科目 | 蚕糸砂糖類価格安定事業団 (繭糸価格中間安定等勘定) (款)生糸価格中間安定事業収入 (款)生糸価格中間安定事業費 |
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部局等の名称 | 農林水産省 蚕糸砂糖類価格安定事業団 |
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業務の概要 | 生糸の市場価格を適正水準に安定させるため、蚕糸砂糖類価格安定事業団が生糸の売買等を行うもの | |
生糸在庫量 | 176,272俵(昭和58事業年度末) | |
借入金 | 1929億9097万円(〃) | |
損失額累計 | 138億0455万円(〃) | |
国の支出累計額 | 蚕糸砂糖類価格安定事業団への出資金 | 50億3030万円 |
うち繭糸価格中間安定等勘定 | 20億3030万円 |
農林水産省では、繭及び生糸の価格安定の制度(以下「繭糸価格安定制度」という。)を設け、この制度を実施するための業務を蚕糸砂糖類価格安定事業団(以下「事業団」という。)に行わせている。そして、事業団の昭和58事業年度末生糸在庫は176,272俵、借入金総額は1929億9097万円となっていて、在庫量が増大し、在庫期間が長期化することによって多額の支払利息、保管料等を生じ、繭糸価格中間安定等勘定の損失額累計は138億0455万余円の多額に上っていて、事業団の財政面に大きな悪影響を及ぼしている。
このような事態となった背景には、生糸の需給の不均衡がある。すなわち、需要面では、いわゆる着物離れの傾向などから絹の国内需要は減少を続け、一方、供給面では、繭の生産調整等が需要の減退に見合うまでにならなかったことから、近年における生糸の需給は供給過剰基調が続くこととなり、これを反映して糸価は低迷を続けている。この間にあって、繭糸価格安定制度は制度本来の機能を失っていると認められる。
繭糸価格安定制度及びこれを運営する事業団の財政の現状は、危機的様相を呈しており、このまま放置すると、過剰在庫を整理することが困難となるばかりでなく、今後更に在庫量は増大し、損失は著増することになる。
(説明)
農林水産省では、繭糸価格安定法(昭和26年法律第310号)に基づいて、生糸の輸出の増進及び蚕糸業の経営の安定に資するため、繭糸価格安定制度を設け、この制度を実施するための業務を事業団に行わせている。
この繭糸価格安定制度には、異常変動防止の制度と中間安定の制度とがある。現在まで引き続いて業務が実施されているのは中間安定の制度だけであるが、この制度では、事業団は、標準中間売渡価格(昭和58事業年度15,500円/kg)と基準糸価(58事業年度14,000円/kg)との間に糸価が安定するよう、糸価の低落時には、原則として毎事業年度30,000俵(1俵当たり60kg)の範囲内で中間買入価格(58事業年度13,900/kg)で製糸業者等から国産生糸を買い入れ、糸価が標準中間売渡価格を超えて騰貴し又はそのおそれがある場合には、買い入れた生糸を売り渡し、この国産生糸の売買業務を通じて繭糸価格の安定を図ることとしている。
また、外国産生糸については、輸入量の増大に伴い、国産生糸の売買を通じてだけでは繭糸価格の安定が図れなくなったことから、49年以降、事業団が需給上、国産生糸で不足する数量を一元的に輸入し、需給状況等を勘案して市場に供給することにより、国内の繭糸価格を適正な水準に安定させることとしている。
しかして、本制度の近年における推移及び現状についてみると、以下のとおりである。
1 生糸の在庫状況について
この業務を実施している事業団の生糸の在庫状況についてみると、下表のとおり、53事業年度末51,934俵であったものが、54、55両事業年度で急増し、58事業年度末で176,272俵となっている。これは、58事業年度の生糸の国内消費量のほぼ10箇月分に相当する量となっており、平均在庫期間は、国産生糸で27箇月、外国産生糸で42箇月となっている。
事業年度 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 |
期末在庫(俵) | 51,934 | 90,408 | 147,799 | 145,923 | 150,031 | 176,272 |
うち国産生糸(俵) | 77 | 13,550 | 39,974 | 52,035 | 57,592 | 91,912 |
上記の生糸の買入れに要する資金はすべて借入金に依存しているため生糸の在庫量が増大し、在庫期間が長期化することによって、下表のとおり、多額の支払利息、保管料等を生じ、事業団の財政面に大きな悪影響を及ぼしている。
事業年度 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 |
期末借入額(百万円) | 34,682 | 67,506 | 126,765 | 141,273 | 154,401 | 192,990 |
支払利息(百万円) | 2,006 | 3,460 | 9,227 | 11,048 | 9,336 | 11,766 |
保管料(百万円) | 541 | 848 | 1,553 | 1,823 | 1,536 | 1,841 |
2 損益について
中間安定の制度の業務を経理する繭糸価格中間安定等勘定の損益についてみると、下表のとおり、58事業年度における損失は94億9749万余円で、これに前事業年度からの繰越欠損金43億0705万余円を加えると損失の累計は138億0455万余円となっている。
事業年度 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 |
当期損(△)益(千円) | 5,597,658 | 1,439,643 | - | △3,900,999 | △5,730,785 | △9,497,493 |
損(△)益処理の累計額 (千円) |
5,036,798 | 5,324,728 | 5,324,728 | 1,423,728 | △4,307,057 | △13,804,550 |
この損失の主なものは、次のとおりである。
(1) 国産生糸については、毎事業年度末において、買入価額に支払利息、保管料等を積み上げた期末の価額が標準中間売渡価格を超えるものについてはその超える額をたな卸替損失として決算することとしているため、下表のとおり、55事業年度以降は、毎年たな卸替損失が発生している状況であり、58事業年度までのたな卸替損失の累計は138億7294万余円の多額に上っている。
事業年度 | 55 | 56 | 57 | 58 |
対象数量(俵) | 11,761 | 51,772 | 51,626 | 53,599 |
たな卸替損失(千円) | 280,657 | 4,528,310 | 4,564,980 | 4,498,991 |
(2) 外国産生糸については、買入価額に支払利息、保管料等を積み上げた期末の価額のままで決算しているため、毎事業年度末における1kg当たりの平均価格は、下表のとおり、57事業年度以降は、安定価格の上限として定められている標準中間売渡価格(15,500円/kg)をも上回る価格となっている。
事業年度 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 |
期末平均価格(円/kg) | 11,618 | 12,204 | 13,661 | 15,337 | 16,240 | 17,341 |
このような異常な価格で決算しているため、その売渡しの際には、下表のとおり、多額の売却損失が発生している状況であり、56事業年度から58事業年度までの売却損失の累計は28億0949万余円の多額に上っている。
事業年度 | 56 | 57 | 58 |
対象数量(俵) | 7,580 | 5,155 | 7,150 |
売却損失(千円) | 448,376 | 522,567 | 1,838,546 |
(3) なお、事業団は、生糸需要の増進に資するため、新規用途等売渡し(注) の政策的な値引売渡しを行っているが、これにより58事業年度までの売却損失の累計約26億円が生じている。
3 事態の背景
事業団における生糸の在庫量が著増し、その在庫期間が長期化することによって、事業団における損失の発生が恒常化した背景としては、生糸の需給の不均衡があげられる。すなわち、需要面では、二度の石油ショックによる50年代の国内経済の停滞、生活様式の変化、絹の国内需要の約9割を占める和服が他の衣類に比べて高価であることによる需要の減退、いわゆる着物離れの傾向などから、絹の需要はピーク時である47事業年度の約53万俵(生糸換算)から減少を続け、58事業年度には約29万俵と半数近くにまで減少した。一方、供給面では、繭の生産調整、生糸等の輸入量の縮減等の対策が執られたものの、需要減退に見合うものまでにならなかったことから、生糸の国内市場は、54事業年度以降、継続して供給過剰基調となり、これを反映して糸価が低迷を続けてきた。
そして、事業団では、上記の事態に対し54事業年度から58事業年度までの間に合計95,922俵の国産生糸の買入れを行ったが糸価は回復せず、一方、売渡しは新規用途等売渡しなどを除きほとんど行われなかった。
4 生糸の需給改善のための対応策
農林水産省が生糸の需給不均衡に対処するため執った、対策の主なものは、次のとおりである。
(1) 56生糸年度(生糸年度は6月から翌年5月まで)に基準糸価を1kg当たり14,000円に引き下げ、最近まで据え置いている。(なお、59年11月17日からは、更に1kg当たり12,000円に引き下げている。)
(2) 自主的な繭の生産調整を指導推進している。
(3) 需要増進対策のため、絹製品展示会等に対する補助金の交付、新規用途等売渡し等の需要増進策を実施している。
(4) 日本への主要な生糸等の輸出国と、協定を通じて輸入調整を実施している。
しかし、これらの対策はいずれも十分な効果を発揮するものとはなっていない。
5 最近の状勢
(1) 50年以降は、国内経済の停滞及び着物離れ等によって生糸の国内需要の減退は顕著なものとなった。また、海外の生糸輸出国が国産生糸より安価な生糸を世界市場に供給しており、海外からの絹製品等の流入圧力が強いことから、国内需給の均衡は当分の間期待できない状況にある。
この間において、農林水産省は、国内における生糸生産費の上昇に見合うよう基準糸価の改定を数次にわたって行い、これにより制度を運営してきたため、その結果として現在における国産生糸の価格は外国産生糸に比べて相当割高となっている。このような事情の下で中間安定の制度は、国産生糸の価格支持のためだけに機能する制度となっている。
(2) 58事業年度末における事業団の生糸在庫176,272俵の平均価格は、国産生糸15,158円/kg、外国産生糸17,341円/kgとなっている。しかし、事業団が国産生糸の買入れを継続して行っているにもかかわらず、糸価は基準糸価を大幅に下回って推移している現状からみて、今後も糸価の急速な回復はほとんど見込まれず、上記の価格による売渡しは困難なものと思料される。仮に、58事業年度中の平均糸価(横浜現物標準値)13,846円/kgで58事業年度末現在の在庫量の全量を売り渡す計算をしたとすると、国産生糸で72億3531万余円、外国産生糸で176億9029万余円計249億2560万余円と巨額の損失が発生することとなり、このようなことからみて、今後の在庫の処分に伴って、多額の損失の発生は避けられない状況であると認められる。
以上のとおり、繭糸価格安定制度及びこれを運営する事業団の財政の現状は、危機的様相を呈しており、急激な国内生産の調整及び輸入の縮減ができないなど種々の困難な事情は認められるが、このまま放置すると、過剰在庫を整理することが困難となるばかりでなく、今後更に在庫量は増大し、損失は著増することになる。
(注) 新規用途等売渡し 生糸需要の増進に資するため新規の用途又は販路向け等に糸価から更に用途別に値引きした額(値引き額1kg当たり1,000円から2,000円、59年3月以降1,500円から3,000円)で売り渡すもの