農林水産省では、3年から4年後におおむね5頭以上の肉用牛の飼養を目標とする農業者を対象者として、繁殖雌牛導入事業を国庫補助事業として実施しているが、対象者の具体的な選定基準を示していなかったり、導入後における対象者に対する指導が十分でなかったりなどしたため、導入後相当期間を経過しているのに増頭していないものが見受けられたばかりでなく、調査した農業者全体のうち、5頭以上の飼養規模に達していないものや計画頭数に達していないものが高率となっていて、事業の効果が発現しているとは認められない状況であった。また、本事業は対象者が生産した牛(以下「自家生産牛」という。)については、原則として補助の対象としないこととしているのに、この取扱いについて指導が徹底していなかったため、これを補助の対象としているものなど適切を欠く事態も見受けられた。したがって、同省において、本事業の関係者に対して事業の主旨・目的及び内容の周知及び指導の徹底を図るとともに、事業の対象者の具体的な選定基準を定め、畜産経営計画を年次別に具体的なものとし、もって事業実施の適正を期する要があると認め、昭和60年12月に是正改善の処置を要求した。
これに対し、農林水産省では、本院指摘の趣旨に沿い、60年12月に地方農政局長等に対し通達を発して、関係者に対し、事業の主旨・目的及び内容についての周知徹底を図るとともに、導入対象者の選定に当たっての審査及び導入後における飼養規模を適正に拡大させるための指導の徹底を図り、さらに、事業の内容を見直して、61年4月に畜産総合対策事業実施要領等を改正し、事業主体である農業協同組合等に対して、地域の実情に応じた対象者の具体的な選定基準を定めさせるとともに、畜産経営計画書に対象者の飼養頭数の具体的な年次計画を明記させ、導入後の飼養頭数の把握を義務づけて、関係機関との連携のもとに営農指導等を的確に行うなどの事業推進体制を整備させ、また、自家生産牛についてはすべて補助の対象から除くこととして、事業の適正な執行を図る処置を講じた。