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  • 昭和23年度|
  • 第5章 不当事項

概要


第1節 概要

 歳入、歳出等検査の結果、ここに不当事項として掲記するものを所管別にあげると左のとおり

所管 歳入 歳出 その他
裁判所外2府9省
1

1
裁判所
1
1
総理府 10 13 12 35
法務府 11 6 5 22
大蔵省
 (うち終戦処理費関係の分)
271
(5)
55
(39)
62
(41)
388
(85)
文部省 2 13 2 17
厚生省 5 16 1 22
農林省 9 13 4 26
商工省(通商産業省) 1 2 3 6
運輸省 1 14 15 30
逓信省 1 14
15
労働省 1 3
4
建設省
 (うち元内務省の分)
7 39
(12)

46
(12)
出資団体

10 10
  計 319 190 114 623

 備考 歳入、歳出両方に関係あるものは歳入の欄に計上した。

であつて、合計623件に上り、国民の租税を主な財源とする国家財政においてこのように不当な経理の多いことははなはだしく遺憾にたえないところで、これらは主として法令若しくは予算の軽視又は責任観念の低下に因るものと認められる。
 右623件のうち、特に注意を要する事項を概括して記述すると左のとおりである。

第1 収納未済

 一般会計における収納未済額は814億2千4百余万円で、そのうち主なものは租税収入664億6千2百余万円、価格差益101億5千9百余万円、官有財産収入17億2千9百余万円であり、又特別会計の収納未済額は339億3千4百余万円で、その主なものは食糧管理の139億6千7百余万円、国有鉄道事業の63億9千8百余万円、専売庁の37億6千8百余万円であつて、一般会計分及び特別会計分を合計すれば、その収納未済額は1153億5千9百余万円の多額に上り、更にまだ徴収決定をしていない金額を考慮すれば事実上の収納未済額はなお巨額に上るものと認められる。
 これらの収納未済額は、そのうち租税等の公課を除けばそのほとんど大部分が物件の売渡代金又は貸付料その他国の反対給付を伴う収入であつて、これらの代金、料金等については前納の建前となつているのに、前納させないで物件を引き渡し若しくは貸し付け又は所定の納期に代金を納入しないものに対し、依然物件の売渡等を継続するなど、収入確保についての処置が十分でないものがあり、これらについては切に改善の要がある。
 なお、大蔵省で物納財産の収納に至らないものが9億9千4百余万円あり、又商工省で貿易物資の売渡代金等の収納に至らないものが170億4千9百余万円に上つている。

第2 支払遅延

 国において、工事等を請け負わせ又は物品を購入した場合相手方の給付が完了しているのに、これに対する代金の支払が著しく遅延しているものが少くなく、ことに終戦処理費関係、国有鉄道事業等にその事例が多いが、この原因としては、当初から予算に積算がないのに債務を負担したこと、予算には積算があるが予算をこえて債務を負担したこと、予算はあるが支払手続に関する事務が渋滞したこと、支払資金が不足したことなどがあげられるが、いずれも経理上失当の処置であつて、予算経理を計画的に処理し経理事務を迅速に行う必要があるものと認められる。
 なお、示達予算の遅延等の場合国の歳入に納入すべきものをそのまま歳出にあてる事例もあり、又予算をこえて経理し、ほしいままに借入金をして資金を調弁する事例も見出されるが厳に戒める必要がある。

第3 予算外に施行した職員宿舎等

 予算に積算がないのに職員の宿舎等を新設したもの、制規による被服類貸付資格者以外の一般職員に対しても被服類を貸し付けるため所定量以上の被服類を購入したもの、職員の厚生福祉施設を新設拡張するため予算を差し繰り流用したものなどの事例がある。
 なお、北海道及び寒冷地の勤務者に対する石炭手当及び寒冷地手当は、法律の根拠がなく又予算に積算がないため、ことさら特別俸及び特殊勤務地手当の名義を用いて支出したものである。
 右のうちには事情の了とすべきものもあるから、よろしく予算に計上してこれを実施すべきものである。

第4 工事の施行

 昭和23年度中における公共事業費関係事業費は489億3千7百余万円、又終戦処理費関係工事費は189億5千余万円で合計678億8千7百余万円の巨額に上り、23年度一般会計歳出決算額4619億7千4百余万円の14%余に達しているが、その施行に当り設計、契約、代金支払、精算、残材の回収等について処置当を得ないものが少くない。
 すなわち、工事の計画又は設計の立案に当り工事箇所の状況、施行の方法、使用材料の強度等についての調査研究が不十分であつたため、結局工事が失敗に終り又は工事の補強手直しをしなければならなくなつたものがある。
 工事契約の締結に当つて最低入札価格によらず、高価な予定価格と同額で入札したものとして処理した事例もあり又契約当時の設計を変更して契約代金の増額をするに当り、過大な積算をしたと認められるもの、部分払について必要以上の額を支払つているもの等がある。
 工事完成後における精算が遅延しているものも多数に上つているが、精算の完了したものについて見ても、工事の完成検査が十分でなく請負人の支払請求書をそのまま容認したため、過大な支払をしているものがあり、又官給材料の残材の回収に対し何らの処置をとつていないものが少くない。
 なお、工事が計画工期のとおり進行せず年度内に完成しないのにこれを完成したものとして処理し、経費の年度区分をみだつている事例も少くない。

第5 補助費

 補助費の昭和23年度支出額は、一般会計及び特別会計を通じ2180億4千4百余万円に上つているが、その交付等について処置当を得ないと認められるものがある。

(1) 補助事業が年度内に完成せず、はなはだしいものは着工さえしていないのに、年度末に至り又は年度をこえた4月に補助金の全額を支出しているものが少くない。
 補助事業実施者は補助金の交付を受けなければ事業着手が困難なものが多いのであるから、補助予算示達の促進を図り、事業を年度内に完成できるよう早期に補助金を交付すべきものであり、又年度内実施不可能のものについては予算を繰り越し、翌年度において実情に即するよう補助金の交付をしなければならない。

(2) 補助金交付当時精査すれば、補助金交付の必要がないか又は少額でたりることが判明するのに、漫然主務省から示達された補助予算額の全額を交付したために補助超過となつたものが多いが、補助金の交付に当つては、既往における補助金交付額及びその後の事情の変更、補助事業の実績等を十分調査して必要の限度をこえないように注意しなければならない。

(3) 補助金を交付したときは、補助事業実施の状況を調査し、指令どおりの事業が正当の事由のないのに実施されていない場合は、すみやかに補助金の全部又は一部を返納させ、又補助事業が完成したときはすみやかに事業費を精算させて補助超過分を返納させる等適宜の処置をとるべきであるのに、補助金交付後における事業実施状況の確認が十分でなく、補助事業の精算及び補助金の返納についても漫然放置しているものが少くない。

第6 事実に基かない不当支出

 工事の施行又は物品等の購入の事実がないのにその事実があつたもののように関係書類を作為して支出し、その金額を別途に経理して交際費、旅費等の支払にあて、職員宿舎を新営し、物品を購入するなどもともと支払計画の示達がないか又はその示達額では不足する費途に随時使用している事例が認められるが、このような会計経理は、はなはだ公明を欠くものであり、ひいて架空の事実に基く支出金額を関係者がほしいままに費消する誘因ともなるものであつてその処置当を得ない。

第7 艦艇の解撤

 旧海軍艦艇を解撤したものは468隻67万7千3百余屯であつて、昭和22年度までは予算処置を講ずることなく施行していたことは昭和22年度決算検査報告に記述したとおりであるが、23年度においては解撤工事費として8億2630万余円を歳出予算に計上し、22年度以前に着工した解撤艦艇については各財務局長が、又23年度に着工した解撤艦艇については各海運局長及び各海上保安本部長がそれぞれ大蔵大臣の委任を受け支出することとなり、そのうち1億3486万余円を支出したが、残りの6億9144万余円はこれを24年度に繰り越している。
 本院は会計検査院法第23条第1項の規定により検査の指定を行い解撤工事に関する会計の検査を行つたが、その結果当局者の処置が著しく緩漫と認められるものが左のとおりある。

(1) 運輸省及び海上保安庁の分

運輸省及び海上保安庁で担当したものは166隻7万7千6百余屯で、そのうちの大部分153隻6万8千8百余屯は運輸省が担当し、予算額1億7045万余円のうち1億1733万余円を年度末までに概算払を行い、又その一部13隻8千8百余屯は海上保安庁が担当し、予算額2299万余円のうち1752万余円を年度末までに概算払している。
 しかして、業者の計算による工事費総額は1億4147万余円となつているが、このうちには相当減額することを要するものがあると認められるのに、24年11月末に至つてもその大部分のものについては精算が済んでいない。

(2) 大蔵省の分

 22年度以前において着工した艦艇302隻59万9千7百余屯は、23年度末までには既に工事を終り、工事費予算も23年度において6億3285万余円あるにもかかわらず、24年2月に至つてようやく担当官庁を大蔵省と決定したもので、予算繰越上の手続として年度末に概算契約を締結したにとどまり、予算の全額を24年度に繰り越した状況で、処置が著しく緩漫である。
 なお、解撤業者の計算による工事費は6億6839万余円で、又発生諸資材22万余屯の処分額は5億7441万余円であるが、本院会計実地検査の結果によれば各業者の計算額のうちには相当修正を要するものがあると認められ、これらの実情を調査の上すみやかに事実に即した精算をすべきであるのに、24年11月末に至つてもまだその処置がとられていない状況である。

第8 廃兵器の処理

 兵器処理委員会が昭和20年11月から23年5月までの間に回収した廃兵器の総量は140万8千余屯であつて、そのうち販売したものは89万5千余屯、作業途中の歩減り及び棚卸減等は7万4千余屯で、残りの43万8千余屯はこれを産業復興公団に引き継いだ。なお、その後同公団で再調査の結果引継数量は44万1千余屯であることが判明した。
 この間の同委員会の収支について見ると、収益は売上総額13億1981万余円、回収廃兵器在庫高4億7514万余円計17億9495余万円であつて、支出は作業経費その他13億8422万余円で、差引4億1072万余円の益金を生じているが、23年6月解散時の前記回収廃兵器在庫高全量を無償で国に返還したため、結局6441万余円の損失となる計算である。
 しかして、同委員会は24年2月右損失額に23年6月以降における精算事務費その他をあわせ、合計1億7394万余円を廃兵器処理経費として国に要求したのに対し、大蔵省は24年3月末1億5261万余円の概算補助指令を発し、建設省はその6割に当る9000万円を同委員会に概算払し、残りの6261万余円を24年度に繰り越しているが、12月に至つてもまだ精算していない。

第9 薪炭需給調節特別会計

 昭和23年度末における薪炭需給調節特別会計の損失は、前年度からの繰越損失1億4千1百余万円をあわせて10億9千3百余万円となつているが、この外に薪炭の現物不足額が13億7百余万円あるのと、23年度の債務でありながら支出未済繰越として計上していないものが5億5千6百余万円あるので、実際の23年度末における本会計の損失は29億5千7百余万円である。
 損失の原因は、前記現物不足によるものの外、予定外の経費の支出、値引による収入減、薪炭の予定減耗率をこえた亡失等多方面にわたつているが、そのうち当局者の処置が当を得ないために生じたと認めた事項は第2節にかかげたとおりである。
 なお、薪炭の正当な年度末在庫高は34億6千6百余万円となり、このうちには在庫品の評価益10億6百余万円を含んでいるが、右在庫品は滞荷などのため品質不良となつていたものが少くなく、林野庁の24年度処分計画によれば公定売渡価格に対し2、3割程度の値引をもつてその全量を処分しようとしていることから見ても、この在庫品について前記のような評価益を計上したことは無理な処置であつたと認められる。

第10 物品の経理

 物品の経理については、従来から現金にくらべとかく軽視される傾向が少くなく、是正を要するものがあると認めたので、23年度においては特に物品経理の状況を重視して検査を施行したが、その結果によれば終戦処理費関係、薪炭需給調節、国有鉄道事業等において特に改善を要する事項が多い。
 すなわち、物品の調達に当り、同種物品の在庫数量が相当あるのに更に購入したり、工場の処理能力を考慮しないで原料、資材を購入したり、又購入の必要がなくなつたのに購入を継続したり、あるいは用途の実情を考慮しないで購入したりした事例がある。
 前記のような結果として多額の過剰物品を保有し、やむを得ず購入後間もなく不用品に組み替えて他に売り渡し、又はそのまま長期間保管したために変質して、使用に適さなくなつて、著しく低価で売り渡さなければならなくなつたものがある。
 次に、物品の出納保管についても、物品出納簿の記帳整理が十分でなく、はなはだしいのは数年にわたり現品を確認することなく放置し、帳簿上の在高と現品保有高とが符合しなかつたり、故意に帳簿外に保有してこれを使用したり、更に出納命令がないのに物品を払い出しているもの、あるいは現品は払い出しているのに仮渡整理をして物品出納簿には現品があることとなつているものなど、正規の払出手続を経ていないものがある状況で、その他物品の保管上の注意不十分のため亡失き損及び品質低下を生じさせているもの、又は保管業者に一任していてその受払数量の確定、代金の精算の完結していないものがある等、物品の経理については特に制規による適確な経理と保管上周到の注意が望ましい。

第11 国有財産の管理及び処分

 国有財産の管理について、本院会計実地検査の結果によると、その効率的運用を図つているとは認められない事例が多い。例えば、公用財産がその用途に十分活用されないでいたり、普通財産のように利用されていたりしているもの、普通財産でも社寺国有境内地がその目的以外に使用されていたり、特殊の目的のため特に低価で貸し付けたものが、その目的外に使用されていたりしているものなど、当然利用の現況に照らして調整を要するものがあるのに、そのまま放置されている状況である。
 又財産の売渡処分についても、不当に低価に売り渡しているもの、物件を引き渡しながら代金を徴収していないもの、その他財産貸付について貸付料の徴収処置を遅延しているもの等、その経理が妥当でないものが多い。

第12 職員の犯罪

 支出官の補助者である関係職員が小切手用紙及び官印を盗用して偽造小切手を振り出して金銭を詐取したもの、出納職員又はその補助者が所得税その他の収入金又は労務者未渡給与金等を横領したもの、司法事務局の職員で収入印紙に消印をせず詐取したものなど、国の収入支出等に関係のある職員が国に損害を与えた事例が多い。

第13 既往年度決算検査報告に対する処理状況

 既往年度決算検査報告において不当と認めた事項のその後の処理状況につき特に記載を必要と認める事項は第3節に記述するとおりであるが、検査報告掲記事項に対する当該関係庁のその後の是正処置は十分とは認められず、はなはだしいものは昭和21年度決算検査報告に掲記した事項で、まだ何らの是正処置を講じていないものがある。