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  • 昭和62年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第10 国際協力事業団|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

国際航空運賃の支払方法を経済的なものに改善させたもの


国際航空運賃の支払方法を経済的なものに改善させたもの

科目 (款)海外技術協力事業費 (項)研修員受入費 (項)専門家派遣費
(項)技術協力センター費
(項)保健医療協力費
(項)人口家族計画協力費
(項)農林業協力費 (項)産業開発協力費
(項)開発協力費
部局等の名称 国際協力事業団本部
経費の概要 海外にある開発途上地域の経済及び社会の発展に寄与し、国際協力の促進に資することを目的として、開発途上地域からの研修員の受入れ及び開発途上地域へ派遣した各種専門家の帰国に係る国際航空運賃を日本PTA方式により支払ったもの
国際航空運賃の合計 研修員の受入れに係るもの 21億9322万余円
専門家の帰国に係るもの 1億8513万余円
23億7836万余円

 上記の国際航空運賃の支払に当たり、支払方法の選択が外国為替相場(以下「為替相場」という。)の動向等を反映したものとなっていなかったため、支払額が約6億8500万円不経済になっていた。
 このような事態を生じたのは、近年の為替相場の円高状況が背景になっているとはいえ、国際航空運賃の支払方法についての明確な基準が定められていなかったことなどによるもので、為替相場の動向等に適切に対応できるよう改善する要があると認められた。

 上記に関し当局に指摘したところ、改善の処置が執られた。

(説明)

  国際協力事業団(以下「事業団」という。)では、開発途上にある海外の地域(以下「開発途上地域」という。)の経済及び社会の発展に寄与し、国際協力の促進に資することを目的として、開発途上地域の政府等の要請に基づいて、研修員の受入れ、各種専門家の派遣等を実施しており、これら研修員の受入れ、専門家の派遣に際して毎年度多額の国際航空運賃(以下「航空賃」という。)を支払っている。
  しかして、これらの航空賃の支払方法について調査したところ、次のとおり、適切とは認められない事態が見受けられた。

1 研修員の受入れに係る航空賃の支払方法について

   事業団では、昭和62年度中に4,685名の研修員を日本に受け入れて研修を行っており、このうち、4,180名については、研修員の居住する国と日本との往復の航空賃を負担している。
 航空賃は、為替相場の変動による影響を避けるため、原則として、旅行開始国(以下「出発地国」という。)の通貨建てで設定されている(注1) 。そして、本件のように海外を出発地として日本を到着地とする場合の航空賃の支払方法には、

〔1〕  日本にある旅行業者を通じて、日本で航空会社に航空賃を円貨で支払い、その航空会社から通知を受けた出発地国所在の航空会社が航空券を発券し、旅行者に交付する方式(以下「日本PTA方式」という。 PTA:Prepaid Ticket Advice)

〔2〕  日本にある旅行業者を通じて、国際航空路線の主要な拠点となっている第三国に所在する航空会社に航空賃をその国の通貨で支払い、その航空会社から通知を受けた出発地国所在の航空会社が航空券を発券し、旅行者に交付する方式(以下「第三国PTA方式」という。第三国がアメリカ、シンガポール、フランスである場合、それぞれ「アメリカPTA方式」、「シンガポールPTA方式」、「フランスPTA方式」という。)

〔3〕  日本から送金するなどして、出発地国において航空賃をその国の通貨で支払い、航空券を旅行者に交付する方式(以下「現地支払方式」という。)などがあるが、本件4,180名に係る航空賃は、日本PTA方式により日本において円貨で21億9322万余円を支払っている。
  しかして、本件の日本PTA方式のように出発地国以外の国で支払を行う場合の航空賃は、

〔a〕  出発地国通貨建ての航空賃を実勢為替相場で支払地国通貨に換算した額 

〔b〕  FCU建て航空賃(注2) に通貨調整率(注3) と1FCU(=1米ドル)当たりの支払地国通貨額を乗じた額の両者を比較して、いずれか高い額によることとされており、日本PTA方式の場合は、〔b〕 の額は1FC(=1米ドル)当たりの日本円貨額が296円とされていて、近年の為替相場の円高状況(62年度の実勢為替相場で1米ドルにつき約122円から154円)を十分に反映したものとなっていないことなどから、円の実勢為替相場に基づいて算出される〔a〕 の額よりも高くなっていて、この〔b〕 の額を航空賃として支払うことになるので、本件航空賃支払も、円高の反映が十分でない〔b〕 の額によっている。

  しかしながら、第三国PTA方式のうちアメリカPTA方式の場合は、アメリカ合衆国政府の取扱いにより、上記の比較計算をせず、〔a〕 の計算方法によって出発地国通貨建ての航空賃を実勢為替相場で換算した額とされており、その支払額は現地支払方式による額と基本的に同額となり、日本PTA方式に比べて経済的なものになっている。 また、第三国PTA方式のうち、シンガポール又はフランスPTA方式の場合は、通常、〔b〕 の額が〔a〕 の額よりも高額となるため、航空賃は〔b〕 の額となるが、この方法における1FCU(=1米ドル)当たりの支払地国通貨額が、それぞれ2.81936シンガポール・ドル、5.1188フランス・フランとされていて実勢為替相場(同約2.0から2.1シンガポール・ドル、約5.3から6.2フランス・フラン)に比較的近いものになっているなどのため、日本PTA方式に比べて経済的なものになっている。

  例えば、62年9月30日時点で、ブラジルから研修員を受け入れる場合のブラジリア発東京行往復の航空賃は、日本PTA方式によると775,000円となるのに対し、アメリカPTA方式又は現地支払方式によると501,670円となり、また、タイから研修員を受け入れる場合のバンコク発東京行往復の航空賃は、日本PTA方式によると295,600円となるのに対し、シンガポールPTA方式によると185,620円となる。そして、このような状況は、他の国から研修員を受け入れる場合においても同様となっている。

  したがって、近年のような為替相場の円高状況下においては、研修員の受入れに係る航空賃の支払に当たり、上記のように割高な日本PTA方式によらずアメリカPTA方式等の第三国PTA方式によることとして、航空賃の節減に努める要があると認められた。
  いま、仮に前記4,180名の研修員の受入れに係る航空賃をアメリカPTA方式等により支払ったとすれば、前記航空賃21億9322万余円は15億9839万余円となり、約5億9480万円が節減できたと認められた。

2 専門家の派遣に係る航空賃の支払方法について

  事業団では、開発途上地域に各種の分野にわたって専門家を派遣しており、62年度においては、専門家派遣事業、技術協力センター事業、農林水産業協力事業等において、計3,402名の専門家を派遣している。
  しかして、事業団では、専門家の派遣に係る航空賃の支払に当たり、派遣期間が1年以上の長期派遣専門家(以下「長期専門家」という。)の赴任及び帰国に係る航空賃は、航空券の有効期間が1年間とされているため、赴任時と帰国時との分に分けてそれぞれ支給している。そして、62年度中に帰国(一時帰国を含む。以下同じ。)した長期専門家782名のうち231名とその同行家族222名の計453名に係る航空賃は、日本PTA方式により1億8513万余円を支払っている。

  しかしながら、前項で述べたとおり、これらの帰国者に係る航空賃についてもアメリカPTA方式等又は現地支払方式により支払うこととして、航空賃の節減に努める要があると認められた。
  いま、仮に前記453名の帰国に係る航空賃をアメリカPTA方式等又は現地支払方式により支払ったとすれば、前記の1億8513万余円は9417万余円となり、約9090万円が節減できたと認められた。

  このような事態となっているのは、日本PTA方式による航空賃が近年の為替相場の円高状況を反映していないことが背景になっているとはいえ、事業団において、航空賃の支払方法についての明確な基準が定められておらず、また、円高状況下における経済的な支払方法について十分な検討を行っていないことなどによると認められた。

 上記についての本院の指摘に基づき、国際協力事業団では、63年11月に「国際航空運賃の支払方法に関する基準」を定め、研修員の受入れ等に係る航空賃の支払方法について取扱いを明確にし、為替相場の動向等に適切に対応することとする処置を講じた。

(注1) ブラジル等の中南米諸国、インドネシア、フィリピン、韓国等では、自国発航空賃を自国通貨ではなく、米ドル建てで設定している。
(注2) FCU建て航空賃  航空賃は出発地国通貨建てのほかに、FCU建てによっても設定されている。そしてFCU(Fare Construction Unit)は、乗り継ぎ等で複数の航空会社を利用する場合などの航空賃の計算や精算の手段として用いられる共通単位で、1FCU当たりの各国通貨額は国際航空運送協会規則で定められている。
(注3) 通貨調整率  1FCU当たりの通貨額と実勢為替相場とのかい離を調整するため国際航空運送協会規則で定められている率