会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生本省 | (項)老人福祉費 |
(項)国民健康保険助成費 | ||
厚生保険特別会計(健康勘定) | (項)老人保健拠出金 | |
船員保険特別会計 | (項)老人保健拠出金 | |
部局等の名称 | 社会保険庁、北海道ほか15都府県 | |
国庫負担の根拠 | 老人保健法(昭和57年法律第80号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号) | |
事業内容 | 老人保健法に基づき、市区町村が医療保険に加入する老人に対して行う医療 | |
事業主体 | 市104、特別区12、町125、村29、計270事業主体 | |
上記に対する国庫負担の額の合計 | 2,093,165,137千円 |
上記の老人保健事業において、毎年の1月から3月までの間における老人収容比率の平均値が100分の60以上になっているなど特例許可外老人病院に該当する病院が診療報酬の請求に当たり、一般病院であるとして医療費を過大に請求していた不適切な事態が、本院が調査を実施した16都道府県の36病院において見受けられ、上記270事業主体において19,164件、213,016,130円(これに対する国庫負担の額115,757,697円)の支払が過大となっていた。
このような事態を生じているのは、都道府県において、各病院に対して老人医療費算定基準等を遵守させるための指導が十分でなく、また、老人収容比率を把握するための調査もほとんど行われていないことなどによると認められる。
したがって、厚生省において、特例許可外老人病院に係る老人収容比率の具体的な把握の方法を都道府県に示すなどして老人保健法等の適正な運用を図る要がある。
上記に関し、昭和63年12月9日に厚生大臣に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。
貴省では、老人保健法(昭和57年法律第80号)の規定に基づき、国民の老後における健康の保持と適切な医療の確保を図るため、同法による各種の保健事業が健全かつ円滑に実施されるよう各般の措置を講じているところである。
この保健事業のうち医療(以下「老人医療」という。)については、市町村(特別区を含む。以下同じ。)の長が、医療保険に加入する老人(70歳以上又は一定の障害の状態にある65歳以上70歳未満の者をいう。以下同じ。)であって当該市町村の区域内に居住地を有する者に対して行うものとし、これらの者が医療の給付を受けようとするときは、各医療保険を取り扱う病院、診療所(以下「保険医療機関」という。)に対して、健康手帳を提示して医療を受けることになっている。そして、保険医療機関は、「老人保健法の規定による医療の取扱い及び担当に関する基準」(昭和58年厚生省告示第14号。以下「老人医療担当基準」という。)に基づいて医療を行い、その医療に要する費用については、「老人保健法の規定による医療に要する費用の額の算定に関する基準」(同第15号。以下「老人医療費算定基準」という。)に基づいて算定し、これから患者負担分を控除した額を市町村に請求することになっており、請求を受けた市町村及びその委託を受けた国民健康保険団体連合会等の機関では、これを審査し支払うことになっている。この市町村が支弁する費用については、国が10分の2を、都道府県及び市町村がそれぞれ10分の0.5を負担し、残りの10分の7に相当する額については、社会保険診療報酬支払基金が各医療保険の保険者たる国、市町村等から徴収する拠出金をもって交付することになっており、さらに、この拠出金のうち市町村等の保険者が負担する分については、国がこれに所定の率を乗じるなどして得た額を負担することになっている。そして、老人医療に係る昭和62年度の国の負担額は、一般会計における老人医療給付費国庫負担金9328億1392万余円、老人保健医療費拠出金国庫負担金6924億0379万余円、老人保健医療費拠出金国庫補助金440億7202万余円、厚生保険特別会計における老人保健拠出金8706億7509万余円、船員保険特別会計における老人保健拠出金146億3174万余円と多額になっている。
しかして、老人保健法制定の背景には、適切な老人医療を確保しつつ人口の高齢化に伴い増加する老人医療費の効率化を図ることがあり、貴省ではこれを踏まえ、老人の心身の特性にふさわしい合理的な基準を定めるという考え方から、老人医療担当基準を定め、検査、注射などよりも日常生活についての指導を重視した医療を行うこととするとともに、老人医療費算定基準を定め、老人特掲診療料として老人に対する医療にふさわしい検査料、注射料、処置料、入院時医学管理料等を設定している。そして、この老人特掲診療料は、特例許可老人病院における特定の診療行為に係る事項及び特例許可外老人病院における特定の診療行為に係る事項(以下「特例許可外老人病院に関する事項」という。)並びにこの2事項以外の診療行為に係る事項(以下「一般的事項」という。)に分けて定められている。
上記の特例許可老人病院は、主として老人慢性疾患の患者を収容する病院であって、医師、看護婦等の配置について、その基準に関する医療法(昭和23年法律第205号)上の特例として一般病院より緩和された基準により都道府県知事の許可を受けているものである。また、特例許可外老人病院は、医師、看護婦等の配置が上記の緩和された基準にも達しないことなどから特例許可老人病院の許可又は基準看護の承認を受けていないなどの病院であって、1月から3月までの間における老人収容比率(医療法上の許可病床数に対する70歳以上の者の病床数の割合)の平均値が100分の60以上の病院とされている。そして、これらに該当する病院は、都道府県知事の認定等特段の手続を要することなく4月以降自動的に特例許可外老人病院となるものであるが、その状況を的確に把握することにより医療費の審査支払事務を適正に進めるため、該当した病院は4月10日までに都道府県知事に老人収容比率に関する届出書を提出し、その旨を明らかにすることになっている。また、都道府県知事には、特例許可外老人病院に関し、上記届出によるほか、常に情報の収集に努め、必要に応じ実地調査を行ってその実態を把握することが求められている。
そして、特例許可外老人病院に該当した病院における診療報酬の算定は、老人医療費算定基準の定めるところにより、前記老人特掲診療料の特例許可外老人病院に関する事項に定める特定の検査、注射、処置等に係るものについては特例許可外老人病院に関する事項に基づいて、また、上記以外の診療行為に係るものについては一般的事項又は「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方」(昭和33年厚生省告示第177号)。以下「健康保険の算定方法」という。)に基づいて行うことになっている。そして、老人特掲診療料の診療報酬は健康保険の算定方法による額より低く定められており、さらに、この老人特掲診療料の中でも特例許可外老人病院に関する事項の診療報酬は当該病院の性格からして最も低いものとなっている。
しかして、本院が63年中に、北海道ほか19都府県(注1)
において、一般病院として医療費を請求している4,789保険医療機関のうち基準看護の承認を受けている病院等を除いた2,275保険医療機関について、62年1月から3月までの間における老人収容比率を、当該保険医療機関から国民健康保険団体連合会等の機関に提出されている診療報酬請求書記載のデータをコンピュータを利用するなどして調査したところ、老人収容比率の平均値が100分の60以上となっていて特例許可外老人病院に該当しているのに、診療報酬を、特例許可外老人病院に関する事項によることなく、この場合に比べて高く設定されている一般的事項又は健康保険の算定方法により算定し請求しているものが、北海道ほか15都府県(注2)
において36病院(これらの老人収容比率は100分の61から100分の126)見受けられ、これらに対する診療報酬のうち、62年4月診療分から63年3月診療分に係る検査料、注射料、処置料及び入院時医学管理料が、270市町村において19,164件、213,016,130円過大になっていると認められた。
その一例をあげると、次のとおりである。
A県のB病院においては、医療法上の許可病床数に基づく62年1月から3月までの延べ病床数は11,501床であるのに対し、同期間中に70歳以上の者に当てられた病床数は延べ7,673床となっていて、その老人収容比率は100分の66とり、同病院は特例許可外老人病院に該当するものであった。しかして、同県の場合は、該当しうるすべての医療機関に老人収容比率の届出書の提出を義務付けており、同病院からの当該届出書について調査したところ、62年度の老人収容比率を100分の59とし、同年4月診療分からの診療報酬については、
〔1〕 特例許可外老人病院における検査料は、一定範囲の血液化学検査、末梢血液一般検査等の検査についてはその種類、項目数又は回数にかかわらず月に1,500円となっているのに、実施した12項目の血液化学検査2回、末梢血液一般検査2回、血液採取5回について、いずれも健康保険の算定方法に基づいてそれぞれ3,600円(12項目2回分)、1,100円(2回分)、550円(5回分)、計5,250円と算定したり、
〔2〕 特例許可外老人病院の入院患者に係る入院時医学管理料は、入院日数に、その日数に応じて760円から2,250円の単価を乗じて算定することになっているのに、一 般的事項の入院時医学管理料の単価の800円から3,850円を乗じて算定したりなどして請求しており、結局、同病院の63年3月診療分までの請求1,091件に係る診療報酬3億8258万余円は、特例許可外老人病院の診療報酬によって再計算すると3億6355万余円となり、差引1902万余円の診療報酬の請求が過大となっていた。
いま、前記過大となっている診療報酬213,016,130円について国の負担相当額を計算すると、老人医療給付費国庫負担金で42,603,226円、老人保健医療費拠出金国庫負担金で30,279,345円、老人保健医療費拠出金国庫補助金で1,417,895円、厚生保険特別会計における老人保健拠出金で40,238,862円、船員保険特別会計における老人保健拠出金で1,218,369円、計115,757,697円となる。
このような事態を生じているのは、保険医療機関において、老人医療費算定基準等に従った請求及び都道府県への適正な届出についての認識が十分でないことにもよるが、
(1) 都道府県において、各保険医療機関に対して老人医療費算定基準等を遵守させるための指導が十分でなく、また、老人収容比率を把握するための調査もほとんど行われていないこと、
(2) 貴省において、都道府県に対し、老人収容比率の具体的な実態把握の方法を示していないこと
などによると認められる。
ついては、近年老人人口の増加等に伴い老人医療費が大幅な増こう傾向にあることにかんがみ、貴省において、都道府県に対して保険医療機関への老人医療費算定基準等を遵守させるための指導を一層強化させるとともに、国民健康保険団体連合会等の機関に提出されている診療報酬請求書記載のデータをコンピュータで処理し、その処理データを基に調査を行うなど特例許可外老人病院に係る老人収容比率の具体的な把握の方法を定めて都道府県に示し、もって老人保健法及び老人医療費算定基準の適正な運用を図る要があると認められる。
よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。
(注1) 北海道ほか19都府県 北海道、東京都、大阪府、青森、岩手、神奈川、新潟、富山、石川、福井、長野、三重、兵庫、和歌山、鳥取、徳島、福岡、佐賀、熊本、鹿児島各県
(注2) 北海道ほか15都府県 北海道、東京都、大阪府、神奈川、新潟、富山、石川、福井、長野、三重、兵庫、和歌山、福岡、佐賀、熊本、鹿児島各県