(昭和55年11月25日付け55検第548号 大蔵省造幣局長あて)
大蔵省造幣局が製造し、政府が発行した臨時補助貨幣のうち著しく磨損したものなど流通不便となった貨幣(以下「流通不便貨幣」という。)は、貨幣法(明治30年法律第16号)第12条の規定により政府が引き換えることになっており、日本銀行の鑑定を経たうえ引き換えられた流通不便貨幣は同局に引き継がれることになっている。
しかして、同局では、上記の引換えによるもののほか、現在流通している臨時補助貨幣の中で10円の臨時補助貨幣(以下「10円青銅貨幣」という。)が発行後長期間を経ており、また、使用ひん度も高いことから、これを新貨幣と逐次切り替えることとして、大蔵省理財局等と協議のうえ、昭和50年度から日本銀行に還流した10円青銅貨幣を回収し、新貨幣と切替えを要しないもの(以下「良貨」という。)と要するもの(以下「不良貨」という。)とに選別して、不良貨と判定したものについては、新貨幣の原材料の一部として使用するため外部に委託して鋳潰(いつぶ)しを行っている。
そして、同局では54年度において4億9900万枚を回収し、前年度までに回収したまま未選別となっている8346万余枚と合わせた5億8246万余枚のうち、4億4828万余枚について選別作業を行い、1021万余枚を良貨と、残りの4億3807万余枚(1,969t)を不良貨とそれぞれ判定している。この不良貨と判定したものに前年度末から繰り越された不良貨(注1)
531tを加えた2,500tのうち、1,625tを54年度に鋳潰しており、同年度末現在、53年度以前に鋳潰したものを含めて3,367tの鋳塊(注2)
を保有している。
上記の10円青銅貨幣の回収後の取扱いについて検査したところ、次のとおり適切でないと認められる点が見受けられた。
1 選別の結果良貨と判定した10円青銅貨幣については、封印のうえ同局に保管されたままとなっていて、その数量は年々累増しており、54年度末で4972万余枚となっている状況である。
しかしながら、回収の目的が前記のように良貨、不良貨を選別のうえ不良貨を新貨幣に切り替えることにあるのであるから、良貨と判定したものについては早急に流通させるための措置を執る要があったと認められる。
いま、仮に現在保管している選別済み良貨4972万余枚を発行に充てることにすると、これに相当する新貨幣を製造するための経費約3億0460万円の節減を図ることができるものと認められる。
2 選別の結果不良貨と判定した10円青銅貨幣については、伸銅業者に委託して鋳潰しを行わせ鋳塊にしておき、同局が青銅圧延板(注3)
又は青銅正量円形(ぎょう)(注4)
を製造発注する際その原材料の一部としてその鋳塊を支給することとしており、54年度中に1,625tの鋳潰し(その経費8742万余円)を行っている。
しかしながら、同局が10円青銅貨幣を製造している作業についてみると、日本銀行の鑑定を経て回収した10円青銅貨幣については、当該貨幣をそのまま溶解炉へ直接投入する方法により新貨幣を製造しているものであって、上記の不良貨についてもこれと同様の処理が可能であり、その間、局内に不良貨を保管する場所もあるのであるから、不良貨のすべてについて一律に伸銅業者に委託して鋳潰したうえ鋳塊としているのは適切な処置とは認められない。
いま、前記不良貨については、新貨幣の製造に備えて保管しておき、必要に応じて溶解炉へ直接投入するなどすると、外注による鋳潰しのための経費のうち相当額の節減を図ることができるものと認められる。
このような事態を生じたのは、良貨と判定した10円青銅貨幣について流通させるための措置を執る配慮に欠けていたこと、不良貨と判定した10円青銅貨幣については保管上の便宜のみに着目して一律に鋳潰して鋳塊にする方針としていることによると認められる。
ついては、10円青銅貨幣の回収は今後も引き続き実施されるものであり、また、55年度内に造幣局内の溶解能力を増強するための工事が完成する計画となっているのであるから、前記各項について早急に検討のうえ、良貨と判定したものについてこれを流通させ、不良貨については溶解炉へ直接投入するなどの局内処理を行う措置を講じ、もって経費の節減を図る要があると認められる。
(注1) 不良貨については、量目管理をしているため枚数でなくトン数で表示することとしている。
(注2) 鋳塊 不良貨を溶解炉で溶かして柱状にした塊(通常、重量は1.5t、寸法は厚さ14cm、幅51cm、長さ245cmのものが多い。)
(注3) 青銅圧延板 銅95%、亜鉛3〜4%、すず1〜2%の合金を貨幣の厚みに仕上げた板
(注4) 青銅正量円形 青銅圧延板を素材にして加工した貨幣の半製品