科目 | 一般勘定 (款)事業支出 (項)契約収納費 | ||
部局等 | 日本放送協会本部及び46放送局 | ||
契約の概要 | 各都道府県に所在する旅館生活衛生同業組合等に受信契約の取次ぎ・収納等に係る業務を委託するもの | ||
契約の相手方 | 51団体 | ||
支払対象となった受信契約件数及び受信料収納額 | 265,773件 | 28億5718万余円 | (平成21年度) |
上記に対する委託料支払額 | 8億4346万円 | (背景金額) |
事業所との受信契約の取次ぎ・収納等に係る業務委託契約について
(平成22年10月28日付け 日本放送協会会長あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴協会は、放送法(昭和25年法律第132号)により、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行うことなどを目的として設立された法人である。放送法では、貴協会の放送を受信することのできる受信設備(以下「受信機」という。)を設置した者は、貴協会とその放送の受信についての契約(以下「受信契約」という。)をしなければならないとされている。貴協会の事業は、貴協会と受信契約を締結した者(以下「受信契約者」という。)が負担する受信料を主な財源として運営されており、その受信料収入は平成21年度で6442億余円に上っている。
受信契約は、放送法の規定により貴協会が総務大臣の認可を得て定めた日本放送協会放送受信規約(以下「受信規約」という。)において、個人がその世帯に受信機を設置する場合には、原則として世帯ごとに受信契約を締結することとされているが、法人等がその事業所等住居以外の場所に受信機を設置する場合には、当該事業所等の部屋、自動車等、受信機の設置場所ごとにそれぞれ受信契約を締結すること(以下「事業所契約」という。)とされている。
そして、放送法の規定によれば、総務大臣の認可を受けた基準によるものでなければ受信契約者から徴収する受信料を免除してはならないとされており、割引等の受信料の特例を定める受信契約の条項についても、あらかじめ総務大臣の認可を受けなければならないこととされている。
貴協会は、受信契約のうち事業所契約について、総務大臣の認可を受けて受信規約を変更し、21年2月から事業所契約に関する特例を導入し、事業所等の同一敷地内に設置している受信機の全数について受信契約を締結することを条件に、2台目以降の受信料について、それらの受信料の半額を割り引くこと(以下「事業所割引」という。)としている。これは、ホテル、旅館等の事業所等においては、複数の場所に受信機が設置されている場合、その設置場所ごとにそれぞれ受信契約が必要とされているため、事業所にとって受信料の経費負担が大きいとの業界団体等からの要望があることなどから、事業所の負担の在り方について見直すとともに、受信契約の促進による受信料の公平負担の徹底を図る取組を強化する方策とされている。ただし、この事業所割引が継続して適切に行われることを担保するために、受信規約において、事業所割引の適用を受けた契約者が受信料を支払期限までに支払わない場合は、貴協会は、当該請求期間及び当該請求期間後の受信料に関して事業所割引を適用しないことができることとなっている。
そして、貴協会は、従来、事業所契約の中でも特に契約率が低い業種であるホテル・旅館の業界団体と受信契約の締結の促進について協議を行ってきたが、多くのホテル・旅館が貴協会の受信料の説明・勧奨に応じない事態が生じていた。そこで、受信契約の促進と契約率の向上、受信料の安定的な収納等が可能となる仕組みを構築するために、業界団体の指導力、影響力に着目し、上記の事業所割引の導入と時期を合わせて、業界団体による契約・収納業務の取りまとめ(以下「業界団体取りまとめ」という。)等を行うこととした。そして、貴協会は、20年7月から業界団体と交渉を重ねた結果、合意が成立したことから、各都道府県に所在する旅館生活衛生同業組合(以下「旅館組合」という。)並びにホテル・旅館業の全国団体である社団法人国際観光旅館連盟、社団法人日本観光旅館連盟、社団法人日本ホテル協会及び社団法人全日本シティホテル連盟(以下、これらを合わせて「旅館組合等」という。)との間で受信契約の取次ぎ・収納等に係る業務委託契約を締結し、21年4月から業務委託を開始している。
上記の業務委託契約は、受信契約の勧奨・締結、受信料の収納・督促、契約の維持・管理等及び受信料支払についての理解促進をはじめ受信料を支払う意識を定着させることなどの活動をすべて含めた包括的な契約であるとされており、その上で貴協会と業界団体が合意したものである。その契約書によると、おおむね以下のような内容となっている。
ア 旅館組合等の行う業務等の範囲について
(ア) 受信契約の取次業務等として、旅館組合等の組合員及び会員(以下「組合員等」という。)の受信契約締結の勧奨・取次ぎ、組合員等に対する適正な受信契約締結の指導等を行うこと
(イ) 受信料の収納業務として、設置している受信機の全数について契約して事業所割引の適用を受けている組合員等への請求額の通知、組合員等からの集金、集金した受信料の貴協会への払込み、組合員等の未収分の督促等を行うこと
(ウ) 協会に対し、旅館の増改築や廃業等の組合員等の情報に関する連絡を行うこと
(エ) 委託業務及び受信契約に関する組合員等からの各種問い合わせに対する対応を行うこと
イ 契約率の増加指標について
旅館組合等は、本件業務の推進に関して、組合員等に対し、放送法及び受信規約に基づき適正な契約がなされるようにするとともに、設置している受信機の全数を契約して、本件業務委託に参加している組合員等数の全組合員等数に対する割合(以下「参加率」という。)が60%を下回らないように努めることとし、参加率が60%を下回った場合は、旅館組合等は、貴協会に対し直ちに報告するとともに、改善に努めることとされている。そして、参加率が60%に満たない場合は、貴協会は、旅館組合等に対して参加率の改善について協議を求め、旅館組合等は誠意をもって対応することとされている。これらは、参加率がホテル・旅館の受信契約数を増加させるために必要な指標であることから、契約条項として定められている。
ウ 委託料の算定方法について
本件業務委託契約における委託料の算定方式は、貴協会と旅館組合の中央連合体である全国旅館生活衛生同業組合連合会及び業界4団体と交渉を重ねた結果合意したものであり、契約書に記載されている取次ぎ、収納、組合員等への指導等の委託内容を包括的に実施するためのものとされている。そして、委託料は、旅館組合等が収納業務の対象としている組合員等から集金して貴協会に払い込む受信料の件数に、受信契約の種別(地上契約、衛星契約等)、支払コース(12か月前払い、6か月前払い等)に応じて定められた単価(事業所割引適用前の受信料の15%相当額)を乗ずるなどして算定することとされている。
本件業務委託契約に係る21年度の委託料の支払状況は、次表 のとおりであり、受信契約件数は計265,773件、受信料の収納額は計28億5718万余円となっており、51旅館組合等に対して計8億4346万余円の委託料が支払われている。
契約相手方 | 受信契約件数 (件)
|
受信料の収納額 (千円)
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委託料の支払額 (千円)
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47旅館生活衛生同業組合 | 165,931 | 1,699,589 | 498,581 |
(社) 国際観光旅館連盟 | 9,588 | 98,248 | 29,121 |
(社) 日本観光旅館連盟 | 14,005 | 144,485 | 42,340 |
(社) 日本ホテル協会 | 67,326 | 811,115 | 242,456 |
(社) 全日本シティホテル連盟 | 8,923 | 103,744 | 30,966 |
計 | 265,773 | 2,857,183 | 843,466 |
本院は、ホテル・旅館等の事業所契約に関し、ホテルグル—プや各放送局等の間で契約率が区々となっているなどの事態について、平成17年度決算検査報告に「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」として掲記した。
そして、貴協会は、受信料の公平負担の取組を更に強化する方策として、事業所割引及び業界団体取りまとめを導入することとし、また、「平成21〜23年度NHK経営計画」においても、これらを活用していくことを明記しているところである。さらに、23年7月にアナログ放送の終了が予定されているなど受信料を取り巻く環境にも大きな変化が生じている。
そこで、本院は、こうした状況を踏まえ、経済性、効率性、有効性等の観点から、本件業務委託契約が事業所契約における契約率の向上に有効に機能するものとなっているかなどに着眼して、前記の旅館組合等と締結した業務委託契約51件を対象として、貴協会本部及び13放送局(注1)
において旅館組合等との業務委託契約書、収納状況一覧等の関係書類等により会計実地検査を行った。また、その他の33放送局(注2)
についても、貴協会本部から関係書類の提出を受けるなどして検査した。
(注1) | 13放送局 新潟、前橋、大阪、奈良、名古屋、広島、松江、福岡、宮崎、仙台、青森、札幌、松山各放送局
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(注2) | 33放送局 長野、甲府、横浜、水戸、千葉、宇都宮、さいたま、京都、神戸、和歌山、大津、金沢、静岡、福井、富山、津、岐阜、岡山、鳥取、山口、熊本、長崎、鹿児島、大分、佐賀、沖縄、秋田、山形、盛岡、福島、高知、徳島、高松各放送局
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検査したところ、本件業務委託契約について次のような事態が見受けられた。
本件業務委託契約は、ホテル・旅館の受信契約の契約率の向上を図るために、受信料を大幅に割り引く事業所割引の制度の導入に合わせて実施されているものであるが、貴協会が受信契約数の増加に必要な指標としている参加率について検査したところ、51旅館組合等における参加率は、21年度末で平均34.2%となっていた。そして、図1 のとおり、51旅館組合等のうち、参加率が、指標としている60%以上となっていたのは2旅館組合等にとどまっていて、23旅館組合等においては30%未満と著しく低率になっていた。
一方、貴協会の資料によると、21年度末におけるホテル・旅館との受信契約数は業界団体に未加入の分を含め全体で約61万件で、20年度末の約51万件と比べて約10万件増加しており、契約率は20年度末に51%(推定)であったものが60%(同)と向上したとされている。このように、受信契約数が増加したのは、21年2月に事業所割引が導入されたことにより、設置している受信機の全数の受信契約を締結すれば、2台目以降の受信料が50%割り引かれ、結果的に受信料の負担額が少なくなるホテル・旅館から、受信機の台数変更の申込みが多数行われるなどしたことによると思料される。
そして、このようにホテル・旅館全体の受信契約数が増加したにもかかわらず、本件業務委託契約の参加率は多数の旅館組合等で低率にとどまっているのは、受信契約が未契約であったり、設置している受信機の全数について受信契約を締結すると受信料の負担額が増加したりするホテル・旅館もあるため、本件業務委託に参加する組合員等が増加していないことによると推測される。
したがって、事業所割引及び本件業務委託契約が導入された初年度において、既に上記のような傾向が見受けられていることは、今後の参加率の向上、ひいては受信契約の促進及び受信料の公平負担という目的について、厳しい状況が続くことが懸念される。
上記(1)のような状況から、受信契約数の一層の増加を図るためには、未契約であるなどのホテル・旅館に対する契約締結の一層の促進を図ることが依然として重要な課題となっており、本件業務委託契約を活用したこれらのホテル・旅館に対する受信契約締結の勧奨・取次ぎの役割は一層大きなものとなっている。
そこで、本件業務委託契約における旅館組合等による受信契約の取次状況等について検査したところ、委託料の支払対象となった受信契約265,773件のうち、各旅館組合等により受信契約の勧奨・取次ぎが行われていた受信契約は51旅館組合等で計70,638件となっており、それらの受信契約に対する割合(以下「契約取次率」という。)は平均26.6%となっていて、残りの195,135件は貴協会の職員等が契約取次ぎを行ったものとなっていた。これを契約取次率の別にみると、図2
のとおり、51旅館組合等のうち22旅館組合等においては20%を下回る状況となっていた。
このように旅館組合等による契約取次率が低率となっている理由には、本件業務委託契約が開始された21年4月時点で既に貴協会と受信契約を締結して事業所割引の適用を受けていたホテル・旅館に係る分は、貴協会の取次分として整理されており、これらが相当の割合を占めていたことがあると推測される。
しかし、本件業務委託契約においては、前記のとおり、すべての受信契約を対象として、契約取次率が低率な旅館組合等に対しても一律に事業所割引適用前の受信料の15%相当額を委託料として算定することとなっていて、契約取次ぎの有無を考慮することとはなっていない。このため、契約取次率が各旅館組合等により区々となっていたり、相当数の旅館組合等において著しく低率となっていたりしている事態に対して、旅館組合等による受信契約の勧奨・取次ぎに対する取組を促すような仕組みとなっていないと認められる。
貴協会は、本件業務委託契約について、従来、協会の手法だけでは契約を取り次ぐことができなかったホテル・旅館から受信契約を締結することができるような仕組みを構築するなどして、ホテル・旅館の契約率の更なる向上を図ることを目的として実施するものとしている。しかし、前記のような本件業務委託契約を取り巻く状況や参加率及び委託料が業界団体と協議を重ねて決定された経緯、また、本件業務委託契約が導入初年度であることを考慮したとしても、本件業務委託契約において、上記(1)、(2)のとおり、参加率が低率となっていて、今後の受信契約の増加が懸念される状況の中で、参加率や契約取次率にかかわらず一律に委託料を算定している事態は、旅館組合等における取組の強化や自ら参加率を向上させることを担保するようなものとなっていないと認められる。
したがって、契約率の更なる向上を図るため、本件業務委託契約において、受信契約数の向上に重要な指標となる参加率の一層の向上を図ることが肝要であり、その方策として、旅館組合等に参加率の向上についての取組を強化するよう要請するとともに、委託料の算定に当たっても、参加率や契約取次率について一定の評価をするなどして、参加率の向上を促すような仕組みを検討する必要があると認められる。
本件業務委託契約の実施に当たっては、参加率や契約取次率が低率となっている旅館組合等が多数生じていること、また、委託料について、参加率や契約取次率が低率な旅館組合等に対しても一律に事業所割引適用前の受信料の15%相当額と算定していることから、受信契約の締結の促進及び受信料の公平負担の徹底という目的に対して一層有効に機能するものとなるよう、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、旅館組合等における受信契約の勧奨・取次ぎ、参加率向上に対する取組が必ずしも十分でないこと、また、貴協会において、参加率が低率な旅館組合等に対する改善の要請が十分でなかったり、本件業務委託契約における委託料の算定方式が参加率の向上を促すような仕組みとはなっていなかったりしていることによると認められる。
貴協会の運営の基礎となる受信料制度が将来にわたって維持されるためには、受信機の設置者があまねく公平に受信料を負担することが前提となっていることから、貴協会においては、受信契約の促進及び受信料の公平負担の徹底に取り組むことが肝要となっている。このため、長年の課題となっている事業所契約における受信契約の促進及び受信料の公平負担の徹底の取組を強化する方策として、事業所割引が認可されて、21年2月から実施されているところである。
しかし、事業所割引の実施に合わせて、業界団体との合意の下、21年4月から導入された本件業務委託契約について、前記のとおり改善を必要とする事態が生じていると認められる。そして、本件業務委託契約が21年度から23年度までの契約となっており、それ以降も別段の申出がない限り同一内容で契約が継続する自動更新条項が付されていることから、適切な対策が講じられない場合、このような事態がそのまま継続することになるおそれがある。
ついては、貴協会において、本件業務委託契約について、参加率の一層の向上を促すよう、業界団体との緊密な連携を図るとともに、参加率や契約取次率について一定の評価をするなどの契約内容の見直しを検討するなどして、受信契約の促進及び受信料の公平負担の徹底という目的に対して一層有効に機能するものとなるよう意見を表示する。