(昭和56年11月28日付け56検第393号 日本電信電話公社総裁あて)
日本電信電話公社では、加入電話の申込みのすべてに応じられるように、市内及び市外交換機、伝送路等必要な設備を建設するため毎年多額の投資を行っており、昭和55年度建設勘定のうち電信電話施設費の決算額についてみると総額1兆2575億8961万余円の多額に上っている。
これらの投資のうち、市内交換機設備(以下「交換機設備」という。)の新増設工事に当たっては、将来にわたって加入電話の需給均衡状態を維持するよう交換機設備の規模を決定するための加入電話の需要予測を行い、その結果得られた予測需要数に対して既設設備が不足することとなる年度の前年度に、工事の完成時から3年ないし5年後の需要に対応できる規模の交換機設備を先行設置することとしている。
しかして、本院が電報電話局、電話局及び電話交換局(以下「電話局」と総称する。)のうち、比較的規模の小さいプレハブ局舎の電話局及び可搬形交換装置局を除く2,227局に設置されている交換機設備の設置端子数(交換機設備の規模を、これに収容可能な加入数で示した数値、55年度末の設置端子数3889万余端子)と同公社が把握している予測需要数等を調査したところ、需要の実態が変化しているのにおう盛な需要が続くものとした需要予測を基に設備を設置したり、その結果過剰となった設備について適切な利活用を図る措置を講じなかったりなどして、多くの電話局でその設置端子数が実際に収容している加入数を相当上回っており、最近の需要予測に基づく将来の需要増加分を考慮しても、なお設置端子数が著しく過大となっていると認められる不適切な事態が多数見受けられ、これらの空き設備は今後長期間にわたり遊休することが見込まれるが、同公社ではこれら設備を将来の需要増加を見込んで先行設置していることを考慮して、仮にその最長期間(5年)の2倍である10年以上使用が見込まれないものだけを遊休設備と考えても、これに該当する設備を保有している電話局が2,227局中154局に上っている状況である。
すなわち、上記154局における55年度末の設置端子数は303万余端子(同年度末電話加入数は230万余加入)であるのに対し、10年後の65年度末の予測需要数は262万余加入にすぎないため、差引き40万余端子が設置後少なくとも10年以上使用されないまま遊休することが見込まれ(更に、15年後の70年度末においても120局で26万余端子が遊休することが見込まれる。)、これに係る建設投資額約102億円(同公社が54年度建設勘定工事実施計画において交換機設備増設工事に用いた1端子当たりの平均予算額25千円により算出)が投資効果を発現しないことになると認められる。
これらのうち主な事例をあげると別記のとおりである。
このような事態を生じたのは、
1 交換機設備は、工事の完成時から3年ないし5年後の需要に対応できる規模のものを設置することとしているが、その基となる需要予測に当たり、加入電話の新規需要は、47年度にピークとなり、その後電話の普及率が高くなるとともに年々減少し、また、加入電話の積滞が解消した52年度以降は新規需要が横ばいになってきているのに、おう盛な需要が相当期間続くものと予測し、これを基に交換機設備を設置していたことや住宅団地建設等の地域開発計画を基に、当初大幅な需要を見込んでいたが、交換機設備の新増設工事の実施時期には同計画の縮小等により需要が減少しているのに当初の需要予測の見直しをしないで工事を実施していたこと
2 分局開始(注1) により既設電話局の加入者の一部を新電話局に収容替えしたため、既設電話局の設備に生じた空き設備や、交換機設備の新型機種への更改(注2) に当たり、併設交換機設備に生じている空き設備について利活用や効率的使用に対する配慮が十分でなかったこと、また、交換機設備の管理運用に当たり、需要の変動にかかわりなく設備全体が当初の需要予測どおり将来使用されるものと考え、加入者回線を全部の交換機設備に分散して収容しているため、撤去転用による利活用を困難にしていること
3 当該電話局に関連する工事に伴う需要予測の結果等により交換機設備に長期間空き設備が生ずることが判明しているのに、これを撤去転用して利活用を図る配慮に欠けていたことなどによるものと認められる。
ついては、日本電信電話公社では、今後も電信電話施設の整備拡充の一環として多額の資金を投じて交換機設備の新増設を行うことが見込まれるとともに、交換機設備は経年により機能が劣化するものであることなどにかんがみ、
1 需要予測の結果、交換機設備に長期間空き設備が見込まれる場合、これを速やかに撤去転用して今後の新増設工事に充当するなど利活用を図ること
2 交換機設備の管理運用に当たり、関連部門間の連携を密にし、加入者回線の交換機設備への収容方法の改善を行うなどして空き設備を容易に撤去転用できるようにすること
3 交換機設備の新増設工事に当たっては、需要の動向、住宅団地建設等の地域開発事業の進ちょく状況等を十分把握するとともに、工事の計画、設計、施工等の各段階で適宜予測需要数を見直すなどして適正規模の交換機設備を適切な時期に新増設するようにすること
4 分局開始工事又は交換機更改工事の計画に当たり、既設交換機設備の効率的使用を図ることにより、新増設する交換機設備を適正な規模のものにすること
5 過去長期間需要予測を行っていない電話局が多数に上っているので、これらについては、速やかに再調査を行い適正な規模の交換機設備を保有するようにすることなど交換機設備の設置の適正化及び過大設備の利活用を図るための体制を整備し、もって建設投資の効率化を図る要があると認められる。
記
1 当初の需要予測と現在の需要予測との間に大幅な開差を生じていることによるもの
<事例1>
同局は、53年度に需要予測を行った結果、電話加入は、同年度末10,280加入、56年度末14,500加入、59年度末には17,250加入に増加すると予測し、同局の既設交換機設備の設置端子数14,000端子では56年度に不足するとして、59年度末予測数から既設の設置端子数を差し引いた3,250端子を切り上げて、3,500端子の増設工事を行うことを決定し、55年11月に着工、56年4月、完成したものである。
しかしながら、実際の加入数は、上記予測数を大きく下回り、53年度末予測数10,280加入に対し8,559加入、54年度末予測数12,220加入に対し8,954加入となっていて、その開差が増設を必要とした3,250端子を上回るものとなっている。
このように、本件増設工事の着工(55年11月)前に既にその基礎とした予測需要数と実際の加人数との間に大きな開差が生じていたことが把握されていたのであるから、当初の予測需要数を見直し、本件工事の必要性を再検討する要があったのに、これらの検討を十分行うことなく安易に当初計画のまま工事を施行したため、増設した3,500端子は、会計実地検査後需要予測の見直しを行った結果によれば、61年度末まで使用の必要がないものである。
<事例2>
同局は、地下鉄東西線の開通や国鉄総武線の複々線化などにより急激に増加していた需要に基づき、電話加入は、53年度末18,410加入、55年度末23,910加入と従前と同様に大幅に増加するものと予測して51年度に19,000端子を設置し、市川中山電話局から分局開始を行ったものである。
しかしながら、加入数の実績は、新規住宅の建設が停滞したこともあって設置端子数19,000端子に対し53年度末5,208加入、55年度末5,916加入と著しく開差を生じており、54年度に電話ケーブル工事のため行った需要予測の結果、65年度末で現設備の半分に当たる9,530端子が過大となり、長期間空き設備を生ずることが判明していたものである。
2 住宅団地建設等の計画縮小などにより、当初の需要予測と現在の需要予測との間に大幅な開差を生じていることによるもの
<事例1>
同局は、45年度に千葉県が策定した第3次総合5箇年計画において既設の稲毛及び幕張両電話局管内に人口24万人の海浜ニュータウンの建設が予定されていたため、既設両局の収容区域から同ニュータウンのうち主として検見川地区を分割して新たに高州局を建設して対応することとし、同局の予測需要数を53年度末26,600加入、67年度末29,300加入と予測し、53年度末予測数を切り上げて27,000端子を設置して、51年10月、開局したものである。
しかしながら、51年9月、同県は新総合5箇年計画を策定し、海浜ニュータウンの計画人口を15万9千人に縮小することを決定し、公表していた。
したがって、45年度の同県の計画により見込んでいた同局の需要は大幅に減少することが明らかであったのに、需要予測の見直しを行っておらず、その後54年度に電話ケーブル工事のため需要予測の見直しを行った結果、65年度末で2,180端子が過大となり、長期間空き設備が生ずることとなるものである。
<事例2>
同局は、収容区域に住宅団地開発計画が予定されていたため、48年度に、この団地の需要1,100加入を含めて、2,100端子の増設工事を行い、設置端子数は4,700端子となったものである。
しかしながら、同団地開発計画は奈良県の許可が必要なうえ宅地造成、建物の建設から分譲に至るまで相当長期間を要するので、設備増設工事は、分譲開始までの適当な段階で着手しても支障がないと認められるが、現在まで同県の許可が下りていないのに、着工時期について十分な検討を行うことなく増設工事を行ったことなどにより空き設備を生じたものである。
3 分局開始又は交換機更改の工事の際、既設交換機設備の空き設備を利用しなかったことによるもの
<事例1>
同局は、50年度に行った需要予測の結果、局舎(局舎容量67,000端子)が66年度に容量不足となると予想されたため、同局及び隣接した市川電報電話局の収容区域を分割して、新たに鬼高電話局を建設し、市川中山局からは10,650加入を鬼高局に収容替えすることを計画して、51年9月、工事に着手し、55年12月、鬼高局が開局している。
しかしながら、50年度の需要予測では市川中山局の収容区域は中高層住宅化するとしていたが、実際は一戸建住宅、小規模アパート地域となりつつあるなどのため、52年度に、鬼高局の交換機設置工事のため行った需要予測の結果は50年度の予測結果を相当下回ったものとなっていて、これによれば、市川中山局の局舎が容量不足となるのは、80年度以降に繰り下がるばかりでなく、同局の55年度末設置端子数44,000端子でも64年度まで不足しないこととなるので、当面は同局の加入者を鬼高局へ収容替えする必要がなかったのに、当初計画どおり収容替えしたため市川中山局に空き設備が生じたものである。
<事例2>
同局は、クロスバ交換機(注3) (設置端子数15,300端子)に約5,300端子の空き設備が生じていたが、老朽化したステップバイステップ交換機(注4) の更改に当たり、55年10月、これに収容している6,229加入を収容替えできる規模の電子交換機(注5) (設置端子数6,500端子)を新設したため、上記クロスバ交換機の空き設備が遊休しているものである。
(注1) 分局開始 電話需要の増加に対処するため既設電話局の収容区域を分割して新電話局を建設すること
(注2) 交換機設備の新型機種への更改 老朽化した交換機をプッシュホンなどの新規サービスの提供等ができる新しい交換機に取り換えること
(注3) クロスバ交換機 クロスバスイッチを使用した交換機で、現在公社の自動交換機の主体となっている交換機
(注4) ステップバイステップ交換機 公社が自動交換機として初めて採用した交換機で、プッシュホンなどの新しいサービスを提供できないなどのため、今後は電子交換機等に更改されていく予定である。
(注5) 電子交換機 電子計算機により制御される自動交換機で、今後の主力となる交換機