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  • 昭和62年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第3節 特に掲記を要すると認めた事項

住宅用家屋の所有権の移転登記等に係る登録免許税の税率軽減の制度の運用について


住宅用家屋の所有権の移転登記等に係る登録免許税の税率軽減の制度の運用について

 住宅用家屋の所有権の移転登記等に係る登録免許税の税率軽減の制度は、住宅施策の一環として設けられているもので、取得した個人が自らの居住の用に供するものを対象としているが、昭和61年度中に同制度の適用を受けていたもの889,715件中所有権の移転登記に係るものの中から29,203件(登録免許税の納付済額の合計8億0232万余円)を抽出して調査しただけでも、登記後に転入手続をとらないで第三者に使用させていたり、当該家屋を事務所等の用に供していたりなどしている事態が1,240件(同3408万余円、これに係る登録免許税の軽減額2億2270万余円)の申請について見受けられ、これらは本制度の趣旨に沿わないばかりでなく、登録免許税の課税が適正を欠いた状況となっていると認められる。

(説明)

 不動産登記を行うに当たっては、登録免許税法(昭和42年法律第35号)の規定に基づき、登録免許税を納付することになっており、このうち、建物の所有権の移転登記に係る登録免許税の額は、同法第9条の規定により、当該建物の価額を課税標準とし、その登記原因別の税率1000分の50、1000分の25又は1000分の6により計算することとされているが、租税特別措置法(昭和32年法律第26号。以下「措置法」という。)第73条の規定により、住宅用家屋については個人が取得して当該個人の居住の用に供したことなど一定の要件に該当する場合には、上記の税率1000分の50又は1000分の25は、1000分の6に軽減することとされており、61年度中にこの規定の適用を受けて税額が軽減されたものは93,587件、その軽減額は約279億円(注1) 、軽減後の登録免許税の納付済額は39億5590万余円となっている。同様に、住宅用家屋の所有権の保存登記については措置法第72条の規定により、抵当権の設定登記については措置法第74条の規定により登録免許税の税率を軽減することとされており、それぞれ、61年度中にこれらの規定の適用を受けて税額を軽減されたものは427,520件、368,608件、その軽減額は約96億円(注2) 、約56億円(注2) 、軽減後の登録免許税の納付済額は96億7926万余円、56億8245万余円となっていて、これらの軽減措置の総数は889,715件、その軽減額は約431億円に上っている。

 この登録免許税の税率の軽減の制度は、良質な住宅の取得を促進し、国民の居住水準の向上等に資することを目的とした住宅施策の一環として実施されているもので、措置法第73条等の規定の適用を受けるためには、政令等で定めるところにより、住宅用家屋についてはその所在地の市町村長等から一定の要件に該当する旨の証明を受け、登記所に対する登記申請に当たってはその証明書を申請書に添付しなければならないこととされている。

 この軽減措置の事務処理については、住宅行政を所掌している建設省が、法務省、自治省及び国税庁と協議のうえ発した「住宅用家屋の所有権の保存登記等の登録免許税の税率の軽減措置に係る市町村長の証明事務の実施について」(昭和59年建設省住宅局長通知住民発第32号)によると、証明を受けようとしている個人が既に住宅用家屋の所在地へ住民票を移し転入手続を済ませている場合にあっては住民基本台帳又は住民票の写しにより、まだこの転入手続を済ませていない場合にあっては入居予定年月日等を記載した当該個人の申立書等により確認したうえ、市町村長が証明書を発行することとされており、法務省では、所管の各登記所において住宅用家屋の所有権の移転登記等の際、その登記申請書、それに添付された上記の証明書を調査のうえ税率を軽減するか否かを決定している。

 しかして、本院が63年4月から9月までの間に、東京法務局ほか85登記所(注3) において、住宅用家屋の所有権の移転登記に係る登録免許税の税率の軽減を受けたものの中から29,203件を抽出し、さらに、このうちから登記申請者が登記申請日までに当該家屋の所在地への転入手続を済ませていなかったもの13,960件を選定して、当該家屋の所在地へのその後の転入手続の状況を調査したところ、登記申請日から1年以上経過しているにもかかわらず転入手続がとられておらず、税率の軽減を受けるための要件である登記申請者が居住の用に供したことの確認ができないものが2,991件あったので、さらに、このうち789件について、家屋の実際の使用状況を確認したところ、〔1〕 第三者が入居していたり空き家となっていたりしているものが575件、これらに係る登録免許税の軽減額1億1558万余円、〔2〕 事務所等に使用されていて、住宅の用に供されていないものが94件、これらに係る登録免許税の軽減額2207万余円、となっており、また、その他の2,202件については、その建物登記簿、登記申請書等により確認したところ、〔3〕 当該家屋が登記後半年以内の間に他へ売却されているなどしているものが571件、これらに係る登録免許税の軽減額8504万余円あり、前記13,960件の8.8%に当たるこれらの合計1,240件、これらに係る登録免許税の軽減額2億2270万余円については、登記申請者が本件軽減措置を受けて登記を行った後長期にわたって居住の用に供していないままとなっていた。

 これらは、個人が取得し、当該個人の居住の用に供した家屋に関して税額を軽減することにより良質な住宅の取得を促進するという本制度の趣旨に沿わないばかりでなく、登録免許税の課税が適正を欠いた状況となっていると認められる。

 なお、このような事態は、登記申請者の納税意識の欠如に起因するものではあるが、本制度に関係する省庁が建設省、法務省、大蔵省と数省にわたっており、しかもこの制度の重要な要件である居住の証明を市町村に依存しているのに、建設、法務両省間における連携や市町村に対する指導等が不十分のままこのような事態の予防及び発生後の対応策等についての体制が必ずしも整備されていないことにもよると認められ、建設省では関係省庁と協議のうえ63年11月に自ら居住する住宅用家屋である旨の証明に要する申請書類の充実を図り、審査を適正に行うこととするなどの通知を発し、また、法務省は司法書士を通じて本制度の趣旨の周知を図ってはいるが、前記のように本制度の対象件数及び金額が多いこと、上記のような検査結果などからみて、今後の推移になお注目の要があると認められる。

(注1) 軽減後の登録免許税納付済額39億5590万余円を建物に関する登記の実績の割合により登録免許税の税率が1000分の50のものと、1000分の25のものとにあん分し、それぞれの登録免許税軽減額を税率軽減割合に応じて計算して合計した推計値
(注2) 税率軽減割合に応じて軽減後の登録免許税納付済額と同額とした推計値
(注3) 東京法務局ほか85登記所  東京、大阪、名古屋、仙台各法務局、横浜、浦和、千葉、水戸、神戸、大津、佐賀、鹿児島、福島、山形各地方法務局、八王子、川崎、大宮、越谷、所沢、船橋、市川、土浦、尼崎、水口、小松、唐津、加治木、鹿屋、塩竈各支局、墨田、大森、世田谷、板橋、練馬、江戸川、城北、府中、調布、田無、立川、神奈川、金沢、川和、戸塚、鎌倉、溝口、川口、狭山、千葉西、牛久、取手、北、西、今宮、天王寺、東住吉、吹田、池田、枚方、須磨、西宮、宝塚、御影、堅田、草津、守山、八日市、八幡、熱田、鳴海、昭和、名東、瀬戸、宇ノ気、野々市、松任、問屋町、鶴来、神埼、小城、鳥栖、谷山、国分、東仙台、山辺、天童各出張所