会計名及び科目 | 厚生保険特別会計(年金勘定) (項)保険給付費 |
部局等の名称 | 社会保険庁 |
給付の根拠 | (1) 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号) |
(2) 国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)の規定 による改正前の厚生年金保険法 |
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給付の種類 | 厚生年金保険の年金のうち老齢厚生年金、障害厚生年金、老齢年金、障害年金 |
給付の内容 | 被保険者の老齢、障害に対する年金の給付 |
支給の相手方 | 1,810人 |
上記に対して過払となっていた加給年金額の合計 | 1,532,215,998円 |
上記1,810人に対する老齢厚生年金等の支給に当たり、配偶者を対象とする加給年金額が加算された老齢厚生年金等について、年金額の改定又は加給年金額相当額の支給停止の必要があるのにこれを行っていなかったため、老齢厚生年金等1,532,215,998円が過払となっており、このうち428,558,807円は、既に当該過払金に係る返納金債権の時効期限である5年を経過していて、回収できないものとなっていた。
このような事態を生じているのは、受給権者において、加給年金額加算の対象配偶者が死亡したとき、対象配偶者と離婚したとき又は対象配偶者が一定要件の公的年金の支給を受けることとなったときの届出を速やかに行っていないこと、社会保険庁において、その届出が行われなかったりなどした場合の対策が十分に執られていなかったことなどによると認められる。
したがって、社会保険庁において、受給権者本人の生存確認と同様に、対象配偶者の生存等に関しても第三者の証明によるなどして現況の確認を行い、その確認のできないものについては加給年金額相当額の支給の一時差止めを行うことができるような体制の整備を図ったり、対象配偶者に係る公的年金の受給状況の確認に関してコンピュータを利用した事務処理体制の確立を図ったり、各共済組合等と連絡調整を図ったりするなどの措置を講じ、もって老齢厚生年金等の支給の適正化を図る要がある。
上記に関し、昭和63年11月21日に社会保険庁長官に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。
貴庁では、厚生年金保険の被保険者及びその遺族を対象として、老齢、障害又は死亡に関し、老齢厚生年金、障害厚生年金、老齢年金、障害年金等の年金を支給している。そして、これらの年金の昭和62年度末の受給権者数は864万余人となっていて、同年度における支給額は8兆2320億6872万余円と多額に上っている。このうち、老齢厚生、障害厚生、老齢及び障害の各年金(以下「老齢厚生年金等」という。)の受給権者数は、老齢厚生年金623,227人、障害厚生年金31,548人、老齢年金3,542,054人、障害年金267,368人、合計4,464,197人となっている。
しかして、老齢厚生年金及び老齢年金は一定の年齢に達するなどの要件を満たしている者が受給権者となるもので、その年金額は、被保険者期間を基礎とする定額部分と被保険者期間及び当該期間に係る平均標準報酬月額を基礎とする報酬比例部分とを合算した額を基本となる年金額とし、この年金額に、当該年金の受給権者がその権利を取得した当時その者によって生計を維持されていた配偶者(老齢厚生年金については65歳未満の配偶者)等を有している場合には、配偶者等を対象とする加給年金額(配偶者については61年4月からは186,800円、62年4月からは187,900円、63年4月からは188,100円)を加算した額となっている。また、障害厚生年金及び障害年金は被保険者期間中に初診日のある障害等について一定の障害等級に該当するなどの要件を満たしている者が受給権者となるもので、このうち1級又は2級の障害の状態に該当する者のその年金額は、上記報酬比例部分に一定の率を乗じて得た額又は上記の基本となる年金額に一定の率を乗じて得た額にそれぞれ上記加給年金額(障害厚生年金については65歳未満の配偶者)を加算した額となっている。
そして、
(1) 加給年金額の対象となる配偶者(以下「対象配偶者」という。 62年度末現在3,120,925人。)が死亡したり、老齢厚生年金等の受給権者(以下「受給権者」という。)と離婚したりなどしたときには、加給年金額を加算しないものとして年金額の改定(以下「年金額の改定」という。)を行うこと、
(2) 対象配偶者が老齢厚生年金等(このうち老齢厚生年金については、年金額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が240以上であるなどの要件に該当するものに限る。以下「一定要件の老齢厚生年金等」という。)、国民年金の障害基礎年金及び障害年金(以下「障害基礎年金等」という。)、共済組合の退職共済年金(年金額の計算の基礎となる組合員期間の月数が240以上であるなどの要件に該当するものに限る。)、障害共済年金、退職年金、減額退職年金及び障害年金(以下「退職共済年金等」という。)並びにその他の退職又は障害を支給事由とする年金給付(以下これらの年金給付を総称して「公的年金」という。)の支給を受けることができるときには、加給年金額に相当する部分の支給停止(以下「加給年金額の支給停止」という。)を行うこととなっている。
上記年金額の改定及び加給年金額の支給停止の手続についてみると、受給権者は、対象配偶者が前記(1)の年金額の改定事由に該当することとなったときには、10日以内に該当するに至った年月日等を記載した加給年金額対象者不該当届(以下「不該当届」という。)を、また、前記(2)の加給年金額の支給停止事由に該当することとなったときには、速やかに対象配偶者が支給を受けることとなった公的年金の名称等を記載した加給年金額支給停止事由該当届(以下「支給停止届」という。)をそれぞれ社会保険事務所を経由するなどして貴庁に提出し、これらの届け書の提出を受けた貴庁では、当該事由が発生した翌月からそれぞれ年金額の改定又は加給年金額の支給停止を行うこととしている。
そして、貴庁では、受給権者本人の現況を確認するため、毎年1回、受給権者の誕生日の属する月の末日までに、第三者による生存証明書を添付した現況届を提出させているが、この現況届には対象配偶者についての異動の有無をも記入させ、受給権者が対象配偶者について上記事実が発生しているのに所定の手続を執ることを失念した場合でも現況届に上記記載があれば、これに基づいて不該当届又は支給停止届を提出させて年金額の改定又は加給年金額の支給停止を行うこととしている。また、この現況届の用紙を受給権者に送付する際に、上記手続の周知徹底を図るため届出の必要性を記載した「受給者のしおり」や、届出の記入要領を同封したりするなどの対策を執っているところである。
しかして、本院において、東京都大田区及び札幌市ほか9指定都市(注) のうちの63区に居住する受給権者のうち老齢厚生年金等の年金の支給を受けている者(以下「受給者」という。)381,125人の中から対象配偶者に係る加給年金額の支給を受けている221,054人を抽出して調査したところ、年金額の改定又は加給年金額の支給停止の必要があるのにこれを行っていなかったものが1,810人見受けられ、これらの者に対する年金の過払額は総額15億3221万余円に上っていて、しかもこのうち4億2855万余円は、既に当該過払金に係る返納金債権の時効期限である5年を経過していて、回収できないものとなっていた。
これを態様別に示すと次のとおりである。
(1) 対象配偶者が既に死亡又は受給者と離婚しているのに年金額の改定を行っていないもの
受給者数 | 1,070人 | ||
過払加給年金額 | 9億5084万余円 |
(2) 対象配偶者に公的年金が支給されているのに加給年金額の支給停止を行っていないもの
ア 公的年金が一定要件の老齢厚生年金等又は障害基礎年金等の場合 | |||
受給者数 | 546人 | ||
過払加給年金額 | 4億2978万余円 | ||
イ 公的年金が退職共済年金等の場合 | |||
受給者数 | 194人 | ||
過払加給年金額 | 1億5158万余円 |
また、上記の1,810人について、年金額の改定又は加給年金額の支給停止が行われないまま支給されていた期間別の人数、過払額を見ると、
〔1〕 1年以内のもの | 158人 | |
2370万余円 | ||
〔2〕 1年を超えて3年以内のもの | 417人 | |
1億4780万余円 | ||
〔3〕 3年を超えて5年以内のもの | 265人 | |
1億9058万余円 | ||
〔4〕 5年を超えて10年以内のもの | 779人 | |
8億3275万余円 | ||
このうち時効期限5年経過のもの 2億6641万余円 |
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〔5〕 10年を超えているもの | 191人 | |
3億3736万余円 | ||
このうち時効期限5年経過のもの 1億6213万余円 |
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合計 | 1,810人 | |
15億3221万余円 | ||
このうち時効期限5年経過のもの 4億2855万余円 |
となっていて年金額の過払が相当長期間に及んでいる状況であった。
このような事態を生じているのは、
受給権者において、
対象配偶者が死亡したり、対象配偶者と離婚したりなどしたときは不該当届を10日以内に、また、対象配偶者が公的年金の支給を受けることとなったときは支給停止届を速やかに提出してその状況を報告することになっているのに、これらについての理解が十分でないことにもよるが、
貴庁において、
対象配偶者に係る生存、婚姻関係等の現況及び公的年金の受給状況の確認は、原則として受給権者からの届出によって行うこととしているものの、
(1) 受給権者が不該当届を提出しなかったりなどした場合の対策として、受給権者本人の生存の確認については、毎年、第三者による生存証明書を添付した現況届を提出させ、その提出がない場合には厚生年金保険法施行規則(昭和29年厚生省令第37号)によって支給の一時差止めを行っているのに、対象配偶者に係る生存、婚姻関係等の現況の確認については、このような措置を執っていなかったこと、
(2) 受給権者において老齢厚生年金等の裁定請求書に対象配偶者の公的年金の受給状況を記入しなかったり、支給停止届を提出しなかったりなどした場合の対策として、貴庁が所掌している一定要件の老齢厚生年金等及び障害基礎年金等の受給状況の確認については、厚生年金保険及び国民年金の受給データを利用することなどが可能であったり、貴庁が所掌していない公的年金の受給状況の確認については、各共済組合等と連絡調整を図る要があったりなどしたのに、これらの措置を執っていなかったことなどによると認められる。
ついては、前記事態にかんがみ、貴庁において、今後も引き続き対象配偶者に係る加給年金額が加算された老齢厚生年金等の受給権者の発生が見込まれることから、対象配偶者が死亡したり、公的年金を受給したりなどした場合には受給権者に対して、不該当届又は支給停止届を速やかに提出させるため、「受給者のしおり」などを工夫したりなどして一層の周知徹底を図ることはもとより、年金額の改定又は加給年金額の支給停止を適切に行うため、
(1) 貴庁が受給権者本人の生存を確認する際に、受給権者本人のほかに、新たに対象配偶者に係る生存、婚姻関係等に関しても第三者の証明によるなどして現況の確認を行い、生存等の確認のできないものについては加給年金額の支給の一時差止めを行うことができるような体制の整備を図ること、
(2) 貴庁が老齢厚生年金等の裁定時及び裁定後、受給権者に係る事務処理を行う際に、対象配偶者に係る一定要件の老齢厚生年金等及び障害基礎年金等の受給状況の確認については、コンピュータを利用して受給権者の住所、氏名等により調査等ができるような事務処理体制の確立を図ったり、対象配偶者に係る上記年金以外の公的年金の受給状況の確認については、それらの公的年金の事務を所掌する各共済組合等と連絡調整を図ったりすること
などの措置を講じ、もって老齢厚生年金等の支給の適正化を図る要があると認められる。
よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。
(注) 札幌市ほか9指定都市 札幌、川崎、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、北九州、福岡各市