昭和32年度歳出決算額は1220億9千3百余万円で、そのうち国が直轄または都道府県に委託して施行する土地改良、開拓、干拓等の事業および機械の整備等に使用したものは159億6千4百余万円であり、また、地方公共団体等の施行する事業に対する国庫補助は183費目511億2千7百余万円に上っていて、そのうち土地改良、地盤変動対策、林道開設、漁港修築および災害復旧等公共事業関係は63費目330億2百余万円となっている。
土地改良、開墾等の直轄工事の事業費は94億8千7百余万円で、そのうち、農地のかんがいおよび排水の基幹工事となる諸施設を施行する農業水利事業は55億8千余万円をもって67箇所の工事を施行しており、また、地方公共団体に委託施行する事業は32年度において20億4千余万円を使用している。
本院においては、33年中、これら直轄施行による農業水利事業のおもな箇所を、地方公共団体に委託施行しているものとあわせ施設の活用状況にとくに留意して検査したところ、
(ア) 国の直轄により施行している用水源施設、幹線水路等の基幹工事は、多くは22年度から28年度ごろまでに着工し、以来32年度までに累計333億1千4百余万円に上る多額の事業費を使用しているのに、これを活用するため必要な支線水路等の道県営および団体営補助工事が著しく遅延し、国の投資額がその効果を十分にあげていないものが多数見受けられた。そのうち、両総用水農業水利事業は、22年度から総事業費58億円をもって耕地2万1千余町の用水等の施設を施行するもので、32年度までに36億余万円をもって揚水機場2箇所、幹線用水路等の工事を施行し、耕地1万1千余町のかんがいが可能な状態となっているが、これに関連する事業は、県営の支線水路は計画延長15万余メートルの約17%、また、団体営の耕地整備事業等は計画1万6千余町の約13%をいずれも全地域に分散して施行しているにすぎない。
また、このほかにも国の直轄により施行した明治用水農業水利、那賀川北岸農業水利、北海道石坂地区明渠排水各事業および広島、島根両県に委託して施行させた山内地区、新川地区両開墾建設事業も右と同様、11億6千3百余万円を投じ基幹工事として施行した頭首工、幹線水路、ため池はすでに完成しまたは相当進ちょくしているのに、地方公共団体等がこれに関連する支線水路等の工事を完成していなかったりまたは着工もしていない。
(イ) 農業用水、洪水調節、発電等の多目的えん堤を建設省で施行し、工事がすでに完成して農業用水源として利用することが可能であるのに、これに関連する工事の施行を遅延しているものがあり、北海道美唄地区総合かんがい排水事業においては、建設省で桂沢えん堤を総事業費48億7千3百余万円うち農業水利の負担分21億1千6百余万円をもって31年度に完成しているが、農林省において施行する頭首工2箇所および幹線用水路を施行していないため右えん堤からの放流水がほとんど利用されておらず、また、十津川紀の川農業水利事業においても同様、建設省で猿谷えん堤を総事業費48億1千3百余万円うち農業水利の負担分23億7千2百余万円をもって32年度に完成しているが、農林省および地方公共団体等がこれに関連する幹支線水路等の工事をほとんど施行していない状況である。
(ウ) 農林省自体の工事についても、全体計画に対し毎年少部分の工事しか施行しておらず、完成までに著しく長期間を要すると認められるものがあり、24年度から総事業費173億円をもって施行している豊川農業水利事業をみると、着工以来9年を経過したにもかかわらず20億9千9百余万円をもって宇連えん堤を完成しただけで、残事業の幹線水路工事等の事業はまだ着工されていない状況である。