農林水産省で施行している国営農地開発事業は、農産物需要の動向及び農業経営の改善の方向に対応して未墾地を開発して農地を造成し、営農団地を創設して地域農業経営規模の拡大を図り、もって農業の生産性を高め、農家所得を向上し自立経営農家を育成することを目的として、土地改良法(昭和24年法律第195号)により事業の施行に係る地区内にある未墾地を所有している者などの申請に基づいて実施しているもので、事業規模が大きく多額の国費(事業費の74%又は75%)が投入され、相当年月の工期を要するものである。
しかして、昭和54年度に事業(北海道内で施行している事業を除く。)を継続実施しているもの39地区、46年度から54年度までの間に完了したもの15地区計54地区のうち、継続実施しているもの10地区、完了したもの1地区計11地区の造成農地(3,330.9ha)についてその利用状況を実地に検査したところ、次表のとおり日置川(ひきがわ)地区ほか3地区において、受益者が作付予定作目を栽培するため、造成農地の配分又は一時利用地の指定(注)
を受けているのに未植栽のまま放置されていたり、作付けはしたもののその後の管理が不良のため雑草の繁茂にまかせていたりしていて、事業効果が上がっていないと認められるものが349.9ha(これに相当する54年度までの事業費支出額(推計)約48億6600万円)見受けられた。
農政局名 | 地区名 | 県名 | 総事業費 | 54年度末までの支出済額 | 受益農家戸数 | 作付予定作目 | 工期 | 造成面積 | 配分又は一時利用地面積 | 左のうち事業効果が上がっていないと認められる面積 | 効果が上がっていないと認められる額(推計) | |
計画面積 | 54年度末までの面積 | |||||||||||
近畿 |
日置川 (ひきがわ) |
和歌山 |
百万円 5,150 |
百万円 3,507 |
戸 122 |
青切みかん 晩柑類 野菜 |
年度 45〜56 |
ha 312.3 |
ha 142 |
ha 115.3 |
ha 41.5 |
百万円 1,025 |
中国四国 | 麻植 (おえ) |
徳島 | 8,930 | 6,583 | 581 | みかん 桑 茶 |
43〜55 | 320 | 294.7 | 294.7 | 57.2 | 1,277 |
九州 | 羊角湾 (ようかくわん) |
熊本 | 10,090 | 5,163 | 777 | みかん | 43〜58 | 976.7 | 370.1 | 370.1 | 151.2 | 2,109 |
国東 (くにさき) |
大分 | 2,195 | 2,195 | 349 | みかん 花木 梅 栗等 |
44〜52 | 482 | 482 | 482 | 100 | 455 | |
計 | 4地区 | 26,365 | 17,448 | 1,829 | 2,091 | 1,288.8 | 1,262.1 | 349.9 | 4,866 |
このような状態となっているのは、これらの地区において、主な作付予定作目であったうんしゅうみかんの生産過剰の現象が47年頃から顕著となり、営農計画の見直しをするなどして他作目への転換が必要となったが、立地条件からそれぞれの地区に適合した作目の選定が難しかったことなどのため作目の転換による営農の定着が進まないこと、若年労働力の他産業への流出と農業従事者の高齢化等による労働力の不足などから経営基盤の弱い受益農家の一部に営農意欲の減退が生じたこと、受益者のうち他府県に居住する者や非農家には造成地を農地として有効に利用しない者があることによると認められる。
しかして、本事業は着工から完了まで長期間を要し、その間に社会経済情勢の変化に伴う農産物の需給動向及び農業就業構造などが、着工時と大幅に変わってきているから、これらの地区について計画の見直しを行うとともに、事業効果が上がっていない造成農地の有効利用を図るよう、営農指導体制を整備し営農指導を強化するなどの措置を講ずる必要があるが、需給動向の変化に対応する適切な作目の選定が容易でないこと、他府県に居住する者や非農家が農地を単に資産としてみる傾向があることなどの事情もあって、前記の事態を打開することは困難な状況となっている。
しかしながら、このように造成地が未植栽のまま放置されていたり、管理が不良となっていたりしていて十分利用されない事態が打開されないと、投下した多額の事業費がその効果を発現しない状態が継続することとなる。
(注) 一時利用地の指定 事業完了後に用地の持分に応じて受益者に造成農地を配分するが、それまでの間、配分予定地を受益者に利用させるために土地改良法の規定に基づいて都道府県知事が行う指定