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  • 昭和55年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第2 日本国有鉄道|
  • 特に掲記を要すると認めた事項

貨物営業について


 貨物営業について

 日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の鉄道貨物輸送量は昭和45年度199百万トン、624億トンキロをピークとして毎年漸減する傾向にあり、国内の総貨物輸送量(45年度5,259百万トン、3506億トンキロ、55年度5,991百万トン、4397億トンキロ)に占める割合は、45年度は輸送トン数で3.8%、輸送トンキロで17.8%であったものが、55年度は122百万トン、370億トンキロとなっておりそれぞれ2.0%、8.4%に低下している。
そして、国鉄における鉄道貨物部門の両年度の収入及びこれに直接対応する費用(以下「原価」という。)を対比すると、収入は1.3倍の 3312億円にとどまっているのに対し、原価は2.3倍の9787億円と著しく増加していて、収入と原価との間に大幅な乖(かい)離を生じ、それがますます増大する傾向にある。
 しかして、本院において、国鉄における貨物営業の現状と収入及び原価の実態を調査したところ、次のような状況となっている。

(貨物営業の実績)

 鉄道貨物部門の55年度末の営業規模は、営業キロ19,433km、貨物の取扱いを行っている駅1,234駅、操車場150箇所、貨車119,009両(私有貨車(注1) 19,447両を含む)、コンテナ51,756個、1日当たりの貨物列車3,744本(列車設定(注2) キロ409千km)等となっており、ま、同年度における貨物輸送量を、輸送トン数及び輸送トンキロでみると、車扱貨物(注3) が112百万トン、288億トンキロ、コンテナ貨物が10百万トン、82億トンキロ、計122百万トン、370億トンキロである。

(貨物営業損益)

 55年度の鉄道貨物部門の損益は、車扱貨物2487億円、コンテナ貨物674億円等の収入3312億円に対し、原価は9787億円で、営業係数(収入を100とした場合の原価の割合)は296となり、原価が収入を大幅に上回る結果、差引き損失は6475億円に達し、これは、同年度の国鉄全体の損失1兆0084億円の64%と過半を占め、国鉄経営の大きな圧迫要因となっている。

(原価の内訳)

 55年度の原価9787億円を費目別に区分すると、人件費5714億円(営業係数に占める値173)、修繕費1791億円(同54)、減価償却費678億円(同20)、業務費634億円(同19)、利子475億円(同14)等となっていて、人件費だけで既に同年度の収入3312億円を大幅に上回っている状況である。
 そして、これらの原価費目は、貨物営業に係る固有の経費として直接把握できるもの(以下「貨物個別費」という。)と、本社、各鉄道管理局、現業機関等の管理経費、線路等施設設備や機関車の経費等他部門との共通的経費のうち、一定の配分基準(換算車両キロ、列車キロ等)により鉄道貨物部門に割り掛けられた経費(以下「共通費」という。)とから成っており、上記原価9787億円をこれにより分類すると、貨物個別費5455億円(営業係数に占める値165)、共通費4332億円(同131)となっていて、前記収入3312億円は、貨物個別費すら償っていない状況である。

(貨物個別費の内訳)

 上記の貨物個別費を更に貨物の取扱作業から生ずる経費(以下「作業関係経費」という。)と、施設設備の修繕、減価償却等から生ずる経費(以下「設備関係経費」という。)に分類すると、作業関係経費は3930億円(営業係数に占める値119)、設備関係経費は1525億円(同46)となる。
 作業関係経費3930億円は、貨物取扱駅、操車場における貨車の入換えに係る経費1691億円(同51)、貨物列車の運転に係る乗務員経費949億円(同29)、貨物取扱駅、操車場における貨物の取扱事務に係る経費441億円(同13)、貨物列車の動力費338億円(同10)及び現業機関の現場管理等に要する経費511億円(同15)から成っており、これらのうち入換経費、乗務員経費、貨物係員等経費計3081億円のほとんどは、これら作業に直接従事しているとされた職員(以下「充当人員」という。)54千人に対する給与等2910億円(退職手当等を含む。)であり、前記収入3312億円の88%に達している。
 また、設備関係経費1525億円は貨物取扱駅、操車場の貨物専用施設、設備に係る修繕費、減価償却費、利子等570億円(同17)及び貨車の検査、修繕に要した経費等955億円(同29)である。

(収入、原価乖離の原因)

 鉄道貨物部門における上記のような収入と原価の乖離が改善されないまま多額の損失を生じているのは、次のような原因によると認められる。

1 収入について

 国鉄では、各種の増収対策等を講じているものの目立った収入の増加がみられないのは、主として、次の理由により近年他の輸送機関との競争力が相対的に低下し、輸送量が減少したことによると認められる。

(1) 国鉄を利用する荷主が負担する貨物運送費は、鉄道貨物運賃料金と通運事業運賃料金の合計額であるが、近年、その引上率は貨物自動車事業運賃料金の引上率を上回っていることなどにより、国鉄の価格競争力は、認可を受けた運賃料金で比較しても、車扱貨物については49年度に150km程度以内であったものが55年度には210km程度以内で、また、コンテナ貨物については49年度に270km程度以内であったものが55年度には490km程度以内で、それぞれ失われてきており、また、貨物自動車による運送は、長距離の場合でも、運送途中での貨物の積替え等を要しないなど機動性、迅速性等に富み、かつ、梱(こん)包等も簡易で済むほか、道路整備が進み、工業及び流通立地が交通の便の良い道路に隣接して行われていることなどから荷主に選好される傾向が強いこと

(2) 内航海運は、石油、鉄鋼、石灰石、石炭、砂利等の産業基礎物資を大量かつ長距離安定輸送するのに適しているのに加え、船舶の大型化、物資別適合輸送用専用船の整備及び荷役施設の整備等が進み、運賃等が鉄道貨物輸送の場合に比べ、かなり低廉であることなどのため、荷主に選好される傾向が強いこと

(3) 国鉄の貨物輸送は、ストライキ等労使の紛争多発などにより不安定になったため、荷主の信頼が失われてきたこと

2 原価について

(1) 作業関係経費についてみると、55年度の貨物取扱状況は1,358駅(年度首の貨物取扱駅数)の年間総取扱トン数212百万トン(発送99百万トン、到着113百万トン)のうち、848駅でわずか10%、21百万トンを取り扱っているにすぎず、また、総取扱収入3258億円(駅で貨物の運送を引き受けた際に認可運賃料金で計算した金額の合計額)のうち、901駅でわずか10%、325億円の収入を上げているにすぎない状況にあって、しかも、これら取扱量の少ない駅では少量貨物を扱うことが多く、したがって、普通貨物列車(注4) 、解結貨物列車(注5) (全列車設定キロの44%、全列車本数の73%)による輸送の比率が高く、このため各駅継送及び操車場での方面別仕訳等の作業が必要になり、このような形態の貨物取扱いが、原価を高める要因になっている認められる。
 これを貨物取扱収入の37%を占める札幌、東京南、名古屋、大阪、門司の各鉄道道管理局(以下「5管理局」という。)についてみると、次のような状況となっている。

 5管理局の貨物取扱駅は245駅(注6) であるが、これらの駅の年間総取扱トン数75,523千トン(発送38,595千トン、到着36,928千トン)のうち、約50%のものを225駅で取り扱っており、これらの駅における貨物の取扱事務に係る充当人員は1,301人、自駅発着貨車の入換作業に係る充当人員は3,219人、計4,520人(1駅平均20人)であって、1人当たりの年間取扱トン数は8千トンとなっている。これに対し、取扱量の多い上位20駅では総取扱トン数の約50%の38,912千トン(1駅平均1,946千トン)を取り扱っており、その貨物の大部分は荷主の専用線(注7) 発着の大量定型貨物やコンテナ貨物で、専用貨物列車(注8) 、高速貨物列車、直行貨物列車(注9) 等により輸送されるものであり、その取扱事務及び自駅発着貨車の入換作業に係る充当人員は510人及び1,157人計1,667人(1駅平均83人)であって、1人当たりの年間取扱トン数は23千トンとなっていて、前者の平均取扱トン数は後者の3分の1程度にすぎない状況である。

(2) 設備関係経費についてみると、国鉄の場合は、多数の駅、操車場及び長大な線路設備等の施設設備に対する投資が多額に上り、ひいては修繕費、減価償却費等の経費の割合が高くなっているほか、前記のように近年における貨物取扱量の減少から、貨物取扱能力と取扱実績との間に大幅な乖離を生じていたり、また、近代化のため多額の投資を行った施設設備等が、工事完成時期の跛(は)行等により所期の目的が達せられなかったりなどしていて、非効率な使用を余儀なくされており、それが原価を高める要因になっていると認められる。
 例えば、

ア 東京、名古屋、大阪(鳥飼)、福岡各貨物ターミナルは、コンテナ貨物需要の伸長を図るため東海道、山陽及び北九州の拠点基地として体系的に整備するとともに、これら各基地を高速貨物列車で結ぶことによって有機的かつ一体的に運用し、貨物輸送を効率化することを目的に、年間取扱能力を49年度営業開始時に、東京580万トン、名古屋180万トン、大阪(鳥飼)220万トン、福岡180万トン4基地計1160万トンとして計画したが、名古屋貨物ターミナルは工事が著しく遅延したことにより、55年10月取扱能力120万トンでようやく営業を開始し、大阪(鳥飼)貨物ターミナルは引き続き工事中であり、また、東京、福岡の両貨物ターミナルは輸送量が減少したことに伴い、それぞれ360万トン、160万トンの取扱いに対応する設備としており、稼動中の貨物ターミナルの取扱能力の合計は640万トンになっているが、4基地が体系的に整備されていないため、相互に密接な関連を有する貨物輸送の基幹施設としての機能が発揮されていないことや他輸送機関との競争激化等により輸送量が減少したことなどから、既に952億円の投資を行っていながら、55年度の取扱実績は合計330万トン(注10) で、上記取扱能力640万トンの52%程度となっているにすぎない状況である。

イ 武蔵野操車場は武蔵野線の建設に合わせ新小岩操車場及び田端操車場の一部を統合したうえ、総武地区及び常磐地区における貨車操配機能を備えるなどのため、北上操車場は既設の貨車操配設備が東北新幹線建設の支障となるのに伴いこれを移設し、合わせて周辺貨物取扱駅を集約するため、1日当たりの取扱能力を両操車場計6,000両の総合自動化操車場を新設し、49年10月及び53年10月使用を開始しているが、輸送量が減少したことなどから、512億円の投資を行っていながら55年度の1日当たり平均取扱実績は合計3,093両で、上記取扱能力6,000両の52%程度となっているにすぎない状況である。

ウ 国鉄が所有している貨車(55年度首99,846両)のうちには、輸送量の減少に伴い営業に供されないまま側線に留置されているものが、55年度の場合1日当たり平均5,738両(最大留置両数は同年8月の8,418両)ある。一例を上げれば、特定の荷主の乗用車を輸送するための貨車が932両あるが、内航海運、貨物自動車による輸送に転移したため、うち490両(55年10月からは530両)は留置したままで営業に供していない状況である。

(貨物近代化計画の達成状況)

 鉄道貨物部門の収支の改善を図るため、55年度を目途に貨物収入と貨物個別費との収支均衡を図ることなどを目的として、52年4月策定した経営改善計画に基づく貨物近代化計画の達成状況をみると、(1)輸送量の減少に伴い生じた輸送力と輸送量の乖離を是正するため、貨車の削減など所要の措置を講じたものの、55年度においては輸送量が大幅に減少したため、貨車運用効率(注11) は前年度の14.2%が12.8%に低下し、貨車空車キロ比(注12) は同26.7%が30.5%に上昇している、(2)貨車の整備を行う検修基地の集約等については、労使間の合意が得られず、調整に時日を要していることなどのため遅延している、(3)貨物取扱駅の集約については、荷主、関係市町村等から集配経費の増加、地域産業の発展阻害及び過疎化の拡大等を理由とした反対があり、協議が難航しているため、集約することとした612駅に対し400駅(全廃339駅、限定集約61駅、達成率65%)が実施されたにすぎないなどの状況となっている。

 国鉄では、49年度以降56年度までの間に6回にわたり貨物運賃を引き上げるとともに、前記の55年度を目標年次とした貨物輸送の近代化施策に引き続き、新たに60年度を目途とした経営改善計画を策定し、また、運賃の弾力的適用等により輸送量の確保を図るなどして収支の改善に努めているが、その収支はますます悪化しつつあり、今後運賃引上げにより対処しようとしても、他輸送機関との競争のなかでは、その余地は少ないものと認められる。したがって、国鉄が、今後、貨物営業を続けていくためには、上記の状況にかんがみ、各般にわたって効率性に検討を加えるとともに、輸送需要に応じ、鉄道の特性を十分に発揮できるよう経営規模を貨物輸送量等に見合ったものにするなどして原価の低減を図り、鉄道運賃を他輸送機関との競争に耐え得るものにするなどの措置を執ることが緊要であると認められる。
 しかして、国鉄は、組織が大きいことなどから、従来の経営改善計画等に盛られた経営方針が職員に十分理解されず、必ずしも協力が得られなかったり、輸送体系の変化、顧客のニーズ等に適時適確に対応し得なかったりしたこと、荷主等の関係者等が貨物取扱駅、貨物営業線の存続を強く希望するなどのため、貨物取扱駅、操車場等の縮小が円滑に行われないこと、終戦直後の事情により職員を一時的に大量に採用したため、近年、退職手当等が増加していることなど困難な事情を抱えているが、上記のような諸問題に対する抜本的対策を講じないまま推移すると、鉄道貨物輸送は今後も減少し、国鉄の財政が更に悪化して国の負担がますます大きなものになると認められる。

 (注1)  私有貨車 国鉄以外の者の所有する貨車で、保守管理上国鉄の所有する貨車に準ずる取扱いを行うために国鉄の車籍に編入したもの

 (注2)  列車設定キロ ダイヤ上の定期列車と季節列車の1日当たり走行キロをいい、駅間距離に列車本数を乗じたもの

 (注3)  車扱貨物 貨車1車以上を貸し切って着駅まで輸送される貨物

 (注4)  普通貨物列車 操車場から操車場へ貨車輸送をする列車

 (注5)  解結貨物列車 中間の駅で貨車を集配するための列車

 (注6)  245駅 309駅(年度首貨物取扱駅数)に55年度中に開業した1駅を加え、同年度中に貨物取扱いを廃止した30駅、貨物取扱事務を部外に委託している6駅、管理駅から派遣された職員により貨物取扱事務や貨車入換作業が行われている20駅等65駅を除いた駅数

 (注7)  専用線 工場等の構内に貨車を出入りさせ、工場等の中で貨物の積卸しを行うために、駅の構内等から分岐して敷設された引込線で、荷主が費用を負担して敷設した線路

 (注8)  専用貨物列車 大量定型的な貨物を輸送する列車

 (注9)  高速貨物列車、直行貨物列車 拠点間又は数駅間で、到達時間を早める必要のある貨物を輸送する列車

 (注10)  330万トン 55年10月開業の名古屋貨物ターミナルについては、下期取扱量34万トンを平年度化した数値(68万トン)

 (注11)  貨車運用効率 会社線に入っている国鉄保有貨車等を除いた貨車の運用能率を示す指標で、当日貨物の積込みを完了した車両数を当日の保有車両数で除して得た数値

 (注12)  貨車空車キロ比 貨車キロ(駅間通過車両数×駅間キロ)に占める空貨車キロの比率