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  • 昭和58年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第5 厚生省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

船員保険の失業保険金について支給の適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの


船員保険の失業保険金について支給の適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 船員保険特別会計(項)保険給付費
部局等の名称 北海道、大阪府、青森、宮城、千葉、神奈川、島根、広島、福岡、鹿児島各県
給付の根拠 船員保険法(昭和14年法律第73号)
給付金の種類 失業保険金
給付の内容 離職した船員で労働の意志及び能力があるにもかかわらず職業に就くことができない者に対する失業保険金の支給
受給者 201人
上記に対する失業保険金の支給額の合計 86,334,880円(昭和57、58両年度)

 上記の保険金の支給において、受給資格要件に対する的確な調査確認の方法が定められていなかったため、失業保険金59,058,360円が不適正に支給されていた。
 この失業保険金は、船員保険の被保険者のうち失業保険部門の適用を受ける船員が失業した際に支給されるものであるが、失業保険部門の適用を受けることのできない者や再就職していて失業状態にない者に失業保険金を支給しているなど不適切な事態が見受けられた。
 したがって、社会保険庁において、上記のような事態の発生を防止するため、失業保険部門の適用については、都道府県が保有する船員の被保険者名簿等に基づく船員の雇用実態の調査確認の方法を、また、再就職している者による不正受給の防止については、同庁が保有する厚生年金保険オンラインシステムによるデータ等を活用した調査の方法を早急に定めるなどして失業保険金の支給の適正を期する要がある。
上記に関し、昭和59年11月14日、社会保険庁長官に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。

船員保険の失業保険金の支給の適正化について

 貴庁では、船員保険法(昭和14年法律第73号)の規定に基づき、失業した船員保険の被保険者である船員に対して失業保険金を支給しており、船員保険特別会計からの支出額は昭和57年度20,073人に対し129億9832万余円、58年度20,246人に対し142億7363万余円となっている。

 この失業保険金は、船員保険の被保険者のうち失業保険部門の適用を受ける船員、すなわち原則として、汽船、機帆船に乗り組む船員並びに汽船トロール漁業、母船式漁業、汽船捕鯨業又は機船底曳網漁業に従事する漁船に乗り組む船員及びこれら以外の漁船に乗り組む船員で年間を通じて船舶所有者に雇用される船員が失業した際に支給されるものであり、これら以外の船員は失業保険部門の適用を受けないものとされている。そして、この適用、非適用の判定については、都道府県が船舶所有者から船員の被保険者資格取得届を受理した際に、その船員の乗り組む船舶の種類及び雇用実態等を調査のうえで行うこととなっており、更に、この適用を受けると判定された船員が、離職し失業保険金の支給を受けようとするときは、再び船員の職を希望する者にあっては運輸省海運局(注1) 又は同支局に、また、船員以外の職を希望する者にあっては労働省公共職業安定所に、それぞれ出頭して職業紹介、職業指導等を受けるとともに、就職、就労の有無等の事実を記載した失業認定申告書を提出することにより定期的に失業の認定を受けることになっている。このように都道府県によって失業保険の適用を受ける者であると判定され、かつ、船員の居住地を管轄する海運局等に失業認定申告書を提出し、労働の意志及び能力があるにもかかわらず職業に就くことができない状態にあるとの認定を受けた者のうち、原則として離職日以前1年間に被保険者期間が通算して6箇月以上であるなどの要件を充たす受給資格者について、海運局等の船員保険特別会計所属の資金前渡官吏は、これら受給資格の要件を調査確認のうえ、給付額を算定し失業保険金の支給を行っている。

 しかして、59年中に、北海道ほか13府県(注2) における57年度及び58年度の上記失業保険金の支給(受給者数2,807人)の適否について検査したところ、北海道ほか9府県(注3) において、船員の不実な届出等によるものとはいえ、これに対する審査等が的確でなかったため、本院が調査した受給者2,022人分の給付のうち201人(支給額86,334,880円)について不適切な事態が見受けられ、これらの者に不適正に支給した失業保険金は総額59,058,360円となっていた。

 これを態様別に示すと次のとおりである。

1 船員の乗り組む船舶の種類やその雇用実態からみて失業保険部門の適用を受けることのできない船員について、適用を受ける者と判定し、失業保険金を不適正に支給していたもの

 汽船トロール漁業等に従事する漁船以外の漁船に乗り組む船員のうち季節を限って船舶所有者に雇用される者については、当初から年に一定期間失業することが予期されていることから、失業保険部門の適用はなく、離職しても失業保険金の受給資格がないものとされているのに、上記の漁船に乗り組んでいる季節雇用の船員について適用の判定を誤ったため、失業保険金の受給資格のない船員に失業保険金を支給していたものが、青森県ほか3県において122人、不適正支給額26,618,430円認められた。

<事例1>

 受給者Aは、日本海に出漁するいか釣船に乗船する船員として福岡市の船舶所有者に雇用され、昭和57年以降毎年、5月又は6月に乗船し、翌年3月に離職して九州海運局福岡支局に出頭し、3年にわたって失業保険金441,200円の支給を受けていた。
 しかし、日本海を漁場とするいか漁は農林水産省令で禁漁期間が定められていることから本件いか釣船は年間操業ができないもので、このいか釣船に乗船している上記の者は季節雇用の船員であって失業保険部門の適用を受けない者であった。

2 失業後に再就職していたり、又は失業していなかったりなどしている者について、受給資格がある者として失業保険金を不適正に支給していたもの

(ア) 失業したもののその後船員以外の職に再就職し厚生年金保険の被保険者となっているのに、失業中であるとして失業保険金の支給を受けていたものが、北海道ほか9府県において53人、不適正支給額18,698,840円認められた。

<事例2>

 受給者Bは、釧路市の船舶所有者に雇用され、昭和58年2月21日に離職し宮城県に帰省後、3月2日に東北海運局石巻支局に出頭し、3月9日から12月3日までの間の240日にわたって失業保険金1,600,800円の支給を受けていた。
 しかし、同人は同年3月1日に塩釜市の商事会社に就職していて失業状態にはなかった。

<事例3>

 受給者Cは、北海道増毛郡増毛町の船舶所有者に雇用され、工事船に昭和56年以降毎年5月に船長として乗船し、11月又は12月に離職して北海海運局留萌支局に出頭し、3年にわたって失業保険金1,584,000円の支給を受けていた。
 しかし、同人は、毎年冬期間は同町のビル管理会社に勤務していて失業状態にはなかった。

(イ) 上級の海技免許を取得するため休職するなどしており失業していないのに、失業しているとして失業保険金の支給を受けていたものが、千葉県及び広島県において7人、不適正支給額7,210,110円認められた。

<事例4>

 受給者Dは、横浜市の船舶所有者に雇用された後、昭和58年6月28日に離職したとして、6月30日に中国海運局尾道支局に出頭し、7月7日から9月13日までの69日間は同局で、その後兵庫県に帰省し9月14日から59年3月2日までの171日間は神戸海運局で、計240日にわたって失業保険金1,600,800円の支給を受けていた。
 しかし、同人は一等機関士の海技免許を取得するため会社を休職して尾道市の職業補導所で講習を受けた後、国家試験を受けるなどしていて失業状態にはなかった。なお、上記船舶所有者は、別途、貴庁からこの者について、在職船員を職業補導所へ派遣した際に支給される技能訓練派遣助成費補助金の交付を受けていた。

(ウ) 船員保険の被保険者として傷病手当金の支給を受けているのに、労働の能力があるとして失業保険金の支給を受けていたものが、北海道ほか2県において3人、不適正支給額2,038,200円認められた。

<事例5>

 受給者Eは、北九州市の船舶所有者に雇用された後、昭和57年1月29日に離職し、その後2月3日に九州海運局に出頭し、2月10日から10月7日までの間240日にわたって失業保険金1,248,000円の支給を受けていた。
 しかし、同人は、同年1月4日から10月31日までの間疾病により労務不能の状態にあって、別途福岡県から船員保険の給付である傷病手当金の支給を受けており、労働の能力はないものであった。

(エ) 法人である船舶所有者の役員であって、下船後も引き続き役員として勤務しているのに、失業しているとして失業保険金の支給を受けていたものが、広島県ほか2県において3人、不適正支給額1,823,310円認められた。

(オ) 離職日前1年間の被保険者期間が6箇月未満の者について、誤って受給資格があるとして失業保険金を支給していたものが、宮城県及び鹿児島県において4人、不適正支給額1,748,670円認められた。

3 このほか、失業保険金の給付額の算定に当たり、支給日数又は保険金日額を誤って、過大に失業保険金を支給していたものが、北海道ほか6県において9人、不適正支給額920,800円認められた。

 このような事態を生じたのは、主として次のような事由によると認められる。

(1) 都道府県においては、失業保険部門の適用の判定に当たって被保険者資格取得届を受理する際に行う船員の雇用実態の調査確認が十分でないこと、特に、季節雇用の船員であるか否かの審査についてはほとんどが船舶所有者の申告だけによって行っているにすぎず、船舶別の被保険者名簿又は別途船員の雇人時に船長等が海運局又は同支局に提出する雇人公認申請書等を調査確認の際に利用する配慮に欠けたこと、
 また、海運局等においては、失業の認定及び失業保険金の支給に際して、船舶所有者が作成する船員失業証明票及び上記雇人公認申請書等の調査確認を十分に行っていないこと。

(2) 貴庁では、失業保険金の不正受給防止を図るための措置として、「船員保険失業保険金給付等の適正化について」(庁文発第3701号、57年12月)の通達を都道府県に発し、失業後に再就職しているか否かの調査を実地に行うこととしているものの、その調査方法についてみると、一部の受給者に対する面接調査によって行っているにすぎないため、不正受給防止のための調査としては実効が上っていないものであること。

(3) 失業保険金と傷病手当金との重複受給の有無や法人の役員か否かについては、都道府県に整備されている給付記録台帳又は被保険者名簿等によりそれぞれ容易に確認できるのに、これを行っていないこと。

 ついては、失業保険金の支給は、年々増加傾向にあって船員保険特別会計の失業保険部門の累積赤字は、58年度末で66億円を超える状況にあることにかんがみ、失業保険部門の適用については、被保険者資格取得届、被保険者名簿、雇人公認申請書等に基づく船員の雇用実態の調査確認の方法を早急に定め、また、失業保険金の不正受給の防止については、貴庁が保有する厚生年金保険オンラインシステムによるデータ等を活用するなどして実効のある調査方法を確立するとともに、都道府県等関係部局に対する指導監督を一層強化し、もって、失業保険金の支給の適正を期する要があると認められる。

 よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。

(注1)  海運局 59年7月1日以降は「運輸局」

(注2)  北海道ほか13府県 北海道、大阪府、青森県、宮城県、千葉県、神奈川県、石川県、三重県、兵庫県、鳥取県、島根県、広島県、福岡県、鹿児島県

(注3)  北海道ほか9府県 北海道、大阪府、青森県、宮城県、千葉県、神奈川県、島根県、広島県、福岡県、鹿児島県