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  • 昭和52年度|
  • 第3章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第10 建設省|
  • 特に掲記を要すると認めた事項

大滝ダム及び川辺川ダムの建設について


大滝ダム及び川辺川ダムの建設について

 建設省が直轄で施行している多目的ダムの建設事業は、河川の流水を水系ごとに総合的に管理することによって、洪水を調節し利水を図ることを目的とし、特定多目的ダム法(昭和32年法律第35号)に基づきダム、河口堰(せき)等を建設するもので、その事業の執行に当たっては、緊急かつ計画的に推進することが要求されているものであるが、この事業は用地買収、補償交渉等に手間どることが多く、工事期間は通常の場合でもおおむね10箇年程度の長期間を必要とし、また、その事業費については治水特別会計によって経理が行われているが、きわめて多額の投資を要するものである。

 しかして、ダムの建設は、洪水調節を行うことによって河川の基本高水流量(注1) を低減し、築堤、橋りょう等の公共施設及び流域における土地、建物等の被害を防止し又は減少させるものであり、また、当該調節後の計画高水流量(注2) を基本として各河川の改修工事が実施されることとなっており、更に近時の水需給の動向からも工事の進ちょくが緊急視されているが、昭和52年度中に建設している大滝ダム及び川辺川ダムについてみると、着手後10箇年以上を経過して準備工事及び補償のため多額の事業費を支出しながら、なお、ダム本体工事の着工の確実な見通しも立っていない。

 すなわち、近畿地方建設局管内の大滝ダム建設事業は、紀の川の上流奈良県吉野郡川上村大字大滝付近に、重力式コンクリートダム(堤高100m、堤頂長345m、堤体積780,000m3 )を建設し、計画高水流量毎秒5,400m3 のうち2,700m3 の調節を行い紀の川の基本高水流量を低減するとともに、ダムに貯留した流水を奈良、和歌山両県の都市用水に毎秒7m3 を供給し、併せて最大出方10,600kwの発電をする目的で37年度に着手したものである。しかし、ダム建設に伴って475世帯及び宅地、山林等225haの水没等が予定され、離村者と残留者、山林地主と山守等の利害関係が複雑に絡み合い、用地買収、補償交渉が難航しているほか、公共補償と密接な関連を持つ水源地域対策特別措置法(昭和48年法律第118号)に基づく水源地域住民の生活環境、産業基盤等の整備計画の事業内容及びその経費の負担割合等について、水源地県である奈良県と下流受益県である和歌山県との協議が整わないこともあり、37年度から52年度までの間に事業費142億3990万余円で水没関係の補償及び工事用道路等の一部を実施しただけで、ダム本体工事はおろか同工事の施工に必要な転流工事(注3) さえも着工していない状況である。

 また、九州地方建設局管内の川辺川ダム建設事業は、球磨川の支川川辺川の上流熊本県球磨郡相良村大字四浦付近に、アーチ式コンクリートダム(堤高107m、堤頂長274m、堤体積370,000m3 )を建設し、計画高水流量毎秒3,520m3 のうち3,320m3 の調節を行い、球磨川の基本高水流量を低減するとともに、ダムに貯留した流水を国営土地改良事業地区等(受益面積4,400ha)のかんがい用水に供給し、併せて最大出力16,500kwの発電をする目的で、42年度に着手したものである。しかし、ダム建設に伴って528世帯及び農地、山林等362haに加え小学校等の公共施設が水没することなどから、地元に強い反対やダム建設にかかわる基本計画取消請求の訴訟等もあり、水源地域整備計画の作成ができず、42年度から52年度までの間に事業費55億9423万余円で工事用道路及び代替地造成工事の一部を施工しただけで水没家屋及び水没地域の補償も行われず、ダム本体工事はおろか同工事の施工に必要な転流工事さえも着工していない状況である。

 このような状態は、地元は当該事業による直接の受益がないため犠牲地であるとの認識を持ち、受益の還元を求める傾向が強いこと、被補償者が多数にのぼるためその間において意見や利害の対立が生ずる場合が多く、その調整が容易でないことなどにより当局者の努力にもかかわらず解決をみるに至らず今日に及んでいるのであるが、上記のような状況がこのまま推移すると投下した多額の事業費が長期間にわたって休眠し、事業効果の発現が著しく遅延することとなる。

(注1)  基本高水流量 既往の降雨や出水の記録に基づいて、河川の特定の箇所に設けられている基準地点における洪水の際の流量を予測計算した数値で、河川整備に当たっての基本となる。

(注2)  計画高水流量 洪水の際に基本高水流量が上流のダムや遊水池等で配分調節された後の基準地点の河道を通さなければならない計算上の流量

(注3)  転流工事 ダム本体工事の施工期間中河川の流水を一時的に迂回して通水させるための水路トンネルを築造する工事