防衛省は、防衛省設置法(昭和29年法律第164号)等に基づき、自衛隊及び駐留軍の使用に供する施設を新たに取得し、又は既に取得した施設を改修するなどのために、土木工事、建築工事等(以下、これらの工事を合わせて「建設工事」という。)を毎年度、多数実施している。
国の機関が工事を発注するに当たっては、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)等の会計法令等に基づき、入札・契約手続を行うこととなっている。会計法令等によれば、国が締結する契約の方式としては、一般競争契約、指名競争契約及び随意契約の三方式があり、このうち、機会の均等、公正性の保持及び予算の効率的使用の面から、入札公告を行い申込みをさせることにより競争に付する方式である一般競争契約が原則とされている。ただし、緊急の必要により競争に付することができない場合は随意契約によるものとするなどとされており、「緊急の必要により」とは、天災地変その他の非常緊急の場合を指すもので、予見不可能な事態としての意味を有し、かつ、競争に付しては契約の目的を達し得ない場合であると解されている。
建設工事においては、施工場所の地質等の自然条件、埋設物の状況等、その性質上不確定な現地の条件を前提に設計図書を作成せざるを得ないという制約がある。そのため、既に契約を締結した建設工事(以下「既契約工事」という。)について、その施工上予見し難い事由が生じたことにより、既契約工事を完成させるために施工しなければならなくなった追加の建設工事(以下「追加工事」という。)の発注が必要となる場合が多く見受けられる。このような場合、契約担当官等は、一般に、建設工事請負契約の契約条項に基づき既契約工事の受注者と協議を行い、追加工事に係る設計変更を行うとともに、必要に応じて工事費を増額する契約変更を行うなどして、当該受注者に追加工事を発注することになる。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、建設工事に係る契約変更が会計法令等に照らして適切に行われ、公正性、競争性等を確保したものとなっているかなどに着眼して、平成30年度から令和4年度までの間に契約変更を行い、5年度までに履行が完了していた10防衛局等(注1)の1,207契約(契約変更に伴う契約額の増加額計1762億1584万余円)を対象として、防衛省内部部局、10防衛局等において、契約書、設計図書等の関係資料を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、10防衛局等の1,207契約のうち1,173契約は、追加工事、災害復旧工事等を既契約工事に契約変更により追加したものであった。一方、残りの6防衛局(注2)の34契約は、追加工事等に当たらない36工事を入札公告を行うことなく既契約工事に契約変更により追加したものであった(契約変更に伴う契約額の増加額計10億6228万余円)。
そこで、6防衛局に、36工事を既契約工事に契約変更により追加した経緯について確認したところ、次のとおりとなっていた。
① 6防衛局は、36工事を速やかに発注するために、入札公告を行わないまま、36工事の施工現場の周辺等で既契約工事を受注していた請負人1者又は複数の請負人に対して、既契約工事に新たな建設工事を追加して受注できるかどうか問い合わせた。
② 6防衛局は、受注可能と回答した請負人との間で協議を行い、既契約工事に当該工事を追加し必要となる工事費を増額する契約変更を行った。
そして、6防衛局は、36工事について、調達要求元の部隊等からの要望により早期に施設を整備するため緊急の必要により競争に付することができない場合に該当するものであると判断したとしていた。
しかし、国が締結する契約の方式としては、機会の均等、公正性の保持及び予算の効率的使用の面から、一般競争契約が原則とされている。また、36工事については、天災地変その他の非常緊急の場合といった予見不可能な事態はなく、あらかじめ予算措置を行っていたものであるのに、6防衛局において、早期に入札・契約手続をとらなかったことによって当該手続に充てることができる期間が短くなったものであり、緊急の必要により競争に付することができない場合には該当しない。
したがって、36工事は、入札・契約手続に係る十分な期間を確保した上で、一般競争入札を行う必要があったと認められた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
沖縄防衛局は、航空自衛隊久米島分屯基地内における鉄塔1基の建築工事(以下「鉄塔工事」という。)について、同分屯基地の部隊からの要望により平成30年度末までに当該鉄塔を完成させる必要があるため緊急の必要により競争に付することができない場合に該当するとして、入札公告を行わないまま、同自衛隊那覇基地の管理棟新設建築工事の請負人に対して、鉄塔工事を追加して受注できるかどうか問い合わせた。そして、受注可能との回答があったため、同局は当該請負人と契約変更の協議を行い、30年8月に管理棟新設建築工事に鉄塔工事を追加して工事費を1億2204万円増額する契約変更を行っていた。
しかし、鉄塔工事は、28年度に設計が完了していて、30年度の歳出予算(当初予算)においてあらかじめ予算措置を行っていたものであるのに、同局において、早期に入札・契約手続をとらなかったことによって当該手続に充てることができる期間が短くなったものであり、緊急の必要により競争に付することができない場合には該当しない。
このように、36工事について、一般競争入札を行わずに、既契約工事に契約変更により追加していた事態は、会計法令等に照らして適切ではなく、公正性、競争性等を確保する面から改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、6防衛局において、建設工事に係る契約変更に当たり、会計法令等に関する理解が十分でなく、早期に入札・契約手続をとらなかったことによって当該手続に充てることができる期間が短くなったことが、緊急の必要により競争に付することができない場合に該当すると誤って判断していたことにもよるが、防衛省内部部局において、早期に施設を整備する必要がある場合にもあらかじめ入札・契約手続に係る十分な期間を確保して一般競争入札により契約を締結するよう地方防衛局等に対して周知することが十分でなかったことによると認められた。
本院の指摘に基づき、防衛省内部部局は、建設工事に係る入札・契約手続が適切に行われるよう、6年8月に地方防衛局等に対して通知を発して、早期に施設を整備する必要がある場合にも、既契約工事に契約変更により建設工事を追加するのではなく、公正性、競争性等を確保するために、入札・契約手続に係る十分な期間を確保して、一般競争入札により契約を締結するよう地方防衛局等に周知する処置を講じた。