ページトップ
  • 令和5年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 防衛省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(2) 潜水艦の定期検査等における鉛主蓄電池の充電について、仕様書等において契約の相手方に充電の実績を提出させることとするよう細部要領に規定することにより、充電の予定と実績にかい離が生じた場合に実績に基づく支払となるよう改善させたもの


科目
一般会計 (組織)防衛本省 (項)艦船整備費
部局等
海上自衛隊補給本部、横須賀、呉両地方総監部
契約名
「「おやしお」定期検査(造船所工事)ほか」等
契約の概要
潜水艦の定期検査等を請け負わせるもの
契約の相手方
川崎重工業株式会社、三菱重工業株式会社
契約
令和2年5月~5年2月 随意契約
定期検査等に係る請負契約のうち鉛主蓄電池の充電を求めた契約の件数及び電力料相当額
22件 3億8043万余円
上記のうち変更を要すると認められた契約の件数及び電力料相当額
18件 2億9741万余円
節減できた電力料相当額
8132万円

1 潜水艦の定期検査等及び鉛主蓄電池の充電の概要

(1) 定期検査等の概要

海上自衛隊は、船舶の造修等に関する訓令(昭和32年防衛庁訓令第43号)等に基づき、船舶の定期検査を行うこととしており、潜水艦の定期検査については、就役した日又は前回の定期検査が完了した日から起算して3年を経過した時に行うこととしている。また、しゅん工後12年を経過した潜水艦については、老朽の状態を相当程度回復することを目的とした大規模な修理を、通常、定期検査を行う際に実施している(以下、定期検査と合わせて「定期検査等」という。)。

(2) 定期検査等に係る請負契約の概要及び契約の変更手続

定期検査等については、潜水艦が在籍している横須賀、呉両地方総監部(以下「両総監部」という。)が、潜水艦の製造元である川崎重工業株式会社及び三菱重工業株式会社(以下「両会社」という。)とそれぞれ随意契約により請負契約を締結して、両会社に実施させている。定期検査等の請負契約を締結するに当たっては、その契約の内容を明らかにした仕様書を契約書の付属書類としている。仕様書には実施すべき作業や試験の内容及び方法、交換すべき部品の品目及び数量等の項目が掲げられており、これらの項目の内容に応じて予定価格を算出し、当該予定価格の範囲内で契約を締結している。また、海上自衛隊契約規則(平成27年海上自衛隊達第4号)によれば、仕様書に掲げられている項目の内容を増減する場合には契約の変更を行うこととされており、両総監部は必要の都度、契約の変更を行っている。

(3) 潜水艦に搭載する主蓄電池の概要

海上自衛隊が運用する潜水艦には、プロペラを回転させ推進力を得るための動力源として電動機が、当該電動機に電力を供給するための電力源としてディーゼル主機及び発電機(以下、ディーゼル主機及び発電機を合わせて「潜水艦用発電装置」という。)がそれぞれ搭載されている。潜水艦用発電装置の運転には外気を取り込む必要があることから、水上航走中等は外気を取り込んで潜水艦用発電装置を運転し、これにより発電した電力を電動機に供給することで、プロペラを回転させて推進力を得ている。しかし、潜航中は外気を取り込むことができず、潜水艦用発電装置を運転することができないことから、潜航中に電動機に電力を供給することなどを目的として主蓄電池が搭載されている。そして、水上航走中等に潜水艦用発電装置で発電した電力を主蓄電池に充電しておき、潜航中は主蓄電池に充電した電力を電動機に供給している(参考図参照)。また、海上自衛隊が令和5年度末時点で運用中の潜水艦25隻のうち20隻の潜水艦には、主蓄電池として鉛主蓄電池が搭載されている。

(参考図)

潜水艦の構造の概念図

潜水艦の構造の概念図

(4) 定期検査等における鉛主蓄電池の充電の概要

潜水艦用主蓄電池取扱説明書(以下「取扱説明書」という。)によれば、鉛主蓄電池を正常な状態に長く保つため、一定の間隔で充電を行う必要があるとされており、当該充電は取扱説明書に定められた手順等に基づいて行われている。定期検査等の工期はこの一定の間隔より相当程度長いことから、繰り返し充電を行うことになるが、工期中、検査や整備のために潜水艦用発電装置が陸揚げされ、発電を行うことができない期間については、陸上の電源により充電を行う必要がある。そこで、両総監部は、定期検査等に係る請負契約の仕様書及び工事要領書(以下、これらを合わせて「仕様書等」という。)において、定期検査等の工期中に必要な充電を行うことを両会社に求めている。

定期検査等で鉛主蓄電池の充電を行うに当たっては、海上自衛隊補給本部(以下「補給本部」という。)が定めた定期(年次)検査細部実施要領(平成13年制定。以下「細部要領」という。)において、充電を行う電力量を仕様書等に記載することとされている。そのため、両総監部は、定期検査等の工期中における充電の回数及び1回当たりの電力量から両会社が充電を行う電力量を算出し、これらを仕様書等に記載している(以下、両総監部が仕様書等に記載する電力量を「予定電力量」という。)。そして、両総監部は、年度ごとに両会社から電力単価を徴して、これに予定電力量を乗じて算出された額を、鉛主蓄電池の充電に要する電力料として予定価格に計上している。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、経済性等の観点から、定期検査等において鉛主蓄電池が予定電力量のとおり充電されているかなどに着眼して、2年度から4年度までの間に両総監部が両会社と締結した定期検査等の請負契約のうち鉛主蓄電池の充電を求めた契約計22件(契約金額計446億6429万余円のうち鉛主蓄電池の充電に要する電力料相当額計3億8043万余円)を対象として、補給本部、両総監部及び両会社において、契約書、仕様書等、予定価格調書、両会社の充電に係る記録等を確認するなどして会計実地検査を行った。

(検査の結果)

本院が両会社において、定期検査等の期間中に両会社が実際に鉛主蓄電池に充電した電力量(以下「実績電力量」という。)を充電に係る記録等により確認したところ、上記22件のうち18件(電力料相当額計2億9741万余円。以下「18契約」という。)において、予定電力量とかい離が生じていた。そして、そのうち実績電力量が予定電力量を下回っている契約が15件(電力量の開差の合計が18契約の予定電力量の合計に占める割合19.4%)と多くなっており、実績電力量が予定電力量を上回っている契約は3件(同2.1%)となっていた。

補給本部によれば、予定電力量は、取扱説明書及び過去の実績を基にして算出したものであることから、取扱説明書に定められた手順等に基づき充電を行った場合の充電電力量の近似値になるものと考えており、実績電力量との間に上記のようなかい離が生じることを想定していなかったとしている。一方で、実態としてかい離が生じていることについて、補給本部は、鉛主蓄電池の使用状況、使用環境等により、潜水艦ごとに鉛主蓄電池の状態が異なっていることなどによるとしており、このような状況からすると、あらかじめ予定電力量を正確に算出することは困難であるとのことであった。

上記のように予定電力量と実績電力量にかい離が生じた場合は、仕様書等に掲げられている項目の内容の増減に当たることから、海上自衛隊契約規則等に基づき契約の変更を行う必要があった。しかし、現行の細部要領では、前記のとおり、仕様書等において、予定電力量を記載することとしている一方で、契約の相手方に対して実績電力量の記録を両総監部に提出することを求めていないことから、両総監部は、実績電力量を確認できず、予定電力量とのかい離を把握できていなかった。そのため、実績電力量に基づく契約の変更を行わないまま、予定電力量のとおり充電が実施されたものとして、契約金額どおりに支払を行っていた。

このように、多くの契約において実績電力量が予定電力量を下回っているのに、これを把握できず、契約の変更を行わないまま、支払が行われていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

なお、検査した22件のうち、18契約以外の4件は、いずれも4年度に横須賀地方総監部が締結した契約であり、横須賀地方総監部は、本院の検査を踏まえて、両会社から充電に係る記録等を徴した上で、6年1月までに実績電力量に基づいて契約の変更を行っていた。その結果、これらの4件については、予定電力量と実績電力量との間にかい離は生じていなかった。

(節減できた電力料相当額)

18契約に係る電力料相当額2億9741万余円について、契約ごとに実績電力量に基づき修正計算すると、計2億1609万余円となり、電力料相当額は計8132万余円節減できたと認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、補給本部において、予定電力量と実績電力量のかい離を想定していなかったことから、細部要領により、仕様書等に予定電力量を記載することと規定しているのみで、実績電力量を確認する体制としていなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

本院の指摘に基づき、補給本部は、6年7月に細部要領を改正して、仕様書等において契約の相手方に実績電力量を取りまとめて提出させることとし、両総監部がこれを確認できる体制とすることにより、予定電力量と実績電力量にかい離が生じた場合に契約の変更を確実に行うことができるようにするとともに、改正の内容を両総監部に周知する処置を講じた。