組員数が定められており、「運航」とした日の場合では、2名以上を乗船させることなどとされている。

表2 港湾業務艇の乗組員数

運航区分 大型艇 小型艇
運航 運航に必要な乗組員
(高級船員2名以上)
運航に必要な乗組員
(高級船員1名、普通船員1名)
運休 小型艇
緊急の運航に備えて必要な乗組員
(高級船員1名) (注)
同上
(高級船員1名、普通船員1名) (注)
大型艇 緊急の運航に備えて必要な乗組員
(高級船員2名以上)
休止 港湾業務艇の管理に必要な乗組員
(高級船員1名)
臨場 修理内容の確認等に必要な乗組員
(原則として高級船員1名(協議の上、人数変更))
  • (注) 小型艇の場合、運航予定日の前日又は当日に運航を取りやめた場合の運休当初の2日間は運休②として労務費2名を計上することができることとし、3日目以降は運休①として労務費1名を計上することとしている。

そして、運航費の支払額は、毎月の運航区分ごとの日数の合計にそれぞれの1日当たりの労務費の単価を乗ずるなどして算定することとされている。また、港湾業務艇の運航は監督職員が作成する運航予定通知書に基づき行うこととされ、受託者は運航時間等の運航区分の実績に係る運転日報等を監督職員に提出することとされている。

(2) 施設の確認の概要

港湾事務所等の職員は、運航委託契約により運航される港湾業務艇に乗船して施設の確認を行っている。確認の対象としている施設には、工事中や供用前で国が直接管理する必要がある施設(以下「委託前施設」という。)と、供用後で港湾法(昭和25年法律第218号)の規定に基づき地方公共団体等の港湾管理者に管理を委託した施設(以下「委託後施設」という。)とがある。

国土交通省によると、施設の確認を行うことにより、施設設置者として、今後の実施が想定される大規模修繕等の施設改良の検討に資することが可能となるとしている。また、委託前施設については、施設の変状を早期に発見することが、委託後施設については、港湾管理者に代わって施設の変状を早期に発見し、港湾管理者に連絡することが、それぞれ可能となるとしている。

(3) 臨場の概要

港湾事務所等は、運航委託契約とは別に行われる港湾業務艇の点検、調整等を含む定期的維持修理作業や故障箇所の修理作業(以下、これらを合わせて「修理作業」という。)における修理内容の確認等を行うために、運航委託契約に基づき、運航予定通知書による通知又は監督職員との協議により、港湾業務艇の乗組員を当該船舶の修理作業に立ち会わせること(以下「臨場」という。)ができることになっている。

国土交通省によると、修理内容の確認は、港湾事務所等の職員が行うものであるが、船舶に関する専門的な知識を有する乗組員が臨場して不具合箇所の説明や修理内容の確認等を行うことにより、修理作業に係る契約の円滑な履行や品質確保に寄与することが可能となるとしている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、経済性、効率性等の観点から、港湾業務艇の運航が適切に実施されているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、令和3、4両年度に、9地方整備局等(注1)の37港湾事務所等(注2)の計56隻に係る運航委託契約計99件、支払額計24億7452万余円を対象として、9地方整備局等において契約書等の書類を確認するとともに国土交通本省において基本方針等の考え方を聴取するなどして会計実地検査を行った。また、14港湾管理者(注3)から説明を受けるなどして調査した。

(注1)
9地方整備局等  東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州各地方整備局、北海道開発局、沖縄総合事務局
(注2)
37港湾事務所等  青森、秋田、釜石、酒田、小名浜、千葉、東京、清水、名古屋、舞鶴、神戸、和歌山、宇野、石垣各港湾事務所、塩釜、鹿島、大阪、境、広島、宇部、小松島、高松、松山、高知、北九州、博多、熊本、那覇各港湾・空港整備事務所、東京湾口、関門両航路事務所、函館、小樽、室蘭、釧路、網走、留萌、稚内各開発建設部
(注3)
14港湾管理者  東京都、京都府、青森、愛知、高知、熊本各県、横浜、大阪、神戸、北九州、石垣各市、名古屋港、境港、那覇港各管理組合

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 大型艇の故障による運航不能時に複数の乗組員を待機させていて運航費の支払が経済的でなかった事態(支払額3年度192万余円、4年度623万余円、計815万余円)

大型艇を所有している5地方整備局の8港湾事務所等は、大型艇が故障により運航不能であることが判明した場合でも、標準仕様書において、運休は30日未満で運航状態に復帰できる程度の状態であるとされていることから、実際に運航不能の期間が30日以上にならないと運休の状態から休止に移行できないとして、運休として、緊急の運航に備えて2名から5名までの乗組員を待機させていた。

一方、国土交通省によると、休止に移行する場合を、港湾業務艇を30日以上運航する見込みがない場合としているのは、船舶職員及び小型船舶操縦者法施行規則(昭和26年運輸省令第91号)において、「入渠・修繕以外の理由により一時航行の用に供さない船舶」については、おおむね30日以上岸壁等同一の場所に係留している状態を指すとしていることを参考にしたものであり、30日はおおよその期間であるとしている。また、標準仕様書には、故障により、運航不能であることが判明した場合に、速やかに休止に移行する手続は定められていなかった。さらに、運航不能時に港湾業務艇において必要となる作業は、係留状態の確認や気象海象情報の収集、荒天時の措置等の管理作業であることから、大型艇と小型艇との間で作業内容に大きな相違はない。

これらのことから、大型艇が故障により運航不能な状態と判断される場合は、速やかに休止に移行し、小型艇と同様、運航不能と判断された日から3日目以降に係る乗組員数を1名とすることで、支払額を節減できたと認められた。

(2) 施設の確認結果が記録されておらず、また、委託後施設の確認結果を港湾管理者と情報共有できる体制となっていなかった事態(支払額3年度3億5639万余円、4年度3億5461万余円、計7億1101万余円)

9地方整備局等の29港湾事務所等は、運航委託契約により運航される港湾業務艇に職員が乗船することにより、施設の確認を延べ8,549日間実施していた。

施設の確認の状況についてみたところ、対象とする施設、頻度、結果の記録の方法等が定められていなかったため、施設の劣化状況等が確認できる具体的な記録を作成している港湾事務所等はほとんど見受けられず、施設の確認について、今後の実施が想定される大規模修繕等の施設改良の検討に資するものとなっていなかった。

また、委託後施設に係る施設の確認について、その結果を港湾管理者に共有しているかをみたところ、港湾管理者に対して結果を共有する方法等が定められていなかったため、共有されていなかった。本院が説明を受けた14港湾管理者によると、14港湾管理者全てが、港湾事務所等が委託後施設に係る施設の確認を行っていることを認識しておらず、そのうち10港湾管理者からは、確認結果が共有されることで効率的な港湾管理に資することができるとの意見があった。

このように、港湾事務所等において施設の確認により得られた施設の劣化の状態や施設の現状の情報について、港湾管理者に共有できる体制となっておらず、その結果、港湾管理者が行う委託後施設の維持管理に十分に活用されていない状況となっていた。

(3) 確認させる修理内容等について記載がなく、また、その結果等が適切に記録されていないなどしていて、臨場の必要性を確認することができなかった事態(支払額3年度1932万余円、4年度2294万余円、計4227万余円)

運航委託契約に基づき臨場させていた7地方整備局等の22港湾事務所等において、臨場の必要性を明確にした上で、乗組員に確認させる修理内容等について具体的に指示を行い、乗組員が説明した内容や修理内容に対する所見等が記録されているかなどについてみたところ、運航予定通知書に臨場させる旨の記載はあるものの乗組員に確認させる修理内容等について記載がないものが多数見受けられた。また、運転日報には、修理内容の確認が必要な修理作業と直接関係がないと思われる修理の準備作業等の内容が記録されているなどしていて、乗組員が船舶に関する専門的な知識に基づき説明した内容や修理内容に関する所見等については記載されておらず、監督職員への報告もなされていなかった。

このため、修理作業に係る契約の円滑な履行や品質確保に寄与するとして実施させていた臨場が、必要であったのか確認できなかったものが多数見受けられた。

このように、港湾業務艇の運航において、大型艇の故障による運航不能時に複数の乗組員を待機させていた事態、施設の確認結果が記録されておらず、また、委託後施設の確認結果を港湾管理者と情報共有できる体制となっていなかった事態、臨場の結果等が適切に記録等されておらず、その必要性を確認することができなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、国土交通省において、次のことなどによると認められた。

ア 大型艇が故障により運航不能になった場合の取扱いについて、おおよその期間である30日にとらわれることなく速やかに休止に移行するための手続を定めていなかったこと

イ 施設の確認に当たり、対象とする施設や頻度を定め、確認結果の具体的な記録を作成することの重要性の理解が十分でなかったこと、また、委託後施設の確認結果を港湾管理者と共有できる体制を整備していなかったこと

ウ 臨場の必要性の検討が十分でなく、臨場の実施内容を適切に記録するなどの仕組みを整備していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

本院の指摘に基づき、国土交通省は、6年7月に、基本方針の改定及び標準仕様書の改正を行うとともに、地方整備局等に対して通知を発して、次のような処置を講じた。

ア 大型艇が故障により運航不能になった場合には、休止に向けて速やかに受託者と協議を開始し、合意後速やかに休止に移行することとし、7年4月以降に締結する運航委託契約からこれを適用することとした。

イ 施設の確認の対象や頻度を定めた実施計画、確認結果の記録を作成するとともに、委託後施設の確認結果を定期的に港湾管理者に共有することとした。

ウ 臨場の項目について事前に受託者と協議して、修理作業に係る契約の円滑な履行や品質確保に寄与しない臨場は実施しないこととするとともに、臨場において乗組員が実施した内容を定められた様式に適切に記録させ、監督職員に対して報告させることとし、7年4月以降に締結する運航委託契約からこれを適用することとした。