(昭和55年11月26日付け55検第551号 農林水産大臣あて)
農林水産省では、地域農業の振興を図るため、農業構造改善事業、山村等振興対策事業等の各種補助事業により、事業実施地区ごとに一定の事業費のなかで土地基盤整備及び農業近代化施設等の整備並びに農村の生活環境条件の整備等に必要な事業を地域の実情に応じて実施することとしており、これら事業を実施する市町村、農業協同組合等の事業主体に対して都道府県が補助金を交付する場合、都道府県に対し補助に要する費用について補助金を交付している。
そして、農村を安定した地域社会として建設するためには、上記事業を総合的な関連のなかで計画的、体系的に実施する要があり、特に近年、農村をとりまく環境の変化に伴い、農村の生活環境条件の整備事業のなかでも集会施設、多目的研修施設等のいわゆる農村地域の生活環境施設(以下「環境施設」という。)の設置に係る費用が毎年多額に上っているが、これら環境施設の設置に当たっては土地基盤及び農業近代化施設の整備状況を考慮しつつ経済的、かつ、効率的に実施する要があると認められる。
しかして、昭和55年中に、北海道ほか36都府県(注1)
管内の事業主体が農業構造改善事業ほか7事業(注2)
(以下「各種事業」という。)で52年度から54年度までの間に設置した環境施設のうち、建物の構造が鉄筋コンクリート造り等のもの825施設、事業費573億7374万余円(国庫補助金相当額278億0600万余円)について調査したところ、次のように適切を欠いている事態が見受けられた。
1 環境施設の建設費について
上記環境施設の建設費についてみると、同省において補助事業審査の基準となる1m2
当たりの標準単価を定めて都道府県に示していないため、建設費の単価が事業主体のそれぞれで区々となっており、なかには、同一県内で同程度の構造のものを建設する場合であっても、建設費の単価が大幅に相違しているものも見受けられる状況である。
しかして、地方公共団体が起債事業で庁舎、会館等の施設を設置する場合の基準事業費は毎年の自治省財政局長通達による施設の種別ごとの標準単価(以下「自治省通達単価」という。)を基に算定しており、また、他省庁所管の補助事業並びに都道府県が単独事業で庁舎、会館等の施設を設置する場合もそれぞれ基準となる標準単価等を定めており、同省において建設費の審査の基準となる標準単価について定めていないのは適切とは認められない。そして、上記環境施設の建設費の単価を自治省通達単価のうち会館等に適用されるものと比較すると、509施設については建設費の単価が自治省通達単価を上回っており、なかには2倍を超えるものもある状況であった。
いま、仮に上記509施設について建設費の単価を設置条件等を考慮して自治省通達単価の1.2倍として計算したとしても、これを超えるものが32都道府県の210施設あり、この施設の建設費約164億8600万円(国庫補助金相当額約80億8500万円)との間に約23億1800万円(国庫補助金相当額約11億3800万円)の開差を生ずることとなる。
2 環境施設の規模について
上記環境施設のうち、研修施設等674施設についてみると、同省においては収容予定人員に対する施設の規模について定めていないこともあって、使用目的が同じ研修施設等であるのに収容予定人員1人当たりの床面積は0.58m2
から6.49m2
と大幅な開差を生じている状況である。
しかし、建築参考資料等によれば通常の研修施設の場合、廊下、ロビー等を含めた収容予定人員1人当たりの床面積は3m2
程度あれば十分であるとしているから、これらを参考として収容予定人員に対応する床面積を定める要があると認められる。
いま、仮に上記環境施設のうち研修施設等の床面積が収容予定人員1人当たり3m2
を超えるものについて、その床面積を1人当たり3m2
としたとすると、29都道府県の87施設で建設費約68億5700万円(国庫補助金相当額約33億3100万円)との間に約10億9000万円(国庫補助金相当額約5億2200万円)の開差を生ずることとなる。
3 環境施設の合体施行における費用配分について
上記環境施設を農業協同組合(以下「農協」という。)の事務所と合体して建設しているもの(以下「合体施行」という。)も相当数あるが、これについてみると、その建設費は使用の実態に対応するように配分してそれぞれが負担すべきであるのに、農協が負担する建設費の範囲を事務室、役員室等の専用部分に限定していて、農協が協同組合としての運営にしばしば使用する会議室、研修室部分の建設費をすべて補助対象事業費としているものが相当数見受けられた。
しかし、農協が単独で建設した55事務所について調査したところ、農協事務所における事務室、役員室、廊下、ロビー等を合わせた床面積に対する会議室、研修室の床面積の割合は約25%となっており、合体施行の場合においても農協が協同組合としての運営に一定の床面積の会議室等を必要とする事情は変らないと認められ、合体施行における会議室等に係る建設費はこの実情に合わせて配分すべきであると認められる。
いま、合体施行したものについて、農協が本来必要とする会議室等の面積を事務室、役員室、廊下、ロビー等の床面積に対して25%の割合として会議室等の面積を算出し、この面積分については合体施行による利便も考慮して、仮にその建設費を均等に費用配分したとすると、12県の15施設で建設費約17億1500万円(国庫補助金相当額約8億4400万円)との間に約8300万円(国庫補助金相当額約4100万円)の開差を生ずることとなる。
このような事態を生じたのは、これら環境施設の設置が各種事業により増加しているにもかかわらず、同省において、その建設費について、経済的な面からの調査検討が十分でなかったため、施設の種別による標準的な単価や規模を示すことなく、これらを事業主体の選択にゆだねていたこと、合体施行については、農協の会議室等の使用の実態を十分は握していなかったこと、また、都道府県の農政部局において施設の建築に対する審査体制が整備されていなかったこともあって、事業主体が申請じた設計図書に基づく建設単価や規模をそのまま容認したことなどによると認められる。
ついては、農林水産省において、農村を生産と生活の調和のとれた地域社会として発展させるため、今後も農業構造改善事業等各種事業により農業生産条件及び農村の生活環境条件の整備を計画的に推進することとしていることにかんがみ、環境施設の設置に当たっては、補助事業の審査の基準となる施設の種別に応じた建設費の単価を設定し、収容予定人員に対応する適正な規模を定め、また、合体施行については、適正な費用配分方式を設定する措置を講じて、経済的、かつ、効果的な実施を図り、もって国庫補助金の効率的な使用に努める要があると認められる。
(注1) 北海道ほか36都府県 北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、埼玉、千葉、新潟、富山、福井、山梨、長野、静岡、愛知、三重、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄各県、東京都、京都府
(注2) 農業構造改善事業ほか7事業 農業構造改善、山村等振興対策、農村地域整備開発促進、農業就業改善総合対策、農村地域定住促進対策、地域農業生産総合振興、農業改良普及、農村総合整備各事業