地方公共団体が施行した公共土木施設災害復旧工事の検査の結果によれば、従来本院の検査報告に掲記したとおり、工事の出来高が不足しているもの、設計が過大なもの、災害復旧とは認められない改良工事を施行しているものまたは同一の被害箇所を重複して査定し国庫負担金が二重交付となっているものなどが多く、これら多数の不当事項を防止するためには、農林省所管の項(参照) に記述したとおり、工事完成後にこれを指摘してその是正改善を行わせるよりも、工事完成前に査定内容の調査を行い、早期に注意して是正させることが効果的と認められ、ことに、28年に発生した災害は復旧事業の査定額が1,203億円をこえる膨大なものとなり、かつ、災害復旧特別措置により高率国庫負担となったので特にその必要があるものと認められ、29年1月から4月までの間に、事後検査とあわせてこの調査を現地について実施した。
右調査は、査定額20億円以上に上る富山県ほか14府県の総工事4万7千8百余箇所その査定額969億1千余万円のうち1万4百余箇所501億6千余万円について実施したが、その結果は、河川の堤防、護岸復旧について同一箇所の工事を建設省と農林省の双方が重複して査定しているもの、建設省の査定においても河川の護岸工事と道路の路側工事とが重複しているものもしくは過年災害と重複査定となっているもの、災害を受けていないのに河川の拡幅もしくは護岸の改良を施行しようとしたり、被害が軽微であるのに道路を拡幅しもしくは路側石垣を新設するものなど改良工事を施行しようとしているもの、災害復旧としては採択することができない幅員2メートル未満の道路を対象としているもの、石垣およびコンクリート工事の材料を工事現場付近で採取することができるのに遠方から運搬することとしているもの、軟岩または粘土を切り取るのに硬岩切取としているもの、または在来施設を利用することができるのにこれを考慮していないものなど、二重査定となっているもの、改良その他災害復旧の対象としてはならないものまたは設計過大の結果となっているものが多数あり、査定工事費を適正なものに修正する必要があると認められたので当局者に注意したところ次表のとおり2,141工事につき工事費において20億5千余万円(うち実施の際設計変更予定のもの382工事4億7千余万円)を減額是正する旨の回答があった。
明細 | 建設省査定額 | 同上のうち本院において実地調査したもの | 減額された工事費 | ||||||||||
二重査定 | 改良その他 | 設計過大 | 計 | ||||||||||
工事数、金額 | 工事数 | 金額 | 工事数 | 金額 | 工事数 | 金額 | 工事数 | 金額 | 工事数 | 金額 | 工事数 | 金額 | |
府 県 名 |
富山県 |
1,334 |
千円 2,182,126 |
463 |
千円 1,335,875 |
11 |
千円 8,102 |
67 |
千円 40,648 |
56 |
千円 14,040 |
134 |
千円 62,790 |
福井〃 | 2,096 | 4,294,244 | 777 | 2,254,851 | 39 | 47,252 | 98 | 80,170 | 70 | 39,450 | 207 | 166,872 | |
長野〃 | 2,039 | 3,044,050 | 471 | 1,234,533 | 2 | 609 | 54 | 38,519 | 9 | 1,313 | 65 | 40,441 | |
愛知〃 | 1,683 | 11,222,087 | 592 | 10,116,193 | 4 | 5,926 | 56 | 64,179 | 24 | 24,486 | 84 | 94,591 | |
三重〃 | 3,169 | 11,030,578 | 711 | 7,424,949 | 5 | 2,196 | 96 | 134,023 | 37 | 22,298 | 138 | 158,517 | |
滋賀〃 | 2,108 | 3,862,394 | 673 | 1,798,482 | 14 | 14,833 | 61 | 62,359 | 38 | 27,444 | 113 | 104,636 | |
京都府 | 6,465 | 14,751,747 | 1,260 | 8,753,851 | 61 | 36,272 | 141 | 283,151 | 85 | 154,119 | 287 | 473,542 | |
大阪〃 | 1,890 | 2,961,495 | 561 | 1,302,032 | 16 | 11,396 | 52 | 26,498 | 31 | 17,856 | 99 | 55,750 | |
兵庫県 | 2,596 | 2,299,058 | 799 | 1,182,342 | 15 | 5,462 | 29 | 17,571 | 9 | 1,255 | 53 | 24,288 | |
奈良〃 | 3,177 | 3,924,932 | 809 | 1,077,425 | 9 | 13,019 | 63 | 71,094 | 37 | 57,055 | 109 | 141,168 | |
和歌山〃 | 4,556 | 14,240,870 | 1,201 | 7,334,396 | 38 | 29,234 | 72 | 98,622 | 30 | 52,882 | 140 | 180,738 | |
福岡〃 | 7,448 | 8,384,212 | 480 | 1,109,549 | 10 | 8,214 | 137 | 98,915 | 16 | 5,145 | 163 | 112,274 | |
佐賀〃 | 3,050 | 3,730,742 | 620 | 1,470,385 | 11 | 5,732 | 116 | 87,994 | 20 | 10,108 | 147 | 103,834 | |
熊本〃 | 3,656 | 7,195,481 | 499 | 2,178,476 | 31 | 186,076 | 24 | 9,786 | 14 | 11,808 | 69 | 207,670 | |
大分〃 | 2,562 | 3,791,284 | 503 | 1,588,226 | 1 | 518 | 273 | 88,824 | 59 | 34,007 | 333 | 123,349 | |
計 | 47,829 | 96,915,300 | 10,419 | 50,161,565 | 267 | 374,841 | 1,339 | 1,202,353 | 535 | 473,266 | 2,141 | 2,050,460 |
しかして、前記の是正されたものの内容は左のとおりである。
(1) 重複して査定されていたもの
同一箇所の工事を建設省と農林省の双方が重複して査定しているもの、建設省の査定においても河川の護岸工事と道路の路側工事とが重複しているものなどは267件374,841,000円に上っているが、その代表的事例をあげると次のとおりである。
〔1〕 滋賀県甲賀郡多羅尾村大戸川災害復旧は、査定額81,703,000円(国庫負担金78,836,895円)で護岸延長3,200メートル復旧することとしていたが、右護岸のうち520メートル工事費8,838,000円(国庫負担金8,528,670円)は、別途建設省が査定した県道多羅尾長野線ほか一線災害復旧その査定額15,676,000円(国庫負担金15,352,692円)の一部の路側工事520メートルの工事費と重複していた。
右のほか、同村地内県道多羅尾長野線災害復旧は、査定額29,159,000円(国庫負担金28,138,435円)で道路延長1,218メートルを復旧することとしていたが、うち608メートル工事費18,502,000円(国庫負担金17,854,430円)については全く被災の事実がない。
〔2〕 熊本県阿蘇郡白水村水口川ほか2河川災害復旧は、査定総額120,122,000円(国庫負担金118,079,926円)で護岸延長5,926メートルを復旧することとし、また、同郡長陽村垂玉川災害復旧は、査定額51,417,000円(国庫負担金50,388,660円)で護岸延長1,189メートルを復旧することとしていたが、いずれも別途農林省が同一箇所について査定した堤とう復旧白水村分延長5,900メートル工事費135,420,000円(国庫補助金121,878,000円)、長陽村分延長2,104メートル工事費43,770,000円(国庫補助金39,393,000円)と重複していた。
(2) 改良その他国庫負担の対象としてはならないもの
災害を受けていないのに河川の拡幅もしくは護岸の改良工事を施行したり、被害が軽微であるのに道路を拡幅しもしくは路側石垣を新設するなど改良工事を施行しようとしているものなどは1,339件1,202,353,000円に上っているが、その代表的事例をあげると次のとおりである。
〔1〕 愛知県幡豆郡一色町幡豆海岸副堤防災害復旧は、査定額11,195,000円(国庫負担金11,116,635円)で延長953メートルの在来土羽堤を練積石垣等により復旧することとしていたが、実際は被災の程度も軽微であるばかりでなく、本副堤の外側の主堤はかさ上げのうえ3面コンクリート張とするもので、在来の施設より著しく程度の高い工事を施行しているものであるから特に本副堤の復旧は必要のないものである。
〔2〕福井県遠敷郡奥名田村地内県道故屋岡小浜線災害復旧は、査定額13,861,000円(国庫負担金13,514,475円)で道路延長1,520メートル幅員2.5メートルから3.5メートルを復旧することとしていたが、右道路は、国庫負担の対象とはならない幅員2メートル未満の山間部の小径であるばかりでなく本工事区間で行止りとなっているものを拡幅する改良工事を施行しようとしたものである。
〔3〕 奈良県宇智郡大阿太村吉野川右岸災害復旧は、査定額32,465,000円(国庫負担金31,426,120円)で河川延長300メートルにわたり硬岩切取27,200立米、土砂切取4,500立米および護岸885平米を施行することとしていたが、護岸工事4,170,000円(国庫負担金4,036,560円)を除き本工事は吉野川狭さく部の岩盤を切り取り、上流部のいつ流を防止するための改良工事である。
〔4〕 和歌山市紀の川災害復旧は、査定額19,086,000円(国庫負担金18,837,882円)で護岸延長370メートルを復旧することとしていたが、そのうち220メートル工事費11,326,000円(国庫負担金11,178,762円)については全く被害の事実がなかったものである。
〔5〕 大分県大分郡賀来村大分川災害復旧は、査定額9,716,000円(国庫負担金9,249,632円)で本川および支川の護岸延長200メートルを練積石垣により復旧することとしていたが、本川延長50メートル工事費2,923,000円(国庫負担金2,782,696円)については被害の事実がなかったものである。
なお、支川延長150メートルもじゃかご工法で足り、1,849,000円(国庫負担金1,760,248円)が設計過大となっていた。
(3) 設計が過大と認められたもの
石垣およびコンクリート工事の材料を工事現場付近で採取することができるのに遠方から運搬することとしているもの、軟岩または粘土を切り取るのに硬岩切取としているものなど設計が過大となっているものは535件473,266,000円上っているが、その代表的事例をあげると次のとおりである。
〔1〕 京都府何鹿郡奥上林村上林川災害復旧は、査定額157,705,000円(国庫負担金149,806,437円)で護岸延長4,900メートルを復旧することとしていたが、護岸の河床掘さく49,040立米の掘さく歩掛りを立米当り2人と見込んだことは過大に失するものと認められ、また、右掘さく中3,327立米、および練積石垣1,500平米が別途府道山家本郷線災害復旧その査定額9,521,000円(国庫負担金9,063,992円)と重複していたので注意したところ、掘さくは歩掛りを0.8人として18,102,506円、重複分は9,083,494円を減額することとしたが、別に違算分があったのでこれを是正して、結局、工事費18,801,000円(国庫負担金17,861,210円)を減額した。
〔2〕 奈良県吉野郡野迫川村中原川砂防災害復旧は、査定額163,929,000円(国庫負担金158,683,272円)でコンクリート護岸延長5,722メートルを復旧することとしていたが、コンクリート用の砂利、砂は現地にたい績しているものを使用することができるのに4キロメートルの地点から運搬することとしているばかりでなく、この砂利、砂を使用すれば、本工事で施行することとしている河床掘さく66,125立米は、そのうち24,258立米を減ずることができるものであり、また、硬岩切取16,288立米は6,149立米を施行すれば足りるため工事費22,836,000円(国庫負担金22,105,248円)が過大となっていた。
〔3〕 和歌山県伊都郡花園村村道敷地有中線災害復旧は、査定額23,356,000円(国庫負担金23,332,644円)で道路延長3,200メートルの硬岩切取29,720立米を施行することとしていたが、実際は硬岩16,954立米、硬粘土11,303立米の切取で足りるため工事費12,747,000円(国庫負担金12,734,253円)が過大となっていた。