情報本部は、令和3、4両年度に、東千歳通信所において、電波情報を収集することなどを目的としたアンテナ基地局3基(以下「3基地局」という。)を新設するなどのために、分電盤等の設備機器の据付けなどの工事を一般競争契約により日本コムシス株式会社(以下「請負人」という。)に契約額80,630,000円で請け負わせて実施している。
同本部は、本件契約の仕様書において、上記設備機器の据付けを「建築設備耐震設計・施工指針 2014年版」(独立行政法人建築研究所監修。以下「耐震設計指針」という。)等に基づいて行うこととしており、地震時の水平方向及び鉛直方向の地震力に対して、転倒破損等が生じないように、アンカーボルトを用いて基礎又は建築構造体に堅固に固定することとしている。
そして、耐震設計指針によれば、アンカーボルトを用いて設備機器の耐震性を確保するには、地震時に、原則として設備機器の重心に、機器重量、設計用水平地震力及び設計用鉛直地震力が作用するものとし、アンカーボルトに作用する引抜力(注)等を算定して、作用する引抜力が許容引抜力(注)を上回らないように適切なアンカーボルトを選択することとされている。このため、アンカーボルトによる設備機器等の据付けを行う際は、設備機器ごとに耐震設計計算を行う必要がある。
また、仕様書等によれば、請負人は設備機器の据付けに当たり、現地調査、同本部との打合せなどを行い、施工図を作成して監督官の承諾を得ることとされている。
本院は、合規性等の観点から、設備機器の据付けに係る設計が耐震設計指針等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、本件工事を対象として、同本部において、契約書、仕様書、設計図書等の関係資料、工事写真等を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、請負人は、設備機器の据付けに当たり耐震設計計算を行わずに施工図を作成して、同本部に提出していた。そして、この施工図には、アンカーボルトの種類や径が記載されていなかった。同本部の監督官は、仕様書において設備機器の据付けについては耐震設計指針に基づいて行うこととされていたのに、請負人に対して耐震設計計算を行っているか確認しないまま、同請負人から提出された施工図を承諾して、これに基づき施工させていた。
そこで、各設備機器をコンクリート基礎に固定したアンカーボルトについて、耐震設計指針に基づく耐震設計計算を行ったところ、3基地局に設置した分電盤計3台については、分電盤とコンクリート基礎との固定にめねじ形アンカーボルト(径12㎜のもの計8本)を使用していて、地震時にこれに作用する引抜力は4.60kN/本となっており、耐震設計指針に定められためねじ形アンカーボルトの許容引抜力0.75kN/本を大幅に上回っていて、耐震設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
したがって、3基地局における分電盤は、耐震設計指針に基づく耐震設計計算が行われておらず設備機器の据付けに係る設計が適切でなかったため、地震時に転倒して破損するなどのおそれがあり、地震時における機能の維持が確保されていない状態となっていて、工事の目的を達しておらず、これに係る工事費相当額12,909,816円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、同本部において、耐震性を確保することについての理解が十分でなかったこと、請負人が作成した施工図の承諾に際しての確認が十分でなかったことなどによると認められる。
(参考図)
アンカーボルトによるコンクリート基礎との固定状況の概念図