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  • 昭和52年度|
  • 第3章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第5 農林省(昭和53年7月5日以降は「農林水産省」)|
  • 特に掲記を要すると認めた事項

国営静清庵かんがい排水事業ほか2事業の施行について


国営静清庵かんがい排水事業ほか2事業の施行について

 農林水産省が直轄で施行しているかんがい排水事業は、農業用水の確保及び水利用の安定と合理化を図ることを目的として土地改良法(昭和24年法律第195号)に基づきダム、頭首工、揚排水機場、用排水路等の基幹施設の整備を行うものである。この事業は事業規模が大きく多額の事業費と相当の年月を要するので計画的に実施しなければならないものであるが、このうち、特に事業の早期完了を要するものについては一般会計の経理によらず特定土地改良工事特別会計によって経理することとなっており、この特別会計は、一般会計からの繰入金と資金運用部資金からの借入金によって事業費を支弁していて、一般会計からの繰入金は原則として事業費の58%に当たる国の負担分であり、借入金は事業費の42%に当たる県及び受益者の負担分である。そして、この特別会計で実施する事業は、おおむね7年以内に完了することが要請されている。
 しかして、上記特別会計の経理によって事業を実施している静清庵かんがい排水事業、西濃用水かんがい排水事業及び東播用水かんがい排水事業についてみると、次のとおり、事業着手以後10年ないし7年を経過した現在なお事業の大部分が未施行となっていたり、主要工事の施行がとん挫していたりしている状況である。
 すなわち、

(1) 静岡県下で施行している静清庵かんがい排水事業は、静岡市ほか2市3町のみかん畑等(7,488ha)に、全自動方式による畑地かんがい施設等を設置する目的で、46年度に、事業費総額294億2000万円で着手したものである。しかし、52年度末までに揚水施設、幹線水路等の一部を65億3077万余円で施行したに過ぎず、みかん営農の採算悪化もあって、受益者のなかには、事業の長期化と事業費増加に伴う経費負担に不安を抱き、大幅な負担の軽減を求める意向が強いため、計画の総合的再検討の必要から、53年度からの新規工事の実施を見合せており、多額の費用を投じて建設した施設、水路等が遊休している。

(2) 岐阜県下で施行している西濃用水かんがい排水事業は、大垣市ほか7町の既成田等(9,177ha)に、かんがい用水を供給する目的で、43年度に、事業費総額107億6000万円で着手したものである。そして、52年度末までに、頭首工1箇所及び用水路の一部を74億0773万余円で施行しているが、用水路の新設が予定されている頭首工付近の地域に関係する土地所有者等の利害関係人との調整が進展していないため、取り入れ口水路の工事を施工することができず、多額の費用を投じて建設された頭首工等が遊休している。

(3) 兵庫県下で施行している東播用水かんがい排水事業は、神戸市ほか3市3町の既成田、農地造成地等(8,363ha)にかんがい用水を供給するほか、神戸市ほか6市7町の上水道の水源を確保するため、呑吐ダムほか2箇所のダム及び用水路等を建設する目的で、45年度に、事業費総額318億8000万円で兵庫県からの上水道の受託工事と併せて着手したものである。しかし、52年度末までに、呑吐ダム及び川代ダムに係る関連工事等を124億5893万余円で施行したに過ぎず、ダム建設工事に係る多数の既得水利権者の同意を得ることができないため、当初に着工する予定の呑吐ダム本体工事さえも未だに着手することができない状況で、多額の費用を投じて建設したダム本体工事用の骨材プラント等が遊休している。

 上記のような事態は、投下した多額の事業費(263億9745万余円)が長期間にわたって休眠し、事業効果の発現が著しく遅延するばかりでなく、これらに対する対策を講じないまま推移すると、更に事業費の増加、金利の累増となり、国の負担のみならず県及び受益者の負担も増加することとなる。