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  • 令和5年度|
  • 第6章 歳入歳出決算その他検査対象の概要

第2節 国の財政等の状況


第2 日本銀行の財務の状況

日本銀行の令和5年度の決算の概要は前掲0780リンク参照のとおりであるが、日本銀行の決算等のより的確な理解に資するために、日本銀行が量的・質的金融緩和を始めとする大規模な金融緩和の下で金融機関等から多額の長期国債(発行から償還までの期間が2年以上の国債をいう。以下同じ。)等の金融資産を買い入れてきたことなどを踏まえて、量的・質的金融緩和導入前の平成24年度から令和5年度までの間における日本銀行の財務についてその状況を述べると、次のとおりである。

1 量的・質的金融緩和等

(1) 日本銀行の金融調節

日本銀行は、日本銀行法(平成9年法律第89号)に基づき、我が国の中央銀行として、日本銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節として、国債等の買入れを行うなどして金融機関等に資金を供給することや、日本銀行が振り出す手形等の売却を行って金融機関等から資金を吸収することにより、金融機関等が相互の資金決済等のために日本銀行に保有している当座預金(以下「日銀当座預金」という。)の残高を増減させることで、金融市場における資金過不足の調整(以下「金融調節」という。)を行っている。

また、日本銀行は、平成20年10月に、金融調節の一層の円滑化を通じて金融市場の安定確保を図るために、補完当座預金制度を導入している。この制度は、準備預金制度(注1)の対象となる金融機関に係る日銀当座預金及び準備預り金(注2)(以下、日銀当座預金及び準備預り金を合わせて「日銀当座預金等」という。)のうち日本銀行に預け入れることが義務付けられている額を超える額(以下「超過準備額」という。)並びに準備預金制度の対象とならない金融機関等のうち所定の金融機関等(注3)(以下「非対象先」という。)に係る日銀当座預金(以下、超過準備額及び非対象先に係る日銀当座預金を合わせて「超過準備額等」という。)について、いずれも政策委員会で決定した適用利率(制度導入時は年0.1%)による利息を付するものである。

(注1)
準備預金制度  準備預金制度に関する法律(昭和32年法律第135号)に基づき、銀行等の預金取扱金融機関について、預金等の債務に所定の率を乗じて算定される額を日本銀行に預け入れることを義務付ける制度
(注2)
準備預り金  準備預金制度の対象となる金融機関のうち日本銀行と当座預金取引のないものに係る預り金
(注3)
準備預金制度の対象とならない金融機関等のうち所定の金融機関等  準備預金制度の対象とならないが、資金決済等のために日本銀行と当座預金取引を行っている金融機関等のうち証券会社等

(2) 大規模な金融緩和の概要

日本銀行は、25年1月に、消費者物価の前年比上昇率で2%とする物価安定の目標(以下「物価安定の目標」という。)を導入し、同年4月に、物価安定の目標を2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現するために「量的・質的金融緩和」の導入を決定した。その後、日本銀行は、図表1のとおり、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」や「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」等の導入を決定するなどしてきた。

そして、日本銀行は、量的・質的金融緩和を始めとする大規模な金融緩和の下で、金融調節の方針(以下「金融市場調節方針」という。)、資産の買入れ方針等、金利操作方針等に基づき、長期国債、指数連動型上場投資信託(以下「ETF」という。)及び不動産投資信託(以下「J―REIT」という。)の買入れなどを行うとともに、日銀当座預金等の一部に年マイナス0.1%の利率を適用するなどしてきた。

令和5年度においては、長期国債、ETF等の買入れなどについて、日本銀行は、後掲の「金融政策の枠組みの見直し」を6年3月に決定するまでの間、3年3月に決定した「より効果的で持続的な金融緩和」において定めた金融市場調節方針、資産の買入れ方針等に基づき行ってきた。そして、その間、長短金利操作の運用の柔軟化として、5年7月に長期金利の変動幅(注4)について「±0.5%程度」を「目途」とし、さらに、同年10月には長期金利の上限として「1.0%」を「目途」とすることをそれぞれ決定してきた。

(注4)
日本銀行は、令和3年3月の「より効果的で持続的な金融緩和」において、金融市場調節方針として長期金利については10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行うことを決定するとともに、長期金利の変動幅を「±0.25%程度」とすることを明確化し、また、4年12月に、同変動幅を「±0.5%程度」に拡大した。

図表1 量的・質的金融緩和導入以降の金融市場調節方針等の概要

区分 金融市場調節方針 資産の買入れ方針等 金利操作方針等
長期国債 ETF J―REIT
買入額 買入れの平均残存期間
平成254
「量的・質的金融緩和」の導入
マネタリーベースが年間約60~70兆円に相当するペースで増加するように金融調節を行う。
保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するように買入れを行う。
7年程度
保有残高が年間約1兆円に相当するペースで増加するように買入れを行う。
保有残高が年間約300億円に相当するペースで増加するように買入れを行う。
2610
「量的・質的金融緩和」の拡大
マネタリーベースが年間約80兆円に相当するペースで増加するように金融調節を行う。
保有残高が年間約80兆円に相当するペースで増加するように買入れを行う。
7年~10年程度
保有残高が年間約3兆円に相当するペースで増加するように買入れを行う。
保有残高が年間約900億円に相当するペースで増加するように買入れを行う。
281
「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入
マネタリーベースが年間約80兆円に相当するペースで増加するように金融調節を行う。
保有残高が年間約80兆円に相当するペースで増加するように買入れを行う。
7年~12年程度
注(3)
保有残高が年間約3兆円に相当するペースで増加するように買入れを行う。注(4)
保有残高が年間約900億円に相当するペースで増加するように買入れを行う。
日銀当座預金等の一部に年マイナス0.1%の金利を適用する。
289
「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入
短期金利については日銀当座預金等の一部に年マイナス0.1%の利率を適用し、長期金利については10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように長期国債の買入れを行う。長期国債について、おおむね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するように運営する。
おおむね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するように運営する。 注(5)

(廃止)
保有残高が年間約6兆円に相当するペースで増加するように買入れを行う。注(6)
保有残高が年間約900億円に相当するペースで増加するように買入れを行う。
短期金利については日銀当座預金等の一部に年マイナス0.1%の利率を適用し、長期金利については10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように長期国債の買入れを行う。 注(5)
307
「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」
短期金利については日銀当座預金等の一部に年マイナス0.1%の利率を適用し、長期金利については10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように長期国債の買入れを行う。その際、長期金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得るものとし、買入額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。
保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。 注(7)
保有残高が年間約6兆円に相当するペースで増加するように買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入額は上下に変動し得るものとする。
保有残高が年間約900億円に相当するペースで増加するように買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入額は上下に変動し得るものとする。
短期金利については日銀当座預金等の一部に年マイナス0.1%の利率を適用し、長期金利については10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように長期国債の買入れを行う。その際、長期金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得るものとする。 注(7)
令和23
「新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化」
短期金利については日銀当座預金等の一部に年マイナス0.1%の利率を適用し、長期金利については10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように長期国債の買入れを行う。その際、長期金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得るものとし、買入額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。
保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。注(8)
当面は、年間約12兆円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う。 注(9)
当面は、年間約1800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う。 注(9)
短期金利については日銀当座預金等の一部に年マイナス0.1%の利率を適用し、長期金利については10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように長期国債の買入れを行う。その際、長期金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得るものとする。注(8)
24
「金融緩和の強化」
短期金利については日銀当座預金等の一部に年マイナス0.1%の利率を適用し、長期金利については10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、長期金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得るものとする。
10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。注(10)
当面は、年間約12兆円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う。注(11)
当面は、年間約1800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う。注(11)
短期金利については日銀当座預金等の一部に年マイナス0.1%の利率を適用し、長期金利については10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、長期金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得るものとする。注(10)
33
「より効果的で持続的な金融緩和」
短期金利については日銀当座預金等の一部に年マイナス0.1%の利率を適用し、長期金利については10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
年間約12兆円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
年間約1800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
短期金利については日銀当座預金等の一部に年マイナス0.1%の利率を適用し、長期金利については10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  • 注(1) 下線部分は、直上の表記内容からの変更箇所である。
  • 注(2) マネタリーベースとは、日本銀行が供給する通貨の総量であり、日本銀行券発行高、貨幣流通高及び日銀当座預金の合計額である。
  • 注(3) 平成27年12月に導入が決定された「量的・質的金融緩和を補完するための諸措置」では、28年1月以降、長期国債の買入れの平均残存期間は「7年~12年程度」に長期化することとされている。
  • 注(4) 平成27年12月に導入が決定された「量的・質的金融緩和を補完するための諸措置」では、ETFについて、28年4月以降、新たに年間約3000億円の枠を設けて「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象とするETFを買い入れることとされている。
  • 注(5) 平成28年9月の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入に伴い決定された金融市場調節方針において記述されている事項である。
  • 注(6) 平成28年7月に、「金融緩和の強化」として、ETFの保有残高が年間約6兆円に相当するペースで増加するように買入れを行うことが決定されている。
  • 注(7) 平成30年7月の「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」に伴い決定された金融市場調節方針において記述されている事項である。
  • 注(8) 令和2年3月の「新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化」に伴い決定された金融市場調節方針において記述されている事項である。
  • 注(9) 令和2年3月の「新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化」において「ETF・J―REITの積極的な買入れ」として記述されている事項であり、その注記として、ETF及びJ―REITの原則的な買入れ方針としては、引き続き、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するように買入れを行い、その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入額は上下に変動し得るものとすると記述されている。
  • 注(10) 令和2年4月の「金融緩和の強化」に伴い決定された金融市場調節方針において記述されている事項である。
  • 注(11) 令和2年4月の「金融緩和の強化」において「ETFおよびJ―REITの買入れ方針」として記述されている事項であり、その注記として、ETF及びJ―REITの原則的な買入れ方針としては、引き続き、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するように買入れを行い、その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入額は上下に変動し得るものとすると記述されている。

(3) 金融政策の枠組みの見直し

日本銀行は、6年3月に、物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断し、これまでの長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組み及びマイナス金利政策は、その役割を果たしたと考えているとして、「金融政策の枠組みの見直し」を決定した。そして、引き続き物価安定の目標の下で、その持続的・安定的な実現という観点から、短期金利の操作を主たる政策手段として、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営することとした。

また、日本銀行は、上記を踏まえて、金融市場調節方針等について次のとおりとすることを併せて決定した。すなわち、金融市場調節方針として、それまでの金利操作方針に代えて、無担保コールレート(オーバーナイト物)を「0~0.1%程度(注5)」で推移するように促すこととし、これを実現するために、超過準備額等について年0.1%(注5)の利息を付することとした。そして、資産の買入れ方針として、長期国債については、これまでとおおむね同程度の金額で買入れを継続することとし(注5)、ETF及びJ―REITについては、新規の買入れを終了することなどとした。

(注5)
その後、日本銀行は、令和6年7月に決定した「金融市場調節方針の変更および長期国債買入れの減額計画の決定」において、金融市場調節方針について無担保コールレート(オーバーナイト物)を「0.25%程度」で推移するように促すこととし、超過準備額等について年0.25%の利息を付することとしている。また、長期国債買入れの減額について、月間の長期国債の買入予定額を、原則として毎四半期4000億円程度ずつ減額し、「2026年1~3月に3兆円程度」とする計画を決定している。

(4) 中央銀行の財務と金融政策運営に関する基本的な考え方

日本銀行は、5年4月に、金融政策の多角的レビュー(注6)を行うことを決定し、その一環として、同年12月に、中央銀行の財務と金融政策運営に関する基本的な考え方を整理した調査論文「中央銀行の財務と金融政策運営」(日本銀行企画局)を公表している。そして、この中で、中央銀行は、継続的に通貨発行益(注7)が発生するため、やや長い目でみれば、通常、収益が確保できる仕組みとなっているほか、自身で銀行券や当座預金といった支払決済手段を提供できることから、一時的に赤字又は債務超過となっても政策運営能力に支障を生じないとした上で、ただし、いくら赤字や債務超過になっても問題ないということではなく、中央銀行の財務リスクが着目されて金融政策を巡る無用の混乱が生ずる場合、そのことが中央銀行又は通貨の信認の低下につながるリスクがあるため、財務の健全性を確保することは重要であるなどとしている。また、一般に、大規模な資産買入れなどの金融緩和を実施している局面ではバランスシートの拡大により収益が押し上げられる一方、バランスシートが縮小していく出口の局面では、当座預金に付される金利の引上げなどによって、収益が減少しやすいという特徴があることを踏まえて、出口に向けた収益の振幅を平準化し、財務の健全性を確保する観点から、後掲の債券取引損失引当金の制度を拡充するなど、自己資本の充実に努めてきているとしている。

(注6)
金融政策の多角的レビュー  日本銀行は、我が国経済がデフレに陥った1990年代後半以降、25年間という長きにわたって実施されてきた様々な金融緩和策が、我が国の経済・物価・金融の幅広い分野と相互に関連し影響を及ぼしてきたことを踏まえて、令和5年4月に、金融政策運営について、1年から1年半程度の時間をかけて多角的にレビューを行うことを決定した。
(注7)
通貨発行益  日本銀行は、令和5年12月に公表した「中央銀行の財務と金融政策運営」(日本銀行企画局)において、中央銀行は、通常、買い入れた国債等から利息収入を得る一方、負債である当座預金のうち預け入れることが義務付けられている部分や銀行券に対しては金利が付されない収益構造となっているため、安定的に収益を上げることができることとなっており、この収益を「通貨発行益」というとしている。

2 日本銀行の財務の状況

(1) 資産、負債等

ア 長期国債
(ア) 長期国債の買入額

前掲図表1のとおり、日本銀行は、長期国債について、大規模な金融緩和の下での資産の買入れ方針として、平成25年4月から26年10月までの間は年間約50兆円、同年10月から28年9月までの間は年間約80兆円に相当するペースで保有残高が増加するように買入れを行うこととしていた。そして、28年9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和の導入を決定して金融市場調節方針を変更して以降は、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように買入れを行うことなどとしており、特に令和2年4月に「金融緩和の強化」を決定して以降は買入額に上限を設けず必要な金額の買入れを行うこととしていた。また、6年3月に金融政策の枠組みの見直しを決定して以降も、これまでとおおむね同程度の金額で買入れを継続することとした。

日本銀行による長期国債の買入額の推移をみると、図表2のとおり、平成25年度から28年度までの間は、保有残高の増加額に係る上記買入れ方針の下で、日本銀行が保有する長期国債(以下「保有長期国債」という。)のうち償還等相当分(償還期限が到来して償還される保有長期国債の金額等に相当する分をいう。以下同じ。)の買入れに加えて、年間約50兆円又は年間約80兆円に相当するペースで保有残高の増加分の買入れを行った結果、長期国債全体の買入額は、28年度には115.8兆円(うち保有残高の増加分75.2兆円)にまで増加している。その後、28年9月に金融市場調節方針が変更されたことを受けて、同年9月以降買入れペースが鈍化したことから、長期国債全体の買入額は29年度以降はおおむね減少傾向となっている。

一方、令和4年度は前年度から63.1兆円と大幅に増加して135.9兆円(同64.9兆円)となっている。これは、海外金利の上昇等を背景に、年度を通して強い金利上昇圧力が生ずる中で、金融市場調節方針に基づき、大規模な買入れが行われたことによると考えられる。そして、5年度は前年度から48.4兆円と大幅に減少して87.5兆円(同9.3兆円)となっている。これは、前記のとおり、5年7月及び10月に長短金利操作の運用の柔軟化に係る決定がなされ、また、同年11月以降に金利上昇圧力が弱まるなどした中で、金融市場調節方針に基づく買入れが前年度よりも少なかったことによると考えられる。

図表2 長期国債の買入額の推移

長期国債の買入額の推移

  • 注(1) 日本銀行「マネタリーベースと日本銀行の取引」から本院が作成した。
  • 注(2) 償還等相当分には償却原価法による評価替えに伴う簿価の変動額等が含まれる。
(イ) 保有長期国債の含み損益等

日本銀行は、会計規程(平成10年10月制定)に基づき、保有長期国債については、原則として償還期限まで保有している実態を勘案して、償却原価法(注8)により評価を行うこととしている。このため、保有長期国債の貸借対照表価額は、取得原価と額面金額との差額を償還期限に至るまで毎期均等に取得原価に加減して算定した金額が計上されており、時価の変動による影響を受けることはない。

一方、日本銀行は、国債を含む保有有価証券の時価に係る情報を決算説明資料等において参考情報として公表している。

保有長期国債の貸借対照表価額、時価及び含み損益の推移をみると、市場金利の動向を反映して、図表3のとおり、平成24年度末から令和3年度末までは、いずれも時価が貸借対照表価額を上回り含み益が生じていたが、4年度末からは含み損が生じている。そして、5年度末の含み損の額は、市場金利の上昇に伴い、前年度末から9兆2735億円増加して9兆4314億円となっている。

この含み損については、前記のとおり日本銀行が保有長期国債の評価方法として償却原価法を採用している中で、保有長期国債を償還期限まで売却せずに保有していれば顕在化することはないと考えられる。ただし、仮に今後売却が行われた場合には、その時点の簿価と時価との差額が実現損益として財務諸表に計上されることになる。

(注8)
償却原価法  取得原価と額面金額との差額を償還期限までの間、毎期均等に償却する方法であり、これに伴う損益は、日本銀行の損益において、長期国債利息に含める形で計上される。

図表3 保有長期国債の貸借対照表価額、時価及び含み損益の推移

(単位:億円)
区分
平成
24年度末
25年度末 26年度末 27年度末 28年度末 29年度末 30年度末
貸借対照表価額(a) 91兆3492 154兆1536 220兆1337 301兆8986 377兆1441 426兆5674 459兆5862
時価(b) 93兆8741 156兆8774 224兆9509 317兆1123 386兆7942 437兆2690 475兆6216
含み損益(c)=(b)-(a) 2兆5248 2兆7238 4兆8171 15兆2136 9兆6500 10兆7016 16兆0353
区分
令和
元年度末
2年度末 3年度末 4年度末 5年度末
貸借対照表価額(a) 473兆5413 495兆7770 511兆2312 576兆2197 585兆6168
時価(b) 486兆9838 505兆2094 515兆6042 576兆0618 576兆1853
含み損益(c)=(b)-(a) 13兆4424 9兆4324 4兆3730 △1579 △9兆4314
  • (注) 日本銀行の行政コスト計算財務書類(特殊法人等に係る行政コスト計算書作成指針(平成13年6月財政制度等審議会公表)に基づき、特殊法人等が民間企業として活動しているとの仮定に立って作成する財務書類)等から本院が作成した。
イ ETF及びJ―REIT
(ア) ETF及びJ―REITの買入額

日本銀行は、ETF及びJ―REITについて、大規模な金融緩和の下での資産の買入れ方針として、平成25年4月以降、それぞれの保有残高が1兆円及び300億円ないし6兆円及び900億円といった一定の金額に相当するペースで増加するように買入れを行うことなどとしていた。その後、令和3年3月の「より効果的で持続的な金融緩和」の決定以降は、それぞれ約12兆円及び約1800億円に相当する年間残高増加ペースを上限に、必要に応じて買入れを行うこととしていた。そして、6年3月に金融政策の枠組みの見直しを決定して、新規の買入れを終了することとした。

日本銀行によるETF及びJ―REITの買入額の推移をみると、図表4のとおり、ETF及びJ―REITのいずれも、上記買入れ方針の下で買入れを行った結果、平成25年度から29年度までの間は増加傾向にあり、29年度にはそれぞれ5兆9994億円及び928億円にまで増加した。

一方、令和3年度以降は、それぞれ1兆円及び30億円を下回る水準で推移しており、特にJ―REITについては5年度の買入れ実績はなかった。これは、日本銀行が3年3月に「より効果的で持続的な金融緩和」を決定して以降、市場が大きく不安定化した場合に大規模な買入れを行うことが効果的であるとした上で、必要に応じて買入れを行うこととしていたが、そのような市場の動きがなかったことが反映されたことによると考えられる。

図表4 ETF及びJ―REITの買入額の推移

ETF及びJ―REITの買入額の推移

  • (注) 日本銀行「日銀当座預金増減要因と金融調節(実績)」から本院が作成した。なお、「日銀当座預金増減要因と金融調節(実績)」には、金額について、億円単位未満が原則として四捨五入で示されている。
(イ) ETF及びJ―REITの貸借対照表価額及び含み損益

日本銀行は、ETF及びJ―REITについては、金融政策目的で買い入れたものであり、その保有の目的や実態が民間企業等とは異なることを踏まえて、会計規程に基づき、原価法(注9)により評価を行うこととしている。そして、保有等に伴う損失発生可能性に備えて、同規程に基づき、ETF及びJ―REITの時価の総額がそれぞれの帳簿価額の総額(貸借対照表価額)を下回る場合には、その差額に対してそれぞれの引当金を年度末等に計上することとしている。

ETF及びJ―REITの貸借対照表価額及び含み損益の推移をみると、図表5のとおり、貸借対照表価額については、各年度の買入額の増加に伴い、平成24年度末から令和2年度末までの間、ETF及びJ―REITのいずれも増加傾向にあり、2年度末にはそれぞれ35兆8796億円及び6668億円にまで増加した。そして、その後は買入額の大幅な減少に伴いほぼ横ばいで推移しており、5年度末の貸借対照表価額はそれぞれ37兆1861億円(前年度末比1401億円増加)及び6659億円(同6億円減少)となっている。

また、含み損益については、ETF及びJ―REITのいずれも、株式市場等の動向を反映して各年度末とも時価が貸借対照表価額を上回って含み益が生じている。そして、このうち貸借対照表価額が大きいETFの含み益についてみると、日経平均株価、東証株価指数(TOPIX)等の上昇に伴い、2年度末以降は大幅に増加していて、特に5年度末は前年度末から21兆2763億円増加して37兆3120億円となっている。また、このように各年度末とも含み益が生じている(注10)ため、ETF及びJ―REITのいずれも前記の引当金は計上されていない。

(注9)
原価法  取得原価により貸借対照表に計上する方法
(注10)
日本銀行は、令和5年度末時点のETFの保有状況を前提として機械的に試算すると、日経平均株価が2万円程度を下回る場合や東証株価指数(TOPIX)が1400ポイント程度を下回る場合に、上記ETF全体の時価が貸借対照表価額を下回る計算となるとしている。そして、この場合は含み損が生ずることになるが、日本銀行は、このような場合には、その含み損に対して引当金を計上するため、これにより日本銀行の財務の健全性の確保を図ることができるなどとしている。

図表5 ETF及びJ―REITの貸借対照表価額及び含み損益の推移

ETF及びJ―REITの貸借対照表価額及び含み損益の推移

  • 注(1) 日本銀行の貸借対照表及び行政コスト計算財務書類から本院が作成した。
  • 注(2) ETF及びJ―REITは、国債のように償還期限が設定されるものではないため、その保有残高は処分、減損処理等によって減少することとなり、処分が行われる場合には、ETF及びJ―REITの帳簿価額と処分価格との差額が損益としてそれぞれ計上されることとなっている。
  • 注(3) ETF及びJ―REITの保有銘柄について年度末等における時価が著しく下落した場合には、当該銘柄について減損処理を行うこととなっており、J―REITについては保有銘柄の一部について時価が著しく下落したため令和元年度末に減損処理が行われていて、これにより当該銘柄に係るJ―REITの保有残高が159億円減少するとともに、同額が同年度の損益に計上されている。
ウ 総資産残高、総負債残高等

前記のとおり、日本銀行は、大規模な金融緩和の下で、多額の長期国債やETF等を買い入れてきた。

量的・質的金融緩和導入前の平成24年度末から直近の令和5年度末までの間における日本銀行の総資産残高の状況をみると、図表6及び図表7のとおり、資産のうち、長期国債は平成24年度末に91兆3492億円であったものが令和5年度末にはその約6.4倍の585兆6168億円(前年度末比9兆3970億円増加)に、ETFは平成24年度末に1兆5440億円であったものが令和5年度末にはその約24.0倍の37兆1861億円(同1401億円増加)にそれぞれ増加するなどしている。

そして、このようなことから、総資産残高は、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーション(注11)(以下「新型コロナ対応特別オペ」という。)の利用の減少等に伴い「貸出金(注12)」の残高が大幅に減少するなどした4年度末を除いて、いずれも毎年度増加していて、5年度末の総資産残高は、平成24年度末の約4.5倍の756兆4231億円(同21兆3065億円増加)となっている。

また、これに対応する形で、総負債残高も同様に増加しており、令和5年度末の総負債残高は、平成24年度末の約4.6倍の750兆5874億円(同21兆0025億円増加)となっている。

(注11)
新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーション  日本銀行が、金融機関等からあらかじめ差し入れられた国債等の適格担保を担保として、新型コロナウイルス感染症対応として行われている中小企業等への融資残高等の合計額の範囲内で資金供給を行う公開市場操作としての貸付けであり、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、令和2年3月に「新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペレーション」として開始された後、同年4月に名称変更され、5年3月末をもって廃止された。
(注12)
貸出金  日本銀行が、金融緩和効果を一段と浸透させるなどのために、金融機関等に対する資金供給として行っている各種の貸付けに係る残高であり、この残高は、日本銀行の貸借対照表の資産科目である「貸出金」に計上される。

図表6 量的・質的金融緩和の導入前後における総資産残高、総負債残高等の状況

量的・質的金融緩和の導入前後における総資産残高、総負債残高等の状況

  • 注(1) 日本銀行の貸借対照表及び附属明細書から本院が作成した。
  • 注(2) 資産の「外貨建資産」は、国際金融協力の実施等に備える目的で保有している外貨預け金、外貨債券、外貨投資信託及び外貨貸付金である。
  • 注(3) 括弧書きは、総資産残高又は総負債残高に対する割合である。

図表7 総資産残高、総負債残高等の推移

総資産残高、総負債残高等の推移

  • (注) 日本銀行の貸借対照表及び附属明細書から本院が作成した。

(2) 損益、当期剰余金の処分等

ア 長期国債利息等

前記のとおり、日本銀行は、大規模な金融緩和の下で、多額の長期国債を買い入れてきた。保有長期国債から得られる長期国債利息について、日本銀行は、会計規程に基づき、保有長期国債の受取利息に償却原価法に基づく利息調整損益(注13)を加減して算定することとしている。長期国債利息の推移をみると、図表8のとおり、いずれの年度も、利息調整損益は、日本銀行が長期国債の大部分を額面金額を上回る価額で買い入れていることなどからマイナスとなっているが、これを上回る額の受取利息が得られていることから、長期国債利息全体ではプラスとなっている。そして、その額は、保有残高が一定の金額に相当するペースで増加するように長期国債を買い入れてきた28年度までは毎年度増加していて、同年度には1兆3099億円となった。それ以降、令和4年度までは若干の増減を伴いつつおおむね横ばいで推移していたが、5年度は、保有長期国債の残高の増加等により受取利息が前年度から2828億円増加したことに加えて、額面金額を下回る価額で長期国債を買い入れたことに係る利息調整益が増加したことなどにより利息調整損益のマイナス幅が918億円縮小したことから、長期国債利息の額は、前年度から3747億円増加して1兆7158億円となっている。

(注13)
償却原価法に基づく利息調整損益  償却原価法では、保有長期国債の貸借対照表価額及び長期国債利息は、いずれも、保有長期国債の取得原価と額面金額との差額を取得年度以降償還期限に至るまで毎期均等に加減して算定することとなっており、この場合の取得原価が額面金額を上回る部分が利息調整損、下回る部分が利息調整益となる。

図表8 長期国債利息の推移

長期国債利息の推移

  • (注) 日本銀行の決算説明資料等から本院が作成した。

また、保有長期国債の利回り(注14)の推移をみると、図表9のとおり、平成24年度から令和3年度までは毎年度低下し続けていたが、4年度には上昇に転じ、5年度は前年度から0.045ポイント上昇して0.291%となっている。このように、4年度以降の利回りが上昇しているのは、過去に買い入れた相対的に利回りの低い保有長期国債が償還された一方で、新たに相対的に利回りの高い長期国債を買い入れたことによる。

(注14)
保有長期国債の利回り  各年度において長期国債利息を保有長期国債の平均残高で除して得た比率

図表9 保有長期国債の平均残高、利回りなどの推移

保有長期国債の平均残高、利回りなどの推移

  • 注(1) 日本銀行の決算説明資料から本院が作成した。
  • 注(2) 「長期国債利息」及び「保有長期国債の平均残高」の棒グラフは、それぞれ平成24年度の数値を100とした場合の指数を示している。
イ ETF運用益

前記のとおり、日本銀行は、大規模な金融緩和の下で、多額のETFを買い入れてきた。ETF運用益(注15)の推移をみると、図表10のとおり、分配金等の増加により毎年度増加しており、5年度は前年度から1312億円増加して1兆2356億円となっている。

(注15)
ETF運用益  日本銀行が保有するETFの分配金等による収入の額から減損等の額を差し引いて算定される額

図表10 ETF運用益の推移

ETF運用益の推移

  • (注) 日本銀行の損益計算書から本院が作成した。
ウ 補完当座預金制度及び貸出促進付利制度に係る支払利息

日本銀行は、マイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入の決定に合わせて平成28年1月に改正した補完当座預金制度の下で、同年2月以降、日銀当座預金等を3段階の階層に分割し、それぞれの階層に応じて年0.1%、年0%及び年マイナス0.1%の利率を適用することとしていた。そして、令和6年3月の金融政策の枠組みの見直しの決定に合わせて上記の階層構造を廃止し、同月21日以降、日銀当座預金等のうち超過準備額等全体の残高に対して年0.1%の利率を適用することとした。

超過準備額等の残高に対して発生する補完当座預金制度に係る支払利息の額は、平成24年度から26年度までの各年度については全て年0.1%の利率を適用して算定されていたが、27年度(28年2月16日以降)から令和5年度(6年3月20日まで)までの各年度については、日銀当座預金等の一部に対して年マイナス0.1%の利率を適用して算定された受取利息が発生していたため、年0.1%の利率に係る支払額から当該受取利息の額を減じて算定することとなっていた。

補完当座預金制度に係る支払利息の推移をみると、図表11のとおり、日銀当座預金等の残高の増加に伴い、平成27年度までは毎年度増加していて、同年度は2216億円となっている。その後は、年0.1%及び年マイナス0.1%の利率が適用された残高がいずれもほぼ一定の規模で推移していることにより、新型コロナ対応特別オペの影響が大きい令和2年度を除いて、おおむね横ばいとなっている。そして、5年度については、年0.1%の利率に係る支払額は前年度から43億円増加して2121億円となっている一方で、年マイナス0.1%の利率が適用される日銀当座預金等の残高が減少したことから同利率に係る受取利息が前年度から76億円減少して233億円となったため、上記の制度に係る支払利息は前年度から120億円増加して1887億円(注16)となっている。

また、日本銀行は、3年3月に導入した貸出促進付利制度(注17)に基づき、新型コロナ対応特別オペ等の利用残高に相当する日銀当座預金に対して一定の利息(適用利率は年0.2%、0.1%又は0%)を付している。そして、2年5月16日から3年4月15日までは、これに係る支払利息が補完当座預金制度に係る支払利息の一部として計上されていたが、同月16日以降は、貸出促進付利制度に係る支払利息として別途計上されている。

貸出促進付利制度に係る支払利息の推移をみると、3年度に806億円計上された後、4年度は、新型コロナ対応特別オペを通じた資金供給の減少に伴い、当該利用残高に相当する日銀当座預金の残高が減少したことから、前年度から433億円減少して372億円となっている。そして、5年度は、新型コロナ対応特別オペの廃止に伴い、同日銀当座預金の残高が5年6月末にゼロとなったことなどから、前年度から349億円減少して22億円となっている。

(注16)
令和6年3月に金融政策の枠組みの見直しが決定された後の同月21日から31日までの間の補完当座預金制度に係る支払利息は160億円であり、同額が5年度の年0.1%の利率に係る支払額に含まれている。
(注17)
貸出促進付利制度  日本銀行が、民間金融機関の貸出しなどの取組を支援するための各種の資金供給の利用残高に相当する日銀当座預金に一定の利息を付する制度。同制度は令和6年3月の金融政策の枠組みの見直しの決定に伴い同年4月16日以降停止することとされた。

図表11 支払利息の推移

(単位:億円)
区分
平成
24年度
25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
補完当座預金制度
年0.1%の利率に係る支払額(a) 315 836 1513 2236 2111 2090 2090
  うち新型コロナ対応特別オペに係る支払額
年マイナス0.1%の利率に係る受取利息(b) 20 注(2) 238 253 224
左の制度に係る支払利息
(c)=(a)-(b)
315 836 1513 2216 1873 1836 1865
貸出促進付利制度
注(1)
年0.2%の利率に係る支払額(d)
年0.1%の利率に係る支払額(e)
左の制度に係る支払利息
(f)=(d)+(e)
両制度に係る支払利息の合計
(g)=(c)+(f)
315 836 1513 2216 1873 1836 1865
区分
令和
元年度
2年度 3年度 4年度 5年度
補完当座預金制度
年0.1%の利率に係る支払額(a) 2087 2464 2075 2077 2121
  うち新型コロナ対応特別オペに係る支払額 374 3 注(3)
年マイナス0.1%の利率に係る受取利息(b) 204 285 272 310 233
左の制度に係る支払利息
(c)=(a)-(b)
1882 2179 1802 1766 1887
貸出促進付利制度
注(1)
年0.2%の利率に係る支払額(d) 100 116 22
年0.1%の利率に係る支払額(e) 705 255
左の制度に係る支払利息
(f)=(d)+(e)
806 372 22
両制度に係る支払利息の合計
(g)=(c)+(f)
1882 2179 2608 2139 1910
  • 注(1) 日本銀行は、貸出促進付利制度において、新型コロナ対応特別オペの利用残高に相当する日銀当座預金のうち、日本銀行の貸付先が新型コロナウイルス感染症対応として行っている中小企業等への融資で、政府が予算上の措置を講じた信用保証協会による保証又は利子減免に係る制度を利用して行っている融資に融資条件の面で準ずる融資に係る残高に相当する日銀当座預金に年0.2%、上記の融資以外に係る残高に相当する日銀当座預金に年0.1%(令和4年4月以降の新型コロナ対応特別オペ利用分については年0%)の利率をそれぞれ適用している。
  • 注(2) 平成27年度の年マイナス0.1%の利率に係る受取利息20億円は、マイナス金利の適用が開始された28年2月16日から同年3月末までの期間を対象として算定されている。
  • 注(3) 補完当座預金制度に係る支払利息のうち、令和3年度の「うち新型コロナ対応特別オペに係る支払額」3億円は、貸出促進付利制度に係る支払利息が生ずる前の、3年4月1日から同月15日までの間に生じた支払利息である。
エ 経常損益

量的・質的金融緩和導入前の平成24年度から直近の令和5年度までの間における日本銀行の経常損益の状況をみると、図表12及び図表13のとおり、長期国債利息は平成24年度に6005億円であったものが令和5年度にはその約2.8倍の1兆7158億円(前年度比3747億円増加)に、ETF運用益は平成24年度に214億円であったものが令和5年度にはその約57.5倍の1兆2356億円(同1312億円増加)にそれぞれ増加している。また、補完当座預金制度に係る支払利息は、平成24年度には315億円であったものが、令和5年度にはその約5.9倍の1887億円(同120億円増加)に増加している。これらの結果、同年度の経常収益は5兆0858億円(同1兆3256億円増加)、経常費用は4458億円(同836億円減少)となっている。そして、経常収益から経常費用を差し引いた経常利益は、毎年度計上されており、その額はおおむね増加傾向となっていて、平成24年度に1兆1316億円であったものが、令和5年度にはその約4.1倍の4兆6399億円(同1兆4092億円増加)に増加している。

図表12 量的・質的金融緩和の導入前後における経常損益の状況

量的・質的金融緩和の導入前後における経常損益の状況

  • 注(1) 日本銀行の損益計算書等から本院が作成した。
  • 注(2) 令和5年度の特別損失1兆5739億円(4年度は8360億円)のうち9227億円(同4612億円)は債券取引損失引当金に、6510億円(同3745億円)は外国為替等取引損失引当金にそれぞれ積み立てた額である。
  • 注(3) 令和5年度の為替差益は、為替レートの変動の影響を受けて4年度から5530億円増加している。

図表13 経常損益の推移

経常損益の推移

  • 注(1) 日本銀行の損益計算書等から本院が作成した。
  • 注(2) 平成27、令和元両年度の経常利益がそれぞれ前年度から減少しているのは、いずれも為替レートの変動の影響を受けて、前年度の為替差益が為替差損に転じたことなどによるものである。
オ 特別損益としての債券取引損失引当金積立額等

日本銀行の特別利益及び特別損失の額は、図表14のとおり推移しており、いずれの年度においても、債券取引損失引当金又は外国為替等取引損失引当金の積立額又は取崩額が、特別損益のほとんどを占めている。

すなわち、日本銀行は、金融調節等を通じて取得した長期国債又は外貨建資産について、日本銀行法施行令(平成9年政令第385号)等に基づき、各年度において、収益の額が損失の額を超えるときは、その超える部分の金額の全部又は一部を、財務大臣の承認を受けて、それぞれ債券取引損失引当金又は外国為替等取引損失引当金として積み立てることができることとなっている。そして、両引当金は、会計規程に基づき、貸借対照表の負債に計上され、その積立額又は取崩額は、特別損益の経理においてそれぞれ特別損失又は特別利益に計上されることとなっている。

また、会計規程によれば、債券取引損失引当金及び外国為替等取引損失引当金の積立て又は取崩しは、後掲の日本銀行の自己資本比率が、各上半期及び各年度において10%程度となることを目途として、おおむねその上下2%の範囲となるよう運営するとされている。そして、その積み立てるべき又は取り崩すべき金額は、長期国債又は外貨建資産に係る損益の50%に相当する金額を目途として、自己資本比率の水準及び損益の動向等を勘案して定めるなどとされている。

各年度に計上された両引当金の積立額等の推移をみると、図表14のとおりとなっている。債券取引損失引当金は、後掲の同引当金の制度が拡充された平成27年度以降、毎年度財務大臣の承認を受けて積立てが行われており、30、令和5両年度を除いて、会計規程で目途とされた長期国債に係る損益(注18)の50%に相当する額が積み立てられている。一方、平成30、令和5両年度は、上記損益の95%及び75%に相当する額がそれぞれ積み立てられており、5年度の積立額は、前年度から4615億円増加して9227億円となっている(平成30、令和5両年度に95%及び75%に相当する額が積み立てられた理由については後掲(3)自己資本参照)。

また、外国為替等取引損失引当金は、各年度に計上された為替差損益の50%に相当する額について財務大臣の承認を受けて積立てが行われるなどしており、5年度の積立額は、前年度から2765億円増加して6510億円となっている。

(注18)
長期国債利息の金額に有利子負債の平均残高を保有長期国債の平均残高で除して得た比率を乗じて得るなどした金額と有利子負債に係る支払利息等の金額との差額

図表14 特別損益としての債券取引損失引当金積立額等の推移

(単位:億円、%)
区分
平成
24年度
25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
特別利益(a) 69 110 181 2051 740 1064 24
  うち外国為替等取引損失引当金取崩額(b) 2041 740 1059
割合(b)/(a) 99.5 100 99.5
特別損失(c) 3019 3099 3803 4506 4618 4453 9285
  うち債券取引損失引当金積立額 4501 4615 4451 8154
うち外国為替等取引損失引当金積立額 3018 3097 3800 1128
両引当金積立額の合計(d) 3018 3097 3800 4501 4615 4451 9283
両引当金積立額の割合(d)/(c) 99.9 99.9 99.9 99.8 99.9 99.9 99.9
区分
令和
元年度
2年度 3年度 4年度 5年度
特別利益(a) 1132 100 170 40
  うち外国為替等取引損失引当金取崩額(b) 1072
割合(b)/(a) 94.7
特別損失(c) 3839 5234 7643 8360 1兆5739
  うち債券取引損失引当金積立額 3837 3987 4029 4612 9227
うち外国為替等取引損失引当金積立額 1239 3610 3745 6510
両引当金積立額の合計(d) 3837 5226 7639 8357 1兆5737
両引当金積立額の割合(d)/(c) 99.9 99.8 99.9 99.9 99.9
  • (注) 債券取引損失引当金は、平成14年度以降、取崩しの実績はない。
カ 当期剰余金及びその処分

各年度における剰余金(以下「当期剰余金」という。)は、経常利益に特別損益を加減したものから法人税等を差し引いた額となっている。

当期剰余金の推移をみると、図表15のとおり、主に経常利益の増減に伴ってその額が増減しており、元年度以降はおおむね増加傾向となっていて、5年度は前年度から1996億円増加して2兆2872億円となっている。

また、日本銀行は、日本銀行法に基づき、当期剰余金の5%に相当する金額を準備金(以下「法定準備金」という。)として積み立てなければならないこととなっている。ただし、同法では、特に必要があると認められるときは、財務大臣の認可を受けて当該金額を超える金額を法定準備金として積み立てることができることとなっている。そして、法定準備金の積立てについては、債券取引損失引当金等の積立て又は取崩しの場合と同様に、会計規程に基づき、自己資本比率が10%程度となることを目途として、おおむねその上下2%の範囲内となるよう運営することとなっている。

法定準備金積立額は、平成25、26両年度を除いて、当期剰余金の5%に相当する額となっているが、25、26両年度は、日本銀行が、財務の健全性を確保する観点から、量的・質的金融緩和等に伴い資産規模が拡大していることにより、従来よりも収益の振幅が大きくなると見込まれる状況を踏まえて、財務大臣の認可を受けて、それぞれ当期剰余金の額の20%及び25%に相当する額を積み立てている。

また、日本銀行は、日本銀行法に基づき、当期剰余金のうち法定準備金への積立て及び出資者への配当を行った後の残額を国庫に納付しなければならないこととなっている。

国庫納付金は、主に当期剰余金の増減に伴ってその額が増減しており、当期剰余金と同様に令和元年度以降はおおむね増加傾向となっていて、5年度は前年度から1896億円増加して2兆1728億円となっている。

図表15 当期剰余金及びその処分の推移

(単位:億円、%)
区分
平成
24年度
25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
経常利益(a) 1兆1316 1兆2805 1兆7137 7626 1兆0952 1兆2287 2兆0009
特別利益(b) 69 110 181 2051 740 1064 24
特別損失(c) 3019 3099 3803 4506 4618 4453 9285
法人税等(d) 2606 2573 3424 1060 2007 1251 4878
当期剰余金
(e)=(a)+(b)-(c)-(d)
5760 7242 1兆0090 4110 5066 7647 5869
法定準備金積立額(f) 288 1448 2522 205 253 382 293
  積立率(f)/(e) 5.0 20.0 25.0 5.0 5.0 5.0 5.0
配当金(g) 0 0 0 0 0 0 0
国庫納付金(h)=(e)-(f)-(g) 5472 5793 7567 3905 4813 7265 5576
区分
令和
元年度
2年度 3年度 4年度 5年度
経常利益(a) 1兆6375 1兆9764 2兆4185 3兆2307 4兆6399
特別利益(b) 1132 100 170 40
特別損失(c) 3839 5234 7643 8360 1兆5739
法人税等(d) 716 2338 3396 3241 7828
当期剰余金
(e)=(a)+(b)-(c)-(d)
1兆2952 1兆2191 1兆3246 2兆0875 2兆2872
法定準備金積立額(f) 647 609 662 1043 1143
  積立率(f)/(e) 5.0 5.0 5.0 5.0 5.0
配当金(g) 0 0 0 0 0
国庫納付金(h)=(e)-(f)-(g) 1兆2305 1兆1581 1兆2583 1兆9831 2兆1728
  • (注) 配当金は、出資者に対して各年度総額500万円が支払われている。

(3) 自己資本

日本銀行の自己資本は、資本金、法定準備金(当期剰余金の処分において積み立てられる金額を含む。)等の純資産のほか、債券取引損失引当金及び外国為替等取引損失引当金で構成される。

前記のとおり、日本銀行は、中央銀行は一時的に赤字又は債務超過となっても政策運営能力に支障を生じないとした上で、中央銀行の財務リスクが着目されて金融政策を巡る無用の混乱が生ずる場合、そのことが中央銀行又は通貨の信認の低下につながるリスクがあるため、財務の健全性を確保することは重要であるなどとしている。そして、収益の振幅を平準化し、財務の健全性を確保する観点から、債券取引損失引当金の制度を拡充するなど、自己資本の充実に努めてきているとしている。

すなわち、債券取引損失引当金については、量的・質的金融緩和の実施に伴って日本銀行に生じ得る収益の振幅を平準化し、財務の健全性を確保する観点から、平成27年11月の日本銀行法施行令等の改正を経て制度が拡充され、27年度決算から当分の間、収益の額(注19)に長期国債利息の金額の全部又は一部を含めること、損失の額(注19)に有利子負債(注20)に係る支払利息の金額を含めることとなっている。そして、これにより、同引当金に係る積立額又は取崩額の算定において対象となる損益の範囲が従前より拡大されたことから、前記のとおり、27年度以降、同引当金の積立てが行われている。

また、日本銀行は、財務の健全性に関する指標として、会計規程に基づき自己資本比率を算定して、これを公表している。日本銀行の自己資本比率は、会計規程において、上半期末又は年度末の自己資本の合計額(以下「自己資本残高」という。)をその期中における日本銀行券の平均発行残高で除して算定(注21)することとなっている。

日本銀行は、自己資本比率の水準としては、過去における保有資産の価格変動等による損失発生の状況等を勘案して10%程度を確保することが適当であると考えているとしている。そして、前記のとおり、同規程に基づき、自己資本比率が10%程度となることを目途として、おおむねその上下2%の範囲となるように、特別損益の経理において債券取引損失引当金等の積立て又は取崩しを行った後、当期剰余金の処分において法定準備金の積立てを行うこととしている。

量的・質的金融緩和導入前の24年度末から直近の令和5年度末までの間における自己資本残高及び自己資本比率の推移をみると、図表16のとおり、自己資本残高は、資本勘定及び引当金勘定の残高の増加に伴い毎年度増加しており、5年度は前年度から1兆6881億円増加して13兆5658億円となっている。また、自己資本比率は、平成24、25両年度末は7%台となっていたが、26年度末は、当期剰余金の額の25%(25年度は20%)に相当する額を法定準備金に積み立てるなどした結果、8.20%となっている。その後、債券取引損失引当金の制度が拡充された27年度末以降は、主に引当金勘定の残高が増加していることにより毎年度上昇しており、特に、30年度末は、前記のとおり、長期国債に係る損益の95%に相当する額を債券取引損失引当金に積み立てたこともあって、前年度末から0.62ポイント上昇して8.71%となっている。そして、令和5年度末は、同損益の75%に相当する額を積み立てたこともあって、前年度末から1.36ポイント上昇して11.17%となっており、日本銀行が適当であると考えている10%程度の範囲内となっている。

日本銀行は、上記平成27年の債券取引損失引当金の制度の拡充について、こうした措置は収益の振幅を平準化して財務の健全性を確保する観点から大きな効果を持ち、事前の対応としては十分なものであるが、日本銀行の財務は将来における経済・物価情勢、金利環境等によって大きく変わり得るため、今後とも財務の健全性を確保する観点から適切に対応していく必要があると考えているとしている。また、30、令和5両年度に上記損益の95%及び75%に相当する額を積み立てたことについては、いずれもその時点における日本銀行の財務の状況や収益の動向等を総合的に勘案して決定したとしている。そして、特に5年度については、6年3月に金融政策の枠組みの見直しを決定したため、今後は収益が下振れる局面に入り、このような局面においては積立てを行うことが難しくなっていくことを踏まえたものであるとしている。

(注19)
債券取引損失引当金制度が拡充される前の収益の額は、長期国債の売却及び償還により生ずる利益の金額とされていた。同様に損失の額は、その売却及び償還並びに事業年度末における評価換えにより生ずる損失の金額とされていた。
(注20)
有利子負債  超過準備額、売出手形等
(注21)
日本銀行は、量的・質的金融緩和の導入以降、日銀当座預金の残高が発行銀行券の残高を大幅に上回り負債の大部分を占めるようになってきている中で、自己資本比率の算定に当たり日本銀行券の平均発行残高を用いている理由について、中央銀行にとって恒久的な負債となるのは日本銀行券であり、通貨の信認維持の観点から、この日本銀行券の発行残高と自己資本残高との対比で財務の健全性の確保を図っていくことが適当であると考えているためであるなどとしている。

図表16 自己資本残高及び自己資本比率の推移

(単位:億円、%)
区分
平成
24年度
25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
資本勘定(a) 2兆7415 2兆8863 3兆1386 3兆1591 3兆1845 3兆2227 3兆2521
  資本金 1 1 1 1 1 1 1
法定準備金等 2兆7414 2兆8862 3兆1385 3兆1590 3兆1844 3兆2226 3兆2520
引当金勘定(b) 3兆3396 3兆6493 4兆0294 4兆2754 4兆6628 5兆0020 5兆9303
  債券取引損失引当金 2兆2433 2兆2433 2兆2433 2兆6934 3兆1550 3兆6001 4兆4155
外国為替等取引損失引当金 1兆0963 1兆4060 1兆7861 1兆5819 1兆5078 1兆4019 1兆5147
自己資本残高
(c)=(a)+(b)
6兆0811 6兆5357 7兆1680 7兆4346 7兆8474 8兆2248 9兆1824
日本銀行券平均発行残高(d) 81兆5695 84兆4116 87兆3941 92兆2957 97兆1988 101兆5887 105兆3916
自己資本比率
(e)=(c)/(d)
7.45 7.74 8.20 8.05 8.07 8.09 8.71
区分
令和
元年度
2年度 3年度 4年度 5年度
資本勘定(a) 3兆3168 3兆3778 3兆4440 3兆5484 3兆6628
  資本金 1 1 1 1 1
法定準備金等 3兆3167 3兆3777 3兆4439 3兆5483 3兆6627
引当金勘定(b) 6兆2068 6兆7294 7兆4934 8兆3292 9兆9029
  債券取引損失引当金 4兆7992 5兆1980 5兆6010 6兆0622 6兆9849
外国為替等取引損失引当金 1兆4075 1兆5314 1兆8924 2兆2669 2兆9180
自己資本残高
(c)=(a)+(b)
9兆5237 10兆1073 10兆9375 11兆8776 13兆5658
日本銀行券平均発行残高(d) 108兆2752 113兆8214 117兆6094 120兆9921 121兆4447
自己資本比率
(e)=(c)/(d)
8.79 8.87 9.29 9.81 11.17
  • (注) 法定準備金等は、当期剰余金の処分における法定準備金積立額及び特別準備金(1319万円)を含む。

3 まとめ

(1) 資産、負債等

長期国債全体の買入額の推移をみると、平成25年度から28年度までの間は、資産の買入れ方針の下で保有残高が一定の金額に相当するペースで増加するように買入れが行われた結果、28年度には115.8兆円にまで増加した。その後、28年9月に金融市場調節方針が変更されたことを受けて、同年9月以降買入れペースが鈍化したことから、29年度以降はおおむね減少傾向となっている。一方、令和4年度は前年度から63.1兆円と大幅に増加して135.9兆円となっている。これは、海外金利の上昇等を背景に、年度を通して強い金利上昇圧力が生ずる中で、金融市場調節方針に基づき、大規模な買入れが行われたことによると考えられる。そして、5年度は前年度から48.4兆円と大幅に減少して87.5兆円となっている。これは、5年7月及び10月に長短金利操作の運用の柔軟化に係る決定がなされ、また、同年11月以降に金利上昇圧力が弱まるなどした中で、金融市場調節方針に基づく買入れが前年度よりも少なかったことによると考えられる。保有長期国債の貸借対照表価額、時価及び含み損益の推移をみると、市場金利の動向を反映して、平成24年度末から令和3年度末までは、いずれも時価が貸借対照表価額を上回り含み益が生じていたが、4年度末からは含み損が生じており、5年度末の含み損の額は、市場金利の上昇に伴い、前年度末から9兆2735億円増加して9兆4314億円となっている。

ETFの買入額の推移をみると、平成25年度から29年度までの間は、資産の買入れ方針の下で保有残高が一定の金額に相当するペースで増加するように買入れが行われた結果、増加傾向にあり、29年度には5兆9994億円にまで増加した。一方、令和3年度以降は、1兆円を下回る水準で推移している。これは、日本銀行が3年3月に「より効果的で持続的な金融緩和」を決定して以降、市場が大きく不安定化した場合に大規模な買入れを行うことが効果的であるとした上で、必要に応じて買入れを行うこととしていたが、そのような市場の動きがなかったことが反映されたことによると考えられる。ETFの貸借対照表価額及び含み損益の推移をみると、貸借対照表価額については、各年度の買入額の増加に伴い、平成24年度末から令和2年度末までの間、増加傾向にあり、2年度末には35兆8796億円にまで増加した。そして、その後は買入額の大幅な減少に伴いほぼ横ばいで推移しており、5年度末は37兆1861億円(前年度末比1401億円増加)となっている。また、含み損益については、株式市場の動向を反映して各年度末とも時価が貸借対照表価額を上回って含み益が生じており、5年度末は前年度末から21兆2763億円増加して37兆3120億円となっている。

日本銀行の総資産残高の状況をみると、資産のうち、長期国債は平成24年度末に91兆3492億円であったものが令和5年度末にはその約6.4倍の585兆6168億円(同9兆3970億円増加)に、ETFは平成24年度末に1兆5440億円であったものが令和5年度末にはその約24.0倍の37兆1861億円(同1401億円増加)にそれぞれ増加するなどしている。そして、このようなことから、総資産残高は、4年度末を除いて、いずれも毎年度増加していて、5年度末は、平成24年度末の約4.5倍の756兆4231億円(同21兆3065億円増加)となっている。また、これに対応する形で、総負債残高も同様に増加しており、令和5年度末は、平成24年度末の約4.6倍の750兆5874億円(同21兆0025億円増加)となっている。

(2) 損益、当期剰余金の処分等

長期国債利息の推移をみると、保有残高が一定の金額に相当するペースで増加するように長期国債を買い入れてきた28年度までは毎年度増加していて、同年度には1兆3099億円となった。それ以降、令和4年度までは若干の増減を伴いつつおおむね横ばいで推移していたが、5年度は、保有長期国債の残高の増加等により受取利息が前年度から2828億円増加したことに加えて、額面金額を下回る価額で長期国債を買い入れたことに係る利息調整益が増加したことなどにより利息調整損益のマイナス幅が918億円縮小したことから、前年度から3747億円増加して1兆7158億円となっている。

ETF運用益の推移をみると、分配金等の増加により毎年度増加しており、5年度は前年度から1312億円増加して1兆2356億円となっている。

補完当座預金制度に係る支払利息の推移をみると、日銀当座預金等の残高の増加に伴い、平成27年度までは毎年度増加していて、同年度は2216億円となっている。その後は、年0.1%及び年マイナス0.1%の利率が適用された残高がいずれもほぼ一定の規模で推移していることにより、令和2年度を除いて、おおむね横ばいとなっている。そして、5年度は、年0.1%の利率に係る支払額は前年度から43億円増加して2121億円となっている一方で、年マイナス0.1%の利率が適用される日銀当座預金等の残高が減少したことから同利率に係る受取利息が前年度から76億円減少して233億円となったため、前年度から120億円増加して1887億円となっている。

経常損益の状況をみると、長期国債利息は平成24年度に6005億円であったものが令和5年度にはその約2.8倍の1兆7158億円(前年度比3747億円増加)に、ETF運用益は平成24年度に214億円であったものが令和5年度にはその約57.5倍の1兆2356億円(同1312億円増加)にそれぞれ増加している。また、補完当座預金制度に係る支払利息は、平成24年度には315億円であったものが、令和5年度にはその約5.9倍の1887億円(同120億円増加)に増加している。これらの結果、同年度の経常収益は5兆0858億円(同1兆3256億円増加)、経常費用は4458億円(同836億円減少)となっている。そして、経常収益から経常費用を差し引いた経常利益は、毎年度計上されており、その額はおおむね増加傾向となっていて、平成24年度に1兆1316億円であったものが、令和5年度にはその約4.1倍の4兆6399億円(同1兆4092億円増加)に増加している。

特別損益としての債券取引損失引当金及び外国為替等取引損失引当金の積立額等の推移をみると、債券取引損失引当金は、同引当金の制度が拡充された平成27年度以降、毎年度財務大臣の承認を受けて積立てが行われており、30、令和5両年度を除いて、会計規程で目途とされた長期国債に係る損益の50%に相当する額が積み立てられている。一方、平成30、令和5両年度は、いずれもその時点における日本銀行の財務の状況や収益の動向等を総合的に勘案して、上記損益の95%及び75%に相当する額がそれぞれ積み立てられており、5年度の積立額は、前年度から4615億円増加して9227億円となっている。また、外国為替等取引損失引当金は、各年度に計上された為替差損益の50%に相当する額について財務大臣の承認を受けて積立てが行われるなどしており、5年度の積立額は、前年度から2765億円増加して6510億円となっている。

当期剰余金の推移をみると、主に経常利益の増減に伴ってその額が増減しており、元年度以降はおおむね増加傾向となっていて、5年度は前年度から1996億円増加して2兆2872億円となっている。国庫納付金は、主に当期剰余金の増減に伴ってその額が増減しており、当期剰余金と同様に元年度以降はおおむね増加傾向となっていて、5年度は前年度から1896億円増加して2兆1728億円となっている。

(3) 自己資本

日本銀行が財務の健全性に関する指標として算定し公表している自己資本比率の推移をみると、平成24、25両年度末は7%台となっていたが、26年度末は、当期剰余金の額の25%(25年度は20%)に相当する額を法定準備金に積み立てるなどした結果、8.20%となっている。その後、債券取引損失引当金の制度が拡充された27年度末以降は、主に引当金勘定の残高が増加していることにより毎年度上昇しており、特に、30年度末は、長期国債に係る損益の95%に相当する額を債券取引損失引当金に積み立てたこともあって、前年度末から0.62ポイント上昇して8.71%となっている。そして、令和5年度末は、同損益の75%に相当する額を積み立てたこともあって、前年度末から1.36ポイント上昇して11.17%となっており、日本銀行が適当であると考えている10%程度の範囲内となっている。

前記のとおり、5年度末における日本銀行の資産及び負債の規模は前年度末から拡大しており、引き続き高水準にある。また、日本銀行は、6年3月に、物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断し、「金融政策の枠組みの見直し」を決定している。本院としては、これらを踏まえて、日本銀行の財務の状況について引き続き注視していくこととする。