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  • 昭和62年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第5 厚生省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

医学実験用サルの飼育管理業務の実施について是正改善の処置を要求したもの


(1) 医学実験用サルの飼育管理業務の実施について是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生本省試験研究機関 (項)厚生本省試験研究所
部局等の名称 国立予防衛生研究所(筑波医学実験用霊長類センター)
業務の概要 医学実験用サルの飼育管理(繁殖、育成等の業務は外部委託)
委託契約金額 503,357千円(昭和62年度)
契約の相手方 社団法人予防衛生協会

 上記の管理業務において、飼育している医学実験用サル2,255頭(昭和62年度末)のうちには、老齢で、実験用又は繁殖用として使用することが当面困難なもの、障害、疾病等のため、実験用又は繁殖用として使用することが適当でないものなどが803頭含まれており、これに係る年間飼育費用が1億7623万余円となっていた。 また、60年度から62年度までの実験用サルの供給における実績頭数は296頭で、これは計画頭数570頭に対して51.9%にすぎず、このため実験に不足する、として330頭を輸入している状況であった。

 このように、一方で本来の目的からみて必要としないサルを多数飼育しつつ、他方で医学実験用のサルを十分に供給できない非効率な運営となっているのは、国立予防衛生研究所と筑波医学実験用霊長類センターとの間において、実験用サルとしての必要な資質、需給頭数等についての連絡調整が適切に行われていないこと、繁殖交配方式として採用している原産地別ラインローテーション方式は多数のサルを繁殖用として長期にわたり拘束すものであるため、需要に応じた実験用サルの供給ができないことなどによると認められる。

 したがって、厚生省において、上記国立予防衛生研究所等に対し、実験用サルの中長期の需給計画を策定させ必要に応じてその見直しを行わせるとともに、効率のよい業務実施のための連絡調整の体制の確立を図らせること、上記繁殖交配方式の見直しを行わせることなどの対策を指示するとともに、指導監督を徹底するなどの措置を講じ、もって医学実験用サルの飼育管理業務の効率的な実施を図る要がある。

 上記に関し、昭和63年11月28日に厚生大臣に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。

国立予防衛生研究所における医学実験用サルの飼育管理業務の実施について

 貴省では、国立予防衛生研究所(以下「予防研」という。)に、感染症その他の特定疾病に関する病原、病因の検索及び予防治療方法の研究並びに予防、治療のためのワクチンその他の生物製剤の国家検定・検査等の業務を行わせており、予防研では、これら業務の一環として、自ら村山分室(東京都武蔵村山市所在)において、サルを使用した各種の医学実験を多数行っている。

 しかして、これらの実験を円滑かつ的確に行うためには、健康で一定の規格を有するサルを継続的かつ安定的に相当数確保することが必要であるが、従来から実験に使用してきたサルは主として輸入野生ザルであり、〔1〕 その由来や遺伝体質等が不明であること、〔2〕 医学、生物学の進歩等に伴う実験用サルの世界的な需要増加に対し、動物保護の見地からサル資源が問題とされ、野生ザルの入手が困難になる恐れがあったことから、貴省では、その根本的な対策として人工条件下で大規模な繁殖、育成を行う自家生産体制を確立することが必要であるとして、昭和53年4月に予防研の支所として筑波医学実験用霊長類センター(以下「筑波センター」という。)を設置し、村山分室における実験に必要なサルの繁殖、育成及び供給並びにこれらに関する研究を行わせており、その運営経費として62年度には5億9987万余円を要している。

 そして、筑波センターでは、上記飼育管理業務の実施に当たり、実験用サルの需給等に関する計画の立案や繁殖、育成に関する研究等は自ら行い、サルの繁殖、育成及び輸入野生ザルの検疫等の業務(以下「繁殖等業務」という。)は、社団法人予防衛生協会(以下「協会」という。)に委託して実施しており、そのサルの飼育方法は、年間を通じて1日24時間空気調和を行っている飼育棟において原則として1ケージ1頭の個別ケージ方式で行うものとなっている。また、繁殖等のサイクルは、〔1〕 交配繁殖の基になる野生ザルの輸入、〔2〕 輸入野生ザルに対する検疫、〔3〕 検疫したサルを繁殖用サルと実験用サルに配分選別、〔4〕 選別した繁殖用サルによる交配及び次世代のサルの生産・育成、〔5〕 生産・育成したサルを繁殖用サルと実験用サルに配分選別、〔6〕 実験用サルの村山分室への供給となっていて、以下、逐次これを繰り返すものである。そして、繁殖等業務の62年度の実績は、年度当初における親ザル1,464頭、仔ザル657頭、計2,121頭の飼育、輸入野生ザル100頭に対する検疫等となっており、これに係る協会への委託費の支払額は前記運営経費のうちの5億0335万余円となっている。

 しかして、筑波センターにおける設立当初の53年度から62年度までの間の実験用サルの受払実績をみると、受け入れたサルは、輸入したもの1,928頭、村山分室で別途購入・飼育していたサルで当面実験に不要のものを移管したもの283頭及び筑波センターで生産したもの2,534頭、計4,745頭であり、そのうち、飼育中に死亡したものが934頭、筑波センターで繁殖等に関する研究のための実験に使用したものが58頭、村山分室に実験用として供給したものが1,498頭あり、その計2,490頭を差し引いた2,255頭が62年度末の飼育管理頭数となっているが、今回、この飼育管理業務について検査したところ、次のとおり適切でないと認められる事態が見受けられた。
すなわち、実験用サルとしては、一般に年齢2歳から5歳程度の若齢ザルで体重3kg前後の、試験薬等に対し敏感かつ的確に反応するサルが適当であることから、その需要が最も多く、また、繁殖用としては7歳程度までが適齢であるが、筑波センターで62年度末現在飼育管理しているサル2,255頭の中には、

〔1〕  年齢が10歳以上の老齢ザルで実験用又は繁殖用として使用することが当面困難なもの
515頭

 
〔2〕  障害、疾病のため、あるいは体重過多のため、実験用又は繁殖用として使用することが適当でないもの
32頭
〔3〕  その他高齢等により実験用等としての適齢を過ぎたため、当面の実験等に必要でないもの
256頭

が含まれており、これらの合計頭数803頭は上記全飼育管理頭数の35.6%にも達している状況であった。そして、これら803頭の年間飼育費用を62年度の委託費を基に計算すると1億7623万余円となる。 

 他方、筑波センターでは、輸入野生ザルを検疫のうえ供給するほか、自家生産体制の下、同センターで生産・育成したサル及び繁殖用サルを実験用に切り換えたもの(以下両者を併せて「飼育ザル」という。)を村山分室に実験用サルとして供給しており、そのほとんどをカニクイザルが占めているが、これに係る輸入及び繁殖育成計画によれば、60年度から62年度までに570頭の飼育ザルを供給することとしていたのに、この間の実際の供給実績は296頭で、計画頭数の 51.9%にとどまっている状況であった。そして、この結果、実験用サルの不足を補うため、この間に330頭のカニクイザルを輸入している状況である。

 このように、一方で本来の目的からみて必要としないサルを多数飼育しつつ、他方で必要なサルを十分に供給し得ない非効率な運営となっているのは、

ア 予防研と筑波センターとの間において、村山分室の実験用サルとして必要な資質、その需要・供給頭数等についての連絡調整が適切に行われていないこと、

イ 実験用サルとして使用する場合の適齢は2歳から5歳程度、繁殖用サルとしての適齢は3歳から7歳程度と、その適齢期が相当期間重複しているが、筑波センターでは、繁殖交配方式として原産地別ラインローテーション方式(補注) を採用しており、この方式 は多数のサルを繁殖用として長期にわたり拘束するものであるため、村山分室の需要に応じた実験用サルの供給ができないこととなること、

ウ 上記ア、イの事情などから、老齢ザル等が当然に生ずることが予見できたにもかかわらず、予防研及び筑波センターにおいて、予防研での新たな活用方法の検討及び国の他機関への管理換え、民間団体への譲渡等の具体的な対策の検討を行っていないこと

などによると認められる。

 ついては、ワクチンの国家検定等に必要な実験用サルの継続的かつ安定的確保のため、本件実験用サルの飼育管理業務は今後とも引き続き行われるものであり、これに要する経費も多額に上るのであるから、前記事態にかんがみ、貴省において、予防研及び筑波センターに対し、相互に密接な連絡をさせることはもとより、

(1) 実験用サルの中長期の需給計画を策定し必要に応じてその見直しを行わせるとともに、効率のよい業務実施のための連絡調整体制の確立を図らせる、

(2) 前記ラインローテーション方式は、遺伝系統の明らかな良質の実験用サルを供給することができる方式であるものの、実験を行う村山分室においては必ずしもそのようなサルの需要はなく、また、野生ザルの輸入環境の現況が良好であることから、この繁殖方式の見直しを行わせる
などの対策を適切に指示するとともに、それが的確に行われるよう指導監督を徹底するなどの措置を講じ、もって医学実験用サルの飼育管理業務の効率的な実施を図る要があると認められる。

 よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。

(補注)  原産地別ラインローテーション方式  同じ種類の繁殖用サルを原産地別に分け、それぞれについて1組当たり雄ザル1頭、雌ザル約10頭の生産ラインを相当数形成し、各ラインごとに、雄ザルに順次雌ザルを交配させ一定数の次世代のサルを生産した段階で、雌ザルをその次世代の雌ザルに置き換えるとともに、他のラインから雄ザルを導入する方式であり、これによると遺伝系統の明らかなサルの生産が可能となる。
 そして、国立予防衛生研究所では、カニクイザルについて、マレーシアなど3箇国の国別にそれぞれ18組のラインを形成し、各ラインごとに雄3頭、雌10頭の次世代サルを確保することとしている。