(昭和53年10月20日付け53検第404号 郵政大臣あて)
郵政省管下の郵便局の窓口業務において、郵便貯金払いもどし金等を詐取され国の損害となった事例は少なくなく、いま、昭和50年度から52年度までの3箇年の間についてみても、不法領得通帳等を使用した部外者によるもの7,160口999,641,640円及び郵便局所属の外務員によるもの512口86,069,905円、合計7,672口、総額1,085,711,545円に上っている。
しかして、同省においては、上記の事態に関して、正当権利者である預金者等に対してその払出しの正当性を主張すべきでないとして、郵便貯金等の払出しの取消し措置を講じ、国の損害として処理している。そして、窓口職員に対しては正当権利者等の確認に誤りがあった場合でも、損害額に係る弁償を命じ、その責任を追求することは全くない。
このように、国損を生じながらなお窓口職員に弁償責任を問わないことについて、同省の見解によれば、郵便局における郵便貯金等の払出しの窓口業務については、郵政大臣が定めた郵政官署現金出納計算規程(昭和47年公達第8号)第37条の規定によりその職務の分担を事務主任及び現金主任に区分し、事務主任には正当権利者等の確認を含む郵便貯金等の業務に関する事務を行わせ、現金主任には事務主任が正当権利者等であると確認したものに対して単に現金の払出しを行わせることとしており、出納員としては現金主任だけが任命されているので、現金主任である出納員は事務主任の指示に従って現金を払い出せば、正当権利者以外の者に払い出したとしても、出納員としてその保管する現金の亡失はないとしているため、出納員でない事務主任はもとより、出納員である現金主任も弁償責任を負わない体制となっている。
しかしながら、正当権利者等の確認を行うことは出納員としての善良な管理者の注意義務の内容の一部をなすのは当然のことであって、会計法(昭和22年法律第35号)第45条において準用する同法第41条においては、出納員がその保管に係る現金を亡失した場合において善良な管理者の注意を怠ったときは弁償の責を免れることができないと規定している。したがって、郵便貯金等の払出しを行っている窓口職員は当然会計法の適用を受けるものであるから、出納員として正当権利者等の確認を行うことが義務付けられるものである。なお、同省では、郵便局の窓口における郵便貯金等の払出しは、反復、継続性を有し、事務量も膨大であるという特殊性があるとしているが、これは善管注意義務違反の有無の認定の要素とはなり得ても、会計法の意図する出納員の善管注意義務を限定する理由とはならない。
ついては、本来会計法第41条の意図する出納員としての職務範囲である正当権利者等の確認を業務行為として出納員でない事務主任のみに課し、出納員である現金主任の職務としていない現行の体制は適切でないと認められるので、正当権利者等の確認を出納員である現金主任に課するとか、事実上出納員としての職務を分掌している事務主任をも会計法上の出納員とするなどして責任体制を確立する要があると認められる。