ページトップ
  • 昭和52年度|
  • 第3章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第9 中小企業振興事業団|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

中小企業高度化資金の貸付けの適正化について処置を要求したもの


中小企業高度化資金の貸付けの適正化について処置を要求したもの

(昭和53年11月20日付け53検第422号 中小企業振興事業団理事長あて)

 中小企業振興事業団においては、中小企業の企業規模の適正化、事業の共同化、工場、店舗等の集団化等を図るための事業(以下「高度化事業」という。)の用に供する土地、建物その他の施設を取得し、造成し、及び設置する中小企業者に資金の貸付けを行う都道府県に対してその財源の一部の貸付けを行っているほか、特別の高度化事業を行う中小企業者に対しては同事業団が直接中小企業者に資金の貸付けを行っていて、昭和52年度末貸付金残高は4906億2588万余円に上っている。
 この高度化事業は、中小企業者が個別企業単位で事業を達成することが困難であることから、中小企業者が組合、会社等の組織の活用により協同して事業を行うことが基本的要件となっていて、中小企業者に対する設備資金の貸付条件は、事業の種類に応じて、貸付利率が無利子、年2.6%又は2.7%、償還期限が12年以内、15年以内又は16年以内と極めて低利かつ長期のものとなっている。
 しかして、53年中、北海道ほか18府県下の中小企業者に49年度から52年度までに直接又は間接に貸し付けたもののうち、378件505億3982万余円について調査したところ、北海道ほか12府県(注) において適切でないと認められる事例が47件36億6597万余円(うち同事業団の貸付金相当額22億6677万余円)見受けられた。これを態様別に示し、その主な事例を挙げると、次のとおりである。

(1) 貸付対象施設が必要以上の規模のものであったり、貸付対象者が貸付対象となる協同組合としての資格要件を欠いていたりなどしていて、貸付けの対象にならないものに貸し付けているもの

貸付契約件数

貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)

貸付対象として適切でない事業費
(同上に対する貸付金相当額)

左に対する事業団貸付金相当額
千円 千円 千円
5件 431,319
(280,210)
228,818
(152,732)
94,672

<事例1>

道府県名 貸付先 年度 貸付対象 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)
貸付対象として適
切でない事業費
(同上に対する貸付金相当額)

左に対する事業団貸付金相当額

千円 千円 千円
北海道 繊維卸事業協同組合 51 土地 15,817
(10,000)
15,817
(10,000)
6,460
52 土地及び共同倉庫 219,215
(138,000)
16,714
(10,522)
6,797
235,032
(148,000)
32,531
(20,522)
13,257
この事業は、共同施設事業として土地7,996m2 を取得し、建坪2,162m2 の繊維製品倉庫を建設したものであるが、取得した土地のうち4,061m2 (事業団貸付金相当額13,257千円)については利用計画もなく遊休しているので、貸付対象とする要がなかったものである。

<事例2>

道府県名 貸付先 年度 貸付対象 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)
貸付対象として適 切でない事業費
(同上に対する貸 付金相当額)
左に対する事業団貸付金相当額
千円 千円 千円
鳥取 砕石協同
組合
49 設備ほか 68,600
(44,200)
68,600
(44,200)
28,560
50 93,363
(60,560)
93,363
(60,560)
39,130
161,963
(104,760)
161,963
(104,760)
67,690
この事業は、共同施設事業として砕石用の破砕機等を設置したものであるが、本件貸付対象とした協同組合はその構成員のうち2組合員の出資割合が38.0%又は36.7%となっていて、中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号)で定めている1組合員の出資割合の限度25%を超えているため、貸付対象となる協同組合としての資格要件を欠いており、貸付対象とならなかったものである。

(2) 貸付対象共同施設が特定の組合員によって分割占有されていたり、1組合員又は組合員以外の者によって制限範囲を超えて利用されていたり、遊休していたり、その一部が転売されていたりなどしていて、貸付けの目的を達していないもの

貸付契約件数 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)

貸付対象として適切でない事業費
(同上に対する貸付金相当額)

左に対する事業団貸付金相当額
千円 千円 千円
38件 6,085,452
(4,144,829)
4,906,619
(3,497,838)
2,162,145

<事例1>

道府県名 貸付先 年度 貸付対象 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)
貸付対象として適 切でない事業費
(同上に対する貸 付金相当額)
左に対する事業団貸付金相当額
千円 千円 千円
大阪 運輸事業協同組合 49 土地 214,183
(139,210)
214,183
(139,210)
89,950
50 有がい駐車場ほか 78,000
(50,700)
78,000
(50,700)
32,760
292,183
(189,910)
292,183
(189,910)
122,710
この事業は、運送等の共同受注、共同配車を行うことを目的とする共同施設事業として、土地を取得し、建物3棟を建設するなどしたものであるが、同組合では土地の大部分を面積割等により一部の組合員11名に、建物3棟を組合員2名にそれぞれ占有使用させていて、共同施設としての貸付目的からみて適切でない。

<事例2>

道府県名 貸付先 年度 貸付対象 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)
貸付対象として適
切でない事業費
(同上に対する貸 付金相当額)
左に対する事業団貸付金相当額
千円 千円 千円
山口 輸送センター協同組合 50 保管倉庫ほか 231,200
(150,280)
231,200
(150,280)
97,100
この事業は、共同施設事業として貨物の保管倉庫等を建設したものであるが、本件倉庫の利用状況をみると、1組合員がほとんど独占使用(利用割合99.8%)し、事業団で定めている利用割合の限度50%を超えている状況で、共同施設としての貸付目的からみて適切でない。

<事例3>

道府県名 貸付先 年度 貸付対象 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)
貸付対象として適 
切でない事業費
(同上に対する貸 付金相当額)
左に対する事業団貸付金相当額
千円 千円 千円
大阪 木材仲買
協同組合
49 共同倉庫 50,000
(32,500)
50,000
(32,500)
21,000
この事業は、共同施設事業として木材の保管倉庫を建設したものであるが、本件倉庫の利用状況をみると、組合員以外の者の利用分量が組合員の総利用分量の300.5%に達していて中小企業等協同組合法で定めている利用分量の限度20%を超えている状況で、共同施設としての貸付目的からみて適切でない。

<事例4>

道府県名 貸付先 年度 貸付対象 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)
貸付対象として適 
切でない事業費
(同上に対する貸 付金相当額)
左に対する事業団貸付金相当額
千円 千円 千円
大阪 サンダル協同組合 51 土地ほか 233,000
(151,450)
233,000
(151,450)
97,860
この事業は、共同施設事業として土地を取得し、作業場を建設し、機械類等を設置したものであるが、そのうちサンダル試験機1台2,300千円(事業団貸付金相当額966千円)を無断で他に転売したりなどしている。また、本件共同施設の全施設は、53年5月以降作業を中止し、遊休している。

(3) 借受者である中小企業者が事実と相違する書類を作成するなどして、貸付対象事業費より低額で事業を実施しているもの

貸付契約件数

貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)

貸付対象として適切でない事業費
(同上に対する貸付金相当額)

左に対する事業団貸付金相当額
千円 千円 千円
5件 264,133
(162,900)
23,716
(15,409)
9,956

<事例>

道府県名 貸付先 年度 貸付対象 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)
貸付対象として適 
切でない事業費
(同上に対する貸 付金相当額)
左に対する事業団貸付金相当額
千円 千円 千円
熊本 食品加工協同組合 50 土地ほか 44,591
(28,982)
2,375
(1,545)
999
この事業は、共同施設事業として総額44,591千円で土地を取得し、作業場を建設し、包装機等を設置したとしているものであるが、実際の事業費は42,215千円であるため、1,545千円(事業団貸付金相当額999千円)が貸付限度を超えている。
備考(1)〜(3)の態様別の件数を合計すると48件となるが、これは(2)及び(3)の事態にまたがって重複しているものが1件あることによるものである。

 このような事態を生じたのは、次のようなことなどによると認められる。

(ア) 借受者である中小企業者において、この制度についての認識が十分でないこと。

(イ) 同事業団において、審査及び管理に関する規定等が不備であることなどのため、道府県に対する指導が十分に行われていないこと。

(ウ) 道府県において、貸付けに当たっての審査、貸付後における貸付金の使用状況の確認及び貸付対象施設の利用状況のは握が的確に行われていないこと。

(エ) 同事業団が直接貸付けを行っている事業についても、利用状況のは握等が的確に行われていないこと。

 ついては、今後貸付けの増加が予想される中小企業高度化資金の貸付けについて、借受者である中小企業者に対し貸付制度の趣旨の周知徹底を図るとともに、貸付けに関する諸規定等を改正して体制を整備し、都道府県に対して、貸付けに当たっての貸付対象事業に対する診断内容の審査を充実させ、貸付後における貸付金の使用状況の確認を的確に実施させ、貸付対象施設の事後管理を徹底させることとし、また、同事業団が直接貸付けを行っている事業についても利用状況のは握等に努め、もって貸付けの適正を期する要があると認められる。

(注)  北海道ほか12府県 北海道及び岩手、茨城、新潟、福井、岐阜、静岡、愛知、大阪、鳥取、広島、山口、熊本の各府県