(昭和56年11月20日付け56検第388号 林野庁長官あて)
林野庁では、林業の生産性の向上、林業従事者の所得の増大を図ることなどを目的として林業構造改善事業を進めており、その一環として市町村、森林組合等が実施する林道開設事業に対し都道府県が補助金を交付する場合、都道府県に対し、補助に要する費用について補助金を交付している。
この林道開設事業は、林業経営の近代化及び合理化並びに生産性の向上等を図るための生産基盤整備を促進し、林業構造改善事業の総合的な効果を実現するため実施するものであり、事業の実施に当たっては、市町村、森林組合等の事業主体が、当該路線の利用対象となる地域を含めた指定地域(1ないし2市町村単位。以下「指定地域」という。)の森林施業について森林面積、蓄積及び令級別(注1)
等の森林資源構成等を調査し、林道開設後5箇年の間に当該林道を利用して実施する素材生産及び造林等の事業計画(以下「利用計画」という。)を立て、都道府県においてこの利用計画を審査のうえ同庁の承認を得た後林道開設事業として採択することとしている。そして、昭和45年度から51年度までの間に林業構造改善事業により開設した林道は北海道ほか45県管内で3,234路線、事業費532億1398万余円(国庫補助金相当額265億9764万余円)となっている。
しかして、上記路線のうちには、その終点が林地となっていて地方道等に接続しておらず林道以外の機能を有しないと認められるゆきどまり林道が開設されているが、これに関し、岩手県ほか16県(注2)
管内の193路線、事業費59億7138万余円(国庫補助金相当額29億6969万余円)について前記利用計画における素材生産及び造林の実施状況を調査したところ、次のとおり、利用計画に対する実績が必ずしも十分でないと認められるものが見受けられた。
すなわち、上記193路線はいずれも55年度末現在で開設後既に5年から10年を経過しているものであるが、その過半数の路線は利用計画に対する実績が50%以下となっている状況であった。そして、このうちには、素材生産及び造林のいずれもが利用計画に対して実績30%以下となっていて、折角素材生産及び造林を目的として開設した林道の効果が発揮されていないと認められる不適切な事態が、岩手県ほか9県(注3)
で41路線、事業費6億8623万余円(国庫補助金相当額3億4311万余円)見受けられ、なかには、素材生産及び造林の実績がいずれも10%未満となっている著しく不適切なものもあった。
このように利用計画に比べ素材生産が低くひいて立木伐採跡地等の造林作業が進ちょくしない事態が生じているのは、事業主体における利用計画の策定が的確でなく、当該路線の利用対象となる地域の大部分が適正伐期令級未満の幼令林又は低質な雑木林であるのに、これを利用計画に含めていたり、適正伐期令級の立木はあるが森林所有者の林業経営に対する意欲が低いと認められるのにその実情を調査把握することなく利用計画を作成したりしていることなどによるが、県において、指定地域の森林資源構成、林地の保有形態、林業に対する依存度、林業労務事情などについての資料は徴しているものの、本件林道はその利用範囲が特定の地域に限られているものであるからその利用区域内におけるこれら資料をも徴して適切な審査を行う要があったのに、これを行わなかったこと、及び同庁においても、上記に対する指導及び審査が十分でなかったことによると認められる。
ついては、前記利用実績の低い路線について利用計画の見直しを行わせ補助事業の効果的な実施を図るよう指導することはもとより、林道開設事業が今後も継続して実施されるものであるから、事業主体に適切な利用計画を立てさせ、都道府県において利用区域に係る資料を徴するなどしてその内容を十分審査のうえ補助事業として採択するよう指導するとともに、林野庁においても、これらの審査を十分に行って、補助事業の効果的な実施を図り、もって国庫補助金の効率的な使用に努める要があると認められる。
(注1) 令級 林齢を5年単位で段階別に区分(例えば、1年から5年までをI令級、6年から10年までをII令級と呼ぶ。)し、成育状況の目安にしている。
(注2) 岩手県ほか16県 岩手、宮城、秋田、福島、栃木、福井、岐阜、三重、滋賀、兵庫、和歌山、島根、山口、高知、大分、宮崎、鹿児島各県
(注3) 岩手県ほか9県 岩手、秋田、福島、栃木、福井、兵庫、山口、高知、宮崎、鹿児島各県