(昭和56年12月4日付け56検第394号 住宅金融公庫総裁あて)
住宅金融公庫では、住宅金融公庫法(昭和25年法律第156号)の規定に基づき、住宅の建設及び購入に必要な資金を貸し付けるため、貸付けに関する業務を金融機関(以下「代理店」という。)に委託し、住宅建設等資金を必要とする者からの借入申込みの受理、審査、借入申込者に対する資金の貸付け、貸付金の回収等の事務を行わせている。そして、昭和55年度における貸付金額は3兆0602億余円に上っていて、この貸付資金及び既往借入金に対する償還金1兆3776億余円の原資は主として資金運用部資金並びに簡易生命保険及び郵便年金の積立金からの借入れ3兆1017億余円によっており、このほか債券発行による収入112億余円、既往の借受者からの貸付回収金及び貸付金利息1兆2481億余円を充てている。 また、これら借入金に対する利息は826億余円(既往分を含めた借入金残額に対する利息は8214億余円)となっているが、上記資金運用部資金等からの借入金利を下回る借受者に対する貸付金利の差に当たるいわゆる逆ざやを補てんするなどのため、国の一般会計から交付を受けている補給金の額は1958億余円に上っている。
しかして、資金運用部資金等から借り入れる貸付けに必要な資金(以下「貸付資金」という。)の調達について検査したところ、次のとおり多額の余裕金を生じていて適切でなく、現行の資金調達手続きを見直すなどして余裕金の保有高を低減させ、借入金の額を減少させる必要があると認められるものが見受けられた。
すなわち、
1 同公庫からの代理店に対する送金必要額の算定について
同公庫では、貸付資金を、毎月2回の貸付期間(上期は10日から15日まで、下期は25日から月末まで)ごとの資金需要額に対し、その都度必要額を資金運用部資金等から借り入れる方法により調達しているが、当該資金需要額は、各代理店からの報告(以下「見込報告」という。)に基づいてこれを算定することとし、その報告は、資金運用部資金等からの借入申込み手続きに必要な期間を見込んで、上期貸付分については当月1日までに、下期貸付分については当月16日までに行わせることとしている。
しかして、その見込報告においては、貸付期間中における貸付見込額(上期貸付分については前月末日まで、下期貸付分については当月15日までに新規借受けの要件を満たした者に対する貸付予定額)及び償還金等の回収金で貸付資金として振替使用できる額(上期貸付分については当月9日までの回収金、下期貸付分については当月24日までの回収金を振替使用できる回収金としている。)を代理店に算定させ、これに基づく送金必要額を報告することとされている。
しかしながら、この見込報告の方法によれば、上記のとおり、見込報告は、貸付予定額が集計される以前に行われる関係上(上期貸付分についていえば前月末までに新規貸付けの要件を満たした者に対する貸付予定額を当月1日までに報告することになる。)、上記の送金必要額は推計によって算定されることとなり、この推計は、代理店において貸付資金に不足を来さないよう配慮して行われているため、見込報告における送金必要額は実際の送金必要額に比べ、全般的に過大に見込まれるのが実情となっている。
一方、同公庫では、見込報告に基づいて資金運用部資金等への借入申込みを行ったうえ、貸付予定額の集計後に改めて代理店から報告される実際の必要額を送金しているため、その差額分が余裕金として保有されることになる。
しかして、上記の余裕金は、55年度の新規借入金の調達を開始した同年6月から56年2月までの借入れの平均で、45億余円に上っている。
2 代理店からの返納金の算定について
同公庫では、資金運用部資金等からの借入金の算定に当たって、資金需要額から控除される代理店からの返納額を推計によって算定している。
これは、代理店において受け入れた回収金のうち、前回の貸付期間中における回収金で貸付金に振替使用しなかった分について、これを当該貸付期間の終了後3日以内に同公庫へ返納することとされているため、借入申込時に当該返納額が明らかでないとして、推計によっているものである。
しかしながら、代理店においては、既に前回の貸付期間の末日現在でその返納額が判明しているのであるから、その報告を同公庫が求めることとすれば的確に返納額を算出し、これを資金需要額から控除できると認められる。
しかして、同公庫の推計した返納予定額は実際の返納額よりも過少に見込まれる傾向となっていて、前項同様に、37億余円の借入金が実際の必要額以上に調達され、その分が余裕金として保有されることになる。
3 回収金の振替使用について
代理店における貸付けの実情は、貸付期間の初日から3日目までの間に集中して実施されており、このため、代理店が受け入れた回収金のうち貸付金に振替使用できるのは貸付期間の前日までに償還された分で、貸付期間中に受け入れた回収金はこれを貸付金に振替使用できない状況となっている。そして、この振替使用しなかった回収金は前項に示すように当該貸付期間終了後3日以内に同公庫へ返納されることになっていて、10日後の次回の貸付期間まで余裕金として保有されることになる。
しかして、55年度において貸付期間中に償還された割賦償還相当分について余裕金として保有された額は平均119億余円となっている。
上記各項により生ずるなどした余裕金は、日本銀行預託金及び政府短期証券等として保有され、55年度中の1日当たり平均残高でみると、日本銀行預託金が125億余円、政府短期証券が201億余円となっていて、毎回の平均貸付金額1275億余円からみた余裕金の保有量は、著しく多額なものと認められる。
したがって、代理店の見込報告については、送金必要額が貸付予定額に基づいた正確なものとなるよう、貸付予定額の集計後に行わせることとし、代理店からの返納額については、代理店からその額の報告を求めることとして、同公庫における各回の借入金を的確に算定して、適切な資金調達を行い、また、回収金の受入れについては、回収金を早期に貸付金に振替使用することができるように、約定償還日を貸付期間外に設けることとして資金の効率化を図り、余裕金の発生を最小限度にとどめる要があると認められる。
現に、ほとんどの代理店では各回の貸付期間6日間のうち3日間程度で大半の貸付けを実行していたり、貸付金回収業務の電算化等に伴って、経理事務上、一定日を償還日として指定する方式をとったりしており、また、年金福祉事業団と併せ貸しを行っている場合においては、貸付期間はそれぞれ3日間、約定償還日は毎月10日となっている。
いま、仮に現行の資金調達手続きにかえて前記の方法によることとすると、55年度の新規借入日から年度末までで、借入金の平均残高1兆2187億余円は217億円程度が低減し、余裕金の保有量もそれだけ減少する計算となる。
ついては、住宅金融公庫の貸付けは、前記のようにその原資のほとんどを財政投融資資金からの借入金に依存し、逆ざやに対する国の一般会計からの補給金が多額に上っており、今後も更に増加する見通しであることを勘案すると、現行の資金調達方法について、所要の措置を講じ、支払金利の節減等経営収支の改善を図る要があると認められる。