(昭和53年9月29日付け53検第389号 東京大学長あて)
東京大学医学部附属病院精神神経科では、昭和44年9月以来、同科病棟の一部を同大学所属の教官1名(講師)及び多数の部外の医師等により占拠されてきたため、現在なお外来患者の入院、学生の臨床実習及び教官の研究のための施設等が正常に使用されていないなど、精神神経科としての管理運営が適切に行われていないと認められる。
もとより、医学部附属病院の設置目的は、外来患者のうちから入院を要すると診断された患者を病棟に入院させ、患者の診療を通じて医学の教育と研究を行うことにあり、この目的が達成されるためには、外来部門と病棟部門とが一体に運営されることによってはじめて所期の成果をあげることができるものであるが、精神神経科病棟66室(病室等面積1,599m2 )のうち55室(同1,366m2 )における実態についてみると、病棟医長及び関係助手が立入りを阻止され、同病棟が教育研究施設として活用できない状態となっている。すなわち、同病棟の入院患者は、前記の医師等が外来部門を通じないで入院させた者が大部分であり、この患者の診療は前記の講師(53年6月以降は助手1名)及び部外の医師が任意に交替で行っている。このため、診療の監督責任者である診療科長(現在は事務取扱)が診療内容について具体的には握できる状態になっておらず、また、外来患者のうち病棟に入院させて診療をしなければならない患者が多数ありながら同病棟に入院させることができないため、やむを得ずこれらの患者について他の病院へ入院をあっ旋しており、更には、病棟における学生の臨床実習が全く行えず、他の病院に委託して臨床実習を行わざるを得ない状況となっているなど精神神経科の管理運営が適切に行われていないと認められる。そして、このような事態が継続しているのは、同大学の説明によると医師間の診療教育及び研究に関する考え方の対立に起因することが大きく、かつ、患者が常時収容されているなどの事情があるため、話合いによる解決を図っていることによるとしているが、上記のような事態が8年有余の長期にわたって継続していることは同大学の管理運営について責任を有する機関が適時適切な処置を講じていなかったことによると認められる。
しかして、上記の事態に付随して、病棟の病院収入も大部分が部外の医師等が診療していることにより発生したもので、正常な運営に基づく経理ではないが、同病棟における52年度の病床か働率は42%となっており、これは国立大学医学部附属病院精神神経科の過去3箇年の全国平均に比べて約31%低率で、これによる減収額を推算しても約1880万円となっている。
ついては、同大学において、速やかにこのような異常な事態を解消し、外来部門と病棟部門とを合わせた精神神経科一体として本来の管理運営ができるよう適切な処置を講ずる要があると認められる。