国土交通省は、空港法(昭和31年法律第80号)等に基づいて国が管理している空港(以下「国管理空港」という。)及びその周辺における航空機と鳥類の衝突を未然に防止するために、国管理空港内のパトロール、防除機器による威嚇作業等(以下、これらを「防除業務」という。)を行うなどする鳥類防除業務を実施している。
そして、東京、大阪両航空局(以下「2航空局」という。)は、10国管理空港(注1)における鳥類防除業務について、国管理空港ごとに予定価格の積算を行い、それぞれ請負人と請負契約を締結している。
2航空局は、国土交通省が定めた標準仕様書によるなどして国管理空港ごとの請負契約の仕様書を作成し、1日当たりの防除業務を提供する時間(以下「防除業務提供時間」という。)、配置人数等の鳥類防除業務の実施体制を定めている。そして、鳥類防除業務を実施するための要員は、業務全般の管理監督を務める現場責任者と、防除業務を実施する作業員に区分されている。このうち現場責任者は、防除業務実施計画の作成、作業員の勤務管理等(以下、これらを「現場責任者業務」という。)を行っている。
9国管理空港(注2)の仕様書によれば、現場責任者は、作業員を兼務することができるとされており、兼務する場合は、現場責任者業務を1週間当たり12時間実施することとされている。
2航空局は、鳥類防除業務に係る予定価格について、「有害鳥類防除業務請負に係る積算について」(令和3年国空用第549号)等(以下「防除積算通知」という。)に基づき、「空港消防等業務請負積算要領」(昭和59年空管第83号。以下「消防積算要領」という。)を準用して積算している。
消防積算要領によれば、予定価格の基となる積算価格のうち、人件費等については、業務能力に応じた区分ごとに、「一般職の職員の給与に関する法律」(昭和25年法律第95号)における行政職俸給表(一)に基づく職務別俸給等を基に定めた月額単価、所要員数等により算定することとされている。また、業務能力に応じた区分については、消防積算要領等において、技能Aから技能Dまでに分類されており、技能Aは現場責任を有し業務統括ができること、技能Bは現場指揮ができることなどとなっている。
そして、防除積算通知によれば、人件費の算定における月額単価については、現場責任者は技能A(職務別俸給302,400円/月)として算出した単価を、作業員は技能C(同223,200円/月)として算出した単価をそれぞれ適用することとされている。なお、技能B(同255,000円/月)として算出される単価は、現場責任者及び作業員のいずれにも適用することとされていない。
また、防除積算通知によれば、所要員数については、現場責任者は1.0人、作業員は年間の防除業務を提供する延べ時間(以下「年間防除業務提供時間」という。)及び1人当たりの年間勤務時間を基に次式により算出することとされている。
作業員の所要員数 = 年間防除業務提供時間(365日×防除業務提供時間×配置人数) 1人当たりの年間勤務時間(38.75時間×52週)
ただし、9国管理空港の仕様書によれば、作業員を兼務する場合の現場責任者は、現場責任者業務を1週間当たり12時間実施することとされている。これは0.3人分相当(1週間の勤務時間38.75時間のうち12時間)となるため、防除積算通知では作業員の所要員数の算定において、9国管理空港の現場責任者が防除業務を実施する0.7人分相当を控除することとしている。
仕様書によれば、請負人は、労働基準法(昭和22年法律第49号)等の関係法令等を遵守するとされており、同法によれば、使用者は、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならないこととされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、鳥類防除業務に係る予定価格の積算が適切に行われているかなどに着眼して、令和3、4両年度に締結された10国管理空港に係る鳥類防除業務請負契約10契約計12億9927万余円(いずれも3か年度の国庫債務負担行為。予定価格の積算額計13億0843万余円)を対象として、2航空局において、予定価格の積算内訳書等の書類や、10国管理空港における防除業務の実施状況等を確認するとともに、国土交通本省において、防除積算通知の考え方について聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
2航空局は、9国管理空港の現場責任者の人件費等の算定に当たり、防除積算通知に基づき、現場責任者の所要員数を1.0人とし、これに技能Aの月額単価を乗ずるなどしていた。
しかし、9国管理空港における現場責任者は、作業員を兼務しており、仕様書によれば現場責任者業務を実施する時間は1週間当たり12時間とされている。そして、残りの時間は技能Cの月額単価が適用される作業員を兼務して防除業務を実施することから、現場責任者が実施する防除業務に係る人件費等の算定に当たり、技能Aの月額単価をそのまま適用していたことは適切ではない。
一方、2航空局では、現場責任者が防除業務を実施する場合、防除業務に加えて現場指揮等の業務全般の管理監督を行わせることとしている。そして、空港消防等業務に係る予定価格の積算においては、現場指揮等を行う場合には消防積算要領に基づき技能Bの月額単価が適用されていることなどを踏まえると、現場責任者が作業員を兼務して防除業務を実施する0.7人分については、技能Bの月額単価を適用することが妥当であると認められた。
2航空局は、10国管理空港の作業員の人件費等の算定に当たり、作業員の所要員数については、防除積算通知に基づき、年間防除業務提供時間を1人当たりの年間勤務時間で除することなどにより算出していた。
しかし、防除積算通知には労働基準法に基づく休憩時間の取扱いについて明記されていなかった。そこで、休憩時間の有無をみたところ、年間防除業務提供時間には休憩時間が含まれていた。一方、年間勤務時間(38.75時間×52週)には休憩時間が含まれていないことから、積算上の作業員の所要員数が過大に算出されていた。このため、年間防除業務提供時間から休憩時間を控除して積算上の作業員の所要員数を算出する必要があったと認められた。なお、作業員の休憩時間の取得の有無を確認したところ、業務時間が6時間を超える場合には休憩時間を取得していた。
このように、国土交通省において、現場責任者が兼務して実施する防除業務の人件費等の算定に当たり、現場責任者業務を実施する場合に適用する技能Aの月額単価をそのまま適用していた事態、作業員の人件費等の算定に当たり、年間防除業務提供時間に休憩時間を含めていたため所要員数が過大となっていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた積算額)
鳥類防除業務に係る予定価格の積算額計13億0843万余円(うち現場責任者の人件費等の積算額2億1082万余円、作業員の人件費等の積算額6億5022万余円)について、現場責任者が兼務して実施する防除業務の人件費等の算定においては現場責任者が防除業務を実施する0.7人分に技能Bの月額単価を適用し、また、作業員の人件費等の算定においては休憩時間を除いた年間防除業務提供時間により算出された所要員数を用いて試算すると、計11億8661万余円(同1億7937万余円、同5億8189万余円)となり、約1億2180万円(同3145万余円、同6833万余円)低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、防除積算通知により鳥類防除業務に係る予定価格の積算方法を定めている国土交通省において、次のことなどによると認められた。
ア 防除積算通知の作成に当たって、現場責任者が兼務により実施する業務の内容に応じた月額単価を適用して予定価格を積算することについての検討が十分でなかったこと
イ 防除積算通知の作成に当たって、年間防除業務提供時間から休憩時間を控除して積算上の作業員の所要員数を算出することについての理解が十分でなかったこと
本院の指摘に基づき、国土交通省は、6年8月に2航空局に対して通知を発して、7年度以降の鳥類防除業務に係る予定価格の積算に適用するよう、次のような処置を講じた。
ア 現場責任者の人件費等の算定に当たり、現場責任者が兼務により防除業務を実施する場合には、業務の内容に応じた月額単価を適用するよう周知した。
イ 作業員の人件費等の算定に当たり、年間防除業務提供時間に休憩時間を含めずに作業員の所要員数を算出するよう周知した。