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  • 昭和55年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第5 厚生省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

保育所措置費補助金について改善の処置を要求したもの


 保育所措置費補助金について改善の処置を要求したもの

(昭和56年11月24日付け56検第389号 厚生大臣あて)

 厚生省では、昭和54年度児童保護措置費補助金のうち保育所措置費補助金を市町村等3,058の事業主体に対し2595億5637万余円交付している。

 上記の補助金は、児童福祉法(昭和22年法律第164号)の規定に基づいて、市町村(特別区を含む。)長が、保護者の労働又は疾病等の理由により、その監護すべき乳幼児等(以下「児童」という。)の保育に欠けるところがあると認め、これらの児童を保育所に入所させて保育した場合、市町村等に対して入所後の保育に要する費用を補助するもので、その補助金交付額は「児童福祉法による保育所措置費国庫負担金について」(昭和51年厚生省発児第59号の2厚生事務次官通知)により、当該市町村等が実際に児童の保育に要した経費から寄附金を控除して得た額と、支弁総額とを比較して、いずれか少ない方の額から徴収金の額(児童又はその扶養義務者から徴収した額の合算額)を控除した額を国庫負担基本額とし、これに10分の8を乗じて得た額となっている。
 そして、児童又は扶養義務者から徴収する額(以下「費用徴収額」という。)については、入所児童の属する世帯における負担能力に応じて徴収する建前がとられており、同省では世帯相互間の負担の公平を期する観点から、この負担能力を判定する指標として、上記通達において児童の属する世帯の前年分所得税課税額等に応じた世帯階層区分ごとの徴収金基準額を定め、これにより算定することとしている。そして、前年分課税額の把握については、「「児童福祉法による保育所措置費国庫負担金について」通達の施行について」(昭和51年厚生省発児第59号の5児童家庭局長通知)において、1月ないし3月の間においては課税状況の把握が困難な場合があるとし、そのような場合には前々年分の課税額により階層区分を決定する取扱いを認めており、また、特に事業所得のある世帯(以下「事業所得者」という。)については、確定申告が遅れるなどのため相当期間課税状況が把握し難い場合があるとし、そのような場合においては、4月以降であっても前々年分所得税課税額により階層区分を決定し、前年分所得税課税額が判明した日の属する月の翌月(税額の更正等のやむを得ない事情がある場合を除いては7月を限度とする。)分から前年分所得税課税額を適用することを認めており、この取扱いは40年の通達において初めて定められて以来引き続き適用されて現在にいたっている。

 しかして、今回札幌市ほか178事業主体(補助金交付額713億0772万余円)における費用徴収額の取扱いについて調査したところ、所得税課税世帯については、札幌市ほか70事業主体(補助金交付額395億1940万余円)において、給与所得者の場合4月から前年分所得税課税額により算定していたが、事業所得者の場合は、5月、6月又は7月から前年分所得税課税額により、それまでの間は前々年分所得税課税額により算定していた。
 しかしながら、費用徴収額は給与所得者と事業所得者とを問わず、その負担能力に応じて公平に徴収すべきものであって、上記の取扱いを認めた当初においては事務処理上前年分の課税額の把握に困難な事情があったことがあるとしても、この取扱いが始まってからかなりの年月を経過し、この間、42年の地方税法の改正等により課税当局と市町村との税務上の連絡が密になったことなどのため、事業主体におる事業所得者に対する所得税課税額の早期把握も困難ではなくなっている実情にある。
 現に、本院が調査した179事業主体のうち釧路市ほか107事業主体(補助金交付額317億8831万余円)では、事業所得者についても税務当局から得た課税資料や扶養義務者から徴した当該世帯の課税状況を証明する書類などにより早期に課税額を把握し、また、課税額の把握が遅れた場合でも遡及したりなどして、費用徴収額は、いずれも4月から前年分所得税課税額により算定している状況である。

 このような実態からみて、事業所得者についても4月から前年分所得税課税額により徴収金を算定することは可能であり、したがって、前記通達の取扱いは実情に沿わないばかりでなく、給与所得者と事業所得者との間の費用負担の公平を失するうえ、費用徴収額の多寡は、直ちに徴収金の額、ひいては本件補助金の交付額に影響するところから、事業主体である市町村等間に不均衡を生ずることとなり適切とは認められない。
 いま、仮に札幌市ほか70事業主体における事業所得者に係る費用徴収額について4月から前年分所得税課税額により算定したとすれば、これらの事業主体の54年度における徴収金の額は約363億2780万円となり、当初の徴収金の額約362億4630万円との間に約8140万円の開差を生じ、ひいて国庫補助金約6510万円は交付する要がなかったものである。
 このような事態を生じたのは、この取扱いを始めてから相当年数を経過していて、前年分所得税課税額の早期把握が容易となり多数の事業主体が事業所得者についても給与所得者と同様の取扱いをしているのに、同省ではこれらの実態等についての調査検討、前記関係通達の適時適切な見直しを行わなかったことによると認められる。
 ついては、本件国庫補助事業は今後とも継続されるものであることにかんがみ、事業所得者の費用徴収額の取扱いについて早急に調査検討し、給与所得者と事業所得者との間の不均衡及び事業主体間の不均衡が生ずることのないよう所要の処置を講ずるとともに、関係地方公共団体に対する指導の徹底を図り、もって国庫補助事業の適正な執行を図る要があると認められる。