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  • 昭和58年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第8 水資源開発公団|
  • 特に掲記を要すると認めた事項

多目的ダム等建設事業について


多目的ダム等建設事業について

科目 (一般勘定) (款)建設費 (項)ダム等建設費
部局等の名称 水資源開発公団
事業 滝沢ダム建設事業ほか2事業
事業の概要 河川の流水を管理することにより洪水を調節するとともに、河川の水系における水資源の総合的な開発及び利用の合理化の促進を図るため、多目的ダム又は河口堰を建設する事業
58年度末までの支出済額の合計 493億4600万余円

 水資源開発公団では、多目的ダム及び河口堰を建設して河川の流水を管理し、河川の水系における水資源の総合的な開発を行うことにより、洪水を調節し利水を図ることとしているが、荒川水系の滝沢ダム建設事業ほか2事業については、実施計画調査(注1) に着手後10箇年以上を経過し多額の事業費を支出しながらなお用地買収、補償交渉が難航しているなどのため、多目的ダム及び河口堰の本体工事に着工の見通しが立っておらず、昭和58年度末までに493億4600万余円に上る事業費が投じられてきたにもかかわらず、多目的ダム及び河口堰の建設に係る事業効果の発現が著しく遅延している。

(説明)

 水資源開発公団(以下「公団」という。)が施行している多目的ダム及び河口堰(以下「ダム等」という。)の建設事業は、流水を貯留するなどして洪水を調節するとともに、河川の水系における水資源の総合的開発を行い利水を図ることを目的としているもので、ダムの建設は、洪水調節を行うことによって河川の基本高水流量(注2) を低減し、築堤、橋りょう等の公共施設及び流域における土地、建物等の被害を防止又は減少させるものであり、当該調節後の計画高水流量(注3) を基本として各河川の改修工事が実施されることになっており、また、河口堰の建設は、河道をしゅんせつして河積を拡大することを可能にし、河川の疎通能力を増大させることによって、ダムと同様に流域における公共施設等の被害を防止又は減少させるものである。また、これらのダム等はいずれも、ダム等に貯留した流水を水道、工業用水等として流域の都市等に供給することとしているものである。そして、これらの事業の執行に当たっては緊急かつ計画的に推進することが要求されているものであるが、その過程において用地買収、補償交渉等に手間どることが多く、工事期間は長期間を必要とし、また、極めて多額の投資を要するものである。

 そして、公団では、ダム建設の促進を図ることを目的として制定された水源地域対策特別措置法(昭和48年法律第118号。以下「水特法」という。)に基づく水源地域整備計画の策定と実施について地方公共団体等関係機関の協力を得るよう努力を払うとともに、地方公共団体等の協力により設立された水源地域対策基金を活用するなどして、事業の促進が図られるよう努めているところである。

 しかして、公団で昭和58年度に建設中のダム等は、利根川水系の奈良俣ダム建設事業ほか11事業であるが、本院においてこれら事業の進ちょく状況を調査したところ、荒川水系の滝沢ダム建設事業ほか2事業については、別記のとおり、建設の同意が得られなかったり、補償関係調査が行えなかったり、用地買収、補償交渉が難航していたりしているなどのため、実施計画調査に着手後10箇年以上を経過し、地質調査や工事用道路等の準備工事及び道路の付け替えや一部家屋の移転等の補償のため多額の事業費を支出しているにもかかわらず、ダム本体工事の施工に必要な転流工事(注4) にさえ着工していない状況であるなど、ダム等の本体工事に着工の見通しが立っておらず、3事業とも既に工期を6年から13年延長し、最長のものは22箇年の工期を要することとなっていて事業が著しく長期化している状況である。

 このような事態を生じているのは、一般に、ダム等の建設については、ダム等が建設される地元に当該事業による直接の受益がないこと、当該地域における主要な耕地が水没したり生活基盤である漁場に多大な影響を与えたりして地元住民が職業の転換を余儀なくされる場合が多く生活再建に不安感を持つこと、被補償者が多数に上っていてそれぞれの意見や利害の調整が容易でないことなどのため、地元住民の理解が得難いものであるが、上記3事業については、地元住民と施行者である公団との間に意見等についてなお未調整の分野があること、水特法に基づく水源地域整備計画について関係省庁及び地方公共団体並びに地元住民等の間の協議が整わず容易に策定されないことが要因となって、上記のように解決をみるに至らず今日に及んでいるものと認められる。

 しかしながら、前記のような状況がこのまま推移すると、ダム等建設の計画等策定時において年平均約35億円から220億円と推定されている災害防除(注5) の効果が今後も長期間にわたって期待できないなど治水目的の達成に支障をきたすこととなるほか、利水においては、都市等における用水の安定的確保、特に渇水時における用水の供給や不安定な取水状況の解消に支障をきたし、加えて、事業の長期化に伴う経費増と物価上昇などによる事業費の増こうなどから原水単価(注6) が高騰するなど、受益者にかかる利水効果に影響を及ぼすおそれがあると認められる。

ダム名 水系名
(河川名)
建設位置 型式 堤高堤頂長m
堤体積
着手年度 調節水量
〔計画高水流量〕
都市用水供給水量 年平均災害防除額

1

滝沢

荒川
(中津川)

埼玉県秩父郡大滝村

重力式コンクリート
千m3
140
440
1,800

44
m3 /s
1,550
〔1,850〕
m3 /s
4.6
億円
35

 このダムは、建設に伴って家屋112戸及び宅地、山林等210haの水没等が予定され、多数に上る被補償者間に意見等の相違が生じて交渉団体の組織が細分化し、一部区域についてはいまだに補償関係調査も行えないなど、用地買収、補償交渉が難航しているほか、公共補償と密接な関連を持つ水特法に基づく水源地域整備計画が関係地方公共団体間等の協議が整わず策定されていないこともあり、昭和44年度から58年度までの間に総事業費610億円(51年度算定)のうち117億5963万余円で水没等関係の補償及び工事用道路等の一部を実施しただけで、いまだ補償基準の提示にも至っていない。

2 浦山 荒川
(浦山川)
埼玉県秩父郡荒川村 ロックフィル 165
430
9,700
47 850
〔1,000〕
3.9 39

 このダムは、建設に伴って家屋57戸及び宅地、山林等200haの水没等が予定されるが、元々通勤等生活の利便の良い地域であることもあって、犠牲地であるとの認識が特に強いことなどから、離村者と残留者の意見等の調整がつかず、用地買収、補償交渉が難航しているほか、水特法に基づく水源地域整備計画が関係地方公共団体間等の協議が整わず策定されていないこともあり、昭和47年度から58年度までの間に総事業費540億円(51年度算定)のうち93億5180万余円で代替地用地の買収や工事用道路の一部を実施しただけで水没家屋及び水没用地の補償も行われていない。

3 長良川河口堰 木曽川
(長良川)
三重県桑名郡長島町及び桑名市 可動堰 (堰延長)
661
43 (流下能力)
7,500
22.5

 

220

 

 この河口堰は、建設に伴って21漁業協同組合等の漁業権者が影響を受け、河口堰建設地点においては生活基盤となっている漁場が全く失われることもあって、一部の関係者からは建設差止請求の訴訟が提起されたことなど、地元に強い反対があり、河口堰建設の同意についての交渉が著しく難航しており、昭和43年度から58年度までの間に総事業費1170億円(54年度算定)のうち282億3456万余円で工事用地等の買収や排水路等の補償工事及び漏水対策工事等の一部を実施しただけで、漁業関係の補償は行われていない。

(注1)  実施計画調査 ダム等建設を前提として行う地形、地質調査、堤体設計、補償物件調査等ダム等建設に関する詳細な調査をいう。なお、実施計画調査の着手をもって事業の着手としている。

(注2)  基本高水流量 既往の降雨や出水の記録に基づいて、河川の特定の箇所に設けられている基準地点における洪水の際の流量を予測計算した数値で、河川整備に当たっての基本となる。

(注3)  計画高水流量 洪水の際に基本高水流量が上流のダムや遊水池等で配分調節された後の基準地点の河道を通さなければならない計算上の流量

(注4)  転流工事 ダム本体工事の施工期間中河川の流水を一時的に迂回して通水させるための水路トンネル等を築造する工事

(注5)  年平均災害防除額 洪水調節の年効用のことで、当該施設による河道災害及び一般資産、公共土木施設、農作物等一般災害の被害軽減額を洪水の規模、確率等を勘案し、年平均に換算した額

(注6)  原水単価 当該水資源開発のための利水者負担金を水資源開発により生ずる開発水量で除した価格をいい、いわば取水地点における水単価というべきものである。