(昭和56年11月28日付け56検第391号 農林水産大臣あて)
農林水産省では、農山漁村の自然環境の保全及び活用並びに地域の特性に即した観光の林漁業の計画的組織的な推進、農林漁業資源の多目的な利用及び農山漁村の環境の整備を行うことにより、農林漁業従事者の就業機会の増大及び農林漁家経済の安定向上を図るとともに、都市生活者等に対し、農山漁村の自然環境及び農林漁業に親しみ、これらに対する理解を深める機会を高めつつ休養する場を提供することを目的として、都道府県知事が指定した地区を対象に、観光又はレクリエーション資源と一体的有機的関連のもとに農業構造の改善を効果的に推進するため、生産基盤整備、近代化施設整備、環境保全整備及び管理運営施設整備等の事業を自然休養村整備事業により実施している。そして、この事業は、昭和47年度以降、事業実施地区(おおむね旧市町村の区域)ごとの平均補助対象事業費を3億円、事業実施期間を原則として4年間として実施しており、同省ではこの事業を実施する市町村、農業者が組織する団体等の事業主体に対して都道府県が補助金を交付する場合に、その補助に要する費用のおおむね2分の1相当額の補助金を交付しており、その交付額は47年度から55年度までの間に367億1139万余円の多額に上っている。
しかし、上記補助金の交付対象となった事業のうち、北海道ほか24県において実施された106地区自然休養村整備事業(事業費361億6904万余円、国庫補助金相当額180億6880万余円)により設置された施設の利用、管理運営状況等その事業効果について、本院で、56年中に実地に調査したところ、その事業効果が十分発現されていないと認められるものが多数あり、このうち特に適切を欠いていると認められるものが次のとおり見受けられた。
すなわち、北海道ほか4県(注1)
において、地理的条件及び観光農業に対する農業者の意向等に関する調査検討を十分行わないまま事業計画を策定したため、中途で事業計画を大幅に縮小し、もはや観光又はレクリエーション資源と一体的有機的に関連するものではなくなった生産基盤整備又は近代化施設整備等に片寄って事業を実施することになり、その結果自然休養村としての実体をなしていないと認められるものが5事業(事業費4億8606万余円、国庫補助金相当額2億4143万余円)あり、また、青森県ほか17県(注2)
において観光客の動態、施設の管理運営等に関する調査検討を十分行わないまま策定された事業計画に基づいて事業を実施したなどのため、経営困難となり、施設等を無断で処分していたり、その利用を中止していたり、施設の運営には専門的技術の導入が必要であるのにその配慮を欠いたまま施設を設置したため、ほとんど利用されていなかったりなどしているものが31事業(事業費7億8079万余円、国庫補助金相当額3億8988万余円)見受けられた。
その主な事例を上げると、次のとおりである。
1 調査検討が十分でないまま事業計画を策定したため、中途で事業計画を大幅に縮小した結果、自然休養村としての実体をなしていないもの
<事例1>
県名 | 自然休養村名 (所在地) |
事業主体 | 年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 |
福島県 |
沼沢湖周辺地区自然休養村 (大沼郡金山町) |
金山町ほか |
49〜52 |
千円 64,546 |
千円 32,272 |
この事業は、果樹園等の農地造成等4箇所及びキヤンプ場、農林水産物直売所等11施設を事業費1億3572万円で実施することとしていたが、この地区が観光の中心地である会津若松市から遠距離であることなどのため、観光客の誘致に成功しなかったことから、事業計画を大幅に縮小して観光客を対象として計画したキャンプ場、花木園及びこれら施設の連絡農道の改良等を取りやめ、わずかに果樹園等の農地造成2箇所及び自然休養村管理センター、農機具格納庫等5施設を事業費6454万余円で実施したにすぎず、自然休養村としての実体をなしていない。
<事例2>
県名 | 自然休養村名 (所在地) |
事業主体 | 年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 |
栃木県 |
那珂川沿岸地区自然休養村 (那須郡黒羽町) |
黒羽町ほか |
|
千円 142,754 |
千円 71,376 |
この事業は、水田のほ場整備等8箇所及び農林水産物直売所等7施設を事業費4億0212万余円で実施することとしていたが、観光農業に対する農業者の意向調査が十分でなく、事業実施予定年度には既に農業者の相当部分が他事業に就労していたため、事業計画を大幅に縮小して、水田のほ場整備等2箇所及びビニールハウス等3施設を事業費1億4275万余円で実施しただけで、観光農林漁業に係る農林水産物直売施設等を全く設置しておらず、自然休養村としての実体をなしていない。
2 調査検討が十分でないまま策定された事業計画に基づいて事業を実施したなどのため、経営困難となり、施設等を無断で処分していたり、施設が全く利用されていなかったりなどしているもの
<事例1>
県名 | 自然休養村名 (所在地) |
事業主体 | 年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 |
岐阜県 |
舟山地区自然休養村 (大野郡久々野町) |
久々野町及び橋場農業観光組合 |
49〜52 |
千円 134,052 |
千円 67,000 |
この事業は、久々野町が観光牧場放牧地25,800m2
を、また、橋場農業観光組合が観光牧場管理所1棟及び野営場等林間休養施設10棟等の施設をそれぞれ設置したもので、これら施設を一体として同組合が管理していた。
しかし、同組合では、事業計画策定時における観光客の動態、施設の管理運営等に関する調査検討が十分でなかったなどのため、諸施設の完成した52年度以降毎年多額の累積赤字を生じてその経営に行き詰まり、55年2月、本件補助事業により設置した全施設を県及び町に無断で某宗教法人に売却していて、自然休養村整備のために実施された事業がその目的を達していない。
<事例2>
県名 | 自然休養村名 (所在地) |
事業主体 | 年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 |
和歌山県 |
粉河地区自然休養村 (那賀郡粉河町) |
鞆淵観光農業組合 |
54 |
千円 9,184 |
千円 4,592 |
この事業は、山林資源等利用の自然休養村整備事業の一環として、杉等の原木をみがき丸太等に加工し販売する目的で木工品加工場1棟を設置したものであるが、原木の確保及び木工加工技術の導入についての配慮を欠いたまま施設を早期に設置したため、施設が全く利用されていない。
このような事態を生じたのは、次のようなことによると認められる。
1 事業主体である市町村等のうちには、次のように事前の調査が十分でないまま事業計画を策定し、事業を実施しているものがあり、なかには本事業の趣旨を考慮することなく事業計画を大幅に縮小して事業を実施しているものがあること
(1) 事業実施地区及び隣接地に、自然公園、スキー場、野営場、海水浴場等他の観光又はレクリエーション資源が乏しかったり、施設の設置場所等の地理的条件又は道路条件が悪かったりしていて観光客の誘致が容易でないのに、これらの実態を十分把握しないまま事業計画を策定していた。
(2) 製品の販路又は購買客の動向等についての調査を十分に実施していなかった。
(3) 専門的技術の導入又は現地の気象条件等に適合した栽培樹木の選定が必要であるのにこれに対する調査検討を行わないまま事業に着手していた。
(4) 果樹等の栽培状況からみて、早急には収穫が見込めないのに関連施設を早期に設置していた。
(5) 農林漁業者の協議が十分整っていなかったり、事業への参加意欲が十分でなかったりなどしていて利用体制の整備を十分図っていなかった。
2 市町村における事業計画の調査検討、道県における事業計画の審査及び同省におけるこれらに対する指導が十分でなく、また、施設等の設置後における管理運営についての指導監督が十分でないこと
3 補助事業で設置した施設等は無断で処分してはならないことになっているのに、これに対する市町村等の事業主体の認識が十分でないこと
ついては、農林水産省においては、前記のような適切を欠いている事業について、道県に早急に事業主体の体制整備を図らせるほか、必要に応じ管理運営のための特別指導を行わせることにより施設等の効率的な利用を図るとともに、自然休養村整備事業は56年度で事業が完了するものの、54年度から長期にわたり同事業とほぼ同様の内容、規模で観光農業園地整備、自然環境活用施設整備などを自然活用型の農村地域農業構造改善事業により実施しているのであるから、今後これら事業の実施に当たっては、
1 この種の事業は観光又はレクリエーション資源、施設等の地理的条件及び道路条件等が事業の成果に大きく影響を与えることを考慮して市町村が適切な事業計画を策定するよう都道府県に指導を徹底させてその審査を十分に行わせること
2 自然活用型の農村地域農業構造改善事業の具体的な事業計画の策定に当たっては、同事業で実施する土地基盤整備、農業近代化施設整備、地域環境整備等の各事業が地区の実情に見合ったものであり、かつ、均衡のとれたものであって、しかも、確実に実施が見込まれるものであること、及び林間休養施設、自然環境活用センター、農産物直売施設等の設置に当たっては、道路等の整備状況、果樹園等の成熟度合等を十分考慮し、これら施設等が設置後早急に効果を発揮することについて配慮させること
3 施設等設置後の管理運営については、都道府県に事業計画達成年度に至るまで事業達成状況を的確に把握させ、その結果を踏まえた適切な指導を行わせるとともに、特に無断処分等の事態の発生を防止するよう監督を強化させることなどして、もって補助の効果を上げる要があると認められる。
(注1) 北海道ほか4県 北海道及び福島、栃木、三重、熊本各県
(注2) 青森県ほか17県 青森、岩手、秋田、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、山梨、長野、岐阜、愛知、三重、兵庫、和歌山、島根、岡山、熊本各県