日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)では、車両基地等の構内において、電気関係工事を毎年多数施行しているが、仙台電気工事局ほか12工事局等(注1)
が昭和55年度中に施行し福島駅構内電車線路改良その他その8工事ほか22工事(工事費総額10億7708万円)について検査したところ、次のとおり、工事費の積算が適切でないと認められる点が見受けられた。
すなわち、上記の23工事は、車両基地、貨物ヤードの構内において信号設備、電車線路の改良等の電気関係工事を施行するものであるが、この工事費の積算に当たっては、国鉄制定の「電気関係工事予定価格積算標準」(以下「積算標準」という。)によることとし、構内側線(注2)
を運行する列車等により作業が中断される場合の作業能率の低下を補正するため、標準歩掛かり人工に営業線の区分ごとに定められている割増率(これを国鉄では「線区乗率」と称している。)を乗じた歩掛かり人工を加算して労務費を算定することとしている。
しかして、上記の線区乗率は、全国の営業線をその重要度、列車の運行回数等を勘案して、1級線87%から5級線12%までの5段階の線級別に分類しており、この分類の基礎としている線級別の列車等の運行回数(昼間9時間)は1級線50回以上から5級線10回以上までとなっている。そして、積算標準においては構内側線についてもこの線区乗率を適用することとしているため、前記各工事の積算についてはすべてその属する営業線の線区乗率をそのまま適用していた。
しかしながら、前記各工事の現場における列車等の運行回数を調査したところ、本件各工事はすべて車両基地等の構内での信号設備改良等の工事であって、構内側線の列車等の運行回数は営業線のそれに比べると著しく少なく、その作業能率の低下は営業線の場合に比べそれほど著しく低下しないものと認められた。
従来この種電気関係工事は営業線での工事が主体であったが、近年、国鉄経営業務の近代化、合理化等の進ちょくに伴って車両基地等の構内だけでの工事が増加しているのであるから、これら工事の線区乗率の適用に当たっては、このような現場の実情を考慮して列車等の運行回数に見合った乗率を適用すべきであったと認められるのに、前記のとおりその構内側線が属する営業線の線区乗率を一律に適用し工事費を積算しているのは適切でなく、その結果、本件各工事の積算額は現場の実情と遊離した過大なものとなっていると認められた。
したがって、本件各工事について列車等の運行回数に基づき実情に適合したと認められる線区乗率により積算したとすれば、積算額を約9000万円程度低減できたと認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、日本国有鉄道では、56年8月に積算標準を一部改定して、工事施行局ごとに車両基地等の実情に即した線区乗率を定め、同月以降契約を締結する工事から適用することとする処置を講じた。
(注1) 仙台電気工事局ほか12工事局等 仙台電気、東京電気、大阪電気、門司電気、東京システム開発各工事局、盛岡、仙台、東京北、東京西、名古屋、大阪、天王寺各鉄道管理局及び札幌電気工事事務所
(注2) 構内側線 客貨営業専用の線路を本線路又は営業線というのに対し、列車、車両の留置線、貨物積卸線などの非営業の線路を構内側線といい、車両基地等のように広大なスペースには多条の側線が敷設されている。