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  • 令和5年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第7 全国健康保険協会|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

生活習慣病予防健診の一般健診として実施される眼底検査について、請求対象となる要件を同健診を実施する医療機関に対して周知徹底するとともに、請求対象とならない眼底検査を請求に含めていた場合は、健診結果データ作成ツールにエラーを表示させるなどの機能を追加するなどすることにより、一般健診における眼底検査に係る費用負担が適切なものとなるよう改善させたもの


科目
業務経費
部局等
全国健康保険協会本部
生活習慣病予防健診の一般健診における眼底検査に係る費用負担の概要
生活習慣病予防健診の一般健診を受診した被保険者のうち、「標準的な健診・保健指導プログラム」に定める判定基準に該当した者に対して眼底検査を実施した場合の健診費用から受診者が負担する額を差し引いた額を全国健康保険協会が負担するもの
生活習慣病予防健診として実施された眼底検査の件数及び同協会の負担額として医療機関に対して支払った額
267,384件 1億9042万余円(令和4、5両年度)
上記のうち同協会の費用負担の対象とならない眼底検査に係る件数及び支払額
34,295件2444万円(令和4、5両年度)

1 生活習慣病予防健診の概要等

(1) 生活習慣病予防健診の概要

全国健康保険協会(以下「協会」という。)は、健康保険法(大正11年法律第70号)及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)に基づき、健康保険の保険者として、生活習慣病予防健診を実施している。

協会が作成する「全国健康保険協会管掌健康保険生活習慣病予防健診・肝炎ウイルス検査実施要綱」(以下「実施要綱」という。)によると、生活習慣病予防健診のうち、一般健診は、当該年度において35歳以上75歳未満の被保険者を対象として実施されるものである。一般健診の健診項目は、診察等、血圧測定、尿検査、糞便検査、血液学的検査、生化学的検査、心電図検査、胸部レントゲン検査及び胃部レントゲン検査のほか、眼底検査となっていて、特定健康診査(注1)の健診項目が全て含まれている。

このうち、眼底検査は、生活習慣病の重症化の進展を早期に評価することを目的として、高血圧や糖尿病に起因する眼底異常の有無を確認するために、眼底カメラや眼底鏡等の検査機材を使って実施されるものである。そして、協会は、実施要綱において、眼底検査について、厚生労働省が作成した「標準的な健診・保健指導プログラム」(以下「標準プログラム」という。)に基づいて医師の判断がある場合に実施することができることとしている。

(注1)
特定健康診査  高血圧症、脂質異常症、糖尿病その他の生活習慣病に関する健康診査であって、基本的な健診項目と医師が必要と判断する場合に実施する詳細な健診項目から構成されている。

(2) 一般健診における眼底検査に係る費用負担等の概要

47都道府県に所在する協会の各支部は、生活習慣病予防健診に必要な医療設備を保有するなどしている医療機関(以下「健診機関」という。)との間で「全国健康保険協会管掌健康保険生活習慣病予防健診等委託契約」(以下「委託契約」という。)を締結し、健診機関に生活習慣病予防健診を実施させている。

健診機関は、委託契約に基づき、生活習慣病予防健診の実施に要した費用(以下「健診費用」という。)の額から受診者が負担する額を差し引いた額を協会の負担額として各支部に請求し、協会は、各支部において請求内容及び請求額を審査した上で、本部から健診機関に対して協会の負担額を支払っている。一般健診における眼底検査については、実施要綱に一人当たり健診費用の上限額が定められており、令和4年度及び5年度は792円(これに係る協会の負担額713円)となっている。そして、協会は、健診機関において、眼底検査が実施要綱に基づいて実施された場合には、上限の範囲内で協会の負担額を健診機関に対して支払うことにしている。

また、実施要綱等によると、健診機関は、生活習慣病予防健診実施後に健診費用に係る協会の負担額を請求する際に、生活習慣病予防健診の結果から健診結果データ及び健診検査費請求データを作成し、各支部に報告することとなっている。協会は、健診機関が健診結果データ等を作成する際に検査値の入力や請求内容等にエラーがないかをチェックする機能を有した健診結果データ作成ツール(以下「作成ツール」という。)を開発して、これを各健診機関に配布している。健診機関は、作成ツールを用いて、協会の各支部に報告する健診結果や請求内容等が適切なものとなっているかを事前に点検することとなっている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、効率性等の観点から、一般健診として実施される眼底検査が実施要綱に基づいて適切に実施され、協会への請求が適切なものとなっているかなどに着眼して、4、5両年度に協会が健診機関に対して支払った協会の負担額のうち、一般健診における眼底検査に係る支払額、4年度9590万余円(検査件数134,707件)、5年度9451万余円(同132,677件)、計1億9042万余円(同計267,384件)を対象として検査した。

検査に当たっては、協会本部及び24支部(注2)において、委託契約書、請求書等の関係書類の内容を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、協会が保有している健診結果データ等から各健診機関における眼底検査の実施状況を確認するなどして検査した。

(注2)
24支部  北海道、宮城、山形、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、福井、長野、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、奈良、鳥取、岡山、広島、山口、愛媛、福岡、大分、宮崎各支部

(検査の結果)

協会は、実施要綱において、一般健診における眼底検査について、標準プログラムに基づいて医師の判断がある場合に実施することができることとしている。

標準プログラムを確認したところ、眼底検査は、に示した判定基準に該当した者のうち、医師が必要と認める者について実施することとされていた。

表 標準プログラムにおける判定基準

当該年度の健診結果等において、①血圧が以下のa、bのうちいずれかの基準又は②血糖の値がa、b、cのうちいずれかの基準に該当した者※

①血圧 a 収縮期血圧 140㎜Hg以上
b 拡張期血圧 90㎜Hg以上
②血糖 a 空腹時血糖 126㎎/㎗以上
b HbA1c(NGSP) 6.5%以上
c 随時血糖 126㎎/㎗以上

※ 当該年度の特定健康診査の結果等のうち、①のうちa、bのいずれの血圧の基準にも該当せず、かつ当該年度の血糖検査の結果を確認することができない場合においては、前年度の特定健康診査の結果等において、血糖検査の結果が②のうちa、b、cのいずれかの基準に該当した者も含む。

協会は、健診機関において、眼底検査が実施要綱に基づいて実施された場合のみ、眼底検査に係る協会の負担額を健診機関に対して支払うことにしている。

そこで、各健診機関が4、5両年度に一般健診の眼底検査として実施したとしていた4年度134,707件、5年度132,677件、計267,384件についてみたところ、標準プログラムの判定基準に該当していない者に対して実施していた眼底検査が、4年度17,197件、5年度17,098件、計34,295件含まれていた。そして、協会は、これら34,295件の眼底検査における健診費用に係る協会の負担額として計2444万余円を健診機関に対して支払っていた。

上記のとおり、協会が当該負担額を支払っている場合が見受けられたことから、これらについて、健診機関が協会の負担額として請求している要因等について分析したところ、次のような状況となっていた。

ア 標準プログラムには、眼底検査を実施する際の判定基準となる具体的な数値等が示され、判定基準に該当した者のうち医師が必要と認める者について実施することが明記されている。

一方、実施要綱には、「標準プログラムに基づいて医師の判断がある場合、一般健診と同時に実施することができる」とのみ記述されていた。そのため、協会と健診機関との間において、眼底検査の実施が協会の費用負担の対象となるかを判断する場合の判定基準となる具体的な数値等について、情報が十分に共有されていたとは認められない状況となっていた。

イ 各健診機関は、作成ツールを用いて、健診結果や請求内容等が適切なものとなっているかを事前に点検することとなっている。

しかし、作成ツールには、一般健診における眼底検査に係る請求内容について、標準プログラムの判定基準に基づいてエラーを判定する機能が設定されていない状況となっていた。その理由について、協会は、実施要綱において、一般健診における眼底検査は標準プログラムに基づき実施するよう定めていたことから、健診機関が一般健診として眼底検査を実施するのは標準プログラムの判定基準に該当した者のみであり、判定基準に該当していない者に眼底検査が実施されたとしても、その費用については請求されることはないと考えていたとしている。

このように、生活習慣病予防健診の一般健診として実施されているものの、標準プログラムの判定基準に該当していない者に対して実施された眼底検査について、協会の負担額が健診機関から請求され、協会が請求額と同額を健診機関に対して支払っていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、協会において、一般健診の受診者が眼底検査を受ける場合に、協会の費用負担が生ずる眼底検査の範囲を、健診機関に明確に示しておくことの必要性について十分に検討していなかったこと、標準プログラムの判定基準に該当していない者に対して実施した眼底検査が協会への請求に含まれていた場合に、作成ツールにおいてエラーと判定するようにすることの検討が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

本院の指摘に基づき、協会は、生活習慣病予防健診の一般健診における眼底検査の費用負担が適切なものとなるよう、次のような処置を講じた。

ア 6年7月に健診機関に対して文書を発出して、一般健診における眼底検査について、協会の費用負担の対象となるのは標準プログラムの判定基準に該当した者に対して実施した眼底検査のみであることや、判定基準の具体的な数値等を周知徹底した。

イ 6年7月に、作成ツールに機能を追加し、眼底検査に関し、標準プログラムの判定基準に該当していない者に対して実施した眼底検査を協会への請求に含めていた場合に、協会への請求はできないと判定し、エラーを表示させるなどするとともに、健診機関に対して文書を発出し、同機能を追加した旨を周知した。