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  • 昭和52年度|
  • 第3章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第11 年金福祉事業団|
  • 特に掲記を要すると認めた事項

大規模年金保養基地の建設計画について


大規模年金保養基地の建設計画について

 年金福祉事業団では、厚生年金保険、船員保険及び国民年金の受給権者が有意義な老後生活を送るための場を提供するとともに、これらの制度の被保険者等の健全かつ有効な余暇利用等に資することを目的として、大規模年金保養基地(年金福祉事業団法(昭和36年法律第180号)第17条第1号に規定する保養のための総合施設で、以下「基地」という。)を11基地13箇所(注1) 設置することとしており、この建設費用の原資には資金運用部資金からの借入金を充て、この借入金に係る利息の支払は厚生保険、船員保険及び国民年金各特別会計から同事業団に毎年交付される交付金により、また、この借入金の償還は、これらの特別会計から同事業団に毎年出資される出資金によりそれぞれ行うこととしている。

 この基地の建設計画の推移についてみると、昭和47年10月に厚生大臣がはじめて発表した基地設置構想(以下「設置構想」という。)によれば、48年度から8箇年間に、全国10箇所、1箇所当たり約200億円、総額約2000億円で建設することとし、これを受けて同大臣の諮問機関である大規模年金保養基地設置懇談会が計画の骨子を答申し、これに基づいて、50年7月に至り、ようやく「大規模年金保養基地の設置及び運営に関する全体基本計画」(昭和50年7月4日付、年発第1277号厚生省年金局長通知。以下「全体計画」という。)が策定され、これにより、全国に11基地13箇所を設置することとされた。

 そして、この「設置構想」及び「全体計画」によれば、基地は、利用者の教養、趣味等を高める余暇活動を図り、健康増進を図るなどの機能を有するものとし、このための施設として、セミナーハウス等の教養文化施設、健康増進センター等の保健施設、レクリエーションセンター、体育館等の保養施設等を広大な自然環境の中に設置することとしており、1基地当たりの敷地面積は約330ha(約100万坪)とし、また、基地の建設は、各基地について工期を2期に分け、主として基幹施設を整備する第1期工事を各基地ともおおむね60年度までに完了して開設(運営開始)することとしている。

 また、用地取得から基地の開設に至るまでの基地建設事業の実施過程についてみると、各基地ごとに先ず基本計画案(基地に建設する施設の概要、基地の建設の着手及び完了の予定時期、基地の建設に要する費用等の事項を定めるもの)を策定し、これについて厚生大臣の承認を経て基本計画を決定し、この基本計画に基づいて基本設計及び実施設計を行った後、工事を施行完成し、基地を開設することとしている。

 しかして、基地建設事業の実施状況についてみると、48年度以降52年度までに基地用地として13箇所延べ38,891千余m2 を総額380億3469万余円で取得しているが、兵庫県三木基地で現在センターゾーン等の敷地造成工事、道路工事、レクリエーションセンター棟、ホテル棟及びセミナーハウスの建築工事等を施行中であるほか、北海道大沼基地において野外レクリエーション施設工事等が開始されたに過ぎず、53年9月現在、用地取得後4年6箇月ないし1年6箇月を経過しているにもかかわらず、建設予定の11基地のうち、基本計画について厚生大臣の承認を受けたものが上記の三木及び大沼両基地を含め4基地(注2) 、基本計画案の策定だけを終えたものが4基地(注3) で、残りの3基地(注4) は、基本計画案の策定作業すら開始されておらず、それに関する今後の見通しも立っていない状況であり、また、基本計画案の策定だけを終えた4基地についてみると、厚生大臣の承認手続を採らないまま長いもので2年7箇月短いものでも6箇月を経過している状況である。

 このように、多額の資金を借り入れて取得した広大な基地用地の大部分がその効用を発揮する見込みもないまま休眠状態を続けることとなっているのは、48年度に用地取得に着手した当時、一般的に土地に対する需要がおう盛であったことから、将来大きな面積の用地取得が困難であると予想して、全体計画の策定に先行して取りあえず用地買収が開始されたという事情にもよるが、石油危機以降、経済的な理由などから余暇活動の内容に変化の傾向がみられ、また、ほとんどの基地が利用者の居住地域から遠方にあるなどのため、当初の構想どおりの基地を開設したとしても想定したとおりの利用見込みが立たないことなどから同事業団が事業の推進を躊躇していることによると認められる。

 一方、基地用地所在の大部分の道県では、基地が開設された場合における地元での消費需要の拡大及び就労の場として期待が大きいとして、当初の構想どおり基地への進入道路等の周辺整備事業を国の補助を受けるなどして積極的に先行推進している状況である。

 このような状況からみて、現在の社会環境に適合した基地の建設計画を策定し効率的な基地の建設及び運営を図り得るよう、当初の構想における建設時期、規模、内容等についての見直しを早急に行う必要があるものの、同事業団としては基地用地の取得の際、地元地方公共団体の協力を仰いだほか周辺整備事業についても引き続き地元地方公共団体に協力を要請している経緯があることなどの事情もあって、事態の打開が極めて困難な状況となっている。

 なお、取得した基地用地の管理については、52年度だけでも森林管理費等に4500万円程度を費やしているものの、取得用地が広大で、山林、原野が大部分であるため、ほとんどの用地で森林等の維持管理や境界画定等の処理が十分でなく、なかには旧所有者が無断で使用している事例も見受けられる。

(注1)  11基地13箇所 大沼基地(北海道)、田老基地(岩手県)、津南基地(新潟県)、三木基地(兵庫県)、紀南基地(和歌山県)、横浪基地(高知県)、南東北基地(岩沼地区(宮城県)、二本松地区(福島県))、中央高原基地(岐阜県)、安浦基地(広島県)、北九州基地(八女地区(福岡県)、久木野地区(熊本県))、指宿基地(鹿児島県)

(注2)  三木及び大沼両基地を含め4基地 三木、大沼、田老、津南各基地

(注3)  4基地 紀南、横浪、中央高原、指宿各基地

(注4)  3基地 安浦、南東北、北九州各基地