本院は、平成21年10月に、農林水産大臣及び林野庁長官に対して、農林水産省が公益法人、組合及び任意団体に補助金等を交付して設置造成させている資金及び基金並びにこれらの運用益の有効活用等を図るよう、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した。
本院が要求した改善の処置及び当局が講じた処置又は当局の処置状況は、次のとおりである。
農林水産省は、地域ぐるみでの効果の高い共同活動等を一体的かつ総合的に支援する農地・水・環境保全向上対策を、国庫補助事業により実施している。本対策により地域協議会が積み立てた資金について検査したところ、多額の残高が生じていて、その残高が平成20年度末には19年度末より大幅に増加していたり、地域協議会から資金の交付を受けた活動組織に多額の繰越額が生じているにもかかわらず、その使途が明確になっていなかったりしている事態が見受けられた。
したがって、農林水産省において、資金に多額の年度末残高が生じた場合及び活動組織に多額の繰越額が生じた場合の取扱いを早急に定めて、地域協議会からその資金の残高の一部を国庫に返還させるなどして資金の有効活用を図るとともに、活動組織に繰越額の使途を明確化させるなどしてその透明性を十分確保する処置を講ずるよう要求した。
本院は、農林水産本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、農林水産省は、本院指摘の趣旨に沿い、資金の残高について今後の資金の需要を改めて把握し、本対策が終了する23年度末に残高が生じないよう22年度予算を減額するとともに、21年11月に、活動組織から地域協議会に対し、繰越額の使用予定の報告を行うよう農地・水・環境保全向上対策に係る実施要領の一部を改正し、地域協議会を通じて、活動組織に対し周知徹底を図るなどの処置を講じていた。
農林水産省は、緊急食糧支援として被援助国等へ貸し付けた米穀が金銭の償還により返済される場合に、食料安定供給特別会計に損失を発生させないため、将来発生すると見込まれてんる損失を貸付期間内で平準化するための差額補填資金造成事業を実施している。農林水産省が社団法人国際農林業協働協会にその全額を国庫補助金により設置造成させている差額補填資金等から生じた運用益について検査したところ、運用益を管理運営経費に充当した後の残余額(以下「運用益残額」という。)については、実施要綱において、事業終了時に国庫に返還すると定めているものの、事業終了までの間の処理方法は定めていなかった。このため、多額の運用益残額が同協会に保有されていて有効活用されていなかった。
したがって、農林水産省において、実施要綱の改正等を行い、原則として運用益残額を国庫に返還させるなどして運用益残額の有効活用を図る処置を講ずるよう要求した。
本院は、農林水産本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、農林水産省は、本院指摘の趣旨に沿い、平成22年4月に実施要綱の改正等を行い、運用益残額を22年度中に国庫に返還させて、運用益残額の有効活用を図る処置を講じていた。
農林水産省は、水田農業構造改革対策の一環として、都道府県水田農業推進協議会(以下「県協議会」という。)に対して交付金を交付して資金を造成させており、県協議会は、この資金により、米の生産調整を実施する農業者等に助成金を交付する地域水田農業推進協議会に助成金を交付している。46県協議会が造成している資金について検査したところ、農林水産省は、地域水田農業推進協議会に対する助成金として交付されなかった多額の残余資金を県協議会に保有させたまま有効活用していなかった。また、残余資金の具体的な取扱方法を定めておらずその透明性を十分確保していなかった。
したがって、農林水産省において、水田農業構造改革対策実施要綱の改正等を行い、今後、国からの交付金により造成された資金に残余資金が生じた場合は、原則として国庫に返還させるなどして残余資金の有効活用を図るとともに、残余資金の取扱いについて透明性を十分確保する処置を講ずるよう要求した。
本院は、農林水産本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、農林水産省は、本院指摘の趣旨に沿い、平成22年4月に新たに制定した戸別所得補償モデル対策実施要綱において水田農業構造改革対策実施要綱を廃止し、併せて県協議会が水田農業構造改革対策における資金造成事業により造成した資金に残余があるときは、当該残余資金のうち国の交付金相当額を国庫に返還するとの定めを設けて、残余資金の有効活用を図るとともに、残余資金の取扱いについて透明性を確保する処置を講じていた。
農林水産省は、果樹対策の一環として、財団法人中央果実生産出荷安定基金協会に対して国庫補助金を交付して果樹対策資金を造成させており、同協会は、この資金により、果実の計画的生産等を実施した果実出荷事業者に補給金を交付するなどしている都道府県の区域内において果樹対策に関する業務等を行う法人に補助金を交付している。同協会が果樹対策資金の運用益の一部を積み立てた剰余積立金について検査したところ、農林水産省は、同協会が保有している多額の同積立金を有効活用していなかった。また、同協会は、同積立金から生じた運用益の額及びその使途を把握できていなかった。
したがって、農林水産省において、実施要綱の改正等を行い、原則として剰余積立金を国庫に返還させるなどして剰余積立金の有効活用を図るとともに、剰余積立金の運用益が生じた場合の取扱いについて透明性を十分確保する処置を講ずるよう要求した。
本院は、農林水産本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、農林水産省は、本院指摘の趣旨に沿い、平成22年3月に実施要綱の改正等を行い、剰余積立金を果樹対策資金に繰り入れることとするなどして同積立金を廃止するとともに、果樹対策資金について所要額を除いて国庫に返還させることとして、剰余積立金の有効活用を図る処置を講じていた。
農林水産省は、農業移住者等の営農の安定に必要な資金等の調達を円滑にするため、農業移住者等を資金面で援護しようとする者が金融機関から資金を借り入れる際の債務の保証等を8県に所在する財団法人農業拓植基金協会等(以下「地方基金協会」という。)及び社団法人中央農業拓植基金協会(以下「中央基金協会」という。)に行わせる海外農業移住交流事業を、これらの協会に国庫補助金を交付して基金を造成させることにより実施している。本事業の一環として中央基金協会等が造成した基金について検査したところ、近年、新規の債務保証が行われず、保証債務残高も大きく減少していることなどから、その基金規模が保証需要に比較して著しく過大となっている事態や地方基金協会の解散等の後に、運用益が農業移住者等に係る債務保証業務の経費に使用されないことになっている事態が見受けられた。
したがって、農林水産省において、今後の海外農業移住交流事業の実施の在り方について、事業の終了も視野に入れて十分に検討するとともに、中央基金協会等が造成した基金のうち、需要が見込まれない基金に係る国庫補助金相当額については原則として国庫に返還させること及び地方基金協会の解散時等における運用益の取扱いを明確に定めて、農業移住者等に係る債務保証業務を行っている地方基金協会に周知することなどの処置を講ずるよう要求した。
本院は、農林水産本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、農林水産省は、本院指摘の趣旨に沿い、平成21年11月に中央基金協会の基金のうち、今後需要が見込まれない基金に係る国庫補助金相当額を国庫へ返還させるとともに、地方基金協会が解散等する場合には、国庫補助金額、運用益に係る国庫補助金相当額を合算した合計額を国庫に返還させるなどの取扱いを明確に定め、関係各県知事を通じて地方基金協会に対して周知するなどの処置を講じていた。
そして、海外農業移住交流事業については、今後の保証需要を見極めながら23年度に事業を終了させることも視野に入れ引き続き検討を行っていくこととしている。
林野庁は、森林整備に必要な林業労働力の育成・確保及び地域の活性化を図ることなどを目的として、全国森林組合連合会に国庫補助金を交付して緑の雇用担い手対策事業等を実施している。国庫補助金により全国森林組合連合会に造成された資金について検査したところ、資金残高が毎年度多額に上っており、滞留した資金が有効活用されず、事業が完了する平成22年度末においても多額の資金残高が見込まれる事態となっていた。
したがって、林野庁において、22年度の事業の実施に当たっては、22年度末に多額の資金残高が生ずることのないよう、21年度末の資金残高及び22年度の資金の使用見込額を的確に把握した上で、資金需要に見合った国庫補助金を交付するなど資金の有効活用を図る処置を講ずるよう要求した。
本院は、林野庁において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、林野庁は、本院指摘の趣旨に沿い、事業完了年度である22年度の国庫補助事業の実施に当たって、年度末に資金残高が生じないよう、資金需要に見合った補助金を交付することとして資金の有効活用を図る処置を講じていた。
苗木需給安定基金造成事業により造成された基金の有効活用について
林野庁は、林業用苗木の計画的な生産の確保と生産調整の円滑な実施を行い、もって計画的な造林の推進に資することを目的として、苗木生産者に対し出荷調整交付金を交付する苗木需給安定基金造成事業を、国庫補助事業により実施している。本事業により28道県の林業用苗木生産組合等(以下「苗木生産組合等」という。)に造成された基金について検査したところ、近年、苗木生産者に対する出荷調整交付金の交付実績が低調で、基金の造成に充てられた財政資金が長期間にわたり効果を発現することなく滞留して有効活用されていない事態が見受けられた。
したがって、林野庁において、基金の在り方を検討するための基準等を策定して、これを道県及び苗木生産組合等に示し、事業継続の妥当性や造成した基金を国庫に返還することの要否を検討させるとともに、本件事業の実施状況の把握に努め、その状況に応じて的確な指導を行うなどして、基金の有効活用を図る処置を講ずるよう要求した。
本院は、林野庁において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、林野庁は、本院指摘の趣旨に沿い、平成21年10月に通知を発出して、基金の国庫への自主納付について検討するための基準等を道県及び苗木生産組合等に示し、各道県担当者を集めた会議において、その周知徹底を図った。そして、道県から毎年度の事業実施状況等を報告させて、事業の実施状況の把握に努めるとともに、道県及び苗木生産組合等に事業継続の妥当性や造成した基金を国庫に返還することの要否を検討させるなどした上で、事業を行わないと判断した場合は基金を返還させて、基金の有効活用を図る処置を講じていた。