会計名及び科目 | 社会資本整備事業特別会計(港湾勘定) | ||
(項)港湾事業費 等 | |||
平成19年度以前は、 | |||
港湾整備特別会計(港湾整備勘定) | |||
(項)港湾事業費 等 | |||
部局等 | 直轄事業 | 3地方整備局等 | |
補助事業 | 6地方整備局 | ||
事業及び補助の根拠 | 港湾法(昭和25年法律第218号)、北海道開発のためにする港湾工事に関する法律(昭和26年法律第73号)、離島振興法(昭和28年法律第72号)等 | ||
事業主体 | 直轄事業 | 3地方整備局等 | |
補助事業 | 府1、県7、市5、管理組合1 | ||
計 | 17事業主体 | ||
港湾管理者 | 府1、県7、市7、管理組合2、計17港湾管理者 | ||
耐震強化岸壁の概要 | 大規模地震発生直後の緊急物資、避難者等を海上輸送するなどのために、耐震性を強化し、十分な広さの荷さばき地を持った係留施設 | ||
検査の対象とした耐震強化岸壁の事業費 | 直轄事業 | 2945億8428万余円 | |
補助事業 | 820億7914万余円 | ||
(国庫補助金交付額 | 434億8099万余円 | ) | |
背後の荷さばき地等が適切に運用及び管理されていない耐震強化岸壁の事業費 | 直轄事業 | 33億2651万円 | (背景金額) |
補助事業 | 68億3120万円 | ||
(国庫補助金交付額 | 32億1327万円 | (背景金額)) | |
耐震性能の再点検が行われていない耐震強化岸壁の事業費 | 補助事業 | 237億0717万余円 | |
(国庫補助金交付額 | 148億6416万円 | (背景金額)) | |
免震化対策が行われていないクレーンが設置されている耐震強化岸壁の事業費 | 直轄事業 | 578億8306万円 | (背景金額) |
(平成23年10月21日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、港湾法(昭和25年法律第218号)等に基づき、国が行う直轄事業、地方公共団体等の港湾管理者が行う補助事業等により港湾整備事業を実施している。この事業は、航路等の水域施設、防波堤等の外郭施設、岸壁等の係留施設等(以下、これらを合わせて「港湾施設」という。)の建設、改良等を実施するものである。そして、整備された港湾施設は、貴省が直轄事業で整備した港湾施設も含めて、地方公共団体等の港湾管理者が管理することとなっている。
貴省は、港湾行政の指針として、港湾法に基づいて「港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針」(平成20年国土交通省告示第1505号)を定めている。そして、同方針では、大規模地震が発生した場合に、その直後の緊急物資、避難者等を輸送するための機能を確保するために、大規模地震対策施設を適切に配置するとしている。
そして、貴省及び港湾管理者等は、大規模地震対策施設として、次のように、耐震性を強化し、十分な広さの荷さばき地を持った係留施設(以下「耐震強化岸壁」という。)等を整備することとしている。
〔1〕 緊急物資輸送対応の耐震強化岸壁等
大規模地震発生直後の緊急物資、避難者等の海上輸送等の最小限の港湾機能を保持するための施設として、耐震強化岸壁、緊急物資の一時保管場所等として利用可能なオープンスペース及びこれらと背後の幹線道路とを結ぶ臨港道路
〔2〕 幹線貨物輸送対応の耐震強化岸壁等
大規模地震発生による物流機能のまひが背後圏のみならず我が国の社会経済活動へ与える影響が大きい幹線貨物輸送機能を確保するための施設として、国際海上コンテナ輸送等を担う港湾における耐震強化岸壁、必要な耐震性能を有したコンテナクレーン等の荷役機械、コンテナヤード、駐車場、臨港道路等
貴省は、昭和53年に制定された大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号)等を受けて、東海地方で大規模地震が発生した場合に緊急物資等の輸送を確保するために耐震強化岸壁等の整備を始め、その後、58年の日本海中部地震の発生を契機として、59年8月には「港湾における大規模地震対策施設の整備構想」を公表して全国の港湾において耐震強化岸壁等の整備を行ってきた。
さらに、貴省は、平成7年に発生した阪神・淡路大震災による港湾施設の被害状況等を踏まえて、8年12月に「港湾における大規模地震対策施設整備の基本方針」(以下「基本方針」という。)を策定し、大規模地震対策施設の整備を最重要課題の一つとして位置付けている。
そして、貴省は、18年3月に「耐震強化岸壁緊急整備プログラム」を策定し、耐震強化岸壁の整備率(計画バース(注1)
数に占める整備済み及び整備中のバース数の率)が17年4月末時点において54%となっているのを、22年度までにおおむね70%とする目標を設定して整備を進め、22年4月時点で、その整備率は65%となっている。
基本方針においては、大規模地震対策施設について、通常時には一般的な利用に供することにより効率的な利用を図るものとするが、貨物の仮置き、保管、車両の駐車等に当たっては緊急時の利用に支障を来さないように十分配慮することとされている。そして、貴省が9年3月に策定した「臨海部防災拠点マニュアル」においても、防災拠点を構成する各施設について、緊急時には緊急物資輸送や救援及び復旧活動の拠点として機能することに留意して、それぞれの施設に応じた適切な運用及び管理を行うとともに、その役割等を関係者に周知しておくことが必要であるなどとされている。
耐震強化岸壁等の設計に当たっては、「港湾の施設の技術上の基準を定める省令」及び「港湾の施設の技術上の基準の細目を定める告示」(以下、これらを「技術基準」という。)が定められており、港湾施設が地震動に対して適切な耐震性能を確保することとされている。そして、その耐震性能の照査は、「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(国土交通省港湾局監修。以下「技術基準の解説」という。)に基づいて行われている。
港湾施設の耐震設計は、11年までは、元年及びそれ以前に定められた技術基準(以下、これらの技術基準を「旧技術基準」という。)に基づき、地域別、構造物の重要度別等に定められた係数から求められる設計震度を用いて耐震性能を確保する設計手法により行うこととされていた。その後、7年の阪神・淡路大震災を受けて、11年に技術基準の見直しが行われ、港湾施設のうち、耐震強化岸壁等の耐震設計は、施設の供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度を持つ地震動(以下「レベル2地震動」という。)に対して所要の耐震性能を確保できるよう、耐震性能の照査を行うことを原則とすることとされた。
また、11年に見直された技術基準の解説によれば、係留施設等に設置される荷役機械は、構造上の安全性を有することなどとされており、参考として、耐震強化岸壁上に荷役機械が設置される場合は、レベル2地震動に対する安全性について十分に検討する必要があるとされた。さらに、19年に技術基準の見直しが行われ、幹線貨物輸送対応の耐震強化岸壁上に設置されるコンテナクレーン等(以下「クレーン」という。)については、レベル2地震動に対応した設計を行うこととされている。
一方、貴省に設置されている交通政策審議会が17年3月に取りまとめた「地震に強い港湾のあり方(答申)」においても、旧技術基準に基づき設計された耐震強化岸壁については、レベル2地震動に対する耐震性能の再点検(以下「耐震性能の再点検」という。)を行い、必要に応じて改良を推進することとしている。また、幹線貨物輸送対応の耐震強化岸壁については、クレーンと一体となり耐震性能を満足することによってコンテナターミナル全体としての機能を確保するため、クレーンの免震化等も推進することとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
貴省は、上記のとおり、基本方針等に基づき、これまで多額の国費を投じて大規模地震対策施設を整備してきている。そして、本院は、平成14年度決算検査報告において「特に掲記を要すると認めた事項」として「港湾における大規模地震対策施設の整備及び管理について
」を掲記し、大規模地震対策の趣旨に沿った耐震強化岸壁等の適切な整備及び管理を行うよう注意を喚起した。
その後も、貴省及び港湾管理者等は、耐震強化岸壁等の整備等を行っていて、前記のとおり22年4月時点の整備率は65%となっており、その間、耐震強化岸壁等を整備等する上での方針、技術基準等が改正されてきている。
そこで、本院は有効性等の観点から、耐震強化岸壁等が大規模地震発生直後から速やかに十分機能するように適切に運用及び管理されているかなどに着眼して、16都道府県(注2)
における28港湾管理者(注3)
が管理する整備済みの耐震強化岸壁139バース(直轄事業53バース、事業費計2945億8428万余円、補助事業86バース、事業費計820億7914万余円(国庫補助金計434億8099万余円))を対象として、設計図書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。なお、東日本大震災の被災県(注4)
に所在する港湾の耐震強化岸壁については、当該地域の状況等に鑑み、検査の対象から除外している。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 耐震強化岸壁背後の荷さばき地等の運用及び管理
前記のとおり、基本方針等によると、大規模地震対策施設については、緊急物資の輸送等に留意して、貨物の仮置き、保管、車両の駐車等に当たり緊急時の利用に支障を来さないよう十分配慮し、その役割等を関係者に周知しておくなど適切な運用及び管理を行うことが必要であるとしている。
しかし、前記139バースのうち、緊急物資輸送対応の耐震強化岸壁119バースにおける背後の荷さばき地等の状況についてみると、5道県(注5)
における5港湾管理者(注6)
が管理する耐震強化岸壁10バース(直轄事業2バース、事業費計33億2651万余円、補助事業8バース、事業費計68億3120万円(国庫補助金計32億1327万円))において、港湾管理者自らが工事で使用する消波ブロック、ケーソン等の容易に移動できないものを製作するなどして恒常的にこれらを存置していたり、背後地に立地する企業等が大型の荷役機械、車両等を常時存置していたりなどしている事態が見受けられた。このように、これらの荷さばき地等は適切に運用及び管理されていないことから、その前面に位置する耐震強化岸壁については、大規模地震発生直後に緊急物資の輸送等に支障を来すおそれがあると認められる。
横須賀市は、同市が管理する横須賀港において、昭和61年度から63年度までの間に、平成2号岸壁(水深5.5m、延長270m)のうち延長90mを耐震強化岸壁として、事業費17億7160万円(国庫補助金8億8580万円)で整備し、平成3年度に供用を開始している。そして、同市は、港湾計画等において、耐震強化岸壁を緊急物資の輸送拠点とし、その背後地を緊急物資の荷さばき、一時保管場所等として位置付けている。
しかし、現地の状況を確認したところ、同市は、背後の荷さばき地約4,000m2
を、防波堤を築造するための直立消波ブロック(重量19.8tから93.8t、計161個)等の製作及び仮置き場として21年9月から会計実地検査時(23年1月)に至るまで使用していた。また、同市は、当該岸壁のうち延長約20mの区間の背後のエプロン部分及び荷さばき地を、7年1月から会計実地検査時に至るまで中古ヨット等を販売する業者に使用許可を与えており、この業者は、フェンスで囲まれたエプロン部分及び当該荷さばき地に多数のヨット(約30隻)等を存置していた。これらのことから、当該岸壁については、大規模地震発生直後に緊急物資の荷さばきなどの実施に支障を来すおそれがあると認められる。
イ 耐震強化岸壁の耐震性能の再点検
前記のとおり、耐震強化岸壁は、11年の技術基準の見直し以降、レベル2地震動に対応した設計を行うこととされている。そして、旧技術基準に基づき設計された耐震強化岸壁については、耐震性能の再点検を行うこととされている。
しかし、前記119バースのうち、9府県(注7)
における11港湾管理者(注8)
が管理する補助事業により整備された耐震強化岸壁28バース(事業費計237億0717万余円(国庫補助金計148億6416万余円))については、旧技術基準に基づき設計が行われていたのに、各港湾管理者により耐震性能の再点検が行われていなかった。このため、これらの耐震強化岸壁は、大規模地震発生直後にその機能を十分に発揮できないおそれがあると認められる。
大阪市は、同市が管理する大阪港において、平成3年から、耐震強化岸壁としてA1及びA2岸壁(水深7.5m、延長計260m)を事業費計5億0920万円(国庫補助金計2億5460万円)で整備し、11年にこれらの岸壁の供用を開始している。そして、同市は、港湾計画等において、当該岸壁を緊急物資の輸送拠点として位置付けている。
しかし、A1岸壁は3年、A2岸壁は4年にそれぞれ設計されたものであるのに、同市は、耐震性能の再点検を行っておらず、当該岸壁が大規模地震発生直後に緊急物資の輸送機能を十分に発揮できないおそれがあると認められる。
幹線貨物輸送対応の耐震強化岸壁は、クレーンと一体となり耐震性能を満足することによって緊急時の幹線貨物輸送機能を確保するものであり、前記のようにクレーンについても、レベル2地震動に対応した設計を行い、免震化等を推進する(以下、これらの対策を「免震化対策」という。)こととされている。
しかし、前記139バースのうち、幹線貨物輸送対応の耐震強化岸壁23バース(緊急物資輸送対応の耐震強化岸壁を兼ねる3バースを含む。)についてみると、4道府県(注9)
の4港湾管理者(注10)
が管理する直轄事業により整備された耐震強化岸壁8バース(事業費計578億8306万余円)において、港湾管理者等の自主財源等により整備されたクレーン15基は免震化対策が行われていなかった。このため、上記の8バースについては大規模地震発生直後に耐震強化岸壁の幹線貨物輸送機能が確保できないおそれがあると認められる。
神戸市は、神戸港において、ポートアイランド地区等に直轄事業により整備された幹線貨物輸送対応の耐震強化岸壁6バース(水深12mから16m、延長計2,140m、事業費計475億5253万余円)を管理している。
そして、これらの岸壁上には、神戸市及び神戸港埠頭株式会社がクレーン(重量783tから1,217t)計14基を設置していたが、上記6バースのうち5バース(水深12mから16m、延長計1,740m、事業費計349億5237万余円)に設置されたクレーン11基(昭和62年度から平成14年度までの間に供用開始)については、免震化対策が行われていなかった。このため、大規模地震発生直後に当該クレーンが利用できなくなり、当該岸壁の幹線貨物輸送機能が確保できないおそれがあると認められる。
(改善を必要とする事態)
以上のように、緊急物資輸送対応の耐震強化岸壁において、港湾管理者等が、耐震強化岸壁背後の荷さばき地等に大規模地震発生直後の利用に支障を来すおそれのある構造物等を存置するなどしていたり、旧技術基準に基づき設計された耐震強化岸壁について、耐震性能の再点検を行っていなかったりしている事態及び幹線貨物輸送対応の耐震強化岸壁上に設置されたクレーンについて、免震化対策が行われていない事態は、耐震強化岸壁が大規模地震発生直後に十分に機能を発揮できないおそれがあることから適切とは認められず、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 港湾管理者において、緊急物資輸送対応の耐震強化岸壁背後の荷さばき地等を適切に運用及び管理することについての認識が十分でなかったこと
イ 港湾管理者において、緊急物資輸送対応の耐震強化岸壁に対して、耐震性能の再点検を行うなど、適切な維持管理を行うことについての認識が十分でなかったこと
ウ 港湾管理者等において、幹線貨物輸送対応の耐震強化岸壁上に設置しているクレーンの免震化対策を行うことなどについての認識が十分でなかったこと
エ 貴省において、上記のことについて、港湾管理者に対して十分に助言等を行っていなかったこと
港湾における大規模地震対策施設は、大規模地震発生時において重要な役割を担うことが求められており、整備の目的に沿ってその機能を十分に発揮するよう適切に運用及び管理する必要がある。そして、東日本大震災においても、その重要性が再認識されたところである。
ついては、貴省において、港湾管理者等が管理している大規模地震対策施設としての耐震強化岸壁等が大規模地震発生直後において十分に機能を発揮することができるよう、次のとおり改善の処置を要求する。
ア 緊急物資輸送対応の耐震強化岸壁背後の荷さばき地等については、大規模地震発生直後の岸壁の利用に支障を来す構造物等を港湾管理者等が存置することがないよう、適切な運用及び管理を行うことについて港湾管理者に対して助言等をすること
イ 緊急物資輸送対応の耐震強化岸壁のうち、耐震性能の再点検を行っていない岸壁については、耐震性能の再点検やその点検結果に対応した整備を実施するための維持管理に係る計画等を策定することなどについて港湾管理者に対して助言等をすること
ウ 幹線貨物輸送対応の耐震強化岸壁上に設置しているクレーンのうち、免震化対策を行っていないクレーンについては、免震化対策やクレーンが被災した場合の代替策を検討することなどについて港湾管理者に対して助言等をすること
(注1) | バース 岸壁等の係留施設において、1隻の船舶が占める施設の単位
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(注2) | 16都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、神奈川、石川、福井、静岡、愛知、三重、兵庫、島根、愛媛、高知、福岡、宮崎各県
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(注3) | 28港湾管理者 東京都、京都、大阪両府、石川、福井、静岡、愛知、三重、兵庫、島根、愛媛、高知、福岡、宮崎各県、室蘭、留萌、稚内、横浜、川崎、横須賀、焼津、大阪、神戸、福岡、北九州各市、苫小牧港、名古屋港、四日市港各管理組合
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(注4) | 被災県 青森、岩手、宮城、福島、茨城各県
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(注5) | 5道県 北海道、神奈川、静岡、三重、兵庫各県
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(注6) | 5港湾管理者 静岡、三重、兵庫各県、稚内、横須賀両市
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(注7) | 9府県 京都、大阪両府、神奈川、福井、愛知、兵庫、愛媛、福岡、宮崎各県
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11港湾管理者 京都府、福井、愛知、兵庫、愛媛、宮崎各県、川崎、大阪、神戸、北九州各市、名古屋港管理組合
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(注9) | 4道府県 北海道、大阪府、神奈川、兵庫両県
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(注10) | 4港湾管理者 横浜、大阪、神戸各市、苫小牧港管理組合
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